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株式会社東海林健建築設計事務所
CEO
東海林健 氏
株式会社東海林健建築設計事務所
チーフアーキテクト
平野勇気 氏
新潟市に社員9名で設計事務所を構える東海林健さんは、いつも建築のひとつ前のスタンスを大切にしていると語る。
「もちろん、建築自体も重要なのですが、設計や建物がどういう風につくられているのかを超えて、その手前やその先のことに一番興味を持って取り組んでいます」
それは、誰と一緒につくるのか、なぜその建物をつくるのか、それをつくることで、その周辺はどのように変化をするのか、といった哲学。東海林さんは、公園や商業施設はもちろんのこと、一住宅であっても、すべての建物は開かれた環境としての公共性をもつべきだと考えている。
そんな東海林さんのアトリエが最初にArchicadを導入したのは、約4年前だった。
「同時に2人の建築家の方からArchicadを勧められたんです。東海林さんにぜったい向いてるよって。操作をしている様子をノートパソコンで見せてもらったら、レンダリングしているような状態の画面をスイスイ歩いていたのでびっくりして。世の中的にいずれこの世界が主流になるんだろうなって思って購入したのがきっかけでした」
とはいえ、最初にBIMに入って感じたのは「これは見たかった世界ではないね」ということ。
「建築の設計って、ぼんやりしている部分があって、それがよかったりする。だけどBIMの世界は全体がクリアに見えすぎてしまうので、細かい部分に目がいってしまい、一番大切なコンセプトが棚上げになってしまうんです。そういう意味で、BIMとの向き合い方は、慎重になろうと思いました」
「私と●●」とでつくる化学反応
過程を積み重ねる中で、BIMを取り入れる
その時たまたま組んだチームで何かが生まれる、そんな化学反応を大切にする東海林さんの作品は、建物が黒いよねとか、ガラスが多いよねとか、そういう決まりきった個性はないという。
「ホームページを見た人からは、何でもありだね、でもそれが面白いねって言われます(笑)」
常につくり方や過程を意識していて、その時の作品はその時の環境やチームに委ねている。それは、対話を重ね、多様な価値観を重ね合わせた建物でなければ、公共的な利用には、そして長い年月には耐えられないという考えがあるから。
「いつもクライアントが“自分がつくった”って言っちゃうくらい、巻き込んじゃうし、対話を積み上げていきます。毎回探り探り、3作品、5作品並べて、これを出すとこの人なんて言うんだろうってワクワクしながら」
設計の中でもっとも時間がかかる作業の一つが模型づくり。対話を重んじる東海林さんの事務所では、これまで一つの建物に対して70個近くの模型を作っていた。
「模型は今でも一番大切なツール。ただ、70個作る状態にはしたくないなって。この課題に対して、BIMを使うことで今では20個くらいですむようになりました」
また、第一号BIM案件の新潟市西区の山五十嵐こども園では、BIMxを使って施工現場のメンバーと情報を共有した。プロジェクト担当の平野さんは、当時を振り返ってこう語る。
「建物が複雑で工期が短かったので、BIMがかなり役立ちました。施工現場の定例会議で、毎回Archicadが立ち上がっている状態。BIM上で整合性をとっているので、図面が現場で合わないといったトラブルもなく、現場の人が一番よろこんでいたんじゃないかな、と思います」
平野さんはこのプロジェクトで、BIMをはじめて活用した。「外注でBIMに詳しい設計士を入れて、教わりながら進めました。斜めの屋根に対して斜めにあたる部分などの形の操作とか、フレームがどうなるのか、どういう風に切断すればよいのかとか、すべてArchicad上で描けたので、BIMを使わないと大変だった案件かも」。
Photographed by Koji Fujii / toreal
現実と仮想現実の垣根を超えて
XR空間で建物を設計する
東海林さんのアトリエでユニークな事例が、XR空間で建物を設計するという作品だ。
「ちょうどコロナ禍でVR市場がぐんぐん伸びていたときに、仕事の相談が入ったんです。これ、Archicadでできたら面白いなって思いました」
それは、初音ミクのバーチャル空間『MIKU LAND GATE β』の設計。そこには重力があり、構造があり、自然があって環境がある。建物内は、地下にコンサートホールがあり、イベント時にオープンする商業施設内のショップでは、実際にブランドが出店。その場で決済し、購入することができる。
「これまでCGのグラフィックデザイナーが作っていた建物を建築家が設計するという、国際的にも新しい取り組みでした。漫画のような世界で建てられていた建物を建築家が設計することで、XR上で建物の中をぐるぐる歩けるようになるんです。青森県の奥入瀬渓流に建物を建てたらすごいよねっていう話が出て、そこに建てちゃいました。これはバーチャルの世界だからできること。建蔽率とか考えなくてもいい、自由な世界です」
ルールとして、法律とお金からは解放されても、重力からは解放されないようにしようと考えた。
「重力を考えなくなると、グラフィックデザイナーが作る世界観と変わらなくなってしまいます」
担当したのは、東海林さんの事務所に所属するTSXR事業部の若手2名だ。
「ハリウッドの未来都市を作っているのも実は建築家。日本もようやく、そういう世界を理解してきているのかなって。オキュラスというVRのハードウェアを通して見る世界が、誰でもコンタクトレンズで見えるようになったらこんな風になるだろうっていう世界を、具現化しています」
Art by 五十嵐拓也(Gugenka®)©︎Crypton Future Media, INC.
