佐藤工業株式会社
Archicad+SCPを核として施工BIMに徹した戦略により導入開始1年間で5現場へ展開

佐藤工業株式会社

福島市の佐藤工業は、創業73年の歴史を持つ地域密着型の総合建設会社である。2018年に戸田建設のグループ会社となった後も、福島を代表する建設会社として常に地域への貢献を第一に展開。公共工事が主体の土木部門と、民間・公共が半々の建築部門を事業の両輪に、着実な成長を続けている。同社では2019年に建築部門へのBIM導入を開始。独自の展開により早くも大きな成果を上げつつある。その取り組みの詳細について、同社のBIM推進を牽引する建築部長の松本光正氏と建築部の佐藤孝行氏にお話を伺った。

佐藤工業株式会社

http://www.sato-kogyo.co.jp/

所在地 福島市

代表者 代表取締役社長 八巻恵一

創 立 1948年10月

業務内容
建築物の設計・施工、土木工事、舗装工事ほか

建築部
佐藤孝行氏

建築本部 建築部 理事部長
松本光正氏

Macみたいに感覚的に使えるBIMソフト

「BIMについては、2〜3年前からいろいろ情報が届いており、いずれそれが必須になるという認識を早くから持っていました。しかし、会社として一歩踏み出すのにどうしても時間がかかってしまって」と語るのは、佐藤工業のBIM戦略を主導する建築部長の松本光正氏である。BIM導入にある程度の時間や手間がかかることは予想できたし、それでも必ず導入に成功できるとは限らない。地方ゼネコンにとって、それは重い決断だったと松本氏は言う。「しかし、“業界のこれから”を考えれば、BIMが絶対必要なのは分かっていたし、会社も後押ししてくれる方針を打ち出してくれました。そこで1年ほど情報収集し、とりあえず1本入れてみようということになったのです。2019年暮れのことです」。

そうと決まれば、導入するBIMツールを選定しなければならない。複数のBIM製品を候補として比較検討していったが、これは思いのほかスム-ズにArchicadという結論に行き着いた。「実はウチでは20年ほど前に一度Archicadを導入し、使っていたことがあったのです。当時は単純にパース作成に使っていましたが、その使いやすさは記憶に残っていました。むろん他社製品との比較もきちんと行いましたが、設計者ユーザーの多いソフトが良いと考え、Archicadに決めたのです」。しかし、パース制作で使用経験があったとはいえ、BIMツールとしての運用は初めて。Archicad自体も大きく進化し、松本氏にとってほぼ未知のソフトになっていたと言う。

「普段使っていたのは2DのJw_cadだったこともあり、最初は思い通りに操作できなくて戸惑いました。幸い戸田建設もArchicadユーザーだったので、先行していた同社の担当技術者の協力もいただきながら学んでいったのです」と松本氏は語る。一方で「最初から入りやすかった」と語るのは、松本氏の元で同じくBIM支援を担当する佐藤孝行氏である。「並んでいるアイコンを見れば、何となく使い方が想像できると言うか……。Macみたいに感覚的に使えるな!というのがArchicadの第一印象です。だから、どんどん手探りで試し、失敗してはやり直す繰り返しで1つ1つツールを覚えていきました」。

こうして松本氏・佐藤氏の2人を中心にスタートした佐藤工業のBIMチャレンジは、1カ月後早くも実案件での活用を開始した。

導入1カ月後に
実案件でのBIM運用を開始

「ちょうどタイミングよく、5,000㎡ほどの規模を持つ商業施設プロジェクトが入ったのです。Archicadを導入後ひと月も経っていませんでしたが、自社設計施工の物件でしたし会社からも“ぜひBIMで”と指示があったのでやってみようかと」(松本氏)。とはいえArchicadを使い始めてまだ1カ月弱。3次元での設計やモデリングはまだ手に余るのが現実だ。そこで設計は従来通りJw_cadを用いて松本氏らが進め、仕上がった2D図面を提供してモデリングは外注することになった。

「つまり、私たちのBIMの取り組みとしては、外注して作成した3Dモデルを施工現場の必要に応じて分解したり、加工したりしてさまざまに活用していく、施工BIMに重点を置こうと考えたのです」(松本氏)。ご承知の通り施工BIMの運用において、これを実際に活用するのは施工現場。従って現場技術者たちのBIMに対する理解と積極的な取り組み姿勢が成功のカギなのだ。導入開始後1カ月の段階では困難な課題に思えるが、実は松本氏らはこの点も抜かりなく準備を進めていた。

