国土交通省などでもBIM導入の推進事業が継続的に実施されるようになり、BIMソフトウェアに注目が集まっています。こういった時流を受けて、BIMソフトウェアを導入しようと検討している企業も多いのではないでしょうか。そこで、本記事では、BIMソリューションのプロバイダーである グラフィソフトジャパン株式会社の3名の方にインタビューをし、記事にまとめました。
ぜひ、BIMのソフトウェアの選定や導入の際にご活用ください。
BIMソフトウェアの重要性とは?
建築・建設業界において、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトウェアは、これからさらに導入が推進されます。
BIMとは、どのような課題を解決できるソフトウェアか、ご存じでしょうか? BIMは、3Dモデリングにより、建築物を視覚化することに加え、時間やコストまで管理できるツールです。これにより、計画・設計から施工・運用、維持管理に至るまで、建物のライフサイクル全体を通して、コスト削減、業務効率化、コミュニケーションの改善が見込めるツールとなっています。
プロジェクトの業務効率化や生産性向上に良い影響
BIMソフトウェアを導入すると、建築プロジェクトのすべてのフェーズで、メリットを感じることができるでしょう。
例えば、初期段階の「設計フェーズ」の場合は、設計エラーの早期発見や、より正確な予算の策定。「施工フェーズ」の場合は、作業スケジュールの改善や、クライアントを含めたプロジェクトチーム間のコミュニケーションの円滑化など、プロジェクトの業務効率や生産性が大きく改善されるでしょう。
さらに、BIMソフトウェアを活用することで、建築物のライフサイクル全体を通して環境に与える影響を評価し、持続可能な設計と建設を推進することが可能となります。これは、環境に配慮した建築物の設計と建設が求められる現代において、特に重要な点と言えるでしょう。
このように、BIMソフトウェアは「単なる設計ツール」を超え、業務効率化や生産性向上などに大きく寄与し、建築・建設業界のプロジェクト管理、コラボレーション、意思決定に対する革新的なアプローチを提供します。これらの理由から、BIMソフトウェアの重要性は日々高まっており、導入することがスタンダードになりつつあります。
BIMソフトウェアの5つの選定基準
BIMソフトウェアを選定する際には、次の5つの基準を参考にしてください。グラフィソフトジャパン株式会社のセールス担当・中村駿氏によくお伝えする選定基準についてお聞きしました。
BIMソフトウェアの選定基準1:使いやすいかどうか
「ご相談でお客様のところへ伺ったときに、よく受ける質問は“使いやすさ”です」と答えてくれた中村氏。「BIMソフトウェアを初めて導入する企業では、操作方法に戸惑うことなく、直感的に扱うことができるかどうか、が最も大切にしたい選定基準となります。」と続けます。建築業界では、現在、設計ツールとして最も多く導入されている2D CADからの乗り換えになるため、できる限り違和感のない操作感を求めることが多いのだとか。
操作性については、BIMソフトウェアメーカー各社で違っているため、できるだけルールに縛られない操作ができるソフトウェアを選ぶことが大切だとも話します。ソフトウェアが高機能であっても、使い方が複雑であれば、その価値は半減します。
「BIMソフトウェアの設計段階の操作方法は、各社手順が違います。すべての部材を予め準備してから3Dモデルを組み立てるソフトもあれば、2D CADと同様に、3Dモデルを組み立てながら、部材を整えていくソフトもあります。一般的には後者の方が、初心者にはわかりやすいと言われており、Archicadが選ばれる理由の1つでもあります」(中村氏)。
また、2D CADからBIMへの乗り換え期間の短縮化が図れることもメリットで、すぐに業務に使えるツールであることは、費用対効果に直結します。
BIMソフトウェアの選定基準2:オープンBIMの考え方。関連ソフトウェア間で連携ができるか?
「オープンBIM」という言葉を耳にしたことがありますか?
