取締役企画室長
佐伯 佳優 氏
佐伯建築設計事務所 課長
岩井 哲也 氏
佐伯建築設計事務所 主任
伊藤 太希 氏
尾張支店 工務部 主任
小関 恭弘 氏
全国9番目、東海地区で初のISO19650取得!
2023年3月、岐阜県の佐伯綜合建設株式会社(以下、同社)が建設情報マネジメント国際規格、ISO19650の認証を取得した。
ISO19650とは、BIMを活用して、設計・建設などの生産、保守、リサイクル・リデュースまでの建設ライフサイクルの情報を適切に管理するための国際規格だ。
ISO19650は全国でも9社しか取得しておらず、東海地区においては初めての取得として業界から大きな注目を浴びている。
同社がBIMを導入したのは2017年。当初は意匠設計部門からBIM活用を推進しはじめ、2019年には専門部署を設立し、生産設計においてもBIM活用をスタートした。
数あるBIMのなかでも関連ソフトと連携しやすい点や操作性の良さ、導入費用を比較し、Archicadをメインに使うことを決めた。
取締役企画室長の佐伯佳優氏(以下、佐伯氏)は、「認証取得は20代の若手社員から声が上がりました。より高いレベルでのBIM活用を目的に、認証取得に踏み切りました」と振り返る。
また、BIM導入時から従事し、認証取得まで中心的役割を担った佐伯建築設計事務所主任伊藤太希氏(以下、伊藤氏)は、「BIMを使いこなせるようになってきた反面、担当者ごとにつくり方がバラバラでした。
BIMは誰でも扱えないと意味がありませんから、社内ルールの統一を会社に提案。認証取得はダイレクトに品質向上につながると考えました」と話す。
2023年5月に行われた認証授賞式にて佐伯綜合建設株式会社代表取締役佐伯敏充氏(左)と、認証機関の代表者(右)。
認証授与式には実務を担当した伊藤氏も出席した。努力が実った達成感と、未来への期待を込めた明るい笑顔に包まれた。
認証取得や建設DXは建設業界のイメージアップに直結
「BIMが浸透してきたことで、工務のピークカット、フロントローディングがある程度形になってきています」(佐伯氏)
認定取得によって得られたメリットは非常に大きい。まず、社内向けの効果としては、当初の目的通り情報管理ルールの統一が実現できたことだ。佐伯建築設計事務所課長岩井哲也氏(以下、岩井氏)は、「施工図を書くためのLOD(LevelofDetail)を決め、どのフェーズでどれだけ詳細に書き込むか?の基準値を設定することができました。
今後は、誰もが一定の品質で施工図を描けるようになるために、テンプレートを充実させるなど分科会の活動を積極的に行っています。この基準をさらに普及させ、業務標準化、生産性向上につなげていきます」と述べた。さらにその次の段階では、建物の維持管理に向けた指標の組み立てを模索しているという。
一方、クライアントに対しても明確な指標ができた。ISO19650は、情報共有が重要なポイントの一つとなっている。設計・施工業者とクライアントが1つのクラウド上で情報管理をすることで、リアルタイムで最新情報を共有できる。加えて「意思決定ポイント」を事前に共有することも求められている。長期間にわたる建築プロセスのなかで、クライアントのかじ取り役となるために、細かく区切った意思決定ポイントを決めた。
これにはクライアントに協力を仰ぎながらスケジュール通りに進行するという目的があるが、同時にクライアント側は、「いつまでに」「何を」決めればよいのかを把握でき、スケジュールの見通しが立てやすくなる。これにより、クライアントは先の見通せないプロジェクトに巻き込まれることなく、スムーズに、そして設計・施工会社と信頼関係を築きながらプロジェクトを二人三脚でできるようになる。
「認証取得後、新聞社からの取材を受けました。また私たちの取り組みは学生たちにも魅力的に映り、採用活動にもいい影響を与えています」と佐伯氏。認証取得をしたことで、会社や建築業界のイメージアップにもつながっている。現在、建築業界の深刻な人手不足が叫ばれる中、BIMや建設DXに積極的に取り組むことが差別化となる。そして、新時代の建設業へと着実に挑む姿は、会社の魅力アップを後押ししている。
プロジェクトの流れと意思決定のポイントを一覧にし、クライアントと共有している。細かく日程を区切ることでスケジュールの遅れが出にくく、クライアントの意思決定のスピードが上がった。
「認証取得のためにBIMの社内向けマニュアルの制作に時間を費やしました」と伊藤氏。社内の共有フォルダにはこれからBIMを習得し始める仲間に向けて、資産のようなオリジナルの資料が整然と格納されていた。
Archicadの具体的な活用方法とは
① BIMcloudを使って情報共有 工数削減を実現
同社とグループ会社で、Hグレード認定工場の佐伯鐵巧株式会社(以下、佐伯鐵巧)との間で、BIMcloudを介して3Dモデルの受け渡しを行っている。
