2話: BIMとCADの基本的な違いとは?メリット・デメリットも解説!

「CAD」と「BIM」の違いについて考えたことはありませんか? この記事では、CADとBIMの違いを深く掘り下げます。CADとBIM、それぞれが持っている特長や違い、メリット・デメリットを丁寧に比較しつつ、CADとBIMをどのように活用すべきかを整理していきましょう。
さらに、CADからBIMへとスムーズに切り替えるために知っておくと便利なことや、実際にBIMソフトのご紹介など、たっぷりとお届けします。

BIMとCADってそもそも何が違うの?

鉄骨造の工事現場のイメージ写真

CADとは、コンピュータを活用した設計手法

CADは、Computer Aided Designの略称で、コンピュータを活用した設計手法の1つです。1980~1990年にかけて企業での導入が盛んになり、これまで手描きで行われていた設計業務を“助ける”という意味合いで、システムが浸透していきました。
CADでは、2次元(2D)または3次元(3D)の設計図を作成します。特長としては、手描きの設計作業と比べて、設計図の作成速度の向上、設計変更の容易さ、そして、設計図の共有と保管の容易さにあります。
ただし、CADは基本的に設計図の作成に特化したツールであり、3Dモデリングや設計データの利用方法などにおいて、より高度な機能を持つBIMとはまったく異なるものです。

BIMとは、建物すべてのデータベース

一方、BIMは、Building Information Modelingの略称で、直訳すると「建築物に関する情報のモデリング手法」となります。BIMは3Dモデルがつくれるだけではなく、3Dモデルを通じて、建物や建設プロジェクトをデザイン、設計、施工、運用、管理するための情報のデータベースとして機能します。
また、BIMを使用することで、建物の設計・建築・運用と、建物が造られてから解体されるまでの全体像を把握しやすくなります。建物のライフサイクル全体での情報共有ができることで、設計者は、建築の生産・維持管理プロセスに関する潜在的な課題を特定でき、さらにカーボンニュートラルや環境への配慮までを踏まえた設計業務を行うことが可能となるのです。施主・発注者側のメリットとして、BIMを使うことで建物を2回建てる経験ができます。1回目はBIM上で、そして2回目で実際の建物を建設します。つまり、BIMを使って予め検討できることで「思っていたことと違う」という認識の相違によるトラブルを防ぐことにつながっていきます。
BIMは、時間、コスト、資材の使用、維持管理など情報も含めて、建築物の全体像を把握することができるため、その価格はCADよりも高くなる傾向にありますが、それに見合う価値を持つと言えるでしょう。

BIMとCADの異なる2つのポイントについて

データの管理方法と情報利用方法が違う

BIMとCADの間で大きな違いが見られるのは、データの管理方法と情報の使い方の仕組みです。
・CAD:2D、3Dの図面作成に特化しており、各図面(伏図・軸組図・詳細図などの複数の相関する図面)が個別のファイルで管理される形をとります。壁や設備などの属性情報は、図面と連携していないため、別の資料が必要になります。
・BIM:デザイン・設計・施工・運用・管理に関わるすべての情報を一元化し、データベースにします。
3Dの形状情報に加え、名称や仕上げ、材料・部材の仕様、性能、コストの属性情報を併せ持っているため、建物のライフサイクルでの情報の利用や、IoTとの連携が可能になります。例えば、窓のモデルには、開口サイズや材質、型番といった情報が入力されているのです。

このように、BIMとCADでは、根本的にデータ管理と情報の利用方法が異なっています。この違いにより、実務ではCADで設計すると「図面間の整合性がとれていない」という問題が発生することがありますが、BIMではありません。
また、BIMでは、設計変更がリアルタイムですべての図面に反映でき、関係者はいつでも最新情報を確認できるようになります。つまり、図面をつくるときに起きがちなトラブルを防ぎ、図面上でのエラーを大きく減らすことが可能です。

