株式会社竹中工務店<p class='takenaka-2024 case-studies-caption'></p>

株式会社竹中工務店

ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)は、愛知県名古屋市にあるセミナー・講演会・コンサートなどが行われる展示会場だ。竹中工務店では、名古屋市とのPFI事業(民間資金を活用した社会資本整備)で、名古屋市国際展示場第1展示館整備事業を受託した。第1展示館は、南北210m、東西96mの箱型形状で、天井高20mの視野が開ける無柱空間が特徴である。その大規模プロジェクトの全貌をはじめ、どのようにBIMが関わってきたのか、また今後の同社の展望について詳しくインタビューした。

株式会社竹中工務店 

所 在 地 大阪市中央区

取締役社長 佐々木 正人

創   業 1610年(設立1909年)

業務内容
建築工事及び土木工事に関する請負、設計及び監理
建設工事、地域開発、都市開発、海洋開発、宇宙開発、エネルギー供給および
環境整備等のプロジェクトに関する調査、研究、測量、企画、評価、診断等のエンジニアリング及びマネジメント ほか
名古屋市国際展示場第1展示館 概要
箱型形状 (南北210m、東西96m)
展示面積 20,160㎡
天井高さ 20mの無柱空間
©Tomohiro Tsukagoshi

2022年、
名古屋市国際展示場第1展示館竣工

2023年、ポートメッセなごやは、開業50周年を迎えた。この記念すべき年に合わせ、2022年10月に名古屋市国際展示場第1展示館(以下、第1展示館)が竣工。最大1万5千人もの来場者が訪れる施設であり、名古屋のランドマークとして海沿いの新しい景観をつくり上げている。

このプロジェクトでは、株式会社竹中工務店と(以下、同社)久米設計がJVを組み、久米・竹中設計共同体として、あおなみ線「金城ふ頭」駅から第1展示館までを結ぶコンコースと、2万平米の無柱の展示空間を設計。監理は久米設計、施工は同社が担当した。

「第1展示館は名古屋港の海、そしてコンコースからの人流の波を新しいシルエットの着想としました」と設計者の名古屋支店 設計部 設計4グループ長 吉岡英一氏(以下、吉岡氏)が語るように、波状にうねる屋根と、ダイナミックなガラスファサードが湾岸風景に映える。

しかし、その一方で、この外観デザインを実現させるためには、いくつもの課題を解決させる必要があった。設計・施工・設備のそれぞれのエキスパートたちが、この意匠を実現させるためにどのように知恵を絞っていったのだろうか。まず、大規模建設プロジェクトの設計フローについて迫る。

SS Co.,Ltd. / Mitsunori Aiba

敷地面積いっぱいに建てられた第1展示館。
うねりのあるコンコースは航空写真からでも見てとれる

SS Co.,Ltd. / Mitsunori Aiba

展示スペースは2万平米の無柱の展示空間。展示会や各種セミナー、コンサートなどが開催予定。
広大な空間は仕切って使うことも可能だ

プロジェクトのワークフロー

初期段階の設計スタディから事前の施工確認まで下記のワークフローを定め実施した

Photo©Tomohiro Tsukagoshi

プロジェクトについて振り返る4名

① 形状、ボリューム検討

まず、アイデアを出すフェーズでは、RhinocerosやBlender等の様々な3Dソフトを使って、形状やボリュームを検討する。この段階での目的は「自由な発想を促すこと」だ。設計に携わるスタッフたちが、複数プランを提案できるようハンドリングの良いソフトを操る。

② パラメトリックモデリング

波をモチーフにした流線形の外観が決まった後は、生産・施工を考慮したアルゴリズムに整理をし、パラメトリックモデル(パラメータを入力すると簡易に作成及び修正が可能な3次元モデル)に再構築。ここではRhinocerosとGrasshopperを活用した。

③ ArchicadでBIMデータ作成

②で完成した3Dモデルの詳細な部材をArchicadに入力しBIM化する。2D図面への切り出しと数量計算を行い、ここで出た数字を積算やコストに反映させる。

④ 一部、モックアップ化

課題となる流線形で多角形のファサードについて、完成品と同じスケールのモックアップを施工した。ここでは複雑に取り合う鉄骨接合部のディテールの納まりの確認と、施工する上での課題を抽出する。モックアップをつくる過程で見つかった改善点は、施工計画や製作図に反映し、更なる生産性の向上を図る。(※詳細は後述)

