伊藤組土建株式会社
「崖っぷち」からのARCHICAD導入を機に着実にBIM化を進め地域の建設業界をリード

伊藤組土建株式会社

首都圏の公共工事分野を中心にBIM の普及が本格化しつつあるわが国の建設業界だが、地方の民間工事分野においては、首都圏の進展ぶりに比べて「普及はまだまだこれから」というエリアも少なくない。そんなBIM発展途上地の一つである北海道の建設業界において、いち早くARCHICAD を導入してBIM 化を推進し、いまやこの分野で地域をリードする存在となっているのが伊藤組土建である。同社はもともと北海道を代表する建設会社として全国に知られる存在であり、BIM についても早くから研究に着手し、着実に普及を進めてきた。その一連の取組みについて、活動を主導する同社設計部の皆さんにお話を伺った。

伊藤組土建株式会社

創業:1893年5月(設立 1946年2月)

本社所在地:札幌市中央区

資本金:10億円

従業員数:366名(2017年6月現在)

代表者:代表取締役会長 平野 良弘
代表取締役社長 玉木 勝美

事業内容:建設業、宅地建物取引業、建築の設計および工事監理、建設工事用機械器具、資材の製作、販売、賃貸および修理ほか

webサイト:http://www.itogumi.co.jp

伊藤組土建株式会社
建築本部 設計部
参事 次長
西岡 誠 氏

伊藤組土建株式会社
設計部 設計課 課長(意匠)
梅原 博大 氏

伊藤組土建株式会社
設計部 設計課 係長(意匠)
開 歩 氏

伊藤組土建株式会社
建築本部 設計課
(意匠)
佐藤 早苗 氏

伊藤組土建株式会社
建築本部 設計課
(意匠)
笠松 靖明 氏

伊藤組土建株式会社
建築本部 設計課

篠田 尚弥 氏

伊藤組土建株式会社
建築部 担当部長
(技術担当)
深瀬 孝之 氏

伊藤組土建株式会社
建築部 技術管理課
係長
石川 孝志 氏

伊藤組土建株式会社
建築部 技術管理課
田城 周 氏

きっかけはWindowsXPサポート終了

「私たちがBIM化に踏み出したのは2014年4月。そのきっかけは、実はWindowsXPのサポート終了でした」。そう語るのは、伊藤組土建設計部で課長を務める梅原博大氏である。同社のBIM化を主導する立場にある同氏によれば、それまで設計部では他社製2D CADをメインに使っていたという。ところがWindowsXPのサポート終了と共に、このCADもサポート終了を通告してきたのである。長年使い続けた2D CADが使えなくなる──まさに緊急事態だった。

「否応なく別のCADに乗り換えざるを得なくなってしまったわけですね。そこで思い出したのが、2009年に導入済みの ARCHICAD でした」。実は同社設計部では、3D化への布石として2009年にARCHICAD を導入しており、パースを中心とするビジュアライゼーションの制作ツールとして使っていたのである。設計部次長の西岡誠氏は語る。

「当時は ARCHICADでまず3Dモデルを組み上げ、そのビジュアルをパース代わりに使っていました。図面化する時は他社製2D CADに落として計画図を作ってもらい、ARCHICAD で作ったパースを貼り付けて使うのを基本としていたのです」。つまり、ビジュアル中心とはいえそれなりに使い慣れ、しかもメインCADとして採用しても新たなコストは発生しないのだ。

「時代の流れからして2D CADへの乗り換えはないと考えていましたし、皆で相談して“3Dで行こう!”と決め、ARCHICAD をメインツールとして図面まで描いていくことを決めました。あるものを活かし、使ってなかった機能を使おうと思ったのです」。そんな梅原氏の言葉に西岡氏も頷く。

「私や部長は最初“ARCHICAD で平面図と立面図くらい書ければいいだろう”程度に考えていました。ところが設計部では“そんな半端なやり方は逆に面倒だ”“3D化するなら全て一新したい”という声が大きく、ARCHICADへの完全移行を目指すことになったのです」(西岡氏)。

