お話を伺った方々
代表取締役
一級建築士 / JIA登録建築家
原田 展幸 氏
主任
北里 友美 氏
主任
高松 秀安 氏
カラーコーディネーター
原田 真紀 氏
木原 和也 氏
坂口 慶子 氏
Archicad導入後と仕事の流れ
2020年 春~夏 | 北里氏・高松氏、約3カ月集中してArchicadの基本操作をマスター |
2020年 夏 | 案件A(老人ホーム:鉄骨3階建て1250㎡)から実プロジェクトでArchicadの使用を始める。原田氏(代表)が作成したCAD基本図データ(配置・平面・立面・断面図)をもとに、北里氏・高松氏がBIM化 |
2020年 秋 | 案件AをArchicadで実施設計着手 |
2021年 1月 | 案件A着工。以降、実施設計を完全BIM化。原田氏がCADで基本設計を行い、北里氏・高松氏の業務状況次第で、基本設計途中または実施設計着手までにBIM移行する業務スタイルとなる。2023年夏までに計9案件(W造・S造・RC造・新築・改修)をBIMで実施設計を行った |
2023年 夏 | 木原氏・坂口氏入社 |
長期キャリアを築くための、リスキリングにBIMを導入
「建築は、やろうと思えば90代でも現役です。現在、40~50代の設計に携わる人はあと長ければ50年近くもこの業界で活躍できるのですから、長く働き続けるための時代に合わせたリスキリング(技術習得)が必要だと考えました」と話すのは、株式会社ライフジャム一級建築士事務所(以下、同社)の代表取締役原田展幸氏(以下、原田氏(代表))だ。
同社がArchicadを導入したのは2019年12月。国土交通省のBIM推進の動きや、設計に携わる人たちのこれからのキャリアアップを考えたときに、BIMのスキルは必然になると考え導入に踏み切った。
当初は、IT導入補助金を利用して導入することを検討していたが、残念ながら不採択に。それでも、学びのタイミングを自分たちで決められるよう補助金を利用せずArchicadの永久ライセンスを購入。「当社は、比較的忙しい時期と余裕があるときの仕事の波があります。従って、まずはArchicadを導入し、学べるときがきたらいつでも習得できる環境づくりを急ぎました」。
まず最初にBIM習得に着手したのは、主任の北里友美氏(以下、北里氏)。Magic(グラフィソフトが提供する、初めてArchicadに触れる方を対象としたトレーニングテキスト*)から始め、グラフィソフトが主催するBIMトレーニングプログラムのオンライン受講も数回受講した。また、この時期に入社が決まった高松秀安氏(以下、高松氏)は、北里氏と同じ職場で働いていた時期があるため、入社までの期間、北里氏と連携しながら、基本操作を身に付けた。息の合う2名が同時に取り組めたことが、導入から実用化までを加速させた。
「正直に話すと、最初は2DCADと比較して全然描けませんでした。でも、3カ月間の集中的な学習を経てArchicadを使うことができるようになり、今では仕事がしやすくなっています」と北里氏。
数あるBIMソフトの中からArchicadに即決。
「大手設計事務所も使っていることを知り、慣れれば地方設計事務所でも必ず使えるはずだと信じて、他社製品と比べることもなくArchicadを導入しました」と話す原田氏(代表)
BIMを駆使した効率的な設計業務の流れ
2023年現在、同社ではすべての設計業務にBIMを活用している。具体的に、どのように役割を分担しているのか、仕事の流れを紹介しよう。
まず原田氏(代表)が中心となって基本設計を担当し、基本設計が決定したあと、北里氏と高松氏がBIMで実施設計を進めていく。BIMでは構造躯体や外部廻りを高松氏が担当し、内部廻りを北里氏が担当することが多く、他の業務との兼ね合いをみながらケースバイケースで担当箇所を決めていくという。さらにインテリアについてはカラーコーディネーターの原田真紀氏が原田氏(代表)の右腕となって詳細を決める。
BIM活用が軌道に乗ってからは、スタッフそれぞれの仕事の役割が明確になることでパフォーマンスが上がり、あたかもバトンを渡すように業務連携がスムーズになっていった。原田氏(代表)は、実施設計に仕事を引き継いだあとは、ひと足早く次の案件の基本設計に取り組む。
ところが、原田氏は今もBIMを使用していない。チーム力を発揮するためには本来建築家が担う役割に特化し、技術的な部分はスタッフに頼った方が良いと判断したからだ。
Archicadを導入してからはパース作成から実施設計までのシームレスなワークフローが実現。北里氏は「Archicadでは平面図を描くと同時に3Dモデルもできあがります。3Dで見ることで建物のイメージが頭のなかでまとまり、情報共有が容易になりました」と話す。
