鹿島建設株式会社
一気通貫のフルBIMプロジェクト現場で 多彩な新技術とともに進む新現場革命

鹿島建設株式会社

わが国を代表するスーパーゼネコンの一社 鹿島建設が、いまARCHICADを核とするBIM活用の取組みを大きく加速している。その最新の事例の一つが、大阪ビジネス街の中心地で進んでいる「オービック御堂筋ビル」新築プロジェクトである。同社関西支店にとっては初のフルBIM案件となるその現場では、設計施工から維持管理にわたる一気通貫のフルBIMをベースに多様な技術とアイデアを結集。かつてない幅広いフィールドでのBIM活用が実現されている。社内外から注目を集める同プロジェクトの詳細について、現場事務所の北村浩一郎所長と加藤誠副所長に話を伺った。

鹿島建設株式会社

設立:1930年(創業:1840年)

本社:東京都港区

代表者:代表取締役会長 中村 満義
代表取締役社長 押味 至一

資本金:814億円余

従業員:7,686名(2018年3月末現在)

事業内容:建設事業、開発事業、設計・エンジニアリング事業ほか

Web:https://www.kajima.co.jp

工事名称:オービック御堂筋ビル新築工事

発注者:株式会社オービック

設計者:鹿島建設関西支店建築設計部
監理者:鹿島建設関西支店建築品質監理部
全体工期:2016年7月1日~2020年1月31日(43カ月)
用途:事務所ビル・ホテル・駐車場
規模:地下2階、地上25階、塔屋2階
建築面積:3,108.97㎡(942.12坪)
延床面積:55,526.73㎡(16,796.84坪)

鹿島建設株式会社 関西支店
オービック御堂筋工事事務所
所長
北村 浩一郎 氏

鹿島建設株式会社 関西支店
オービック御堂筋工事事務所
副所長
加藤 誠 氏



いますぐにでもBIMを!


「私にとってBIMに関わる全ての出発点は2013年。同僚たちと共に視察に行ったフィリピン AIDEA社(AIDEA Philippines, Inc)での体験に始まります」。オービック御堂筋ビル新築工事の現場所長、北村浩一郎所長はそう語り始めた。2013年当時、関西支店建築工事管理グループのグループ長を務めていた北村氏は、支店長(現社長)から関西支店におけるBIM推進を託され、その準備の一環として、BIM先進企業として知られるAIDEA社を視察に訪れたのだという。「正直いって、当時の私は“BIMって何?”という状態で……だから、AIDEA社のオフィスに足を踏み入れた瞬間、非常に大きな衝撃を受けました」。そこでは、AIDEA社員の全員がパソコンに向かって忙しく作業を進めていた。そして、彼らの見つめる画面には、すべてARCHICADによる3D建築モデルがあったのである。「作業する画面はもちろん、アウトプットして壁に貼ってあるものもオール3D。さらに“シミュレーションもできますよ”なんて言われて、愕然としました。当社より遥か数段先を行く取組みが、そこにあったのです。そして、いますぐにでもBIMを進めなければ!──強い危機感とともにそう決意しました。そして、グループ長として可能な限り、関西支店へのBIM普及を推進していきました」

一方、別部署で同様の取組みを進める社員もいた。現在、北村氏の元で副所長を務めている加藤誠氏である。こちらは京都や滋賀の現場を回りながら、コツコツとBIM活用の可能性を探求していた。そして3年後、関西支店のBIMを巡る流れは急速に動き始める。2016年、北村氏はオービック御堂筋ビル新築工事の現場を任されることになったのである。

「辞令をもらって、まず頭に浮かんだのが“これをBIMでやろう!”という思いでした。しかも設計施工案件だったことから、設計段階から施工、維持管理までフルBIMでやるんだ、と。しかし正直、その時はどうやればできるかも分っていなかったし、何の根拠もありませんでしたが、とにかくフルBIMでやると決めました」。そんな北村氏の思いを力強く後押ししたのが、さまざまな立場でこのプロジェクトに参画することになったメンバーたちの顔ぶれだった。前述の加藤氏や設計部門でのBIM普及を進めていた設計部長等々、いずれもAIDEA社の視察に同行したメンバーや、各部署でBIM推進を担ってきた面々がここで一堂に会したのである。「特に加藤副所長が参加してくれたのは心強く、これこそ運命だと思いました。そして、このメンバーを基に立ち上げたのが、後にこのフルBIMプロジェクトにおける最大の原動力となっていくBIM戦略会議だったのです」



