公益財団法人
とちぎ建設技術センター
建築部長
入野 昌明 氏
公益財団法人
とちぎ建設技術センター
副主幹
柴田 政秀 氏
「学生対象の48時間BIMコンペを実施
「上位の5作品は、どれも甲乙付けがたい見事な作品だった」―とちぎ建設技術センター建築部の入野昌明氏は、2015年に開催された「第2回 マロニエ学生BIM設計コンペティション」(主催:とちぎ建設技術センター、栃木県建築士事務所協会)の結果を振り返る。
このコンペはGRAPHISOFTのBIMソフト、ARCHICADを使い、11月13日の正午から15日の正午までの48時間で、課題の建物を設計するものだ。参加できるのは全国の大学や大学院、専門学校、高専等に在籍している学生の個人。たった1人で戦い抜くコンペなのだ。
コンペの開始と同時に公開された課題は、JR両毛線と東武日光線が相互乗り入れする栃木駅の駅前を舞台に、商業施設やホテル、オフィス、児童福祉施設などからなる約4万2000m2の複合施設を設計するというものだった。
審査委員は山梨知彦氏(日建設計執行役員)、工藤和美氏(シーラカンスK&H代表取締役)、池田靖史氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)、渡邉伸宏氏(とちぎ建設技術センター常務理事)、佐々木宏幸氏(栃木県建築士事務所協会会長)と、豪華なメンバーが顔をそろえた。
入野氏は「九州からの3人を含めて、全国から58人もエントリーがあった。最終的に19作品が提出された」と、コンペの注目度の高さに驚きを隠さない。学生たちがたった1人で48時間という短時間に、栃木駅前の巨大施設を設計したとあって、地元の新聞やテレビ局も、表彰式や受賞作品を大々的に取り上げた。
ARCHICADによるBIM講習がコンペのきっかけに
とちぎ建設技術センターは、栃木県や県内の市町に対する技術的な支援機関として設立された。公共事業に関する専門技術の研修や、土木建築、下水道事業などの設計や積算、施工管理、資材の品質試験などを行っている。
「当センターでは2013年3月にARCHICADを導入し、県発注の工事で色を決めたり、3Dプリンターで模型を作成するときの元データを作成したりする業務に使っている。将来的には、下水道施設の維持管理もBIMモデルを使って行いたい」ととちぎ建設技術センター副主幹の柴田政秀氏は語る
学生や社会人を対象にした2日間のBIM講習「はじめてみよう!BIM」も定員6人で、年5回開催している。
教材にはグラフィソフトジャパンが開発したBIM導入プログラム「ArchiCAD JUMP!」の基本操作編を使い、ARCHICADの基本操作とBIMモデルの作成を学ぶ内容だ。2016年度は、さらに初心者のための入門書、「ARCHICAD Magic」を教材にした1日コースも増設する予定になっている。
ARCHICADを選んだ理由について、入野氏は「市販のBIMソフトを調査した当時、ARCHICADは学生版が無料で提供されており、ユーザーからの評価も高いことが分かったから」と説明する。
ARCHICADを使って始めたこのBIM講習が、マロニエ学生BIMコンペティションの開催に結び付くことになる。
「当センターで行っているBIM講習も、学生は無料だ。BIM講習の成果を、何らかの形で発表できる場が作れないかと、慶應義塾大学の池田靖史教授に相談したところ、『学生向けのBIMコンペをやろう』という話になり、驚いた」と入野氏は振り返る。
第1回は隈研吾氏が審査委員長に
こうして2014年に、第1回のマロニエ学生BIM設計コンペティションが開催されるはこびとなった。審査委員長は栃木県内に多くの作品を残している建築家の隈研吾氏、審査委員には池田教授のほか、当時ザハ・ハディド・アーキテクツに在籍されていた内山美之氏(現 日建設計)が引き受けてくれた。
とちぎ建設技術センターにとって、BIMコンペの開催は初めての試みだったが、栃木県建築士事務所協会の協力を得て準備が行われた。
グラフィソフトジャパンは、開催や審査などの具体的方法をセンターにアドバイスしたほか、参加者がインターネットを通じて作品を提出するためのサーバーの準備、運営管理を行った。そしてコンペ期間中は、社員がインターネットを通して、サーバーの稼働状態を監視したり、参加者からの質問メールに即座に答えたりできる体制を整えて、コンペをバックアップした。
回を追うごとに参加者が増え、注目度が高まってきたマロニエ学生BIMコンペティションは、2016年10月に第3回が開催される。審査委員長は隈研吾氏。これまで日曜日に開催されてきた表彰式は、今年は平日に行う予定で準備が進んでいる。
全国から注目集めるBIMコンペ
2015年に開催された第2回の課題は、前述のように栃木駅前の敷地に巨大な複合施設を設計するものだった。建築物の設計に欠かせないのが、まちの文化や歴史、景観をよく理解したうえで、これらにマッチした建物を提案することだ。
栃木市は江戸時代から大正時代まで、巴波川(うずまがわ)の水運拠点として栄えた。市内にはその歴史を語り継ぐ建物が多く残り、「蔵の街」として知られている。
関東地方以外の学生にとって、事前に現地を訪問するのは費用の面でも大変だ。そこで、威力を発揮したのが、「グーグル・ストリートビュー」などインターネットを使ったバーチャルな現地視察だった。学生の多くはこうした方法で、課題敷地や周辺の街並みを研究した。
表彰式前に行われた参加者のプレゼンテーションと質疑応答では、「ここから光が入ってくる」「エスカレーターで上がっていくところのデザインを強調した」など、3次元的な空間を意識した説明も目立った。
BIMを使ったコンペは、全国の学生が地理的な条件をインターネットで克服し、さらに建築設計で最も重要な空間についても、実物の建物を見るように考察が行える機会を与えているのだ。
また、福岡市の麻生建築&デザイン専門学校では、建築士試験などと同様にマロニエ学生BIMコンペティションなどを支援できるように、プログラムを調整するなど教育の場としても注目され始めた。
「BIMコンペの情報は、学生の間でも口コミで広がりつつあるようだ。4月以降は栃木県内の大学や高専、職業訓練校などを訪問して、先生にもBIM講習会やBIMコンペへの認識を高めてもらえるようにしたい」と、入野氏は今後のBIM普及活動への抱負を語った。
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