⑤ 施工

実際にモックアップを作ったことで、施工手順や施工性の確認といった実施工に向けた多くのデータを取ることができ、これらのデータを工事計画や工程計画に反映することができた。

ファサードにおける課題とアプローチ

本プロジェクトにおいて、設計・施工ともに一番の課題となったのはファサードである。形状は「く」の字型に似た多角でできており、折れ点より上部は耐火集成材、折れ点より下部は鉄骨造となっている。

SS Co.,Ltd. / Mitsunori Aiba

ガラスファサードには、輝く海面が映りこみ、来場者の気持ちを高揚させる。

SS Co.,Ltd. / Mitsunori Aiba

木部は構造材・仕上げ材に耐火集成材「燃エンウッド®」を採用。その昔、名古屋城築城の際に木場としての役割があった土地柄にちなんで、内部空間も木質感のある空間づくりをコンセプトにしている。

ファサードの屋根・壁面は
ユニット化し生産性向上へ

設計者の吉岡氏は「これだけ大きな建物になると、必ず高い生産力が必要になります。安全で効率的な生産方法については検討を重ね、うねりのある屋根・壁面を約70個のユニットにすることで生産性向上を図りました」と述べている。

設計においては、構造材の燃エンウッド®と鉄骨取合部の下地鉄骨をユニット化することで、各部材の長さや接合部の角度、折れ点の位置などを統一でき、生産性を向上させることができる。

このアプローチでは、シンプルなルールを採用することでの品質安定や施工面での安全性向上が期待できる。さらに同じユニットを連続して施工するので、工期の計算もしやすく、先の見通しができる効率的な建物の生産が可能となる。

Photo ©Tomohiro Tsukagoshi

「複雑な波型に見えつつも、設計ではできる限りシンプルにルール化し、生産性を高めることに注力しました」(吉岡氏)

モックアップをつくり課題を抽出

本プロジェクトだけでなく、同社では他のプロジェクトでもモックアップの製作は必要に応じて行う。モックアップを作らずに、いきなり本番環境で工事を始めた場合、不具合が発生するとその影響が連鎖し雪だるま式に問題が拡大するリスクがある。モックアップを作成することのメリットは、BIMでつくった3Dモデルと実物の「答え合わせ」ができ、施工性があがる点だ。

「実物大のモックアップをつくってみて初めて分かる課題があります。例えば止水ラインの確認や外壁材の納まりなどの細かなディテールは図面だけでは判断できず、実際につくることで施工の手順ややりやすさがようやく腹落ちできるのです」と話すのは、施工担当の名古屋支店 作業所 シニアチーフエンジニア 工事担当 安藤悟氏(以下、安藤氏)だ。設計が求めているデザインから逸脱しないように注意を払いつつ、高い施工性が保てるようにものづくりの知恵を絞っていった。

もうひとつのメリットは、モックアップの製作により、施工管理者だけでなく職人たちの不安も解消されていく点にある。「このような多角形の建物は誰一人として作ったことがないので建設の可否や所要時間などが不透明でした。しかしモックアップを作成することで様々なデータが得られます。施工管理側も職人側も、先が読める安心感がありました」とも話す。

名古屋支店 プロダクト部 シニアチーフエキスパート 林瑞樹氏(以下、林氏)も、うねりを加える屋根材について補足して述べた。「ギザギザになっている屋根面は平面ではなく少しだけねじれた面で構成されています。BIMでは力を加えなくても素材をねじることができますが、実際はやってみないとわからないものです。ですから、実物のモックアップを施工することは、施工側の不安を一気に解決できる強力な手段となるのです」と林氏。

ユニット化による生産性向上や施工面での安全性確保など、さまざまな面で工夫が実を結びプロジェクトの成功につながった。どんなにテクノロジーが進化したとしても、ものづくりの担い手は人だ。設計・施工の協力により更なる技術革新が期待できる。

「実際にデジタル上でできていても、モックアップをつくると納まりが悪いことも出てくるかもしれない。今回は3Dモデルの精度が高かったことによってモックアップ製作は手戻りもなく、工数も抑えられました」(安藤氏)

Photo ©Tomohiro Tsukagoshi

「時代が進化したとしてもモックアップの必要性は残るでしょう。日射や温熱のシミュレーションはデジタルを活用していますが、施工性や品質の確認においてはモックアップがあると安心です」(林氏)

Photo ©Tomohiro
Tsukagoshi

Solibriを用いた「重ね合わせ会」で干渉をチェック

次なる課題は、2万平米の大空間における配管・配線の納まりだった。第1展示館の内部は、96mものワイドスパンの無柱空間である。ここに、空調や換気システムのダクト、電気配線、給水配管などをどのように配置するのかが大きな課題だった。