建築・建設の仕事は、会社内でも多くの部門が携わり、企業間の連携もあたり前のように行われています。そのため、フェーズや業務内容ごとにいくつものソフトウェアが使われています。
また、無理やり使用するソフトウェアを一つにしようと固執するのではなく、ユーザーが“使いたいソフトウェアを選べる”とうことも円滑なワークフローを実現する上では大切です。
そこで重要なのは「オープンBIM」という考え方です。関わる人たちが使いたいソフトウェアを使用しながら一つのBIMデータとして集約し、プロジェクトを進めていくことが可能です。また、追加できるアドオンソフト(拡張機能)の豊富さも、BIMのソフトウェアを選ぶ際の魅力といえます。
「なかには、あるアドオンソフトを使いたいからArchicadを選んだ、というお客様もいます」と中村氏が話すように、どのような機能を持ったソフトウェアと連携ができるのか、もチェックしましょう。 その際に、ただデータ連携をするのではなく、BIMデータとしての情報を含めて連携をさせられるのか、もチェックしておきたいポイント。例えば、Archicadでは、IIFC(Industry Foundation Classes)という国際標準(ISO 16739:2013)として認めらているフォーマットでの連携を基本として、スムーズかつ漏れの無い情報連携を基本としています。
BIMソフトウェアの選定基準3:互換性 WindowsとMacの両方に対応しているか?
BIMのソフトウェアの対応OSは予め選定基準としてチェックしておきたいポイント。具体的には、ご自身のOS環境に対応しているかどうかを必ず確認しましょう。
というのも、多様な働き方が推進されている今、「会社ではWindows、テレワークの環境ではMac」という方も少なくありません。BIMソフトウェアの導入の際に、使い慣れたプラットフォームを変えるのは、ユーザーにとって大きなストレスになります。そのため、一つのアカウントから、WindowsにもMacにもログインできるソフトウェアだと便利です。
「会社だけが働く場所とは限りません。自宅やカフェ、現場や出張先など、働き方は日々多様化しています。限られた環境からでないとアクセスできないソフトウェアを選んではその流れとは逆行してしまい意味がありません。ですから、WindowsとMacの両方が使えることも選定基準の一つにしてみてください」(中村氏)。
BIMソフトウェアの選定基準4:作業がサクサクと軽量に行えるか?
「導入前に気づきにくいことですが、ソフトウェアがサクサク動くかどうか、も見逃せないポイントです」と中村氏は話します。BIMのソフトウェアでは、3Dモデルと2D図面を連動させながら見比べるなど、パソコンに負担がかかりやすい側面があります。そのため、パソコンにはある程度のスペックが必要になってきます。その際にソフトウェアの比較をして、軽快に動作するかどうかも確認したい点です。デモンストレーションを見る機会があった際には、その点もチェックしましょう。
数あるBIMソフトウェアのなかでも、同規模の建物をモデリングした際にファイルサイズが小さく安定した動作環境で操作できると言われているのが、Archicadです。パソコンだけではなく各BIMソフトウェアごとに存在するビューアーアプリを使ってのタブレット等での操作性も選定基準として検討しましょう。
BIMソフトウェアの選定基準5:サポート・トレーニング体制が整っているか?
