現代のクラフトマンシップとの出会いが国産材活用の新たな可能性を拓く
株式会社日建設計
設計部門 副代表 山梨 知彦 氏
かつて日本の建築文化といえば「木と紙」の文化だった。しかし現在では、都市建築で木材が利用されることはほとんどなく、国産材の需要は減り続けている。厳しい状況にある国産材の新たな可能性を見出すため、山梨氏が「木材会館」建設にあたって提案したコンセプトは「木を再生しよう」というものだった。
「とにかくプロジェクト全体に国産材を活用しようということになりました。風合いを活かすため、不燃化加工をせずに内外装や構造材として使い、都市建築でも充分に”木”が適用できることを示したかったのです。しかし、それがコストのかかってしまう特殊な技術では普及しません。手に入れやすい材料とジェネリックな技術の採用で実現する必要がありました」。国産材活用という難度の高いハードルを課したこのプロジェクトにおいて、内外装への国産材活用と共に大きな課題となったのが、30m近いスパンの木の構造体造りだった。これを入手しやすい小径ヒノキ材で組み上げる必要があったのだ。山梨氏が選んだ手法は、伝統的な追掛け大栓継ぎと最新の加工技術の融合であった。乾燥させ収縮した木材をコンピュータ制御のNC加工機で精密に切り分け、一気に組み上げて固定し、収縮していた木材が膨張する力で、強固に一体化させようというのだ。
「最大のポイントは、NC加工機で木材を高精度に加工する職人たちとの出会いでした。現代のクラフトマンシップを備えた彼ら”デジタルクラフトマン”と組めたからこそ、このプロジェクトは実現可能なものになったのです。そして彼らと私たちを結びつけ、精緻なデータのやり取りを可能にしたのが、ARCHICADによるBIMでした」。
ARCHICADが実現するBIMとビジュアライゼーションの効果
多くの先進的な取り組みで知られる日建設計の中でも、山梨氏が率いる山梨チームは、最も早くから3次元設計を業務に取り入れ、BIMの活用を積極的に推進してきた。その山梨氏が、当初から一貫して使い続けているのがARCHICADである。
「十数年前、私が初めて3次元CADに触れた時、BIMという言葉さえありませんでしたが、ARCHICADは既にVirtual BuildingというBIM的なコンセプトを備えていました。当時はツールとして未成熟なところもありましたが、そのコンセプトに惹かれて使い始めたのです」。その後、多様な3次元CADが登場し、山梨氏もその多くに触れて検証してきたが、最終的にはARCHICADを使い続けているのである。
「使い続ける理由は、開発元のグラフィソフトが製品の進化にとても熱心だったことです。ハンガリーの会社なのに私たちの声に耳を傾け、一早く製品に反映させてくれています。入出力も充実していて、コラボレーションを行うプラットフォームとしても優秀です。今回のデジタルクラフトマンたちとのコラボレーションもそうですが、これはBIMの観点からも大きな武器なのです」。
また、BIMがもたらすの恩恵のうち、ビジュアライズ(可視化)がBIM普及のカギになると山梨氏は見ている。
「BIMへの取り組みは3つのビジュアライズという効果をもたらしてくれます。1つは、建物が建つ前に前倒しで確認できること。これにより整合性のある誤解のない設計が可能になりました。2つ目は、見えづらいものを見えやすくすること。これは設計段階でのクラッシュ・ディテクション(干渉チェック)に威力を発揮します。そして3つ目が、現実には見えないものを可視化すること。つまり、気流や温度、CO2、光(照明)などといったシミュレーションへの応用です。BIMの活用は、今まで直感で取り組んでいたプロセスを、各種シミュレーションの応用で、データの裏付けをもって確認できるという最大のメリットがあるのです」。
ARCH初期段階のスケッチから実施設計までARCHICADでフルカバー
「ARCHICADはデザイナー好みのツールですので、意匠設計に広まったのはある意味当然だと思います。しかし最近、実施設計のスタッフまでもがARCHICADを使い始めたのです。理由を聞いたところ、3次元は楽しそうだからとのことでした」。山梨氏の想像以上にARCHICADが普及した山梨チームでは、いまや初期段階のスケッチから意匠設計、プレゼン、実施設計まで、ARCHICADでフルカバーする体制が整いつつある。
「まさにARCHICADがチームで使うツールになった実感があります。今後はさらに広いフィールドでARCHICADによるチームワークが試される機会が増えるでしょう。その意味で、新しいチームワーク機能を備えた最新版”ARCHICAD13″への期待は非常に大きいですね」。
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