澤村幸一郎さん
德永康治さん
木曽篤さん
村中裕生さん
「建設業界の未来を見た」。
そう語るのは、「SAWAMURA」に入社して5年目を迎える、設計課の德永康治さんだ。
德永さんが感銘を受けたのは、鹿島建設がプレゼンテーションした『オービック御堂筋ビル』の新築工事。建物の企画・設計から施工、竣工後の維持管理・運営までのすべてのフェーズにおいてBIMを活用し、仮想空間上で完成の姿をリアルタイムに再現(デジタルツイン化)した。日本初の取り組みだった。
「これまでの建築業界では、設計者が実施設計したものを施工担当者へ渡し、施工現場の手に渡ると、今度は現場の人が現場視点でイチから作業を洗い流す。そこで調整が必要になればまた設計者へ戻して、というルーティーンが常でした。ところが『オービック御堂筋ビル』のようにBIMを活用すれば、実施設計が終わった段階で、すべての環境が“見える化”し、材料も正確に決まる。衝撃的でした」
「世の中のニーズに応えていけば、いずれ建築業界でArchicadを使うことは必須条件になる」。そう考えた德永さんは、さっそく澤村社長に提案。2019年9月、「SAWAMURA」はArchicadの導入を決めた。本来なら、会社がプロジェクトマネージャーを任命して進めるべき大掛かりなプロジェクトだ。社員から挙手して始まったのは、「SAWAMURA」の社風だろう。地方ゼネコンの規模でBIMを本格的に取り上げるのは、まだあまりない頃の挑戦だった。
BIMを等身大で使うための試み
個人レベルから組織レベルへの活用へとシフト
最初の1年は課題が山積みだったという。
「BIMはできることが無限大にあります。学ぶことが多く、オンライン勉強会には片っ端から参加しました。でも、いくら個人レベルで修得できても、組織として活用するにはどうしたらいいのだろうかと」
德永さん自身は、BIMを使って、基本設計の提案まではできるようになった。次の段階は、それを他の社員にも浸透させ、組織として活用していくことだ。安価なソフトではないので、早く成果を上げなければというプレッシャーもあったという。德永さんは、設計課の先輩である主任の木曽篤さんと共に、BIMの社内活用に向けて、年次毎に具体的なプランを立てることにした。BIMの汎用性に目を向けると、やれること・やりたいことが多過ぎて収集がつかない。そこで、今すぐ全てにおいて活用しようとせず、パース設計や数量計算など、まずはピンポイントで掘り下げていくことに。
「例えば、リアルさが求められるパースは、突き詰めるとキリがないんです。そこで、ひとつのモデルをもとにLOD(BIM用語で、基本・実施・施工・各段階における精度のこと)を作成し、各フェーズに合った入力密度の基準となるものを設定しました」(資料/右)。
モデルは、社員にとって身近な事務所にした。マニュアルには、使い方のルールだけではなく、知ると便利な操作や表現方法なども盛り込んだ。今も、德永さんたちが日々使っていく中で気づいた細かい内容は、半年から1年に一度、更新を行なっている。
Archicad活用事例その①
初めての現場活用〜未開拓だった土木との連携〜
德永さんたちが次に着目したのは、土量算定だった。「SAWAMURA」の案件は倉庫が多い。空間だけの倉庫にArchicadをどう活用していこうかと考えた時に、未開拓だった土の分野に目を向けた。土木との連携だ。
「倉庫を建てるために地盤を掘り起こした残土処分やならすために必要な土がどれくらいあるのか、2DCADだと手計算で算出するので大変でした。大規模な敷地であればあるほど、差額も大きくなってしまいます。BIMを使うと、最適な地盤面の高さを計算すれば、処分する土量を事前に算出し、それを造成土に活用したりできるので、ロスがなくなります。土で浮いたお金を使って看板を作ったりすれば、ブランディングにお金を回すこともできる。単純に費用を下げるのではなく、付加価値を高める工夫を加えることができるようになるんです」
ちなみに、これまで行なった3物件では、実数値の誤差がほとんどなかったという(資料/右上)。
Archicad活用事例その②
現場との情報共有〜Excelとの親和性に注目〜
Archicadを使ってみてわかったことのひとつに、Excelとの親和性の高さがあった。ExcelはITが苦手な年配の人でも使えるソフトなので、うまく連動すれば現場との情報共有がスムーズになる。例えば、別途工事や施主の支給品が多い工場などの案件は、設備条件が複雑で2DCADで整合性をとっていくのは途方もない作業だ。そこにArchicadを活用してみることにした。
資料?は、施主からExcelで届いた一覧。ここには、工場に設置する600個以上の機器や架台について、各設備の施主担当者や購入品・既存品の種別、大きさ、種類、機器を使用する際の必要電気量やガスの種類が事細かに記載されている。このデータをArchicadと連動すると、資料?のように、一目でどこに何が必要か“見える化”することができた。
「現場監督だけが把握し指示していたようなことが、Archicadを使うと設計図に全て集約されます。さらにこのデータに、ゾーン毎に仕上げのグレードを設定すれば、予算や空間に合わせて素材のグレードを設定し、必要な数量を自動算出することができます。図面を描く、面積を計算する、必要な資材を決めて計算する、と順にやっていた工程が、図面を描くだけで一気にできるので、これまで見積もりだけで2カ月から半年かかっていたような作業を大幅に短縮できるようになりました」
現場との情報共有がスムーズになれば、作業ロスや事故のリスクも少なくなる。今後は、設備配置表を見てその日の各工事のスケジュールを調整したりと、シンプルなことにも応用できそうだ。
BIMが広まると未来が広がる
効率性で生まれた可能性を付加価値に変えて
「先日のプレゼンテーションでは、大手ゼネコンとの競合で次世代型の倉庫案件を提案し、勝ち取りました。ArchicadデータをTwinmotionと連動して、初期提案から動画による完成イメージを表現することができたんです」
こちらのプレゼンテーションには、今春入社した村中裕生さんが活躍した。グラフィソフトが提供する無償のArchicad教育版を使って、学生時代から学んできた技術が光ったという。
「BIMは内容が増えれば増えるほど、2DCADに比べて非常に効率的。これからの若手は、当然のようにBIMが使えるようになってくるかと思うと、僕も負けてられません」と、德永さん。
今年70周年を迎える「SAWAMURA」は、徳永さんが入社した5年前、約70名だったスタッフが今ではおよそ120名に増えている。全員がBIMを使える環境を整え、外部との連携やリモートでもBIMを共有できるように、BIMcloudの導入も検討中だ。
「先日、社内の施工担当者から、やったことがない空調設備を取り入れてみたいと提案がありました。BIMで“見える化”することで、やってみたいこと・やれることが増えた良い事例です。また、私たちのような地方の会社だと、移動に多くの時間を割くため、遠隔でアクセスできるようになるととても便利。審査機関で図面修正を言われた時なども、持ち帰らずにその場で修正対応ができますから。BIMで生まれた作業時間は、本来設計士が時間をかけるべきアイデアを練る時間に充てていきたいですね。とはいえ、BIMを使えば使うほどやってみたいことが沢山出てくるので、歯がゆいくらいです(笑)」
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