バトンタッチ方式から座談会方式のフロントローディングへ


フルBIMの流れに関わる全ての人たちが
同じ時間軸の中で一つのモデルを共有して進めていく
それがフロントローディングの現場である

「オービック御堂筋ビル新築工事」は、大阪屈指のビジネス街である御堂筋に面した敷地に2020年の竣工を目指して建設が進む、地下2階・地上25階の超高層ビル新築工事である。オフィス・ホテル・店舗・ホールが入居する建物には最新の耐震・省エネ設備や災害時の緊急設備が設けられ、大阪ビジネスシーンの新たな中心の一つと目されている。

「ここでフルBIMをやろうと決めたものの、関西支店として初の取組みで、前述の通り何から手を付ければ良いか分りません。そこで、誰も分らないなら皆で考えよう、と全員を集めたのが『BIM戦略会議』の始まりでした」。基本計画から設計施工、建物の維持管理まで一気通貫でBIMを活用するフルBIMは、これらプロジェクト関係者の業務に直接関わる取組みだ。だからこそ初期段階で全員を集めて「こんなことをやりたい」という方針を示し、各フェイズでのBIMの具体的な方策は皆で知恵を出し合いながら決めていこう、と北村氏は考えた。結果としてこの試みは、従来の建築プロジェクトの進め方と異なる、フロントローディングの実践へと繋がっていく。

「従来のプロジェクトでは、設計担当が企画・設計した内容を、2次元データの形で施工にバトンタッチし、竣工後はさらに建物管理に渡す形で、フェイズごとに設計図書を引き継ぎ作り込んでいくバトンタッチ形式が主流でした」。現在も一般的なこの手法は、設計図書の受渡しに手間と時間を要し、しかも意思伝達の難しさから多くの齟齬が生じやすい。結果、着工後に問題が発覚し、現場が解決しなければならないケースもしばしばだ。一方、フルBIMによるフロントローディングでは、設計施工BIMの流れに関わる全ての人が、同じ時間軸の中でBIMモデルという一つのデータを共有しながら進めていく。そのため現場は従来と全く異なったものとなる。

「とにかく意匠、構造、設備、現場の誰もが、自分が携わる工程の前後を意識するようになります。そしていち早く問題の芽を見つけて対策することで、精度の高い“いま”を素早く作り込む流れが確立されます。その意味で、これこそ最重要ポイントだったと言えるでしょう。BIMはそのための有効なツールとなりました」。もちろん計画初期段階で設計担当者に加え、現場関係者を一堂に集めるのは容易ではない。そんな状況下、BIMオペレーションを支援するグループ会社の参画も視野に入れ、体制作りを進めたという。

「こうして2016年3月にはBIM戦略会議の体制も整い、月2回ペースで全員が顔を揃えて会議を行うようになりました。計画では敷地の既存躯体解体に10カ月かかる予定だったので、この時間を活かしBIM基本モデルを作成。これを核に設計データを作り込み、そこから切り出した2次元図面を使いながら申請や構造評定まで1年でやりきる計画を立てました」。本格稼働にあたりBIMモデル作りのメインツールに選ばれたのは、もちろん鹿島の推奨ソフトとなっているARCHICADである。プロジェクトを支援したグループ会社のアルモ設計も当然ARCHICADを使っており、ARCHICADで作られたBIMモデルが、フルBIMのプラットフォームとして広汎に活用されることになったのである。



基本設計における多様なBIM活用


2016年春、基本計画の取組みが始まった。設計部門で計画建物の位置決めや基礎検討が進む一方、施工部隊も計画敷地に残る既存の地下躯体解体計画の検討を開始。北村氏らはこれにもBIMを応用すべく、ARCHICADで既存地下躯体のモデル化を進めていった。

「地下の残存建物は50年前のもので紙図面しかなく、ここからモデル化を図りました。完成データは設計にフィードバックし、彼らが作成中のプランに重ね合わせ、位置決めや基礎検討に使ってもらいました。また、施工サイドも既存躯体範囲外の掘削数量や山留内部躯体の解体数量を拾うなど、解体の工事計画や地下架構プランの作り込みに活用しました」。一方、基本設計の進行と共にBIM戦略会議の議題も具体的な問題が増え、部門を超えた議論が活発化していった。

