世界で初めてBIMに対応したソフトウェア
Archicadを開発したGraphisoftのCEOが来日記者会見。
建築業界の課題と展望を語る。
2022年11月7日、世界初、建築設計者のためのBuilding Information Modeling(BIM)に対応したソフトウェアを開発したGraphisoft ®(Graphisoft、本社ハンガリー)の最高経営責任者(CEO)Huw Roberts(ヒュー・ロバーツ)氏の来日記者会見を行いました。
今回、同社CEOとして2度目の来日となるヒュー・ロバーツ氏の記者会見では、今年の夏に40周年を迎えたGraphisoftの現在の状況や戦略について、建築業界の課題を解決するための有効な手段とし、以下のように述べています。
Graphisoftは「建築業界にイノベーションを起こす」という理念のもと、BIMソフトウエア、モバイルで使用できるBIMプラットフォームを世界に先駆けて開発した革新的な企業。それらは現在29言語にローカライズされ、世界108カ国で利用されている。
Graphisoftが開発したBIMソフトArchicad®は、今も世界一のシェア率を誇り、このソフトを使ってつくられた建物は、世界で2番目に高いクアラルンプール(マレーシア)の超高層ビル Merdeka 118(ムルデカ118)から一般住宅まで、幅広くある。
このArchicad®を中核にして、Graphisoftでは様々なサービスを展開し続けている。例えば、様々なロケーションで色々なデバイスを使ってチームで仕事をする際に支援するクラウドベースの製品がBIMcloud。ハイクオリティの機械・電気設備・配管(MEP)プロジェクトを期限内に、かつ予算内で設計することができるData Design System(現Graphisoft Building Systems)、スマホやタブレット(iOS、Android)、デスクトップのほか、シンプルなブラウザでも使用でき、建築を専門としない一般の人でもモデルをナビゲートして見ることができるBIMxなど。
中でもBIMcloudは、全ての機能をつなぐ心臓部。パンデミックを経験した今の時代は、企業やチームは1カ所で働かず、IT業界を中心に在宅勤務へとシフトしている。BIMcloudを使えば、共通のモデルをリアルタイムで、世界のどこからでも、どんな端末からでも作業をすることが可能。この機能を使えば、世界中のベストな人材を集めて最高の建物を作ることができる。
Graphisoftでは他にも、こうしたサービスを支援するソリューションとして、ソフトウェアの導入維持にかかる総合的なコストを抑え、その価値と生産性を最大化するサービスGRAPHISOFT Forward、世界中のArchicadユーザーが、互いに情報を共有し、サポートしあうことのできるコミュニティサイトGRAPHISOFT Community、Graphisoftが提供するオンラインスクールGRAPHISOFT Learnなどがある。
こうしたサービスを、永久使用ライセンスと、必要に応じて選択できるクラウドを使用したサブスクリプションのミックス型で提供しているのは、日本において他社と差別化する要因となっている。
ヒュー・ロバーツ氏はこう語る。
「5年、10年前と比べて、建築、エンジニア業界は、単に箱をつくるのではなく、サステナビリティ、エネルギーの再利用など、様々な社会的課題に取り組むことが期待されています。そういう意味で、建物をつくる前から、空気や光の流れ、音、動き、その建物を利用する人々の健康まで検討する必要があるのです。私たちが描くビジョンは、そこに住んでいる人たちの世界をいかにより良いものにし、幸せにすることができるのか、というものです。そのビジョンを現実にするために、私たちは建物を建てるチームにより大きな力を与えたい、と考えています。そのために、良いソフトウェアを提供するのは当然ですが、それだけでは十分ではありません。良いソフトウェアと共に、統合されたサービス、知識、そして支援をすることで、建物を建てるチームが最高のパフォーマンスを発揮し、結果として素晴らしい建物を創造できるようになることを願っています」
これからの建築市場は、現地での資源や資金の調達、エネルギーをはじめとする資源の再利用などが大きな課題となる。それに対しGraphisoftは、設計、デザイン、建設の各段階でエネルギーシステムや建設材料のシミュレーションができるサービスを用意し、サステナビリティを上げるサポートをする。
もっともデジタル化が遅れているとされる建築業界において、テクノロジーの革新を行うこと。それにはもちろんお金と時間の投資が必要となるが、「部分的に投資するだけでは、本当の改革にはつながらない」とヒュー・ロバーツ氏は言う。
例えば、建物の柱を作ることを考えてみる。これまでは、設計と構造、デザインの担当者が、それぞれの視点から各自でモデルをつくって考えていた。この作業を、GraphisoftのBIMcloudを使うことで、同じタイミングで同じモデルを使って作業をすることができる。そうすると、別々のモデルをひとつにまとめるときに調整していた時間や労力が大幅に削減され、連携できないことによるエラーを防ぐことができる。さらに、早い段階でタイムリーに各自が持っている情報を共有することは、より良いものを作ることにも繋がる。そうして節約できた時間やお金は、これからやってくる厳しい経済状況のための備えや、よりサステナブルなことに投資することができるようになる、というわけだ。
本当の意味での有意義な投資になるための仕掛けとして、Graphisoftでは、ソフトを巡る生産的なエコシステムの構築も進めている。
ひとつは、OPEN BIM。「高度なソフトウェアや情報ファイルモデルを格納したデータベースで使うとき、所有権は私たちソフトウェア会社ではなく設計者にある、ということが大事なポイントだ」とヒュー・ロバーツ氏。ひとつの建物を建てるときに必要な情報が、壊れることなく移動でき、移動するためにコストが発生しないこと。これまでベンダーのシステムの中でロックインされて自由に使えなかった大事な情報を、このシステムを使うことで、さらに時間とお金を節約することができるようになる。そして、領域を超えて統合することで、ミスや無駄を減らすだけではなく、より良いものを作ることができるようになる。
もうひとつは、ソフトウェアを利用するユーザー同士のコミュニティツールやサービスの提供。GRAPHISOFT Communityでは、ユーザー同士が世界レベルの情報を共有することが可能だ。
「Graphisoftにとってのチャンスは、こうしたわれわれのすべてのサービスを使うことによって、建築・エンジニア業界に存在するあらゆる問題をパーツとしてバラバラに解決するのではなく、領域をまたいでシナジーを作り、全体としての力をつけていくことに貢献できることにあります。もちろん、細部にこだわった職人技が光る日本の建築物にも柔軟に対応でき、科学的な解析やシミュレーションによる環境に配慮した設計にも役立つでしょう。それらはきっと、建築に関わる様々な人たちが、もっと全体的なところから建築の力を信じることに繋がるはずです」