BIMのソフトウェアを適切に使用し、その価値を最大限に引き出すためには、不可欠な要素として、トレーニング体制があります。BIMソフトウェアは、導入することが目的ではありません。実際の業務でスタンダードツールとして使えることで、情報を持ったモデルベースのワークフローへの移行が最終ゴールです。そのため、ソフトウェアを導入して終わりではなく、その後のサポート・トレーニング体制までを視野に入たうえでの導入検討をしてください。
「グラフィソフトは、ソフトウェアを開発して提供するだけではなく、BIMソリューションプロバイダとしてお客様と接しています。つまり、お客様一人一人がそれぞれのBIMワークフローを実現してご満足いただくまでをトータルサポートしています。これから導入する方々がBIMソフトウェアを選ぶときは、充実したサポートやトレーニングが受けられるのかどうかを事前に確認しておくと、導入後のスケジュールがスムーズに組み立てられますす」(中村氏)。
Archicadの場合は、設計を中心とした教育プログラムを50講座以上展開(2024年現在)。講師陣は、実際に実務でBIMを使っている設計者が名を連ねます。そして、「実務で使っている人のTIPSが役に立つ」と受講生からの評判も高いです。
このように、BIMソフトウェアの選定は、その機能だけではなく、使いやすさ、互換性、操作性、トレーニング体制といった多くの要素を考慮する必要があります。自社のパソコン環境を鑑みながら、導入を進めていきましょう。
自社にあったBIMソフトウェアを選ぶために、まずは、課題の洗い出しを
自社に合ったBIMソフトウェアを選ぶための基準について、グラフィソフトジャパン 九州沖縄地区シニアセールスマネージャー・伊佐野寛氏にお話を伺いました。
「どのBIMソフトにするかというよりも、BIMというテクノロジーを活用して、何がしたいのか?何が魅力的に感じているのかをより具体的に考えた先にお客様にあったBIMソフトがあると考えています」と、伊佐野氏は話します。
そのためには、BIMの理解と可能性を充分に理解する必要があります。そして、その多くのヒントがグラフィソフト社からの提案だけでなく、各地のユーザーグループと数多くのユーザー事例の中になります。効果的な様々な知見を積極的に獲得してください。ただ単に今ある作業の効率化ではなく、所謂DXが大切で、BIMを使用した先にあるビジネスのイノベーションにどう関わるかというのが重要なのです。
※Archicadのユーザーグループは、ユーザー同士のコミュニティです。勉強会などの交流を、オンラインやオンサイトで開催しています。 エリアごとやテーマごと(施工・設計)がありますので、ご関心があるグループの情報をご覧いただき、ぜひご参加ください。
● ユーザーグループ紹介 – Graphisoft Community
それから、もう1つの大切なポイントがあると付け加えます。
「もう一つ。そのソフトを使っていて楽しいか?も重要なポイントです。Archicadのユーザーは皆言います“Archicadは楽しい”。建築とは想像を創造して、イメージを掻き立てるようなソフトが相応しいと思っています。」(伊佐野氏)。 BIMソフトウェアは、自由度の高さが魅力です。型にはまった考え方ではなく、自社のプロジェクトや業務の課題を洗いだして、その課題解決のために最適な機能を持つソフトウェアを選びましょう。それが自社にあったBIMソフトウェアを選ぶためのポイントです。
BIMソフトウェアの導入に失敗しないための注意点
BIMソフトウェアの導入の成功に向けて、グラフィソフトジャパン カスタマーサクセス コミュニティーマネージャー・志茂 るみ子氏にお話を伺いました。
単刀直入に、導入に成功している会社の共通点を尋ねたところ、このように回答をいただきました。
「成功している会社は、会社組織としての目標を明確にし、目標に向けてのロードマップを描き、BIM推進プロジェクトをチームで進めています。1人だけのBIM担当を置くのではなく、複数人でプロジェクトメンバーを作ることがポイント。若手とベテランを配置することで、BIMに関するテクニックと、建築における経験値の組み合わせができ、お互いのスキルアップを図ることができます」とのこと。
つまり、BIMソフトウェアの導入に失敗しないためには、社内でBIM推進プロジェクトを立ち上げることが必要不可欠です。「トライアルで使ってみる!」という軽い気持ちではなく、会社の経営層も加わって、理想と目標を盛り込んだ、そして現実的な計画を立ててください。自社のビジネスの目標や現状のワークフローを理解し、これからBIMソフトウェアが、どのように業務に対応するのか、を評価することも重要です。
「一人でBIMを習得するのは孤独ですし、情報共有もできず、社内のノウハウとして残りません。時には外部のサポートや、ユーザーグループなどのコミュニティにも頼りながら、社内に知識を蓄積し、拡げていくことが大切です。たった一人の担当者が退職すれば、また一からのスタートとなってしまうことになりますから」と力強く語ってくれました。