「基本設計のBIMモデルは非常に早く仕上ったものの多くの不整合も発生していました。そこで、まずこれら不整合を洗い出して個々にシート化。これを用いて意匠・構造・設備の整合性検証を行ったのです」。シートに挙げられた問題を、BIMモデルを見ながらまず設計が検討。さらにBIM戦略会議で議論して「これは設備で考えよう」「こっちは構造が調整」という具合に方針を決め、再び設計にフィードバックしていったのだ。「今までなら、問題点は意匠から個別に各部門へ依頼して対策してもらい、戻してまた調整するなど大変な手間がかかりましたが、当現場ではメンバーが顔を揃えて議論しその場で解決します。対応全体がスピーディーで設計精度も大きく向上しました」

こうした初期の基本設計段階におけるBIM活用は、意匠や構造等の面でも大きな成果をあげていた。たとえば意匠設計では、カーテンウォールと庇との取合いなど、図面で確認しきれない庇ディティールの検証等に力を発揮したし、構造関連でも鹿島グループに属する鹿島クレスが構造計算のデータ(SS3)を元に地上躯体をモデリング。素早く躯体の概算数量を出すことで、やはり早い段階から幅広い活用が可能となった。「こうした数量コントロールや仮設計画、構造的な問題についても、この構造モデルを共有しながらのやりとりが基本となりました。私も概算数量のブラッシュアップに使ったりしましたね。たとえば外装の窓ガラスなど、コストインパクトのある部分をBIMモデルで都度チェックし、数量とコストの変化を的確に把握できました」



協力会社も巻き込んだ実施設計での挑戦


計画、基本設計から実施設計、そして施工図へ
情報を加えブラッシュアップされたBIMモデルが
最新の技術とともに現場を変えていく

「こうして約半年で基本計画・基本設計が完了すると、そのBIMモデルを引き継いで実施設計のフェイズが始まりました」。そう言って北村氏に代わって語り始めたのは、設備分野を統括する副所長の加藤誠氏である。加藤氏によれば、実施設計段階での取組みは、まず設計協力で参画した電気・衛生・空調の各工種の協力会社とBIMモデルを協業で作成することから始まったという。「各設備のBIMモデルが完成すると、これを建築から受け継いだ基本モデルに入れていきました。ところがそこにはやはり、干渉などの問題が発生していました。その数は予想以上に多く、実施設計期間中に全てを解決して施工図へ反映させるのは困難だったため、それらの問題を重要度により3つに分類した上で対応していくことを決めました」(加藤氏)。

それはまず、設備だけでなく建築や構造に影響する重要度の高い問題。そして設備設計総体に影響する標準的問題。最後が単純な配管同士の干渉など他への影響が比較的低い問題という分類である。このうち重要度の高い問題と標準的問題はBIM戦略会議の俎上に載せ、議論のうえ対応方針を決め、それ以外の問題については認識だけに留め、解決は現場に委ねたのである。

「問題は総計300件余、うち約100件をBIM戦略会議で検討しました。これらは建築や構造のプランに関わる問題で、早い段階で全員が共有しなければ解決困難なものも多々ありました。たとえば──」と、加藤氏はホテルフロアの平面プランで発生した問題を例に説明してくれた。「これは廊下の天井内の小梁とPAC(空調機)の干渉という問題で、解決には構造プランの変更が必須でした。そこで今回は干渉する小梁自体を取りやめて解決したのです。通常、構造プランが固まってしまうとこうした変更は困難ですが、今回は早い段階で問題を発見・共有できたので柔軟に変更できました」

まさにBIMモデルを活かしたフロントローディングの威力だ、と加藤氏は笑う。「今回は建築から継承したフルモデルがあったので、屋上から地下まで全体をフルに検討できました。この規模でフルに行うのは難しいものですが、実はこの建物は基準階が多く、ホテルやオフィスなど基本的に繰返しなのです。だからこのボリュームにも関わらずフルモデルで扱えたわけです」

このようにして膨大にあった問題も次々解決し、その内容はフィードバックされて、実施設計も急速に仕上がっていった。通常ならそろそろ現場が始まり、サブコンが施工図を作り始める段階だが、加藤氏はここでも通常のやり方を選ばなかった。「だってせっかくここまで作り込んだBIMモデルがあるのですから、施工にもこれを使いたいですよね?」。つまり、従来は着工後に行うメンテナンスや将来の機器更新のスペース検討、鉄骨の貫通位置検討など、施工図で描いていた内容を盛り込んでモデルを作り込み、これを現場で活用しようというのである。加藤氏は、サブコンの施工経験者と協議を重ね、BIM戦略会議を通して、施工のノウハウを実施設計モデルに反映させていった。完成したこのモデルを基盤に、動き始めた現場で新たなBIM拡張利用の試みを次々と考案、試行していった。──次項では、その他の実施設計段階の取組みと共に、このBIMの拡張利用の多彩な試みについて加藤氏にご紹介いただこう。



