株式会社大林組
ARCHICADを核に意匠・設備・構造へ展開 ビッグ・ゼネコンが取り組んだ設計施工一貫のBIMプロジェクト

株式会社大林組

2013年4月、表参道の象徴「ハナエ・モリビル」(旧青山大林ビル)が、「oak omotesando(オーク表参道)」として生まれ変わった。 日本有数のファッションストリート・表参道のこの新たなランドマークは、ビッグ・ゼネコン 大林組の最新技術が結集された「技術のショールーム」でもある。しかも同社ではこの建築プロジェクトを、実物件として初めて、BIM(Building Information Modeling)を設計施工一貫で活用した。全社一丸となって取組んだこの初めての挑戦について、同現場所長、同社建築本部・設計本部の皆さんに伺った。

株式会社大林組

創業:1892年1月

資本金:577億5,200万円

事業内容:国内外建設工事、地域開発・都市開発・海洋開発・環境整備・その他建設に関する事業、及びこれらに関するエンジニアリング・マネージメント・コンサルティング業務の受託 ほか

代表者:代表取締役社長 白石 達

本社所在地:東京都港区

従業員数:8,305名(2013年3月現在)

本社 建築本部
BIM推進室長
宮川 宏 氏

東京本店建築事業部生産企画部
部長
(青山大林ビル工事事務所 所長)
森田 康夫 氏

本社 設計本部
プロジェクト推進部
課長
一居 康夫 氏

本社 設計本部
プロジェクト設計部
課長
辻 芳人 氏

本社 建築本部
BIM推進室
藤原 圭祐 氏

本社 設計本部
プロジェクト設計部
主任
大島 史顕 氏

最新技術の粋を結集した大林組の最新技術ショールーム

――oak omotesandoについてご紹介ください

辻氏 ハナエ・モリビルは建築家丹下健三氏の設計と大林組の施工で1978年に完成し、表参道が現代日本を代表する「ファッションストリート」と呼ばれる礎となった建物であり、長年親しまれて来ました。それから35年が経ち、いよいよ建替えになったのがこのoak omotesandoです。ハナエ・モリビルのよいイメージを継承するということから丹下健三氏のご子息の丹下憲孝氏と大林組一級建築事務所の共同設計で、施工はもちろん大林組が行っています。

――計画段階から大きな注目を集めましたが

辻氏 丹下憲孝氏のほか、エントラス空間デザインは杉本博司氏や、ライティングデザインは豊久将三氏といった日本を代表する方々とのコラボレーションが話題を呼びました。また、ハナエ・モリビルの跡地ということもあって一般の注目度も高く、私たちもこれを戦略的に捉え、当社の「技術のショールーム」的プロジェクトとして多彩な最新技術を結集しました。お客さまに来ていただき、見ていただいて、他のビルの計画に実際に使っていただきたいというわけです。

――最新技術とはどのようなものでしょう

辻氏 まず一番に上げたいのが、外装材を制振装置として活用する「フラマスダンパーシステム」です。簡単にいえば外装材を「おもり」として使ったファサード制振の仕組みで、本物件のために新たに開発した技術です。その他にも超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」や低炭素型コンクリート「クリーンクリート」、省電力の次世代グリッド型システム天井「O-GRID」、生物多様性を育む屋上緑化等々、災害に強く環境に優しい建物とする最新技術を多数結集しています。

――フラマスダンパーとはどんな技術ですか?

辻氏 建物外壁の外にもう1枚スキンを付ける、ダブルスキンファサードというデザイン手法があります。この外側スキンは環境装置やデザインの一部として使われますが、そこに制振という新しい付加価値を加えたのがフラマスダンパー。他の制振技術として、たとえば建物の上に重りを置き、地震発生時に揺らし作用/反作用の力で建物の揺れを低減するTMD(Tuned Mass Damper)等ありますが、フラマスダンパーをファサードに広く分散させ、ファサード自体を重りとして揺らし、制振しようという画期的なアイデアです。

――フラマスダンパーのメリットとは?

辻氏 TMDは建物の上に重いものを載せるので屋上利用において制約を受けることとなります。また、現在トレンドとなっている中高層オフィスビルにおける屋上テラスなどの有効活用の視点からもうれしくありません。TMDの他には、建物の中にダンパーやブレースを入れる制振もありますが、これはプラン面で制約が多くなる。この点、フラマスダンパーは、重りを建物の外側に出しているため、プランの制約がなく、それ自体をデザイン表現として活用できます。しかも、それが環境性能と結びついている点が非常に新しいのです。

――フラマスダンパーの施工上の課題は?

