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鈴木建築設計事務所が2019年度(上)と2020年度(下)にArchicadを活用して設計したプロジェクトのBIMモデルを、左から右へと時系列で並べたもの。木造から鉄骨造、RC造へとBIMで設計する建物の構造形式が広がっているのがわかる
小池 拓矢 氏
高橋 加代 氏
卒業生の特権生かし、Archicad3本を3割引きで購入
2018年の春、鈴木建築設計事務所では入社2年目の小池拓矢氏がBIMの活用について再検討を行っていた。当時、事務所では3DCADソフトを導入していたものの、表現の自由度が低い、設計を進めながらの検討には使いづらいなどの課題があったのだ。
そこで、グラフィソフトジャパンの「ヤングアーキテクトプログラム」という割り引き制度を活用し、Archicadレギュラー版1本とSolo版2本をそれぞれ割引価格で購入してもらった。
「ヤングアーキテクトプログラム」とは、Archicad教育版を利用してBIMを学んだ学生に、Archicad商用版ライセンスの購入をサポートするプログラムだ。
在学中にArchicadの学生版を使用していた学生は、在学中または企業に就職後、2年以内ならArchicadを3割引きで購入できるという制度だ。いわば卒業生の特権とも言える。購入は個人・企業を問わない。
小池氏は学生時代にArchicadの学生版を使っていた。当時は入社2年目だったため、この優遇制度を使うことをひらめいた。そして事務所の代表取締役を務める藤原薫氏にお願いして導入してもらったのが、BIM活用の始まりだ。
対象製品
ヤングアーキテクトプログラムでArchicadを購入すると、レギュラー版1本、Solo版2本まで3割引きが適用される。(価格は、2021年3月取材当時のものです。)
Archicad導入2年で26件のプロジェクトに活用
ちょうどそのころ、入所してきたのが高橋加代氏だ。以前ハウスメーカーに勤務していたときは住宅用の3次元CADを活用し、専門学校でも卒業制作などで別の3次元CADを使った経験がある。
3次元CADの経験を持つ高橋氏の入所は、BIMの本格活用を始めるきっかけだった。高橋氏は当初、社内でただ1人の「BIM専任担当者」を務めていた。
「大学ではドイツ語を専攻していたのですが、東京都内の企業で働くうちに、どうしても建築の仕事がやりたくなり、地元に帰り仙台の建築専門学校で二級建築士の資格を取りました」(高橋氏)という経歴の持ち主だ。
建築士の資格取得後の2019年4月に就職したのが、山形市内にオフィスを構える鈴木建築設計事務所だ。
以前の勤務先と専門学校で2種類の3次元CADを使った経験のある高橋氏は、あっという間にArchicadを使いこなし始めた。
「最初の2週間は、トレーニングとして当社の社屋をBIMモデル化しながら基本的な機能を学びました。そして3週間目から実務で使い始めました」と高橋氏は笑顔で語る。
「導入の順序としては平面図や立面図、展開図、建具表など描けそうなものから手を付けていくという感じでした。初めのうちは、矩計図など難易度の高いものは2次元CADユーザーが描く、というふうに分担して、とにかくArchicadを使いながら図面の精度を上げていくスタイルで運用を続けました。 図面化の難易度が高い分、パースやスタディ用にモデリングしている時は息抜きになりましたね」と高橋氏は振り返る。
構造の検討用にArchicadを使用した例もある。Archicadを本格的に導入した2019年の12月に作成したある県立病院の玄関脇に設置する大屋根のBIMモデルだ。
鉄骨と木が3次元的に組み合わさった複雑な構造なので、平面図や断面図だけでは理解しにくい。そこでArchicadを使って鋼材同士、木材と鉄骨材が接続する部分の形状や角度などを3次元的に検証したのだ。
さらにBIMモデルのデータをもとに、3Dプリンターで模型も作成した。「複雑な鉄骨架構でしたが、BIMモデルや模型のおかげで構造設計者間での合意形成がスムーズに行えたそうです」と高橋氏は説明する。
1年目の終わりには、学校のプロポーザルもArchicadでパースや図面を作成して応募するほどになった。
導入1年目の実施設計は3800m2の鉄骨造だったが、2年目になると、BIMで設計する建物の構造形式もさらに拡大した。2020年6月には、初めてRC造として、5000m2を超える建物の設計もBIMで行った。
2019年4月の本格導入以来、鈴木建築設計事務所では、Archicadを活用したプロジェクトの数が2年間で26件にも上った。現在では図面一式をすべてArchicadで作成しているプロジェクトもある。
社員の有志で早朝BIM勉強会を開催
短期間でこれだけのBIM活用プロジェクトが増えたのは、Archicad本導入直後から社員有志で行った早朝BIM講習会の効果もあった。
「それまで、社員のBIMに対する関心は高かったのですが、手持ちの業務をやりながらということもあり、手つかずでした。そこで毎月1回、朝7時〜9時の時間帯に5〜7人程度の社員が集まってArchicadの勉強会を行うことにしたのです」と小池氏は語る。
