木内建設株式会社
多彩な現場支援と連携による効率化の推進で BIM全社普及&活用への道を着実に進む

木内建設株式会社

静岡市の木内建設は、この地域ナンバーワンの実績を誇る地域密着型ゼネコンである。創業以来守り続ける品質第一の姿勢を基盤に静岡を代表するランドマーク建築や町づくり、インフラ整備を手がけ、豊富な技術を蓄積してきた。近年は東京や神奈川、愛知にも拠点を展開し各地でさまざまなプロジェクトに取組んでいる。そんな同社だけにBIM導入にも積極的で、いち早く導入したARCHICADを核に、現場に密着した多彩なBIM活用を展開している。ここでは、そんな同社のBIM普及活動を主導する同社品質安全管理室の高柳氏と情報センターの剣持氏にお話を伺った。

TOP画像:「日本平夢テラス」外観 ©2018 隈研吾建築都市設計事務所

木内建設株式会社

設立:1944年4月

所在地:静岡県静岡市

代表者:代表取締役社長 木内藤男

業務内容:建築工事一式、プレキャストコンクリート工事一式、土木工事一式、舗装工事、生コンクリート製造販売、アスファルト合材製造販売ほか

Web:https://www1.kiuchi.jp/

木内建設株式会社
静岡東海地区本部
品質安全管理室 検査課
課長
高柳伸英 氏

木内建設株式会社
情報センター 技術情報課
係長
剣持貴史 氏

「日本平夢テラス」プロジェクト

 2018年11月、富士山のビュースポットとして知られる日本平に、新たな展望施設「日本平夢テラス」がオープンした。富士山を中心に、清水港や伊豆半島の絶景が広がる360度のパノラマビューの素晴らしさはもちろん、八角形3階建ての展望施設や、屋外へ張り出すように設けた約200メートルの展望回廊のユニークかつ洗練された意匠が、静岡県産ヒノキ材やスギ材を精緻に組んだ高度な施工技術と共に注目を集めている。

 静岡県を代表する観光地であり、日本屈指の名勝として知られる日本平だが、かつては古びた展望台と散歩コースがあるだけの施設に過ぎず、 肝心の富士山の眺望も繁茂する木々に遮られて十分とは言えない状態だった。そこで2015年から、静岡県と静岡市が共同で新展望施設の建築プロジェクトを始動。大規模な設計コンペを経て、隈研吾建築都市設計事務所が設計を任されることになった。そして、施工会社として選ばれたのが、地元の木内建設だったのである。

 「静岡NO.1といっても世界的な有名建築事務所に比べれば、小さな地方ゼネコンに過ぎません。実際、隈研吾建築都市設計事務所のプランは高度な木組みを多用した難度の高い設計で、最初の頃は我々のような地方のゼネコンには荷が重すぎるのではないのか?と、危ぶむ雰囲気もあったそうです」。当時を知る木内建設の高柳氏はそう語る。高柳氏が課長(当時)を務める品質安全管理室は、施工現場の安全や品質管理を任務とする部署だが、高柳氏は一級建築士資格を持ち同社のBIMを推進する仕事も担っている。

日本平夢テラス
発注者静岡県
設計者株式会社 隈研吾建築都市設計事務所
構造S造(一部W造)
用途展望施設
建物面積472.38㎡
延床面積964.7㎡

 「そんな雰囲気も、BIMを駆使して打合せの場に多様な情報を提供するうち、急速に変わっていきました。何というか“地方ゼネコンもけっこうやるな!”という感じになってきたのです」。高柳氏によれば、積算図面からARCHICADでBIMモデルを作成し、鉄骨工事や木組み工事の業者とは、その複雑な構造を把握したうえで綿密な打合せを重ね、受注決定後はプロジェクトが動き出すと同時に、さまざまなデータやビジュアライゼーションを提供できたのである。

「いちばん最初は、予定地の傍に立つ集合電波塔の施工への影響を検討しました。そして、実際に動き始めてからは、たとえばあの複雑な木組みの収まり検討にも威力を発揮しました。おかげで、その後のモックアップ作りの前に問題点を指摘することができ、結果として非常に打合せをスムーズに進められて、信頼も得られました。BIMさえあれば、我々地方のゼネコンも東京の有名企業と対等に仕事ができる、そう実感したのです」。──そんな木内建設がBIM導入を開始したのは今を遡る4年前、2015年のことだった。