辻氏 フラマスダンパーは構造的には建物に接続していますが、全体としてレールに載って建物とは自重は独立して支えられています。地震時はレールの上を動いて作用・反作用の効果により建物全体の揺れを制御します。だからこの部分を正確に施工する必要があるわけですが、これだけ重さがかかると建物も撓み歪みます。設計図のように垂直は垂直、水平は水平とはいかず、1ミリ2ミリの精度を出すのに現場が非常に苦労するのです。そこで今回ポイントとなったのが、BIMの活用です。この新しい装置をどう施工し、精度管理をどのように行うか、すべてBIMを活用しながら対応していきました。

――フラマスダンパーにおけるBIMの効果とは?

宮川氏 新技術であるフラマスダンパーは誰も作ったことがありません。その経験があれば施工の“勘所”も見えますがまったく無いわけです。しかも部品が多く、施工に非常に多くの人が関わってくる。そのため、まずこの多くの関係者にフラマスダンパーとはどんなものか理解してもらう必要がありました。そこでBIMを活かして3Dのビジュアルで見せ、そのリアリティの中で、施工上どこが問題になりそうか、あらかじめ検討していきました。

――3Dで見せることが重要だったのですね?

宮川氏 図面はあっても、それだけでは設計意図や機構は十分には伝わりません。図面と現場でくい違いが見つかるなど予想外のトラブルもよくあることです。そうした齟齬をできるだけ事前に回避するためにも、ARCHICADでモデルを作り、皆で検討していく必要がありました。実際、これは非常に効果的でしたね。

外装:フラマスダンパー

BIMを設計施工一貫で活用した指定プロジェクトとして

――御社のBIM展開における本件の位置づけは?

一居氏 本プロジェクトは、BIMを設計施工一貫で活用した最初のプロジェクトということになります。2010年にBIM推進室が設置されて以来、私たちはさまざまなシーンでのBIM活用に取組んできましたが、やはり実プロジェクトでトータルに運用してみなければ、本当の意味でBIMの良さ・悪さも見えてきません。そこへタイミング良くこの物件が動き出したので、第1号指定プロジェクトとして皆で取組もうということになりました。

――BIM推進室としての取組みはいつごろから?

一居氏 設計が始まったのは2008年からで、BIMを使おうと動き始めたのが2009年ごろ。そして2010年にBIM推進室ができて本格的なBIMの活用を開始しました。当初はまずB IMツールの選定ですね。メインの建物モデルはどのアプリケーションで創るべきか複数の製品を比較しARCHICADを選びました。ただし設備については汎用ソフトでは困難な部分が多いので、設備は設備3次元CADのRebroを設計段階から活用しています。

――なぜARCHICADをメインツールに?

一居氏 設計施工トータルな取組みとなるので、設計者から現場の技術者まで非常に多くの人が使うことになります。しかも最初のプロジェクトですから、まずは3次元CADとして取っつきやすい、入りやすいツールを選ぶ必要がありました。ですから一番のポイントは、ARCHICADの使いやすさ、取っつきやすさですね。

藤原氏 やはり設計者が直感的に使えるというのがARCHICADの一番の特徴ですからね。オブジェクトを配置する単純作業で、自分が思う空間がサーッとできあがる。そしてその空間に素材感を与え、それを切り替えられるのも素晴らしい。また、ウォークスルーなど目で見て空間を認識することが簡単にできるのも重要です。模型を作ってもCCDカメラでもなければ人間の目線では見られませんが、ARCHICADなら簡単にできます。簡単に空間を作ってマテリアルを与えてその中を歩く、というストーリーが、非常にスピーディにできるわけです。

――そして、まずはモデルづくりから?

