前田建設工業株式会社
ARCHICADを核に3次元設計からBIMへ 世界でも屈指のBIM先進企業がBuild Live Tokyo 2009でグランプリを受賞

前田建設工業株式会社

2009年、前田建設工業の設計部建築設計グループの有志を中心としたチーム「SKUNK WORKS」は、バーチャル設計コンペティション「Build live Tokyo 2009」に参戦。見事、最優秀のグランプリを獲得した。同コンぺは、BIMをテーマとしたわが国初のコンテスト。そこでのグランプリ受賞は、ARCHICADを核に設計3次元化を推進し、日本のBIMを牽引してきた前田建設工業の実力を改めて証明したと言えるだろう。チームを率いた同社・綱川隆司氏にお話を伺った。

前田建設工業株式会社

創業:1919年1月8日

事業内容:土木建築工事その他建設工事全般の請負、企画、測量、設計、施工、監理及びコンサルティング他

代表者:代表取締役社長 小原好一 氏

所在地:東京都千代田区富士見二丁目10番26号

資本金:234億5,496万8,254円(2009年3月末現在)

従業員数:2,739名<単独>/3,790名<連結>(2009年3月末現在)

48時間で創り上げるBIM

建築本部
建築エンジニアリング設計部
建築設計グループ リーダー
綱川 隆司 氏

わが国初のBIMコンテスト「Build Live Tokyo 2009(以下BLT)」は、事前公開される敷地データや設計条件を元に、意匠/構造/設備/統合BIMモデルやプレゼン資料を制作するコンペティションだ。同コンペ最大の特徴は、制限時間がわずか48時間であること。しかも各成果物はWebを通じてデータ共有サイトにアップされ、審査員や見学者、参加チーム同士が自由に閲覧できる。

「発注元の要求を気にせず、BIMで自由に建物を作れるのが楽しそうで、すぐに参加を決めました。もちろん参加する以上は、当社ならではのBIMを見せるつもりでしたよ」。BIMコンテストは、すでに海外で「BIMStorm」という名で開催されていたが、前田建設工業の推進するBIMとは微妙に異なり、意匠が主体の取り組みのように見えていた。綱川氏はそこに不満を感じていたのである。

「ゼネコンのBIMは施工まで広く活用する点が重要です。BLTでも単なるデザインで終わらせず、現場で実際に建てることを念頭に、施工図まで生成するBIMを見せようと考えたのです。48時間の時間制限は厳しいですが、どこまでできるか試してみようとチャレンジしました」。綱川氏はまず、48時間で施工まで行き着くことができるタイムテーブルを作成した。そのポイントは、意匠、設備、構造、解析のスタッフをパラレルに動かす戦術だった。これにより、通常2週間の作業を48時間に短縮しようと考えたのだ。

 「実際にコンペが始まると最初は勝手がわからず焦りも出ましたが、何とか普段どおりに基本設計をまとめてペースを掴むことができました。もちろん工夫は必要でしたが、基本的には通常業務で行っているBIMと大きく変わらず、いかに個々のプロセスを圧縮するかが勝負のカギでしたね」。こうして綱川氏が率いるチーム「SKUNK WORKS」は、ARCHICADを主体に構造・設備系CADも連携させ、わずか48時間で意匠/構造/設備の統合モデルを完成。さらに環境解析にも取り組んだ上に、プレゼン用のCGアニメーションや3Dプリンタによる建築模型まで作りあげていった。それらの成果品のクオリティとボリュームは他のチームを圧倒。確実に施工につなげる総合力やトータルなBIM運用力、多彩なプレゼン手法が高く評価され、チーム「SKUNK WORKS」は見事にBIMグランプリを獲得したのである。

ARCHICADが導いたBIMの世界

このようにしてBIM先進企業の実力を見せつけた前田建設工業が、3次元設計へ挑戦を開始したのは9年前。BIMという言葉さえなかった2000年のことである。

「実は当時は、単純に設計を2次元から3次元に置き換えることが目標だったのです。そこで、意匠、構造、設備それぞれのスタッフが自分たちにとって使いやすい専用CADを選定しました。そして我々意匠のスタッフが選択したのがARCHICADだったのです。この選択が私たちをBIMの世界に導いたと言えるのかもしれません」。このように、当初あくまで2次元CADに代わる設計ツールとしてARCHICADを使い始めた綱川氏らだったが、その活用を深く掘り下げていくにつれ、3次元CADの可能性が予想を超えて大きく広がり始めた。やがてその流れは、構造や設備とも連携しながら、建物全体の設計をARCHICADベースでまかなえるところまで拡大。結果としてARCHICADが、綱川氏らの設計業務フローから組織全体のあり方までを大きく変えていったのである。

 「こうしてARCHICADを核に意匠、構造、設備がシームレスに連携しながら、3次元建築モデルの活用範囲を広げていった結果、自ずとその手法は現在提唱されているBIMに近いものとなっていきました。今、BIMの世界では意匠、構造、設備の三者間のデータ連携が課題となっていますが、私たちは既にそのノウハウ蓄積しており、さらに解析などの新分野への挑戦も始めています」。まさに業界の一歩先を行く取り組みによりBIMの先駆者となった同社では、いまや意匠、構造、設備から施工までトータルに3次元を活用した案件が累計50件近く竣工しており、今後もその数をさらに増やしていくという。

Build Live Tokyo 2009 スカンクワークスによる最終プレゼンテーションの一部

BLT挑戦で掴んだ確かな手応え

そして2009年9月、再び開催された「Build Live Tokyo 2009 II(BLT2009II)」に、綱川氏率いるチーム「SKUNK WORKS」も同社の将来を担う若手を増員し、前回の倍となる40名体制で参加。今回はBIMテクノロジー賞を受賞した。

「実はBLT2009IIでは、開催当日に私がインフルエンザで休むことになってしまい、棄権することも検討されたほどだったのです。リーダーの私が不在という中で、40名という大所帯にも関わらず、思いのほかスムーズに進行してくれました。BIMという概念が社内に浸透し、各メンバーにも新しいワークフローがしっかり身についてきた感がありますね。実務として取り組んだ強みを確認できたというのが今回の一番の収穫でした」。

BLT2009IIでは、1回目の参加での経験を糧に、最終成果品をイメージして作業をすすめ、いかに時間を圧縮できるか、普段の業務の凝縮に注力して取り組んだ。また、エンドユーザーがBIMデータをどう利活用できるかの検証も行ったという。そして、そうした取り組みによって次に取り組むべき新たな課題も抽出できたと綱川氏は語る。

「1回目の参加では、他チームの成果品にも大いに刺激を受けました。当社が保有していない技術を参照できたことで、2回目の新たなパートナー企業との協業にもつながりましたし、異業種とのコラボレーションという新たなチャレンジも達成できました。また、2回目の参加を通して、案件に携わる適正な人員数や各プロセス間での3次元情報の共有、発注者を巻き込んでのBIMの実現など、次回に取り組むべき新たな課題も見えてきましたね。今回も前回同様に他チームの発表からも多くの刺激をもらいましたし、コンペ参加の意義は非常に大きかったと言えるでしょう。次はこの成果をいかに実務に反映させていくかです。そのためにも、ARCHICADにはこれからも着実に進化をつづけてもらいたいですね」。

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