「実はArchicad導入直後に、建築本部社員全員に向けてBIM講習会を行っていました。グラフィソフトのスタッフを講師に招いて、“BIMとは何か?”から“BIMにできること”、さらには“施工BIMのやり方”等々のBIM講習を2回にわたって実施。建築技術者も延べ50人ほど参加してくれました」(松本氏)。そのせいか、初の施工BIMの運用は見事に成功を収め、同社は確かな手応えを得たのである。





3Dモデル作りは外注に任せて
現場でのモデル活用に集中

「現場の技術者も、最初にBIM講習を受けてもらった時は、正直“ん?”という感じでしたが、2度目の講座で施工BIMの実務的な内容を紹介するようになると、目の色が変わりましたね。当然と言えば当然です、現場で働く彼らにとって“確実に自分のメリットに繋がる”内容だったのですから」。そして、最初のBIM現場の技術者たちはその施工BIMのメリットをいち早く体感した──と松本氏は言葉を続ける。それは施工BIMというより、それ以前の、3Dモデルそのものがもたらす現場革命だった。

「外注した3Dモデルが納品され、初めてそれをパソコン画面で見たとき思いましたね。“あ、建物ができている!”と。で、それをくるくる回しながら見ていくと、それだけでいろいろ気付かされるんですよ。意匠と構造が折り合わないまま壁から梁や柱が飛び出していたり、サッシが何かと干渉していたり……」(松本氏)。当然ながら3Dモデル化を担当した専門業者は、提供した設計図に忠実にモデル化したため、完成したモデル上で設計と設計図の問題点が明らかになっていたのである。

「ご承知の通り、これまでの現場では2D図面を使っていました。技術者はその図面を見て頭の中に3次元の建物をイメージし、実際の現場と照らし合わせて仕上がりをチェックしたり、お客様と打ち合わせたりしていました。しかし、そのやり方だけだと技術者でもイメージしきれない処が出てくるわけです」。たとえば重ね合わせ、意匠と構造の干渉チェックやスケール感・空間の広がりだ、と松本氏は言う。2D図面では天井高などもイメージし難く、施工するための足場が必要になる高所など検証しきれない場所が発生する。結果、問題点が見過ごされたまま進み、いよいよ現場が始まってから「足場がないとできない!」などと慌てることになるのである。2D図面で進める現場ではこうした小トラブルが起りやすかったが、3Dモデルさえあれば立体的な検証も可能となり、こうした無駄はほとんど解消できるのだ。


鉄骨建て方着工前打合せ

ArchicadとsmartCON PLANNERを使用し

仮設計画もクレーンや重機、足場、建物等々

全てをモデルに入れて工事の流れをステップ化


「今回実際に行なったものでは施工前の施工シミュレーションや施工ステップの検証ですね。これが非常に効果的でした」。Archicadと共にsmartCON PLANNERも使用して、現場開始前の仮設計画等でもクレーンや重機、足場、建物等々全てをモデルに入れ込んで工事の流れをステップ化していったのである。仮設計画の具体的な内容を共有する手段として、これ以上のものはなかったと松本氏は言う。「パソコンの中に建物があり、基礎、躯体、仕上、足場と全て3Dで可視化できる。これを皆で見ながら打ち合わせれば、工事関係者の合意形成が深まります。施工者にとって計画しやすいのはもちろん、施工自体もスムーズに進むのです。もちろん発注者との打ち合わせも非常にやりやすかったですよ。とにかく施工前段階からパソコンの中に完成した建物がある、ということが、現場の技術者にとってどれほど助けになることか。現場経験者なら分かっていただけるはずです」(松本氏)。

この最初のBIM現場における佐藤工業のBIM運用スタイル──3Dモデル制作を外注に任せ、自身は現場での3Dモデル活用を主に展開するやり方は、現在も続く同社の基本的なBIM運用スタイルとなっていった。「人的な余裕もない中規模のゼネコンにとって、やはり導入初期段階の3Dモデル制作は負担が小さくありません。だったらまずはモデル作りより現場でのモデル活用に集中すべきでしょう。まあ、行く行くはモデルも自分たちで作っても良いと思いますが」(松本氏)。もちろん建設会社のBIM活用については会社ごとにさまざまな考え方があり、それぞれ異なるスタンスがあって然るべきだが、施工現場での活用を運用の中心に置くなら、割り切ってモデリング作業は外注に任せるのも合理的な選択だろう。佐藤工業は当初からそう判断してBIMを活用することに集中して成果を上げ、その成果を次の現場へと確実に繋げていったのである。