一居氏 3D建築モデルは他プロジェクトでも作っていたので問題はありませんでしたが、苦労したのは図面化です。プロジェクトのさまざまなフェーズでは、様々な図面が必要になります。今回はこれらの図面を3Dモデルから切りだし、正式な設計図書として体裁を整えることが重要な命題でした。グラフィソフトのサポート外装デジタルモックアッフ初期干渉チェックも受けながら、一般図を中心に平面詳細図や建具表、さらにゾーンに仕様を入れて仕上げ表等も作りましたね。

大島氏 工事着工まで設計には多くのフローがありますが今回は一つのモデルから確認申請図、契約図を作成しています。そのモデルから合意形成用に必要に応じて活用しました。例えば外装デザインの様々なパターンの提案や、行政協議ではパースやウォークスルーによって協議を行いました。モデルから必要な箇所を提示出来ることで準備時間を含め合意形成の効率が上がったと思います。

外装:デジタルモックアップ

――設計でBIMを使った感想はいかがでしたか

辻氏 3次元モデルという分かりやすい形で、細部まで目視で確認し、これを皆で共有して意思疎通を図れたのは、非常に効果的だったと思います。設計チーム内で問題点の共有も容易にできました。

――設備設計については?

辻氏 Rebroによる設備のモデルを、ARCHICADのモデルに重ね合わせる形で作り込みました。通常、3設備の取りあいなど総合図の図面で電気・空調、衛生と、意匠図を見比べながら行いますが、今回はモニタに3Dモデルを映し、皆で確認しながら調整を図れたので、非常にスムーズ、かつスピーディでした。もっともBI Mのモデルは生モノと同じで、元モデルがリファインされるのに合わせ、修正、統合していく必要があり、そのため週1回は関係者が顔を合わせて最新モデルをチェックしていましたね。

ARCHICADをメインツールに意匠・設備・構造でそれぞれBIMを活用

――モデルは着工前に全部完成していましたか?

森田氏 部分的にはモデル化できていたものの、初めての取組みということもあり、フラマスダンパーにしても設備モデルにしても、現場開始後、徐々に作り込んでいったのが実状です。設備は設備工事会社を早めに決定し、その会社にRebroを使った実施モデルを作ってもらい、構造は鉄骨のファブリケーターにTeklaStructuresで工作図をモデリングしてもらいました。本来は意匠のARCHICADを中心に設備、構造の3モデルが統合されて着工できればベストかもしれませんが、今回は構造設計のモデリング作業環境が未整備であったこともあり、構造設計図は2次元の出図となったため、ほとんどの部分を着工後モデル化しました。

――なかなか最初から理想通りとはいきませんね

森田氏 だからこそモデルを作り込みながら・施工の計画を練りながら、という進め方ができ、BIMの活用法という点では大いに収穫がありました。設備・構造に関しては、両者のモデルを重ね合わせ、鉄骨と設備が干渉している箇所をチェック、リストアップしました。その他では、外装の一部を建具製造会社にARCHICADを用いてモデリングまで協力してもらいました。

――建具モデルは建築モデルに入れたのですか

森田氏 もちろんです。たとえば押形まで表現したアルミ建材のモデルを作成してもらい、フラマスダンパーのモデルに入れ込んでいます。これによって、外装のモデルに描かれている建具には枠の断面など細かな情報までプロパティとして入っています。但し施工検討などの場面で、皆でモデルを見ながら打合せする時は、さすがにデータが重くなり動きも遅くなるので、軽いデータに変換して行っていました。

――3Dモデルの「見せ方」も工夫されましたか

森田氏 もちろんです。たとえば建物北側の表参道に面した外装は、元設計を担当した丹下都市建築設計様の「旧ハナエ・モリビルのイメージを残したい」という要望もあり、設計打合せ時には質の高いビジュアルを持ったモデルが必要でした。そこでA r c h i -CADで作ったモデルをベースにCGのテクニックを使ってブラッシュアップし、ガラスの反射率や質感、アルミ型材の質感などもリアルに表現した「デジタルモックアップ」を作成しました。中でも協議の重点であったカーテンウォールの「方立て」「無目」といったアルミ型材の部材については、交差部の見え方や収め方など、デジタルモックアップを用いて何回も協議を重ねることによりお互いの認識が明確になり、スムーズに決定することができました。

――施工の検討のためにそこまでやるのですね

森田氏 BIMモデルを使っても使わなくても、最終的に建具を作るために図面が必要になります。ただ、それをBIMで行うことにより3Dのモデルができるので、格段に意思疎通が図りやすくなるわけです。従来は2次元の図面を基に頭の中で3Dモデル化していたことを、“そのもの”を目で見て、より深く理解しながら確かめられるのです。

辻氏 “見せ方”の工夫という意味では、見せるサイズも工夫しました。たとえば部屋の壁くらいの大きなスクリーンに、4K解像度の高品位なプロジェクターで原寸大で映してプレゼンもしました。CGの精度やディティールが向上しても、小さい画面で説明をしていても意味がありません。リアルなモックアップを作るのも、人間が寸法認識する上で立体感と原寸の感覚が重要だからで、原寸で映すことにより、スケール感や細部の表現まで誰もがリアルに把握できるのです。

――原寸大で見るとそんなに違いますか?