設計段階では、配管・配線位置の詳細まではモデル化しておらず、支店の設計担当者が最低限の道筋を建てた後は、現場作業所の設計・構造・設備の担当者にバトンを渡し、三者間で調整を重ねて、適材適所への的確な配管・配線設計を実施している。

この巨大施設における膨大な数の干渉をチェックするのに役立ったのは、定例で実施していた「重ね合わせ会」と呼ばれるチームミーティングだ。

96mスパンの構造は、厳密な構造計算のもとで成り立っているため手を加えることはできない。そのため、現場担当者がSolibriで干渉チェックを行い、頭をひねりながら重ね合わせ会で解決方法を見出していった。干渉している部分は、すぐさまBIMのオペレーター業務を行うBIS(ビルディングインフォメーションセクレタリー)のスタッフが図面に手を加えていき、リアルタイムで3Dモデルの修正を行っていった。

設計本部 BIM推進グループ長 本多英行氏(以下、本多氏)は、同社の品質確保のためにかねてよりSolibriを活用していると述べる。
「竹中工務店には品質を担保するためのルールが基本機能確認記録書として定められており、これをSolibriのルールセットに置き換えています。守るべき性能を遵守しているか、どのプロジェクトにおいてもSolibriを使ってチェックを行います」。

同社では、Solibri展開チームと呼ばれる組織を発足。同社内でのSolibriの有用性を研究し、ナレッジを蓄積。さらにそのチームで開発したルールセットを各店で使うように促し、フィードバックをもらいながらさらなるブラッシュアップを重ねている。

Solibriでの干渉チェック

Rebroで作成したモデルをIFCでエクスポートし、Solibriにて意匠、構造、設備を統合

Photo ©Tomohiro Tsukagoshi

「重ね合わせ会では設計、構造、設備の担当者が集まって、“こうすれば直る”という解決方法を見出していきました」と吉岡氏は振り返る

付加価値の高い提案を早期に実現する「設計BIMツール」を開発

同社では2024年、自社開発した「設計BIMツール」を原則すべての新築プロジェクトに適用開始したことを発表した。このツールはクライアントへの設計提案における新たなツールと位置づけられ、Solibriによるモデルチェッカーのほか、Archicadの情報も蓄積されており、付加価値の高い提案が早期にできる点をメリットとして見込んでいる。

このツールは、クライアントが事業計画を推進するために必要となる意思決定をサポートするために開発されている。建物情報はもちろん、そこに加えてハザードマップを用いた高度なシミュレーションや多角的視点での設計検証を行うことが可能だ。これによりクライアントがより早く、効果的に意思決定を行えるように支援している。

「これまでのBIMソフトは、専用のビューアーを持っているクライアントでなければ、データ閲覧ができない点が課題でした。また、形状や情報が複雑化するとデータ量が大きくなり、取り扱いがし難くなることも問題でした。しかし、このツールを使えば形状と情報を分けて管理することができ、クラウドベースのWebアプリなので誰でもBIMの情報にアクセスでき、BIMモデルを閲覧することもできます」と本多氏は語る。また、このようなツールができたのも、Archicadの「OPEN BIM」のデータ連携フローを活用してのことだ。

同社は、取集・蓄積されたデータの分析結果に基づいたデータドリブンな提案・設計を目指す方針を打ち出している。これにより、経験や勘に頼るのではなく、よりデータに基づいた客観的な提案・設計が可能となる。AIとの協働も視野に入れ、新たな未来の業務フローの実現に向けて、着実に新しい建築会社のあり方に近づいている。

Photo ©Tomohiro Tsukagoshi

「データやAIを活用することで設計者が担っていた煩雑な作業を圧縮し、それによって生まれた時間をクライアントへの高い付加価値提案のために使っていきたい」(本多氏)

付加価値の高い提案を早期に実現する「設計BIMツール」

Archicadの詳細情報はカタログをご覧ください

ー カタログと一緒にBIMユーザーの成功事例もダウンロードできます ー

  • Archicad ユーザーの設計事例を紹介
  • 設計時の裏話や、BIMの活用方法など掲載
  • その年ごとにまとめられた事例をひとまとめに
  • BIM導入前から導入後の情報満載

Archicadのすべての機能を
30日間お試しいただけます。

Archicadを導入して自分らしい設計をしよう