株式会社 横森製作所
技術部 設計技術課 課長
島崎建輔 氏
株式会社 横森製作所
技術部
住谷 理 氏
株式会社 横森製作所
技術部
二田義之 氏
建築と製造を結ぶ唯一無二の BIM システム
東京都渋谷区に本社を置く横森製作所は、世界でも類を見ない鉄骨階段専門メーカーとして建築業界では広く知られた存在である。実際、わが国の高さ200メートルを超える高層ビルの8割以上が、同社が設計・製造した鉄骨階段を使用するなど、超・中高層ビルやマンション分野において圧倒的なシェアを誇っている。ビル建設を主力とするゼネコンの間では「階段屋ヨコモリ」の異名で親しまれているほどだ。
そんな横森製作所の主力製品であり、中高層ビルの非常階段設備として欠かせない鉄骨階段は個々の建物に合わせて製作され、一つとして同じものはないオーダーメイド製品だ。近年、ビルの高層化が進むなか、鉄骨階段もより高度な取付け精度が要求されるようになっているが、同社はいち早く高精度の組立式内部階段を開発するなど高度な技術でこれに応えてきた。そんな同社の高度な技術の集大成というべきものが、ものづくりの中枢として運用される鉄骨階段専門のBIMCADシステム「CadysⅡ」である。
「CadysⅡ は、私たちが 3年余の歳月をかけて開発した、当社オリジナルの鉄骨階段専門BIMCADシステムです」。そう語るのは、CadysⅡ の開発を主導してきた同社技術部設計技術課を率いる島崎課長である。「BIM-CAD システムといっても、当社のそれはゼネコン等が使用している一般的な建築BIM とは異なります。あくまで当社内を中心に運用され、当社のものづくりをトータルに支援し効率化するためのBIM システムです」。
横森製作所の主力製品である鉄骨階段は、高層ビルなどの建築に用いられる建築施設の一つだが、同時にそれは工場で製造される一品ものの工業製品でもある。従ってその設計・製造にあたっては、設計図書に基づいて建築物と同様に各種法規を遵守しながら設計されるのはもちろん、設計が発注者に承認されれば、工業製品として工場で製作されることになる。従ってCadysⅡ は単に階段の3D モデルを作成するというだけでなく、設計と製造の間に立って両者を結び、双方で必要とされる多様な図面や書類を生成する役割も求められる。
「実際、私たちは設計図書の 2D 図面を元に、CadysⅡを使って階段3D モデルを制作し、そこから階段や鉄骨、手すり等の工作図(材料加工図)まで自動作図します。そして厚板等の NCデータ、薄板の板金展開や階段組立図まで生成するほか施工図、各種帳票まで出力していくのです」(島崎氏)。まさに同社のものづくりの中核にあるCadysⅡ だが、では、そのアドオンソフトのプラットフォームに ARCHICAD が選ばれたのはなぜなのか。
新たなBIM-CAD のプラットフォームとして
建築系&製造系の7つの3D CAD の中から選ばれたのは ARCHICAD だった
建築系 CAD & 製造系 CAD7 製品から選定
「前述した通り、建築と製造の両分野にまたがる当社のものづくりでは、市販のCAD 製品をそのまま使うことはできません。そのため、私たちは昔から独自のCAD システムを開発、使用してきました」。その歴史をたどれば、手描きから CADへ移行した1993年にまで遡る、と島崎氏は言う。この時から同社では、カスタマイズしたオリジナルの2D CADを導入し使用していたのである。そして2001年には、早くも他社製2D/3D CAD をベースに設計の3次元化を実現。CadysⅡ の前身にあたる鉄骨階段専用BIM-CAD システムとして「Cadys21」を開発し、いち早くBIM 設計化を実現していたのである。