BIM導入の停滞と推進

ARCHICADによるBIM活用の普及&推進は
全社を挙げて取組んでいくべき重要課題だからこそ、
まず自らがBIM普及活動へ

 実は当社におけるBIM導入は、設計部による挑戦が最初なのです。2015年、設計部は市場にあった3つのBIM製品を検討してARCHICADを選びました。3製品の中で最も操作性に優れ、BIM初心者に馴染みやすいのがARCHICADだったとか。そして、高い拡張性や美麗なパース、ウォークスルー等のプレゼン機能も高く評価され、導入が決まったとのことでした」。

 やがて高柳氏自身もARCHICADに触れる機会がやってきた。これまで2次元CADを使っていた同氏にとって、それはかつてない新鮮な体験だったという。「動かし始めてすぐ“こりゃすごい!”と興奮しましたね。平面図を作成するだけで立体が立ち上がるのですから……。設計がこれをフル活用するようになれば、設計だけでなく現場作業所も大いに楽になる。そう感じたのです」。むろん設計部も、初めて導入した3次元CADの活用に積極的に取組み始めていた。たとえば同時期に受注した教育施設の建替工事等にARCHICADを投入。設計~施工に至る各フェーズでプレゼンや打合せなどに活用していった。

 「弊社では設計部門と施工図作成部門のそれぞれでBIMをどのように活用していくか試行錯誤を重ねています。しかし、それぞれの部門で業務に使えるレベルの成果品としてのBIMモデルの作成となると多くのハードルが残されています。現場作業所をBIMで何とか支援したいが……」。そんな状況に高柳氏は強いもどかしさを感じていたのである。実は高柳氏は以前から建設業界にある種の危機感を感じており、これを解決する手段としてBIM活用に期待していたのだという。

 「かつて当社の現場では、現場技術者が自ら施工図を描いていました。自分の手で施工図を描くことで建築を学び、現場を学んでいたわけです」。しかし近年、効率化の追求と共に分業化が進み、施工図作成も専門部署が設置されるなどして、現場技術者が施工図を描く機会は急減しているという。技術者のスキルも伸び悩み、結果的に施工図等の品質低下に繋がりかねない──そんな危惧が高柳氏にはある。

 「だからこそBIMが必要だ、と思うのです。BIMを上手く使えば建築は非常に分かりやすく説明でき、初心者の教育ツールとしても非常に優秀です。BIMこそがこの問題を解決するカギであり、技術を向上させていく切り札になるかもしれません」。また他方ではARCHICADならではのプログラム言語「GDL」の存在も高柳氏を魅了していた。GDLでプログラムを組んで施工図チェックや仮設計画作成も自動化することで、さらなるスピードアップが図れると考えたのである。

 「これらを考えると、ARCHICADによるBIMの取組みは、やはり全社を挙げて取組むべき課題だと思えました。そこで自らBIM普及活動に取り組んでいくことにしたのです」

多彩なBIM活用法を次々と現場へ

「こんなやり方ができる」「あんな手法も便利だ」
思いつく限りの多彩な提案で現場を支援!
各地へとBIMの有用性を確実に浸透させていく

 また、鉄骨業者からTEKLA Structuresによる構造モデルを提供してもらい、ARCHICADで読み込んで現場での打合せに利用することも行ったし、鉄骨BIM・設備BIM・建築BIMの統合チェックも試した。ユニークなデザインの学習施設の建設では、図面だけでは伝えるのが難しい独特の意匠をARCHICADでモデル化。これをBIMxで見せることにより、いち早く多くの関係者の共通理解を得ることにも成功した。さらにこのプロジェクトでは屋根改修のための足場仮設計画にもARCHICADとBIMxが用いられたという。──このように高柳氏はBIMを現場に持ち込み、社内各部門と連携しながらあらゆる運用法を試し、その結果を木内建設流のBIMノウハウとして蓄積していったのである。

 「特にこの2015~2016年頃は、とにかく現場の人にBIMへの関心を持ってもらい、有用性を実感させることを目標にしていました。たとえば受注物件から適した物件を選び、勝手に3Dモデルを作って現場へ提供する、なんてこともやりました。現場のパソコンにARCHICADを入れてもらい、こちらで作ったモデルを渡して“何にでも使ってくれ”というわけです」。それは急いで作った半ば張りぼてのような簡易なモデルがほとんどだったが、工事初期に提供された3Dモデルに関心を持つ現場技術者も多く、彼らはそれを思い思いに活用しさまざまな感想を返してくれたという。