鉄骨工事足場計画

ドローンや点群データなど
CIMの技術を施工BIMに応用

BIM導入初年度、施工BIMは総計5現場で実施

土木分野のCIM技術を応用し融合するなど

施工現場におけるBIMの活用に積極的に挑戦

「このようにしてBIM導入初年度の2020年は、総計5件のBIM活用現場を立ち上げることができました。前述した商業施設案件に老人ホーム、そして産業廃棄物処理場に特別支援学校施設という5つです」(松本氏)。BIMチャレンジ初年度の取り組みとしては十分過ぎる実績と言えるが、各プロジェクトにおけるBIM活用の内容も、初年度のそれと思えないほど多彩かつ充実している。特徴的な現場を松本氏に紹介してもらおう。


「たとえば3番目に立上げた産業廃棄物処理場のプロジェクトですが、これは当社の土木部門にて行っている、ドローンを活用した施工BIMにチャレンジしました。建築・土木両部門を展開する総合建設会社らしい取り組みかも知れませんね」。松本氏によれば、これは既存の敷地内での増改築工事のプロジェクトで、福島の吾妻連峰の麓で現在も工事が進行中の案件だ。ポイントとなったのは、敷地自体が山を切り崩した傾斜地にあるので2D図面だけではなかなか表現しきれない高低差があり、しかも、既存の増改築のため多くの障害物があるなか、産業廃棄物の分別など処理場の運用も続けながら工事を進めなければならなかった点である。このような現場で施工BIMを安全に運用するには、より精度の高い現況地形の3Dモデルが必要となる。

「そこで考えたのが自動航法でドローンを飛ばし、空撮により現地の点群データを取得し、その点群データから地形モデルを生成しよう、というアイデアです。土木分野で展開しているICT技術の活用ですね」。公共工事を数多く手がける佐藤工業の土木部もこの手法を活用しており、松本氏らは、ICT関連の技術支援を行っている同社試験室の協力を仰いだのである。

ドローンによる測量

既存敷地点群データ

「試験室の支援で取得した点群……具体的には1,900万点に及ぶ膨大な点群データの処理は私が行いました。さすがにこのデータ量になると私のパソコンでは動かず、800万点まで減らしてもダメで、さらにピックアップしたデータで3Dモデルを作成しました」(佐藤氏)。これにより高低差のある地形はもちろん、既存建物も含めた精密な現況地形がパソコンの中にでき上がり、そこへ新たに作る建物モデルを落とし込んで、土量計算から仮設計画等々幅広く活用していったと言う。仮に従来通りのやり方で測量し、そこへ2次元図面の計画を落とし込んで進めていったとしたら、その手間は何十倍にもなっただろう、と松本氏は語る。

「ArchicadとsmartCON PLANNERを用いて、クレーンやトラックの具体的な動きもビジュアルに検討できました。とにかく稼働中の処理場の中で工事を進めるため、これが非常に重要なポイントになったのです」。つまり、モデルを用いて発注者と打ち合わせることにより、「この日はこんな風にトラックが入ります」とか「クレーンがこんな風に動きます」等々、工程を明確に伝えることができたのである。もちろん発注者も即座にその内容を理解し「この日は止めてくれ」とか「この日ならOK」などと適確に判断し、素早く指示を出せる。結果として、工程打ち合わせはスムーズかつ精密に進められた。また現場で作業を行う技能者に対しても、大型プロジェクター等の大きな画面を用いて具体的な施工計画の提示と共有を図り、より安全で効率的な施工を徹底していったと言う。

「おかげで発注者にはとても喜んでいただけましたし、建築技術者や技能者の方々も“やってよかった”と言ってくれています。建物は今年6月に竣工し、その後プラントが入って9月には稼働を開始する予定です」(松本氏)。