また、導入後は、BIMソフトの推進メンバーの仕事を評価することもお忘れなく。BIMソフトの導入は一時的なプロジェクトではなく、組織の変革を促進する重要な一歩ととらえて、長期的な視点でアプローチすることが成功の鍵となります。
BIMソフトウェア導入の成功事例
BIMソフトウェアの導入について、成功事例を紹介します。社内で、どのように浸透させていくのか、Archicadのユーザーによるリアルな声をご覧ください。
SAWAMURA
Archicadを無理なく使いこなす、地方ゼネコンの新時代に向けた挑戦
「BIMは、できることが無限大にあります。学ぶことが多く、オンライン勉強会には片っ端から参加しました。でも、いくら個人レベルで修得できても、組織として活用するには、どうしたらいいのだろうか?」と語るのはSAWAMURA 設計課の德永康治様。BIMを使って、自身が基本設計の提案ができるようになり、その後、ほかの社員にも浸透させ、組織として活用していく姿を下記に紹介しています。
株式会社都市建築設計
「教え合い、学び合う文化」で、社内にBIMが浸透。BIMを活用した設計業務のほか、経験を活かした支援サービスも始動
時代に真っ先に適応し、様々な取り組みを加速させるべく、日々奮闘する同社が、どのようにBIMを学び、浸透させ、さらに、これから広めていくのか、をインタビューしました。社内にどのような流れでBIMが浸透していったのか、ステップ別に紹介しています。
操作性とコストパフォーマンスに優れたBIMソフト -Archicad- 設計・施工・維持管理で活躍
BIMソフトウェアの選び方ガイドとして、様々な角度から紹介しました。最後に、インタビューしたグラフィソフトジャパンが販売しているArchicadについて、導入時に知っておいてほしい特長をご紹介します。
● 設計フェーズでは、操作性がよいため、2D CADからの移行がしやすいことが特長です。また、BIMソフトウェアの導入後の教育プログラムも充実しているため、プレゼン用の資料の作成や、基本設計まで、これまでの目安で半年前後と比較的早く習得することが可能です。図面づくりまでの技術の習得には、平均で1~2年かかるケースが多いです。
● 施工フェーズでは、社内のプロジェクトメンバーや協力会社とのコラボレーションのしやすさが魅力です。施工BIMのアドオンソフトを使いこなすことで、できることは幅広くなり、その恩恵を受けているユーザーがたくさんいます。施工に特化したコミュニティも交流が盛んに行われています。
● 維持管理フェーズでは、設備管理のためにQRコードと連携をして、説明書をスマホで確認できるなどの活用事例も見られるようになってきました。維持管理においての事例は、これから増えていくところです。
このように、Archicadは、設計から施工、そして維持・管理までの全フェーズで活用できるため、一貫した作業フローを実現できます。これにより、作業効率の向上やミスの削減を実現し、プロジェクト全体のコストを削減することが可能となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?BIMソフトウェアの選び方ガイドとして、選定基準や、失敗しない選び方のポイントを紹介しました。
BIMソフトウェアは、一度導入したら終わりではなく、長く使う「仕事の相棒」として活躍します。実際に導入する際には、BIMソフトウェアの営業担当者からの提案をじっくりと聞き、デモの操作などもしっかり見比べて、自社の課題の解決にあっているか、検討してください。
1話: BIMとは?注目される背景とBIMの活用メリットを詳しく解説!
BIM(Building Information Modeling)は、建築や建設業界で使用される3Dモデリング技術です。建物の設計、建設、管理において、情報の一元管理やデジタル上での可視化を可能にし、根本的な業務効率化を図ることができます。
2話: BIMとCADの基本的な違いとは?メリット・デメリットも解説!
CADとBIM、それぞれが持っている特長や違い、メリット・デメリットを丁寧に比較しつつ、CADとBIMをどのように活用すべきかを整理していきましょう。さらに、CADからBIMへとスムーズに切り替えるために知っておくと便利なことや、実際にBIMソフトのご紹介など、たっぷりとお届けします。
3話: BIM導入で、建築業界を変革! 建築BIM加速化事業とIT導入補助金の完全ガイド
BIM導入は「建築BIM加速化事業」として、設計費および建設工事費に対して、国が民間事業者等に補助を行うプロジェクトが推進されています。また、同時に「IT導入補助金」の活用も見込めるものです。この記事では、2つの制度の違いや、要件について完全ガイドいたします!