さらに、高松氏は「設計に変更はつきものです。Archicadを使えば、ひとつ修正すればすべての図面に反映されるのでミスが発生しにくい。その辺は随分とやりやすくなりましたね」と整合性のとりやすさを評価した。
「私も、中堅スタッフの2名も、ついつい遅い時間まで仕事をしてしまう世代です。今後はさらに業務効率化に努めてワークライフバランスもよりよくしていきたい」と原田氏(代表)。
スタッフのリスキリングに加え、無理なく長く続けられる環境づくりにも意識を向けている。
原田氏から高松氏(写真左)と北里氏(写真右)へ。基本設計から実施設計まで、バトンを渡すように仕事の連携プレーをしている
高松氏(写真左)と北里氏(写真右)の連携は、プロジェクトを重ねるたびに精度が増している
公共プロジェクトでのBIM提案が地域で注目
BIMを使った設計業務は、公共プロジェクトの公募型プロポーザルでも高い評価が集まっている。プロポーザルは仕事を獲得する手段のひとつだが、提案書の作成には莫大なエネルギーを必要とするため、小規模設計事務所にとってはハードルが高い。しかし、BIMを使うことで提案書づくりを省力化することに成功した。ここでは同社が実感しているメリットを2点紹介する。
メリット① 美しい3DCGのパースが短期間で完成
Archicadの導入前は、提案書には10枚程度のパースを掲載していた。パースは専門家に依頼していたため、それらの制作期間を考慮すると設計案を練る時間が十分に取れないことが問題だった。しかも一度描いたパースを変更することにも手間がかかり、整合性をとるためにすべてのパースに手を入れることが必要だ。しかしBIMを使えば、直前まで設計案づくりに集中でき、さらに修正箇所に手をいれれば一度ですべてに反映されるのである。煩雑で属人化した作業がなくなり、しかも3DCGのリアリティあふれる印象的な描写が可能だ。
「Archicadの導入後、提案書づくりはとても楽になりました。欲張って作ろうと思えば、いくらでもパースは切り取れ、100枚近くの美しい3DCGのパースを用意することができる。小規模設計事務所ですが短時間で無理なく、高品質の資料が仕上げられるようになりました」と原田氏(代表)。
またプレゼンテーションにBIMxを使用し、動画ではなく手作業でモデルを動かしたところ、提案内容をうまく伝えることができ、結果につながった。
パースが早い段階で出せることは、民間の仕事でも好評だ。「お客様には、できるだけ早い段階でイメージパースを見てもらっています。そうすることで安心・信頼につながり、もっとこんな風にできないか?とお客様の姿勢に意欲がにじみ出てきます」
メリット② 積算がしやすく、短期間で事業費用の総額見積もりが出せる
加えて近年は、設計と施工を受け持つデザインビルド方式のプロポーザルが増えているため、設計案だけでなく事業費用の総額見積もりも求められている。「工事費を提示するためには、積算をするための図面が必要です。提出物も配置図、平面図など一通り必要なので、それらをやり抜く武器としてBIMはもう必要不可欠なものになっています」と原田氏(代表)は話す。
今後の構想としては、いずれはBIMでモデリングしたデータを施工会社に渡すことも視野に入れている。施工会社にもArchicadの環境が整っていれば、いとも簡単に積算はできるはずだ。設計事務所と施工会社でのBIM導入の足並みが揃うことを期待する。
「すでに技術的にはできること。社内でやってみたことはありますが、まだテスト段階です。施工会社でのBIM導入が進み、積算の省力化ができることを期待しています」。
事例1
球磨村買取型災害公営住宅 渡地区
RC造 約4500㎡ 7階建て
① 2021年12月プロポーザル提案書を提出
プロポーザル提案書に使用したパース。時間の都合上レンダリングはせず、BIMxで見せたいアングルをスクリーンショットで使用した。BIMxを手動で動かし、解説しながら5分程度のプレゼンテーションを行ったところ、わかりやすいと大変好評だった。但し、表現力に課題が残った
② 2022年1月~3月基本設計から実施設計へ
2022年1月から約1カ月間で基本設計を原田氏(代表)がCADでまとめる。
2022年2月から北里氏・高松氏がArchicadで実施設計着手。3月末には実施設計を終えた。2022年7月着工。2023年9月入居開始。
事例2
玉東町役場庁舎
RC造 約2850㎡ 3階建て
① 2022年9月、プロポーザル提案書を提出
動画禁止のプロポーザルとなったため、レンダリングソフトを導入し70枚程度のパースを作成した。
② 2022年11月~3月基本設計から実施設計へ
2022年11月から原田氏(代表)がCADで基本設計に着手。北里氏・高松氏は別案件の実施設計中につき、できるだけ詳細を詰めた。