「2001年から運用を始めたCadys21 は、ベースとなる他社CAD のバージョンアップに合わせて、2006年にいったんベースのCAD を載せ替えました。以降そのまま運用を続けていましたが、さすがにこのプラットフォームのCAD が古くなり、さまざまな弊害が出始めたのです」。たとえば、お客様からいただいたデータがそのまま取りこめなくなったり、ハード側のOS のバージョンが上がることで動作が不安定になり、操作性やレスポンスにも不満が生まれていた。さらにCAD ベンダーの意向で追加ライセンスを購入できなくなってため設計部門の拡大に対応が難しくなり、サポート期間も終了してしまいサポートさえ受けられなくなっていたのである。
「そもそもシステムが動く32ビットマシンの購入も難しくなっていましたし、この際、プラットフォームのCAD を一新して新しいものに載せ替えよう、という話になりました。そうなると、通常ならば旧システムで使っていたCAD の最新版を用いるか、同じメーカーのBIM ソフトを導入するところでしょう。しかし、私たちはこだわりを捨て、一から幅広く検討してみよう、と考えたのです」。
こうした経緯を経て、2013年秋、同社の次代を担う新Cadys のプラットフォームとなる3DCAD の選定が始まった。この時、島崎氏らが候補としてピックアップしたCAD は、建築系のARCHICAD を始め、当時の建築・製造の両分野を代表する 3D CAD 製品が顔をそろえ、総数は合計で7製品にもなっていた。
「実は当初、建築系CAD と製造系CAD を組合せて使い、それぞれの得意分野を利用する運用方法を構想していました。つまり、施工図を建築CAD で描き、工作図を製造系CADで作ろうというわけですね。実際、いろいろなパターンの組合せを検討してみましたが、同時にそこには大きな問題もありました」。
当然のことだが、2種類のCAD を導入するとなるとライセンス数も2倍の数が必要となり、コストはひと回り拡大してしまうことになる。しかも、建築と製造で別々のCAD を使うことになれば、どうしても施工図と工作図の制作が、別々のオペレータに分かれてしまいがちとなる。
「そうなれば、一つの物件の施工図と工作図を別々のオペレータが描くことになりかねません。伝達漏れや伝達不足などはある程度避けられないので、両図面間で不整合の可能性が拡大してしまいます。ものづくりにおいてこれは大きな問題で、社長からも“分業となる様な運用はやめるように”という指示があったのです」。
そこで改めて単体のCAD をカスタマイズしていく方針が示され、原点に立ち返って島崎氏たちが選んだのが ARCHICAD だった。
ARCHICAD 導入を決めた7つのポイント
「なぜ私たちが ARCHICAD を選んだのか。その理由は以下のポイントに集約できます」。島崎氏はそういって七項目の選定ポイントあげてくれた。すなわち――
- 設計事務所や建設会社の多くに採用されていること
- ARCHICAD 自身が(階段づくりに欠かせない)フロアの概念を持っていること
- 豊富な建築部品を備えていること
- GDL の利用により複雑なふるまいをする部品も容易に作れること
- モルフで任意の特殊な部品も作成しやすいこと
- 旧バージョンのライセンスも追加購入が可能であること
- カスタマイズに必要な API が豊富なこと
- グラフィソフトの対応とサポート体制の充実
1〜3は建築系BIM ソフトならどれもほぼ共通していたが、4以降は ARCHICAD ならではの強みにほかならないものだったと島崎氏はいう。「GDL」は ARCHICAD で用いられるパラメトリックなプログラミング言語で、ドアや窓、家具、構造要素、階段のような3D ソリッドオブジェクトとこれらを平面図で表す2Dシンボルを記述できる。また「モルフ」は標準的な BIM 環境において直感的なモデリング操作を可能にする ツールで、プッシュ&プルなどの一般的なモデリング技術を搭載し、直感的かつグラフィカルにカスタム形状の要素を作成ができる。
