有限会社アーバンビジョン建築事務所 代表取締役/一級建築士 宮﨑隆博 氏
医療系での豊富な実績が大きな強みに
「内科から脳神経外科、歯科医まで、医療系なら何でもやっています。特に医療系専門にしようとしてきたわけではなく、流れの中で自然と増えたんですよ」。アーバンビジョン建築事務所の代表 宮﨑隆博氏はそう語る。もともとは同事務所も住宅や共同住宅を中心としていたが、ある時医師の自宅を設計したことをきっかけに、医療分野を手がけるようになったのだという。
「設計の難しさは住宅もクリニックも変わりませんが、医科系では内科や外科など多くの診療科目があるのが特徴でしょう。クリニックごとに専門が異なり、必要な機器も設備も全く違います。たとえば脳外科はMRI という大きな機械が必要ですが、内科では全く使いません」。そのため未経験科目の案件では、どんな機械や設備がどれほど必要となるのかなど、設計者にも事前の予習と研究が欠かせないのである。
「そこで勉強を怠ってとんちんかんなプランを出し、お医者さんに“あなたは素人だね”と言われてしまったら、もうお終いなんです」。裏返せばそうした医療系の知識やノウハウを備えた設計者は少なく、宮﨑氏のように実績豊富な建築家への信頼は厚い。自ずと仕事も集中するのである。実際、宮﨑氏とアシスタント3名という少数精鋭にもかかわらず、同事務所では常時10数件の案件が動き、宮﨑氏は3県の現場を週1ペースで回りながら打合せやプランニング、設計を行なう激務の日々を送っている。当然、品質はもちろん、トラブルを抑える高い設計精度や作業効率も重要な課題だ。そして、これらの課題解決で大きな役割を果たしているのが ARCHICAD だ。
「以前は施主打合せも図面で行なっていたので、現場で“こんなはずじゃなかった”と言われたり、突然の変更といったトラブルも間々ありました。図面だけでは施主に設計意図が伝わらなかったんですね。今では ARCHICADを使いビジュアルに伝えるので設計意図も正確に理解され、しかも圧倒的に速い。もはやARCHICAD 抜きの仕事はあり得ません」。同事務所では既に全員が ARCHICAD を使いこなしている。宮﨑氏はプランニングを一手に引き受け、これを平面・立面図に仕上げてアシスタントに渡すのである。するとスタッフたちは宮﨑氏の指揮のもと、素早くモデルを立ち上げ、必要に応じそこからパースや図面を切りだしていくのである。ARCHICAD を核にメンバーを結ぶことで、医療系の厳しいニーズに応えられる効率的かつ質の高い設計体制を構築したといえるだろう。
パース用からメイン設計ツールへ
「ARCHICAD は、最初パースを描きたくて導入したんです。それまでは外注していたのでコストや時間がかかり、手軽に使えませんでした。だから、これを社内で作れれば企画段階で活用できると。1990年代半ばですから、グラフィソフトが日本上陸してすぐの頃ですね」。
こんな経緯で導入した ARCHICAD を、宮﨑氏は当初は予定通りパース制作の専用ツールとして使っていた。基本設計から実施まで作図は2次元 CAD で行い、プレゼン等でパースが必要になった時はARCHICAD を使う。そんな2本立てスタイルの時期が数年間は続いたという。その手法に転機が訪れたのは、Windows 7 の登場(2009年)がきっかけだった。作図の主力として使用していた2次元 CAD の開発がそのタイミングで打ち切られ、Windows7 で動かなくなってしまったのである。
「実は3次元1本でやりたい気持は以前からありましたが、目の前の仕事に追われ実行できずにいたんです。それが 2DCAD の開発が終了し、いよいよ潮時かな、と」。
その段階で宮﨑氏には3つの選択肢があった。1つは新たに別の3次元 CAD を導入して3次元設計へ移行する。2つ目は別の2次元 CAD を導入し ARCHICAD との併用を続ける。そして3つ目がパース作成に使っていた ARCHICAD を設計にも活用範囲を広げて、設計3次元化を図る。――宮﨑 氏が選んだのは3つ目の道だった。
「最終的に ARCHICAD に落ちついたのはその可能性を信じたからです」と宮﨑氏はいう。氏の長く豊富な CAD 経験の中でも、登場以来一貫して着実に進化し続け、その将来に確かな可能性を感じられた製品はただ一つ、ARCHICAD だけだったのである。
「実際、最初は“使えない”と思った実施図や自由曲面のモデリングもバージョンアップの度にどんどん良くなり、使える機能になっていきました。ARCHICAD 17 になる頃には平面や平面詳細、屋根伏など平面関係は全て実施図まで描き、“18”で完全に 2Dを捨てて“これ1本”になったのです」。
さらなる品質向上へのカギとして
こうして ARCHICAD を核に、設計業務を効率化する制作フローを確立したアーバンビジョン建築事務所だが、今後の展開について質問すると意外な答えが返ってきた。
「理想をいえば、今後は全体の件数を減らしたいですね。件数を減らして単価を上げる。これに挑戦したいんです」。当然のことだが、効率的な制作体制をフル活用しても宮﨑氏が対応できる制作ボリュームには限界がある。他方では宮﨑氏のメインターゲットである医療系の建築設計で求められるクオリティは高度化し続け、設計品質のさらなる向上が優先課題となっている。
「医療の世界も競争が厳しく、特に歯科は数が多いため勝ち負けで大きな差がつきます。開業は億単位の投資が必要ですし先生方も勝ち残りの方策を真剣に考えるため、建築にも高い品質が求められるんです。たとえば視認性の高さや“外から見て入りたくなる”待合室など雰囲気づくりも重要なんですよ」。そうしたニーズに確実に応えて品質を上げていくには、件数はこれ以上増やせない。むしろ減らしたい、というのである。そして、売上を落さずに件数を抑えるには、単価を上げる必要が有り、これも相応の品質向上や付加価値が必要ということになる。そこで1つのカギとなるのが ARCHICAD なのだ。
「たとえば打合せ等でも、今後は BIM x などをこれまで以上に積極的に活用し、施主の要望にも、よりきめ細かくスピーディに応えて他社差別化を図っていきます。そして、“思い通りのものができた”、“思っていた以上に良くなった”と思っていただけるような設計で、満足度を向上させたいのです。そうすれば、ご自宅を建てる時にも声をかけられるでしょうし、単価アップにも繋げていけます。そのためにも、ARCHICAD の活用をさらに広げていきたいですね」
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