2023年2月から北里氏・高松氏がArchicadで実施設計着手。3月末には実施設計を終えた。2023年5月着工。2024年5月開庁予定。
BIMがつないだ新人採用若手の順応力が即戦力に
同社では、人材採用においてもBIMが一役買っている。これまで中堅世代が培ってきた建築技術を若い世代に継承するべく新しい仲間を募集したところ、2023年6月に2名から応募があった。当初は1名の採用枠だったが、BIMは2名で学ぶほうが習得しやすいだろうと考慮して2名採用することに決めた。
原田氏(代表)の目論見はあたった。デジタルネイティブ世代の順応力は目覚ましく、入社直後からすでにオペレーターとしてのスキルは兼ね備え、業務に大いに貢献している。実際に、中堅スタッフが実施設計や現場監理で忙しいときのプロポーザル提案書づくりは新人たちに基本設計を渡してBIM化する作業を任せた。「気が付けばあっという間にできあがっていて、正直、驚きました。若手スタッフの力がなければあの忙しいタイミングでのプロポーザル参加はあきらめていたかもしれません」と原田氏(代表)は振り返る。取材はプロポーザルの提案書を提出して間もない時期だったが、その後無事に採択が決定した。新人2名を雇用して提案書提出まで僅か2カ月で見事に結果を出した。
新人の木原和也氏は、福岡県にある「麻生建築&デザイン専門学校」出身で、講師でありGRCグラフィソフト認定コンサルタントの道脇力氏よりBIM教育を受けている。専門学校卒業後は住宅メーカーに就職するもBIMを使った業務はほとんどなく、学んだ最先端のスキルをより実務に生かすために退社。若いうちから大きな案件に携われ、さらに新しい力を身に着けられる環境を探して同社へ入社した。「高校生の頃から建築に興味があり、ゲームのような感覚でArchicadを学んでいきました」と木原氏。
同じタイミングで入社をしたのは、製造業からの転職を果たした坂口慶子氏だ。学生時代からクリエイティブな活動が好きだったこともあり、建築系の職業訓練にチャレンジして2DCADとBIMを学んだ。BIMを学ぼうと考えたきっかけは「不動産業をしている友人が3Dの部屋を作っているのを見て、自分もやってみたい!と思ったからです」と笑顔で話す。
好きが高じて建築の世界に踏み込み、BIM教育を受けていることで自信を持って次のステージに進むたくましい2名。現在2名はペアとなり、操作経験の豊富な木原氏が坂口氏に指導を行い、BIMのスキルを伝達している。中堅スタッフからの建築技術の継承も考慮すると、可能性はまだまだ無限大だ。
木原氏(写真右)と坂口氏(写真左)の入社により、同社のBIM活用は一気に加速。若手スタッフも熊本県内のBIM活用の草分けとしての役割を意識し始めている
地方設計事務所の次なる挑戦 技術と実績で競り勝つ
最後に、これからの同社の展望についてインタビューした。「自分たちの街は自分たちでつくっていきたい。地方設計事務所が大手設計事務所と肩を並べ、プロポーザルでも競り勝てるように、自分たちも研鑽し、若い人たちに地方設計事務所の可能性を示したい。以前、熊本の大型プロジェクトは、特殊なものを除き熊本の団塊世代までの建築家が担ってきた。しかし現在では発注方式の多様化に伴い、大手設計事務所や大手建設会社も参入し、地元設計事務所の元請けとしての事業参加が弱まっているように感じる。この状況は、地域の建築業界の発展のみならず、経済や文化にも大きく影響を及ぼす。団塊世代から学んだ我々団塊ジュニア世代が頑張らないと、先輩方に恩返しができない」と原田氏(代表)は力強く話す。
同社は、近年、災害公営住宅や庁舎の設計にも携わり、徐々に地方設計事務所としての存在を示しつつある。これまで約20年間にわたり、地道に努力と実力を積み上げてきた成果だ。
「今後は、BIM環境をより充実させ、様々な世代が地元で設計を続けられる環境をつくると同時に、BIMの魅力を伝える役割を担っていきたい。熊本でBIMに注目が集まるのはこれからです」と話す。
自分たちが暮らす街への愛情は深く、どんな競合にも負けない。時代に適応し、地方設計事務所としての役割を果たすという、自信と覚悟のあるコメントで締めくくった。
社名の「LIFEJAM」とは、JAZZのJAMセッションを建築に見立て、法令のルールに沿いながらも自由に暮らしを表現することを意味している
Archicadの詳細情報はカタログをご覧ください
ー カタログと一緒にBIMユーザーの成功事例もダウンロードできます ー
- Archicad ユーザーの設計事例を紹介
- 設計時の裏話や、BIMの活用方法など掲載
- その年ごとにまとめられた事例をひとまとめに
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