 「作業工程の検討に使ったらすごく分かりやすかったとか、作業員への講習がスムーズにできたとか……いろいろな声が聞けてすごく参考になりました。また、私たちも現場から直接、モデル制作を頼まれたこともありました。図面通り入力してモデルを作ったら、柱がパネルに干渉して飛び出してしまって……“こうやって干渉チェックにも使えるんですよ!”なんてアピールしたりしましたね」。

 また、鉄骨業者からTEKLA Structuresによる構造モデルを提供してもらい、ARCHICADで読み込んで現場での打合せに利用することも行ったし、鉄骨BIM・設備BIM・建築BIMの統合チェックも試した。ユニークなデザインの学習施設の建設では、図面だけでは伝えるのが難しい独特の意匠をARCHICADでモデル化。これをBIMxで見せることにより、いち早く多くの関係者の共通理解を得ることにも成功した。さらにこのプロジェクトでは屋根改修のための足場仮設計画にもARCHICADとBIMxが用いられたという。──このように高柳氏はBIMを現場に持ち込み、社内各部門と連携しながらあらゆる運用法を試し、その結果を木内建設流のBIMノウハウとして蓄積していったのである。

 「特に記憶に残っている取組みとしては、前述の日本平の展望台とともに、ある外車ディーラー店舗の新築プロジェクトですね。これもたいへん凝ったデザインの建物で、壁とサッシが複雑なRで構成されており、現場から“寸法チェックができない!”“BIMで何とかできないか?”とSOSが入ったのです。まだARCHICADの操作に慣れていない頃だったので、いろいろと試行錯誤しながらBIMで寸法を当たっていきました。最終的にはその数字でチェックバックして工事も進められ、Rのチェックなど、ほとんどBIM任せで進んだ工事でしたね」。

 一方、こうした現場での取組みと並行して、2016年1月からは高柳氏を中心にBIMを主題とする社内勉強会も開始された。「設計部を中心にBIMに興味・関連がある部門の人たちを集めて開いた勉強会です。情報交換しながら気楽にBIMを学んでもらおうという狙いで始めたものですが、今年6月で32回目を迎えました。思った以上に長続きしていますね。さらに2016年からは名古屋や沼津など他支店で行う出張BIM教室も行っており、これも月1~2回のペースで現在も継続して行っています」

積算・構造・建築を学ぶBIM連携

ここまで高柳氏を中心とする検査課によるBIM普及活動の流れを追ってきたが、実は木内建設では、同時期に高柳氏らの取組みとは異なるアプローチでBIMの活用法を追求する技術者もいた。現在、同社情報センターの技術情報課で係長を務める剣持貴史氏である。積算を主務の一つとする技術情報課で、剣持氏は主にコンクリート型枠や鉄筋などを拾う躯体積算を担当している。BIM活用の取組みも、この積算関連の効率化の取組みの中で始まったものだ。剣持氏は語る。

 「弊社では、数年前から部署間の連携による業務効率化が、会社の方針となっていました。私もこの連携による効率化を考えていく中で、運よく出会えたのがBIMというツールでした」。実はそれはARCHICAD導入以前からの取組みであり、剣持氏が用いたのもBIM連携可能な積算システム「NCS/ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)」だった。ΗΕΛΙΟΣ には構造計算の結果をCSVデータで出力してこれを基に積算を行う、という連携の枠組みが用意されており、剣持氏も当初この仕組みをベースに効率化の工夫に取り組んだのである。

「つまり、設計施工まで当社で行う物件について、このΗΕΛΙΟΣ による仕組みを利用して、設計部門と連携しながら効率向上を図っていこうと考えたのが出発点です」(剣持氏)。当初は構造設計の担当に依頼してデータをもらい、これを躯体積算に利用する手法を試行。本社・東京支店の2カ所の設計部門とやりとりしながら実施していったが、やがてΗΕΛΙΟΣ とのデータ連携にも優れたARCHICADを導入。さらに高柳氏の普及活動によって設計・施工分野におけるBIM活用が広がるにともない、ΗΕΛΙΟΣ を活かした剣持氏の取組みも徐々にフィールドを拡大していったのである。

簡単に言えば、積算データを基にスピーディーにBIMモデルを作って施工部門へ提供し、早い段階からこのモデルを活用してもらうことで、効率アップしようという試みです。昨年から少しずつ実際にモデル提供を開始して、現在はさまざまな連携スタイルを試している状況です」。たとえば2018年3月から2019年2月にかけて、以下の3パターンのBIM連携を試行していったという。