未来の建築業界を支えるBIM。担い手不足問題に新たな流れ

建築業界では、建築プロジェクトにおける上流から下流まで、「担い手不足」が問題となっています。国土交通省の資料によると、建設技能労働者の高齢化により2030年過ぎには大量離職が見込まれている一方、それを補う若手入職者の数は不十分なことは明らかです。また、建築業全体の労働生産性の低さも課題とされています。

建設技能労働者の高齢化を示すグラフ

このような時代背景のなかで、建築分野ではBIMの特長ある建築生産・維持管理プロセスが評価され、DXの一環としてBIMの導入が推進されています。2023年からは、国土交通省による「建築BIM加速化事業」もスタートしており、さらに業界全体にBIMが浸透していくことは間違いありません。そのため、すでに実務を担当するCADオペレーターは自発的、あるいは会社の業務の一環としてBIMの勉強をスタートしています。こういった建築業界の動きに合わせ、建築関連の大学、工業高校や専門学校でもBIMの授業が行わるようになり、BIM教育の底上げは急務と考えられています。Graphisoftは、建築を学ぶ学生及び教員を支援すべく、教育機関向けにArchicad教育版のライセンスを無償提供しています。現在、建築を学ぶ学生たちからは、「就職先ではBIMを使いたい」というニーズも顕在化してきました。これから必要なことは、このBIMのスキルを活かせる受け入れ態勢の強化です。

BIMのメリット・デメリット

BIMで制作した3Dモデル

BIMのメリットとは

BIMもCADも、ともに建築設計に利用されるツールですが、それぞれ利用される領域が異なります。BIMは3Dモデリングや情報管理、施工計画など、建築生産・維持管理プロセスのすべてのフェーズで活用できます。一方、CADは細部図の作成や2D設計において優れています。それぞれの特性を理解し、適切なツールを選択することが重要です。

設計者のイメージを形にしやすい3Dモデル

3Dモデルで設計が進められることで、設計者は建築物全体のビジョンをより鮮明にとらえ、設計上のミスや干渉している部分を早い段階で見つけ出し、修正することが可能となります。設計者は、3Dモデルを操作しながら、建物の全体像と詳細な部分を行ったり来たりできるため、設計のすべてがキレイにまとまり、整理されます。

建築プロジェクト全体の情報を一元管理

BIMは、建築プロジェクト全体の情報を一元管理できます。これにより、情報の利用・共有・保管が容易になり、全体のプロジェクト管理の効率化が進みます。設計から施工、運用までの幅広いフェーズで、BIMを通じてスムーズに進められ、より効率的に高品質な建築物がつくれるようになります。

設計初期段階から各種シミュレーションができる

さらに、BIMは、環境に配慮した設計やエネルギー効率の最適化など、ソフトウェアのなかでシミュレーションができ、持続可能な建築にも貢献します。
このシミュレーションという面では、例えば、土木工事で処分する土量を正確に算出できたり、建物をつくるときに必要な鉄筋の本数を拾えるなど、業務効率化にも貢献しています。これまで手計算で行っていたことが、自動的に算出できるようになりました。

BIMのデメリット

初期投資・設備費用がかかる

まず、1つ目として考えられるのが、初期投資・設備費用についてです。BIMの導入には、3Dモデルを作成・管理するための専用ソフトウェアが必要となります。これらはCADと比較しても一般的に価格が高く設定されています。また、BIMを操作するためのスペックを用いたPC環境の整備も必要です。

BIMを適切に操作できる専門知識やスキルが必要

次に、BIMを適切に操作できる設計の専門知識や、BIMモデルを作成するために必要なオブジェクトやテンプレートの理解、準備などの実務スキルが必要となる点です。BIMの活用には、建築、エンジニアリング、建設業界の知識だけではなく、3Dモデルの作成やデータ管理の方法など、BIM自体の深い理解が求められます。
このように、初期投資と専門知識の必要性は、BIMの導入時に検討される点となっており、デメリットともいえるでしょう。

