有限会社アルケドアティス
部材を手作りしモデル作りも独自手法を開発! ARCHICADで挑む古民家再生プロジェクト

有限会社アルケドアティス

甲府盆地を一望する豊かな自然に恵まれた山梨県甲州市塩山は、古い寺社や古民家が数多く残され、日本の民家研究の草分けの地と言われている。ここに本拠を置くアルケドアティスは、建築家 網野隆明氏が主宰する一級建築士事務所。住宅等の新築物件はもちろん、この地の特性を生かした古民家再生建築に豊富な実績を持つ。同社では2017年にARCHICAD を導入し、BIMを用いた古民家再生へのチャレンジを開始した。そのユニークな取組みについて、網野氏と同社設計スタッフの皆さんに伺ってみた。

有限会社アルケドアティス

所在地 : 山梨県甲州市

代表者 : 代表取締役 網野隆明

設立 : 1997年 7月

事業内容 : 建築設計&監理:民家(現地再生・移 築)、新築住宅、リフォーム、各種商業 施設、公共施設ほか

webサイト : https://www.alcedo-atthis.com/

有限会社アルケドアティス 代表取締役 網野 隆明 氏

有限会社アルケドアティス 代表取締役 網野 隆明

有限会社アルケドアティス 設計室 芝垣 祐哉 氏

有限会社アルケドアティス 設計室 芝垣 祐哉 氏

有限会社アルケドアティス 設計室 中島 裕衣子 氏

有限会社アルケドアティス 設計室 中島 裕衣子 氏

有限会社アルケドアティス 設計室 遠藤 裕子 氏

有限会社アルケドアティス 設計室 遠藤 裕子 氏

より良い古民家再生のための BIM

「塩山地区には数多くの古民家が残っています。それもきわめて特徴的な造りを持つ民家が多いことで知られています」。古民家再生に関する多数の受賞歴を持ち、塩山の古民家について知り尽くした網野氏はそう語る。同氏によれば、一般的な民家は寄棟や入母屋が中心だが、塩山の民家は切妻が中心で、地域産業の養蚕と結びついた養蚕型建築も多いのだと言う。しかも、材料はそれほど太くなく、全体に華奢な造りなのが特徴である。

「これを建築家の目で見ると、建物としてのプロポーションが良く造り方もシステマチックで、現代の建築の考え方にもフィットしていると言えます」。これが一つのポイントだった、と網野氏は言う。同社は戸建て住宅を扱うことが多いが、一般的な住宅に求められる機能や規模の中では材料も限られ、網野氏が目指すようなシステマチックな建築ができないことも多い。それなら、この地域にたくさんある古民家を改装していった方が良いのではないか。そう考えたのだ。「もう一つのポイントは町並みの問題です。調和という考えの少ない日本の町並みは、正直あまり美しくありません。ですから、地域の生活と結びついた歴史的な建築である古民家を活かしていくことで、観光客にも好まれる古都のような“人を呼ぶ町並み”を造れるのではないでしょうか。そこで古民家の良さを残しながら、現代的な改修をやっていこうと決めたのです」。

そんなユニークなコンセプトで展開してきたアルケドアティスは、いまや業務の7割を民家の現地再生や移築プロジェクトが占めるまでになった。文字通り古民家再生のプロフェッショナルなのである。当然、昔ながらの日本建築が専門ということになるが、同時に網野氏は早い段階から業務へのBIMの導入を考えていた。

「従来の建築設計は物の考え方が2次元でしたが、本来、建築は立体物であり3次元で考える方が合理的です。特に古民家は天井が低く、梁も曲っていたり低い位置にあるため、動線や設備機能と干渉することがしばしばで……だからこそ、3次元で考え検討することが重要になります」。そこで同社でも当初は主要ツールの2D CADと合わせ、フリーウェアの3Dモデリングソフトが使われていたが、作業に手間がかかり機能も十分とは言えなかった。そこで2017年、網野氏がアクションを起こしたのである。

「ちょうど手強い案件が片づいたタイミングでした。しかもその案件で梁の干渉等に散々苦労したため、BIM導入を決意したのです。すぐに代表的なBIMソフト3種の試用版を取寄せ、スタッフたちに検討させました。結果、彼らが一致して推したのがARCHICADだったのです」