  1. 構造→積算:設計部のRC躯体情報とモデルを躯体積算へ連携
  2. 構造→建築:設計部の鉄骨情報・モデルを建築へ連携
  3. 積算→建築:躯体積算の基礎・腰壁デッキ情報・モデルを建築へ連携

このうち②と③のパターンがARCHICADを用いて連携させたものということになる。

 たとえばあるRC造の集合住宅物件では、本店設計部の構造課から当該物件のSTB形式による構造計算情報を提供していただき、アドオンソフトのST-bridge converterでARCHICADにダイレクトに連携させる実験を行いました。結果はほとんど正常で柱の寄りも完璧でした。これにより、高い品質で連携できることが実証されたのです」。さらに鉄骨造物件でも同様の狙いに基づき、剣持氏はST-bridgeを用いて構造計算データをダイレクトにARCHICADへ取込む実験を実施。柱や梁などの情報連携についても、モデルだけでなく鉄骨部材の規格情報も維持する成果を上げている。

 「もちろん鉄骨の全情報を網羅できたわけではなく、鉄骨部材接合部の収まりや耐風梁等は反映できていません。その意味では、足場や仮囲い、鉄骨建て方計画などの検討や作図資料に適していると言うべきでしょう」。いずれにせよ、現場にとって利用価値の高い連携手法になりえるだろう、と剣持氏は語る。現在はさらに、実際に数量を拾った積算物件の情報を現場へ提供して仮設計画に使ってもらうなどの試みも開始しているという。

「構造計算を行った担当者が特段の負担もなく、“ただ構造計算データを提供するだけ”で連携できるところが、この連携の一番のメリットといえるでしょう。最初からARCHICADで作図しようとすれば操作を修得しなければなりませんが、これならその必要もないわけですから」。そう語る剣持氏の言葉通り、データさえ提供してもらえば積算担当者や施工側がそれを使ってBIMを活用できるこの手法は、社内連携を重視する同社の環境下で、きわめて有効なBIM活用法の一つとなっている。

多角的なBIM活用の取り組み

社内はもちろん社外も含めて幅広く展開
積算・構造・建築を結ぶ新たなBIM連携により
BIM活用の新たな可能性を切り開く

 このように大手ゼネコンや組織設計事務所とも異なる独自の多角的なBIM普及の取組みを、木内建設は現在もじっくり進めており、そのペースは現在も全く変わらない。たとえば現在、高柳氏が特に力を入れている取り組みの一つが、施工計画検討会におけるBIMの活用である。

 「施工計画検討会とは、物件ごとに着工直前頃のタイミングで行う施工計画の検討会議です。従来は施工図制作部門が作った2Dの総合仮設計画図を壁に貼って説明し、議論していました。私はそこにARCHICADで作るBIMモデルを提供し、図面代わりに使ってもらおうと考えました。全物件は困難にしても、全体の3割程度の物件で提供できればかなりの影響を及ぼせるはずです」(高柳氏)。もちろん検討会後は現場でそのモデルを使ってもらい、BIM普及・活用に繋げていく狙いだ。これを実行するには、やはり早い段階でBIMモデルを作りあげる必要がある。──そこで応用されることになったのが剣持氏の連携手法だった。

 「前述の通りRC造なら構造計算から直接ARCHICADに読み込めますし、鉄骨造も何とか同じように持ってこられるようになりました。こうしたさまざまな工夫を生かし、モデル制作の効率を上げるチャレンジを開始しています。本店で作る物件は年間30件前後ですから、前述の通りその1/3の8~9件はやりたいですね。実際には、まだ数件ですが、現場からは“非常に分かりやすい”と好評をいただいてます。使う側へのBIMの啓蒙にもなるのはもちろん、われわれにとってもさまざまな工夫を産み出す原動力になっているので、今後も力を入れて取組んでいきます」(高柳氏)。

一方、剣持氏は引き続き、社内連携による効率化への挑戦を続けていく考えだ。「社内連携による効率化を進めて行く上で、いま一番大きな壁となっているのが仕上げ積算です。つまりARCHICADによる作図から仕上げ積算への連携ですね、今後はこれにチャレンジしていきたいですね」(剣持氏)。

ΗΕΛΙΟΣデータを足場・仮囲い計画へ利用©2018 木内建設

ΗΕΛΙΟΣデータから土工事計画へ利用©2018 木内建設

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