CADのメリット・デメリット

CADで制作した2Dの設計図

CADのメリット

CADのメリットについて、3Dモデル作成との関連性を含めて深掘りしましょう。CADは、設計プロセスの時間とコストを大きく節約する一方で、高度な精度と効率性が特長です。

手描きと比べてデータの保存が容易

CADは、図面をデジタル化して保存できるため、手描きだった時代と比べてデータ管理が容易となり、設計図の共有・修正もスムーズに行えます。

設計精度の向上

CADは、2Dおよび3Dの設計を可能にする強力なツールであり、建築関連のみならず、様々な業界で使われています。CADは特に、細部の表現に優れています。

CADのデメリット

CADの短所を検討する際、一番に考えられるのは3Dモデリングの制約性があることです。

3Dモデルへの制約

CADは2Dの設計に優れていますが、3Dモデルの精緻さや複雑さを扱う能力は制約されています。この点で、BIMのような3Dモデリングに特化したツールとは大きな違いがあります。

ファイルが複数にまたがる

CADは1つの設計データのみを処理します。BIMのように多角的な情報を一元化し、複数の設計要素を同時に管理することはできません。これは、BIMと比較すると明確な短所と言えます。

コラボレーションの困難さ

CADのコラボレーションの困難さも、大きな欠点となります。複数の設計者が同時に作業を進めることが難しく、結果としてプロジェクト全体の進行が遅れる可能性があります。

CADからBIMへ切り替える場合に注意したいこと

BIMで制作した3Dモデルを見ながら打ち合わせ
©INAI Arquitecture,Ecuador,inai.com.ec

CADからBIMへの切り替えを考える際には、いくつかの注意点があります。
まず、ソフトウェアの選定です。BIMのソフトウェアは多数あり、それぞれの機能や特性が異なります。用途や予算のほか、ソフトウェアのUIや使い勝手も検討し、適切なソフトウェアを選んでいきましょう。
次に、スキルアップです。BIMは、CADとは異なる考え方や操作方法のため、スキルを覚える時間が必要となります。導入の際は、ソフトウェアの会社に、習熟するためのトレーニングプログラムがあるか、スキルアップの環境づくりが行われているかどうか、確認してみるとよいでしょう。
そして、BIMを扱う組織のなかでの体制づくりも大切です。BIMは情報共有しやすい一方、データ管理のガイドラインを決めておくなど、予め適切に情報管理の体制をつくっておくことが大切です。

主要なBIMソフトウェアのご紹介

Archicad ―建築家による建築家のためのBIM―

Archicadは、世界中で広く認められているBIMです。Archicadは、3Dモデルの作成と2Dドラフティングの合成というハイブリッドな特性を持っており、それが、設計者に最初から3Dでの設計を可能にしています。この機能は、設計プロセスを効率化し、エラーのリスクを軽減します。
また、Archicadは、クラウドベースの共有機能「BIMcloud」を備えているため、 BIMcloudを使うことで、会社という制限を超えてチームメンバー間でのデータ共有が簡単に行えます。さらに、まるで写真のようなビジュアライゼーション機能も高評価を得ています。

まとめ

いかがでしたか?本記事では、BIMとCADについて深堀りしました。CADは、2D図面や細部の設計図をつくることに有用で、一方のBIMは高度な3Dモデリングとデータ管理が可能です。しかしながら、BIM、CADの適応範囲はプロジェクトの大きさや目的により違いがあります。それぞれのメリットを知り、これらを適切に利用することで効率的な設計作業を実現できます。



1話: BIMとは?注目される背景とBIMの活用メリットを詳しく解説!

BIM(Building Information Modeling)は、建築や建設業界で使用される3Dモデリング技術です。建物の設計、建設、管理において、情報の一元管理やデジタル上での可視化を可能にし、根本的な業務効率化を図ることができます。


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