ARCHICAD で寺を作る

「そのとき担当していた古民家を、試しにARCHICADで入力してみたのです」。そう語るのは設計担当の芝垣氏である。それは同氏にとって初めて触れる本格的3次元CADだったが、意外なほど取っつきやすかった、と言う。「その案件も曲梁とか特殊な部材が必要でしたが、説明書片手にいじってみるとすぐに作れたし、操作性の良さを実感したのです」。そんな芝垣氏の言葉に同僚の中島氏と遠藤氏も頷く。

「理系的な感じがする他社のBIMソフトに比べ、ARCHICADは文系っぽく直感的に使えるのがウチに向いている、って感じたのです。あまり難しいことを考えなくても、とりあえず描けてしまうところが良いですね」(遠藤氏)。

こうした声に応えて導入されたARCHICADだったが、翌日から即座に切り替える、というわけにはいかない。スタッフは通常の業務と並行して操作を修得しながら、数カ月かけて実務に展開させていった。

「最初にARCHICADで取り組んだのはお寺の改修物件です。古くからある寺の庫裏に、耐震補強を施そうというものでした」。そう語る中島氏によれば、その時点ですでに2D CADによる基本設計は完成しており、実施設計段階からARCHICADに切り替えて進めることにしたのだと言う。「骨組み関係や平面的な部分は、柱を配置し床と壁を立てればできましたが、お寺だけに意匠的に見せたいのは“骨組み”でした」。そのため、複雑に曲った太鼓梁など、既存部品にない1点モノの部品も自分たちの手で作る必要があった。古民家や寺社の改修では建具等も古いものをそのまま使うことが多いが、古い建具の多くは現在のそれとは異なり、3Dモデル化にあたり既存の部品が使えないケースが非常に多いのだ。「本件でも多くの建具をモルフで制作し、登録して使いました。当初は一日で3~4つの部品しか作れず、大変でしたね」と中島氏は笑う。だが、その苦労はやがて大きく報われることになる。それはこの寺の檀家に対するプレゼンテーションの場──スポンサーでもある檀家の方々に改修計画を伝え、承認していただき、さらには改修のために寄付金を募るための重要なプレゼンでのことだった。網野氏らはノートPCにARCHICADを入れ、ビジュアルなプレゼンを行ったのである。

古民家3Dモデル作りのルール統一へ

「耐震補強という素人には分かり難い、伝えづらい改修内容を、多くの檀家の方々に一気に、しかも分かりやすく伝える必要がありました。正直いって最初あまり良い雰囲気ではありませんでしたが、映像を見せた瞬間“あーっ!”と声が上がり、見ていた方々の態度がガラッと変わったんです」(中島氏)。今回の改修の中心となる耐震補強は、基本的に工事の前後で外観等に目立った変化をもたらすものではない。つまり、作業の大変さ・重要さを伝え難い内容なのだ。しかし、網野氏らはARCHICADのリノベーションフィルターを利用することにより、改修内容を分かりやすく説明。改修箇所をビジュアルで具体的に見せていったのである。

「床下の補強から屋根裏の補強まで、全て金物を仕込む煩瑣な工事内容を分かりやすくお見せし、仕事の範囲や手間の多さを具体的にイメージしてもらいました。結果、“これだけの仕事をするのだから、当然時間とお金がかかる”と理解してもらえました」(網野氏)。

こうして、初めてのARCHICAD活用案件を成功裡に終えたアルケドアティスでは、その後も着実にARCHICADの活用を拡げていった。現在では簡単な改修物件など、平面図だけで済む物件を除き、ほぼ全てのプロジェクトについて基本計画から実施図までARCHICADを用いるようになっている。

「それでも古い建具などの部材は自ら手作りすることが多いですし、古民家の3Dモデルも、いろいろと独自の作り方を編み出しました。他のARCHICADユーザーとは、だいぶ違うかも知れません」と芝垣氏は苦笑いする。「だからまずは各スタッフの手法をすり合わせていき、古民家ならではの3Dモデル制作ルールを統一したいですね」。そして、このルール統一を基盤にチームワーク機能も活用し生産性を向上させることが、設計事務所としての目標になる、と網野氏は言う。「この世界は作図にこだわる職人肌の人が多く、何事も自分一人でやりたがりがちですが、私はそういう考えが好きではありません。特に小人数の事務所では皆で力を合わせて終らせ、皆で帰りたいじゃありませんか。だからチームワークの活用は、できるだけ早く実現したいですね」

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