株式会社竹中工務店
大阪本店設計部
設計第1 部長
加藤 美稲 氏
株式会社竹中工務店
大阪本店設計部 設計第1 部門構造
グループ長
BIM推進の設計部リーダー
池田 英美 氏
株式会社竹中工務店
大阪本店設計部
プロダクト部門
プロダクト設備グループ主任
端野 篤隆 氏
RC 梁の貫通許可範囲をBIM モデル上に表示
「RC梁を設備が貫通してよい場所がSolibri Model Checker上でわかるので、構造設計者と設備設計者の合意形成がスムーズになりました。大変便利な機能を開発してもらったと感謝しています」。そう語るのは、大阪本店設計部プロダクト部門プロダクト設備グループ主任の端野篤隆氏だ。
限られたスペースで配管や電気配線などの設備設計を行うとき、どうしてもRC梁を貫通する必要が生じる。しかし、梁の上下端や左右端など、貫通口を設けることができる場所には制限がある。
竹中工務店ではこれまで、構造設計者が2次元の設備図を構造図と突き合わせ、構造的に大丈夫かどうかを一つ一つチェックしていた。「この作業だけでも1フロア当たり1週間から2週間かかることもありました」と大阪本店設計部 設計第1部門構造グループ長で、BIM推進の設計部リーダーである池田英美氏は語る。
そこで竹中工務店は、BIMモデルの干渉チェックなどを行うソフト、Solibri Model Checker上に、RC梁を配管などが貫通できる許可範囲を斜線で表示する新ルールセット「梁貫通許可範囲の干渉」を、グラフィソフトジャパン、フィンランドのSolibri社と共同開発し、同社ではSolibri Model Checkerを使ってこのチェック作業を行えるようにした。
その結果、RC梁の貫通の位置について、構造設計者と設備設計者の間での協議が非常にスムーズになった。このルールが開発されたことによって、設備設計者が梁貫通口の場所を確認することができるようになり、設計者間のコミュニケーションツールとして、Solibri Model Checkerの価値がさらに高まりました」と、池田氏は語る。
フィンランドのSolibri本社と連携
Solibri Model Checkerは、BIMモデル内で部材同士が3次元空間で干渉している場所を特定する機能はもともとあった。しかし、RC梁の特定の範囲で、配管などと干渉している部分を干渉チェックの例外として扱えるルールは、Solibri Model Checkerには備わっていなかった。
そこでRCの梁貫通許可範囲の干渉チェックルールは、フィンランドのSolibri本社と、竹中工務店、グラフィソフトジャパンが連携して開発を行った。
開発は、2014年9月から12月まで行われた。フィンランドと日本の日常業務の時間が重なる日本時間の夕方に、3社の担当者がインターネットのテレビ会議でミーティングを繰り返した。
開発時に難しかったのは、梁貫通許可範囲の部分は、梁や柱が交差するフェイス位置から一定の距離を離す必要があったことです。そのため、他の梁や柱の位置もルールに取り入れるのに苦労しました。また、上下で柱の太さが違う場合は下の柱の値を採用するといった変則的な処理もルールに取り込む必要もありました」と池田氏は語る。
この梁貫通許可範囲の干渉チェックルールは12月に完成し、Solibri Model Checker 9.5の新規ルールテンプレートとして搭載されることになった。このルールを日本語訳する際には、ダイヤログボックスなどの画面に適切な建築用語を表示するために竹中工務店が監修した。
「開発したRC梁の「梁貫通許可範囲の干渉」ルールは、当社が独占せず、Solibri Model Checkerの新しいルールテンプレートとして公開しました。ただ、貫通口のピッチについては自動的にチェックする機能はないので、今後、開発していきたい」と、池田氏は建設業界全体での活用を呼びかけている。
“一気通貫のBIM”を目指す竹中工務店
竹中工務店大阪本店では社内のBIM活用を7段階のレベルに分け、それぞれに応じたBIMモデルのLOD(詳細度)を定めている。
「レベル1」は“電子はりぼて”的な外観だけ、「レベル2」は意匠設計、「レベル3」は設備や構造を含めた基本設計、「レベル4」は建築確認申請、「レベル5」は着工に備えた詳細設計だ。
そして「レベル6」は施工モデル、「レベル7」は維持管理に使う竣工モデルだ。この「レベル6」と「7」を同社では“一気通貫のBIM”と呼び、BIMで生産性向上を実現するための重要な段階と位置づけている。
大阪本店設計部設計第1部長の加藤美稲氏は「一気通貫のBIMで大切なことは、誰かが苦労するBIMではダメで、プロジェクト関係者全員がWin-WinになるBIMにすることです」と語る。
一気通貫のBIMを実現する上で欠かせないのが週に1度の「3D重ね合わせ会議」だ。その作業を担うのが2人のBIS(BIMインフォメーション・セクレタリー)だ。1人当たり常時4件のプロジェクトを担当し、年間3回プロジェクトが終わる。1年間で合計24件のプロジェクトを処理することが可能である。
その仕事は、意匠、構造、設備の設計者からBIMモデルを受け取り、座標の原点やLODに応じたモデルがそろっているかを確認した後、Solibri Model Checkerで各モデルを重ね合わせて干渉チェックを行う。そして干渉部分のレポートを作成し、各設計者にフィードバックするまでを担う。
そして設計者はレポートを見ながら干渉部分を解決する。「この仕組みがあることで、各設計者は3D重ね合わせの細かい作業から解放されます」(池田氏)。
「週に1度の3D重ね合わせ会議をやろうと言う気持ちになったのは、Solibri Model Checkerに干渉レポートを作成する機能があったからです」と加藤氏は続けた。
「現場に図面を提供した後の細かい位置調整は、現場の協力会社に任せた方がいいと思います。重要なのは、作業所が受領した最初の図面から大きな不整合が発生していないことです。こうした図面を提供した現場からは、天井を下げたり、設備工事に手戻りが発生したりという問題が全く発生しなかったと好評です」(加藤氏)。
鉄骨梁を対象にした梁貫通許可範囲のルールテンプレートも検討中
竹中工務店では現在、貫通許可範囲を表示するSolibri Model Checkerのルールテンプレートを、鉄骨梁にも適用できるように開発している。鉄骨梁に穴を開けても問題ない個所は黄色、補強が必要な個所を青色で色分け表示するものだ。
「鉄骨梁の梁貫通許可範囲はRC梁と違って構造計算結果によって決まるのが難しいところです。そこで構造解析ソフト『BRAIN』の結果と、『TeklaStructures』のモデルをそれぞれIFC形式でSolibri Model Checkerに取り込み、両者を比較しながら梁貫通許可範囲を表示させるルールテンプレートを検討しています」と池田氏は語る。
Solibri Model Checkerは、これら梁貫通許可範囲のルールテンプレートの開発によって、竹中工務店が目指す“一気通貫のBIM”は、さらにパワーアップしていきそうだ。
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