最近では新潟市から、「VRを使って街の活性化のために何かできませんか?」という相談が入っているという。「バーチャルばかりやっている協力会社が、リアルってすごいんですよ、東海林さんって。僕たちはそこに惹きつけられていて、リアルのすごさを確認するためにバーチャルをやっているのかもしれないですね」。
Archicadを使って哲学を考えること
それは、真っ白な世界で模型を作る
Archicadについて、「最初の作業は苦労したけど、やり方さえ覚えれば応用できることはたくさんある」と、東海林さん。そんな東海林さんが描く未来は、バーチャル空間上で、模型を作るように3Dを作ることだ。
「3Dって、通常はリアルに近い形で再現するために使われます。でも、そうではなく、バーチャル空間という真っ白な空間で、あえて解像度を下げた模型を作るんです」
それは、XRを始めたことで身につけた感覚だという。
「解像度が高い=リアルに近いものだと、どうしても余計な情報が入って変なところが気になり始めたりします。そうなると、僕たちがつくりたいのはけっきょく何だったんだろうって見えなくなってくる。建築に携わる上で俯瞰的に見る視点というのは常に課題になるわけだけど、僕たちはそもそも、見たことも触ったこともないものを一本の線で書いていくという、とても極論的な作業をしています。だからやっぱり、哲学やポリシーといったものと建築をマッチングしていくには、模型くらい解像度が低い、シンプルなものが不可欠なんです。真っ白な世界で模型を作ると、より抽象化されて、見たいものだけが見えてくる」
今でも東海林さんの事務所では、2Dで作図できるようになってからArchicadを使う、という方針を守っている。
「実務でわからないことがあるままArchicadを使うことはさせてません。やろうと思えば考えなくても形になるので、ソフトのやりやすい方向に話が流れていってしまう。例えば、窓枠一つとっても、外壁と窓との関係や、窓枠の厚みは、位置は、内観から窓をどう見せたい?と、そこには情報が山ほどあります。Archicadで作った窓の入れ方と、うちの事務所で作った窓の入れ方は違っていて、その違いを理解することが大事。僕たちは窓をどう入れるかということにめちゃくちゃ時間を費やしてきた世代なので、そうした背景を若い世代にも教えていかなくてはいけないと感じています」
長岡造形大学で非常勤講師も勤める東海林さんは、学生たちに建築の哲学を伝えることも仕事の一つだ。
「今の学生は最初からBIMを使っているので、僕たちとは違う活用の仕方を各自で工夫しながらやっているみたいです。自分たちで便利なやり方を覚えて開発しているんだろうな、頭柔らかないなって思いながら、見守っています」
今取り組んでいる住宅案件でも、施工現場でArchicadを活用中。「現場監督も、切断やウォークスルーといった作業がArchicad上できるようになっています。施工図を書いているようなものなので、現場ではかなり有用。色々な使い道はありますが、Archicadを使った外部との連携は、今後強化していきたいことの一つです」
Archicadの詳細情報はカタログをご覧ください
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