「たとえば、階段の左右の踏板にササラ桁という側板があります。このササラ桁は物件ごとにさまざまな形状に変形する必要があるのですが、GDL ならそれがスムーズに行えるのです。しかも、GDLで作ると他のCAD の部品よりも軽く作れるのも大きなポイントでした」。鉄骨階段の場合、こうした部品が非常に多く、寸法情報や製品タイプによりいろいろな部品を切り替えたり、1つの部品をさまざまなパターンに変形させていく必要がしばしば発生する。これに対応するのにGDL は最適だった。モルフについても同様で、同社が持つ鉄骨階段製品の部品ライブラリにはないような「その現場でしか使わない」特殊な部品が必要になることも多いことから、島崎氏らは、そうした部品作りにも柔軟に対応できるモルフツールに注目したのである。
「6と8は、CadysⅡ 開発のきっかけになった旧Cadys の問題点そのものでしたし、7はアドオンを自社開発することが前提の当社にとっては欠かせないポイントです。幸いグラフィソフトの場合、打合せで“こういうAPI を使いたいのですが?”と質問すると、すぐにハンガリーの本社へ問い合わせて回答してくれるなど、フットワークよく対応してくれたことも非常に心強かったです」(島崎氏)。
こうして2014年初頭、BIM 時代の新たなCadys プラットフォームとして ARCHICAD の導入が決まり、いよいよ新たな鉄骨階段専用BIM-CAD システム CadysⅡの開発が始まったのである。
高精度な 3D モデルをよりスピーディに
「すでに旧Cadys21 で鉄骨階段専用BIMCADシステムとして一定の成果を上げていたこともあり、CadysⅡ ではベースとなるCAD の乗換えを一番の目標としていました。だから当初は、ことさら新しい機能を盛り込むような開発は考えていませんでしたが、より汎用性の高いBIM ツールである ARCHICAD を採用したことから、自然と多くの新しい工夫が生まれてきたのです」(島崎氏)
この新システムは、ARCHICAD の標準機能の上に、操作性に優れた鉄骨階段専用カスタマイズコマンドをアドオンさせる仕組みが基本である。そこで、まず ARCHICAD ならではの直感的な操作性を活かし、高精度な3D モデルをよりスピーディに制作できる操作環境を確立することが一つの目標となった。また、 3D モデルをベースとする工作図の生成についても、より高い自動化率の達成が図られた。もちろん、積算管理や文書管理、工程管理等を担う横森製作所の社内基幹システムとの緊密な連携もシステムとしての大前提である。さらに実際に開発作業が進んでいく中で新たに工夫され、追加された機能も少なくない。島崎氏の指揮のもと、開発作業を主導した技術部の住谷理氏と二田義之氏は語る。
「先ほども話にでた部品についても、今回かなりのカスタマイズをかけましたね。旧Cadys では4,000もの独自部品がありましたが、実際にはその一部しか使われず、多すぎて扱い難い部分があったので、今回はこれを378部品まで絞り込んだのです。従来の約十分の一ですね」(二田氏)。しかも、 GDL で作られたこれらの部品は、必要に応じて一つ一つが複数のパターンに変化させることができ、総数は3,000パターン以上に上る。まさにGDL 製ならではの優れた操作性を備えているのである。
「新たに住宅用階段やコラム鉄骨、丸形鋼などの部品も加わって、対応製品の範囲も大きく拡大しています。ただし、前述のとおりこの部品自体に当社のさまざまなノウハウが詰まっており、重要な情報資産となっています。製造情報など多くの情報が入りとてもデータ量が多くなってしまっているため、お客様にはそのままの形式ではお渡しできません」(住谷氏)。
一方、ARCHICAD に載るアドオンソフト部分独自の新機能としては、ARCHICAD の陰線処理機能で非対応だった隠れ線(破線)表現を実現。図面表現のカスタマイズを行っている。そして、部品同士や部品とボルトの干渉チェック、あるいは階段法規に基づく有効幅員や蹴上・路面・ヘッドクリア・手すり高さ等のチェック機能などエラーチェック機能の実装も図っていった。さらには前述のとおり、3D モデルから工作図(材料加工図)を自動作図し、その工作図データの情報から必要な情報を工程管理システムが集計し、各種帳票を出力する仕組みも確立しているという。