講師は小池氏と高橋氏が務め、テキストにはグラフィソフトが公開している「Magic」などを使用した。勉強会の前半では、Archicadの基本 的な操作について学び、後半では社員各自が過去に2次元CADで設計した建物をArchicadでモデリングするという内容だった。
藤原氏も「これからの設計事務所は、BIMに対応できないと生き残っていけない」と、BIMの重要性を社員に呼びかけるなど応援してくれたという。
こうした勉強会を1年半ほど続けているうちに、社内のArchicadユーザーも増えていき、現在は6人になった。Archicadも毎年、2本ずつ追加導入し、現在はレギュラー版7本まで増えた。
さらにプレカット工場ともデータ連携
2021年5月には、 木材の梁や柱を機械加工するプレカット工場と、BIMモデルによるデータ連携も試みた。Archicadで作成した木構造のデータをIFC形式に変換し、プレカット工場用の「hsbcad」に引き継ぎ、見積もりなどで利活用する取り組みだ。
このほか、構造設計ソフト「MIDAS」で作成した3Dデータを構造データ交換標準フォーマット「ST-Bridge」に変換してArchicad に読み込んで意匠設計と組み合わせるといった他社製ソフトとの連携も行った。まだテスト段階であり、本格的な実施設計への運用は今後の課題である。
さらにArchicadのデータをBIMモデル閲覧ツール「BIMx」に書き出して施主との打ち合わせを行ったり、ビジュアライゼーションソフト 「Twinmotion」で風や太陽光、樹木などの自然の中にある建物のイメージムービーを作ったりと、データ連携によってBIMモデルを見る人も広がっていった。
「Twinmotionで作成した動画は、施主への説明だけでなく、施主から近隣住民向けの説明会などに広く利活用いただき、わかりやすいと評判で す。また、BIMxは設計段階では施主との合意形成に、施工段階では施主、設計者、施工者と3者間でのやり取りに非常に役に立っています」と高橋氏は説明 する。
「公共建築ではデザインも多様な検討が行われます。そこで施主から要望のあったサイディングや塗装の色を変えたパターンを作り選んでもらうことにし ました。施主側もBIMxで実物のイメージが掴みやすいようで、楽しみながら選んでいただきました。顧客満足度も高くなったと感じています」と高橋氏は言う。
施主とのコミュニケーションが濃密に
Archicadの導入から2年が経過した鈴木建築設計事務所には今、様々な変化が起こっている。その一つが施主とのコミュニケーションだ。
「Archicadの導入後、施主との打ち合わせは密度が濃くなり、回数はむしろ増えています」と小池氏は語る。「例えば水勾配の設計について、従 来の図面では説明が難しかったのが、3Dパースだと、なぜ軒先から水が落ちないのかを一般の人にも理解できるように説明できます」(小池氏)と、設計者自 身にも充実感があるようだ。
高橋氏は「打ち合わせには図面でなく、パソコンを持っていくようになりました。例えば保育園の設計では、ドアの窓の高さやサインの位置などを園の運 営方針を考えながら保育士さんと議論を重ね、その場でArchicadで設計変更を行いOKをもらったこともありました」と語る。
プロポーザルへの対応も従来より短期間に行えるようになり、以前より参加する度合いが増えている。また、学生を対象としたインターンシップにも変化が起こっている。
「インターンの実習にもArchicadを取り入れています。早い学生だと2週間でBIMモデルの作成だけでなく、Twinmotionで動画まで作ってしまいます」と高橋氏も学生の3D活用力に舌を巻く。
BIMを活用する設計者自身も変化を感じている。高橋氏は「BIMを活用していると、標準化されていない情報が山積されていることに気付きました。 例えば外壁や断熱仕様などの社内の標準仕様が整理されていなかったり、図面の描き方、文言などが描く人によって違ったりするということです」という。
「業務を効率化するため、それらの整理、テンプレートへの追加などを進めていく必要性を感じています。今年の夏に参加したグラフィソフトのBIMマ ネージャープログラムでは、社内運用やテンプレート作成などについて多くのことを学べたので、その経験を生かしたいです」(高橋氏)。
小池氏は「BIMによって業界を超えたコミュニケーションが可能になると感じました。例えばBIMモデルを通じて設備設計や構造設計、造園業との連携です。また、学校の先生や高校生とのワークショップなど、これまで交流がなかった人々との交流もできました」と語る。
藤原氏は「これからの時代は、進化し続ける設計事務所にならないと、仕事の内容や収益性に差が付いてくる。BIMを使えないと生き残れない」と語った。
Archicadの導入によって、鈴木建築設計事務所はBIMで手がける建物の種類だけでなく、BIMを通じて他社や学校などステークホルダーの拡大、そして他社のソフトウエアやデータとの連携など、様々な可能性が急速に広がりつつあるようだ。
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