空調設備会社・電気設備会社と協力し
総合図モデルを制作

この廃棄物処理場に続いて動き始めたのは、ある特別支援学校の工事である。佐藤工業にとって4番目となるこの施工BIM現場では、初めて空調設備会社や電気設備会社と協力して総合図モデルを制作し、施工BIMを進めたことが大きなポイントだった。「これまでの3Dモデルは建築のデータだけの……言ってしまえば、本当に面だけのモデルでした。しかし、今回はたとえば電灯のスィッチや掛け時計の位置、手洗いのレイアウトの使い勝手まで、建物の中身まできちんと伝えられるモデルにしようと考えました」(松本氏)。もちろんそれには理由がある。実は今回の特別支援学校の新築工事は、自治体の発注となる公共工事プロジェクトだった。マンションなどの集合住宅と同様に、同じ部屋が何十室も並ぶような公共建築のプロジェクトでは、まず基準となる部屋のモデルルームを実際に作って発注者へプレゼンし、設計検討してもらうことが多い。


現場施工状況
施工検討図

「そこで、今回はこのモデルルームをデジタルで作成しようと考えました。つまり、完成したモデルルームの総合図モデルをバーチャルモデルルームとして活用し、お客様にもデジタルで確認していただこうというわけです」。設備分野の専門業者は、その多くがすでに設備専門の3次元設計を行っており、今回も配管設備や電気設備に関しては専門業者側に3Dの設備専用CADで設計し機器や配管等のモデルを入れ込んでもらった。「そうやって仕上がった設備モデルは、IFC形式に変換した上で提供してもらいました。そして、こちらではたとえば厨房や天井裏など特に混み合った場所をモデル化し、提供された設備モデルを嵌め込んでいったわけです。設備データは思いのほかすんなり取りこめたので、“ああ、できるんだなあ!”とあらためて驚きました。現在は、こうして仕上げた総合モデルを、発注者に検討してもらっているところです」。楽しみで仕方ない……という表情の佐藤氏の言葉を受け、松本氏も話を続ける。

「とてもリアルな総合図モデルができましたし、発注者からの質問や要望もぐっと出やすくなったんじゃないかと思います。“要望や変更要請がたくさん出て困るのでは?”と思われそうですが、作る前なら大丈夫。たとえば“この扉をあっちに付けて”なんて完成後に言われたら大変ですが、作る前なら全く問題ありません。今回は入札時の技術提案でそういった点についてもアピールしていましたしね。むしろ、他社にない佐藤工業独自の提案として強く訴求できたのではないでしょうか」(松本氏)。


ドローンによる自動航行測量

ある程度の規模を持ったプロジェクトなら

どんな建物でもBIM施工を実践すればメリットが多い

今後できる限り多くの現場でBIMを使っていく




一定規模の物件ならどんな建物も
BIM施工を使えばメリットが多い

このようにして佐藤工業のBIMチャレンジ最初の一年は終わり、すでに2年目の挑戦が始まっている。前述の通り、初年度のBIM現場は5件だったが、今後は物件数も増やしていく計画だ。

「この1年間の経験から言って、ある程度の規模を備えた物件であれば、どのような建物でもBIM施工を行えばメリットが多いと考えています。もちろん、Archicadを操作する人の育成や、フロントローディングによるスケジュール的な問題はありますが、受注後、早い段階からBIMモデル作成に取りかかり、今後は可能な限りほぼ全てBIMでやっていきたいですね。実は会社としての年度目標にもBIMの活用が挙げられていますし、これは会社としての方針と言って良いでしょう」。その意味で、やはり一番の課題となるのは人材の育成とコンピュータ環境の整備だろう。もちろん、その辺りの対応についても、すでに松本氏が中心となって計画の立案を進めている。

「まずArchicadの数も増やしていきます。現状は最初に入れた1セットだけでしたが、ハード面も含めて大きく充実させていきたい。同時に人材育成も、来年度からは新入社員を含めて若手主体にArchicadの操作教育を強化します。特に現場経験のある20代〜30代の若手技術者は全員操作できるように育てたいですね」。もちろんそれは、3Dモデルを自ら制作できるような操作スキルを求めるものではない、と松本氏は言う。「たとえば現場で3Dモデルを回して検証したり、smartCON PLANNERで施工検討や仮設検討が自分の手で行えるようになれば良いと考えています。それと、当部の佐藤はArchicadに関して非常に研究熱心で、すでに多くの裏技的なものを開発しているので、これも若手社員に伝授していきたいですね。たとえば3週間くらい1人ずつウチにきてもらって佐藤の横で学んでもらうとか……。とにかく、これまでBIM案件に携わった建築技術者は皆Archicadを使いたがっていましたし、きっと早い時期に操作を習得してくれるだろうと期待しています」。

現場打合せ状況

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