森田氏 違いますね。しかも、BIMxを使うことにより、要望通りに動かすことができます。勿論、内観も見せることができます。時には、ウォークスルーで確認いただき、またブラインドを開け閉めした時の見え方の違いなどもリアルに確認できます。今回は是非デジタルモックアップでと関係者の皆さんにお願いました。最初は抵抗もありましたが、最後には皆さんにご納得いただけました。

様々なシーンを演出する光壁

BIM活用のトップランナーとしてさらにオープンに情報発信を

――モデルを作り重ねていくことでデータの活用範囲が広がっていったようですね

森田氏 その通りです。先ほどのフラマスダンパーの説明用モデルも、メインの重い架構の内側にはアルミのカーテンウォールが納まり、天井、天井内設備、鉄骨……と非常に多くの多様な部品が重なり合った複雑な構造です。従来は図面を見比べながら非常な手間をかけて説明や検討をしましたが、こうしてモデリングすることにより、複数の人間が一度に見て、即座に理解し実感しながら検討できるのです。当然、定例会議の席で発注者への説明にも使いました。「最終的にはこのような形になります」とか、「こういう仕組みになっています」など……。また「技術のショールーム」だけに見学者がとても多い現場だったので、都度このようなBIMモデルを使って説明していました。

タブレット端末を利用した設計検討

辻氏 一度作成したモデルを他のデバイスでも活用できるのもBIMの重要な特性だと思います。私もデジタルモックアップデータをiPadに取り込んで、最終的なもの決めにおいて確認や検討に使いました。設計段階のモデルと、施工段階の様々な情報を統合して出来上がったデジタルモックアップでは、格段に情報量が違います。サッシと内装部材の取り合いなど、最終的な取り合いや寸法を決めて図面を承認していくにあたり、iPad上でデジタルモックアップモデルを様々な角度から見ることができて、とても助かりました。

宮川氏 モデリングさえ終われば、モデルは無限大に使い道があり、夢がいっぱい広がっていきます。さらに総合モデルができ上がれば活用範囲はもっと広がるでしょう。そこには抱えきれないほどの図面に相当する情報量が入っているわけです。それをiPadに入れて歩ければ、現場の施工管理も大きく変わるはずです。

森田氏 そうですね。現場としてもタイミングに合わせて可能なモデル、適切なモデルに仕上げていくことが大事だと思っています。現場のスタート段階で完成した生産統合モデルは必要ありません。現段階では大まかな設備と構造と外装の、ある程度、取り合いの整理が付いた初期モデルみたいなものがあれば十分でしょう。その辺りのイメージ、レベルについてはBIM推進室とも話しています。

――BIM推進としての今後の取組みは?

一居氏 1つはBIMマニュアルの運用です。設計にもいろんなステップがあるので、この段階ではこういうモデルが、またこの段階にきたら構造が参加するとか、設備が参加するとかのプロセスやモデルの作り方についてまとめたいと考えています。そしてプロジェクトの結果をフィードバックしながら、改訂していくつもりです。もう1つ重要なのは教育です。基本的な操作教育はほぼ終わり、現在は次の段階の教育を始めています。ARCHICADもあるしTekla Structuresもあるので大変ですが、バランスを見ながら進めていきたいですね。むろん新入社員についても、設計部門は全員2D-CADは教えずBIMの研修をメインでやっています。

藤原氏 新人教育を担当していますが、今はARCHICADを使って、自分で計画しながらモデルを作成すると言った研修にシフトしています。ARCHICAD自体が直感的なツールであるため、若い人はさほど悩まずに使っていますね。我々世代のように2Dから考えるのではなく、3Dで空間を描いて、それを説明できる人間が今後育ってくるだろうと思っています。

宮川氏 私たちには、BIMに関して業界のトップランナーという自負があります。最近は建設業でも自社の技術を隠したがる傾向がありますが、BIMはそういう技術ではなく、業界全体で取組み、レベルを上げていかなければならないものと捉えています。BIMの取組みについてもっともっとオープンにしていかなければなりません。とにかく「BIMにはこんなにメリットがある」「こんなことができる」と、どんどん情報発信していきたいと思っています。

打合せ風景

写真:新建築社 写真部

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