具体的なワークフローはこのような流れだ。鉄骨用CADの「REAL4」から鉄骨施工図をIFCファイルとして出力、その後、BIMcloudでデータを送信しArchicadと連携させる。受け渡された鉄骨施工図をArchicadで読み込んで構造モデルに変換する。
このような手順を踏むことで、佐伯鐵巧で作った鉄骨施工図の活用の幅が広がると同時に、意匠モデルと構造モデルの整合性がとれているかを即座に確認できるようになった。
竣工写真
3D断面図
Archicadでモデリングした外観
② アドオンソフトで正確な荷重計算・施工計画が実現
もう一つ、佐伯鐵巧との仕事で頻繁に使うのが、Archicadのアドオンソフト「smartCONPlanner」だ。
特にクレーン車の荷重計算をするときに用いられる。クレーン車の能力と鉄骨の重量を組み合わせることで、使用予定のクレーン車が最適かどうか即座に検討できる便利なツールだ。これまでは手計算で行っていたため、時間がかかりヒューマンエラーのリスクにも注意が必要だった。しかしsmartCONPlannerの導入によって計算を自動化したことで最適解がすぐにわかり、加えてクレーンオペレーターの工数最適化やコスト削減にもつながる。
また施工計画図を生産設計グループが用意しておくことで、施工管理がスムーズに行われるようになった。この施工計画図には周辺環境との兼ね合いや、工事現場の様々な要素が可視化されているため、資材置き場やトラックの搬入口の配置、仮設計画などを事前に正確に検討することができる。このような計画を予め決めておくことで、現場の動線や作業スペースの調整がスムーズに行われ、事故のリスクも減少し、最終的には工事の品質向上にもつながっていく。
「特に鉄骨建方は構造材を一気に組み立てるダイナミックな作業で、安全面にも非常に気を遣う工程です。重機の選定、配置の指示をあらかじめ生産設計グループがしてくれるので、現場監督の負担が減りました。だいぶ助けられています」と話すのは、尾張支店工務部主任小関恭弘氏だ。
「大きな現場は、事前に生産設計グループが工区分けをしてくれるので、現場監督の負担が少なくなりました。おかげで他の業務に集中できます」(小関氏)
機械基礎施工計画
二階コンクリート打設
屋根伏計画
③ BIMxは一目でわかるから、すぐに意思疎通できる
BIMxを使って、3Dモデルや各種図面にいつでもアクセスできるようになったおかげで、その日の作業範囲が一目瞭然になった。タブレットを使って協力業者さんに見せながら説明することで、その日のゴールがわかり全員の認識が合わせやすい。
また、BIMxを使うことで現場監督と内装設計担当者とのコミュニケーションも円滑にとれるようになった。設計図では理解しにくい部分をBIMx上でメモ書きしてBIMcloudで共有する。このように、ツールを使いこなすことで、内装設計担当者は自分のデスクからに的確な指示が出せ、現場に行かなくても意思疎通が可能だ。
クロスの品番、間仕切りの位置、納まりなど、細かく具体的なフィードバックができるようになっている。
確認したい箇所に印をつけて、画像とともにBIMxからBIMcloudを経由して質問を送る。テキストコミュニケーションだけでなく、イメージを添えることで作業の高速化、効率化、フィードバックの正確さをもたらしてくれる。
グループ会社の佐伯鐵巧から受け取った鉄骨データを重ね合わせ、BIMxで見て指摘事項を共有している。
一度建てた建物は、最後まで手入れができる状態へ
最後に今、どのような未来を思い描いているのか、近い将来の展望について伺った。「ISO19650を取得したことは会社にとって便利な道具が一つ増えたようなもの。これからはこの道具を使い倒して、PDCAを回しながら品質向上に努めていきたい。ここからがスタート地点です」と佐伯氏は力強く話す。
また同社では工場・事務所の新築工事が売り上げシェアの大部分を占め、年間約1500件にも上る営繕・修繕工事がそれを支える。大半はこれまで自社で工事をしてきた建物だ。同社で大切にしているし、新しいテクノロジーとの出会いをチャンスと捉える同社。状況に合わせて軽やかに変化できる姿勢に無限大の可能性を感じた。
「一度建てた建物は最後まで面倒を見る」というポリシーのもと、「今後は、BIMに入力したデータを活かして営繕工事の対応をしていきたい。そうすればさらに簡単に、スピーディな対応ができるのは紛れもない事実。こうやってお客様に貢献していきたい」と佐伯氏。
さらに岩井氏は「補足して、国・県の公共工事案件にはBIMが必要になる流れです。特命で発注がくる期待も」と話す。
さらにその先には、BIMとAIを連携することで、設計の最適化などが図れると考えている。
若手からボトムアップ型のアプローチを大切にし、新しいテクノロジーとの出会いをチャンスと捉える同社。状況に合わせて軽やかに変化できる姿勢に無限大の可能性を感じた。
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