広がるBIMの拡張利用


BIMが産み出した現場イノベーションで
現場からはゴミが消え、スタッフも定時帰宅!
フルBIM運用で実現した「働き方」改革

■総合BIMプロット図(実施設計):「着工後、事業主に使い勝手を確認してもらうための総合図に代わり、BIMモデルを基に3D総合プロット図を作成しました。将来の維持管理に転用できるよう設備機器等に属性情報を付加しており、そこにどんな機械が入っているかクリック一つで分ります。新任の現場担当もいちいち図面を確認するまでもなく、短時間で建物概要を把握できます」

■モジュール化(実施設計):「高層建築でネックとなるのは材料の垂直搬送、人の移動です。これらを抑えるため、オフィスの各スパン内の空調機の納まり等、共通のモジュールにまとめた形でレイアウト。数パターンの候補の中から、材料投入量を最少に抑えられる案を実施設計図に反映しています」

■プレファブユニット化(実施設計):「シャフト内の施工は、狭いスペースに多工種が入り乱れ、効率が悪くなりがちです。そこでホテル客室のシャフトを対象にユニットにまとめてレイアウトし、施工時は低層階に設けた加工場でこのユニットを安全かつ効率的に作成。現場では、これを搬入して据付け、プレファブユニット化され、先行設置された配管やケーブルと繋ぐだけ。設計段階で搬入ルートや更新スペースを検討済みなので現場での作業が接続作業のみとなり、スムースかつ安全になります」

■VR技術の活用1(施工):「仮想竣工したBIMデータは、施工管理でもさまざまに活用できます。その一つが安全VR。BIMデータをVR体験できるよう加工した安全教育用コンテンツです。VRでさまざまな作業の危険度を体感したり、バックホウ運転席の視界で死角の発生も確認可能。実際に重機のオペレータや作業員に試してもらっています」

■MR技術の応用(施工):「MR活用の一環として、HoloLensを用いた現地ビューアも運用しています。HoloLensによりBIM画像と現地を重ね合わせ、たとえば外壁最上部に設置予定のサインの現地での見え方も実物大で確認可能です。施主へのプレゼンテーションの際に活用しました」

■VR技術の活用2(施工):「VRは表現力に優れ、ビジュアルが重要となるモノ決めに最適なツール。今回もBIMデータに仕上げ材の画像データを貼り込み、反射率等も設定し照明器具の光も忠実に再現したエントランスの意匠等のVRを、施主にご覧いただき、円滑な「もの決め」を行えました」

■VR技術の活用3(施工):「施工箇所の施工用BIMモデルをHoloLensに入れて現地で見ると、VR視界ではモデルと現実が重なり合って見えます。そして、そこに取付ける機器のモデルやそのスペック等々、多様な情報を視覚的に確認できるので、さまざまな施工アシストにも使えるでしょう」



「ゴミが出ない」現場


「現在(2019年1月末)、現場進捗率はおよそ50%。ほぼ計画どおりに進行しています。そして、フルBIM導入効果は現段階ですでに想像以上です」。特に設備の施工段階になって、導入効果は誰でも一目瞭然で分るほどだと、北村氏は笑みを浮かべる。「たとえば……この現場では全くといって良いほど設備工事のゴミが出ません。驚くほどきれいですっきりしています。これは、事前にBIMで検証して高精度な部材を工場でプレカットし、ユニット化したモジュールの形で搬入しワンタッチで設置しているから。安全だし正確かつ労働効率も高く、結果として不要なゴミなど出ず、人も少なくて済むわけです」。

追い込み時期の現場では多数の人員が夜を徹して作業することも多いが、この現場では設備工事会社スタッフも早い時間で引き上げる、と北村氏は言う。それでいて延べ労働人員等の数値は通常よりかなり抑えられ、クオリティーの高い安定したQCDSEが実現している。

「竣工まで残り1年、もちろん滞りなく良い建物に仕上げることが一番ですが、私たちはすでに竣工後を視野に、実際の建物管理で使うためのBIMデータのブラッシュアップも始めています。もちろん、現場でのBIMの拡張活用の開発も続けているし……これからがますます楽しみな現場ですね」

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