2018年度から全社的な乗換えを推進
その取組みに合わせてCadysⅡ の機能拡充も進めていく
新システム移行はソフトランディングで
こうして新たな鉄骨階段専門BIM-CAD システムCadysⅡ は、2017年7月に開発を完了し、順次運用が始まった。それに先立って開発作業とともに島崎氏らが力を注いだのが、この新システムの社内教育である。横森製作所には、東京本社以外に全国7つの営業所があり、それぞれに設計チームがある。さらに海外も上海にオペレータがいる。当然、これら各地の設計スタッフ全員がCadysⅡ の操作教育の対象となるわけだが、全員を一カ所に集めて教えるのは容易ではない。逆に住谷氏や二田氏が各地を回って講座を実施していくのも大変な手間と時間が必要となるだろう。 「そこで考えたのが、拠点ごとにCAD 操作に長けたスタッフを選抜し招集して、教育していくやり方です。そうやってCadysⅡ の操作を習得してもらったら、今度はその社員が各拠点へ戻ってそれぞれの設計チームを指導してもらい、じっくりとCadysⅡ を広めていこうと考えました」(島崎氏)。
こうして各支店のCAD に堪能な技術者が全国各支店から集められ、全員を研修所に集めて、1〜2週間にわたり終日密度の高い操作講習が行われた。まず全てのベースとなるARCHICAD の5つの基本操作を学び、続いてCadysⅡとしてのアドオン部の機能や、それを用いて実際に図面を仕上げていくところまで習得していった。「私自身そうでしたが、同じ機能でも旧システムとはアイコンが異なり、ARCHICAD 特有のペットパレットなども馴染みがなかったので、これらに慣れるまではなかなか大変でした。しかし、裏返せば、それらに慣れてしまえば逆にCadysⅡ の方が使いやすいし、便利なんですよ。最初は使いにくかった寸法線等も、慣れたら ARCHICAD の方が融通が利くんです」(二田氏)。そこで二田氏らは旧システムとCadysⅡ の各コマンドの対応表を作成して配布氏、さらに集合研修終了後も必要に応じて各支店で出張研修を開催したり、Skypeでの個別指導等も行っていった。
「私も当初はいろいろ戸惑いましたが、以前、2次元から3次元へ乗り換えた時の大変さに比べれば、どうということはありません。じっくり取組めば誰でも習得できるし、いずれ必ず、みんなが使ってくれるようになると思っています」(住谷氏)。
とはいえ、長年使い続けたシステムを新しいシステムへ乗り換えるのは決して簡単なことではない。ちょうど時期的にも全社が繁忙期にさしかかっていたこともあり、島崎氏らは、新システム導入にあたって強引な切り替えは行わず、じっくりと普及を図っていく考えだという。
「7月に運用開始してから実際にCadysⅡ を使用した案件は、これまでのところ決して多いとはいえませんが、使ってくれたスタッフからは、モデリングが早くなったといった声も届いています。現在はなかば試験運用の段階と考え、無理をせずにじっくり広めていく計画です」(島崎氏)。そうやって少しずつ利用者を増やしていくことで、システムに残っている細かなバグを洗い出し、それを一つ一つ確実に修正していくことも二田氏、住谷氏の重要なミッションといえる。そうした積み重ねによって、来たる2018年からは、CadysⅡ への全社的な乗換えを推進していけるだろう、と島崎氏は予想している。もちろん、それに合わせてCadysⅡ 自体の課題解決や機能拡充の取組みも進めていく計画である。
「拡充したい機能もいろいろありますが、第一に社内業務に関わる処理のさらなる高速化を図りたいですね。また、これは以前からやりたかったモノですが、らせん階段のモデル作成機能を完成させたいと考えています。あとは他社制作の鉄骨 3D モデルの活用やファイルサイズが大きいと言われてしまうことが多いので、社外提出用の3D モデルもさらに軽量化したいですね」(島崎氏)
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