こうして梅原氏がBIM推進の担当と決まり、ARCHICAD による図面作成手法の研究と、そこから編み出したノウハウの蓄積に取り組むことになった。梅原氏によれば、実は一番最初に ARCHICAD を導入した2009年当時も図面作成への活用が検討されたことがあったという。しかし、この時は準備不足で見送られていたのだ。

「当時 ARCHICAD で図面作成する環境を整えるには、専用テンプレートを作り部内の作図ルールを統一しなければなりませんでした。しかし、それにはまず私がとことん ARCHICAD を使い込む必要があったんです」。実物件を進める傍らそれを行うのは、当時の自分には困難だった、と梅原氏は言う。まさに同氏にとって、これは5年ぶりの再挑戦だったのである。

新規物件の配置図、平面図、立面図、断面図、仕上表、建具表、壁種別図を完成させて概算資料一式をARCHICADでまとめあげる

ARCHICADによる作図1
ARCHICADによる作図2

基本設計から実施設計まで実物件で挑戦

「ARCHICAD を設計ツールとして使っていく上で、まず最初に私が確認したのは、日影計算や天空率に関連する機能の使い勝手でした」(梅原氏)。ゼネコンの設計部門にとって、計画初期段階に行う建物のボリューム検討は、さまざまな試行錯誤の積み重ねが大前提となる。設計のメインツールとして使う以上、この作業をスムーズかつスピーディにこなしていきたいのは当然だろう。つまり、いちいち別ソフトを使わずに、できるだけ ARCHICAD 上で作業を完結させたいのである。そこで梅原氏が着目したのが、「ADS-BT for ARCHICAD」(生活産業研究所)だった。これは斜線・逆日影のボリュームスタディや日影計算、天空率計算、逆天空率計算を、ARCHICAD上で行うことができるアドオンソフトである。「早速インストールして使ってみると操作はきわめて簡単で、計算結果もビジュアルに提示できました。逆日影もビジュアルで見せられるのでお客様へ説明しやすく、きちんと伝えられると分かったのです。これなら使える、と思いました」(梅原氏)。

一番の懸念を解決した梅原氏は、続いて年来の課題だったテンプレート制作に着手。まずはやれることからやっていこうと、図面枠から作り始めた。A3用/A1用の図面枠をマスタレイアウトに作成し、日付やタイトルも自動的に入るように工夫していく。これまで ARCHICAD でレイアウトを印刷したことさえなかったため、こうして図面枠を作り印刷しただけで大きな達成感があった、と梅原氏はいう。実際、ここから大きく弾みがつき、梅原氏はテンプレート制作を兼ねて、ARCHICAD を全面的に用いて、ある実物件の図面製作を行うことを決める。

「部分部分で試しつつ使っていくだけでは、実務でどこまで使えるか分りません。そこで思いきって実案件の図面を一式全部 ARCHICAD で描いてみよう、と考えたのです。正直“背水の陣”的な気持ちでした」(笑)。対象として梅原氏が選んだのは、ある小学校の新築物件だった。

まずは設計図面で使うための図面の仕上がりの検討からレイヤー設定、線の強弱を付けるためのペンセット調整。そして、平面図・立面図・断面図や建具表、仕上表等々、各種の図面や表組などについて伊藤組土建流の最適な表現方法を探り、細かな調整を施してベースとなる仕組みを練り上げていく。梅原氏にとって負担の大きなプロジェクトとなったが、これによりARCHICAD を深く知り、操作スキルを着実に高めていくことができたのも間違いない。──ともあれ、こうして梅原氏は ARCHICAD による新設小学校の配置図から平面図、立面図、断面図に仕上表、建具表、壁種別図を完成にこぎ着け、自社で求められる概算資料を一式まとめあげることに成功した。次はもちろん実施設計である。

「ここでも同じように、まず ARCHICAD で実施設計図を1物件全てまとめてみることにしました。それでやり難い所があれば、また他の方法を考えようというわけです。特記仕様書から求積図に平面詳細、展開図……特に矩形図や断面詳細図は最初の物件では ARCHICAD だけでは十分描ききれず、かなり2D CADで書き込みました。今はこれも断面形状を駆使してかなりのレベルまでBIM化できていますよ」。

こうして紆余曲折を経ながら ARCHICAD で実物件を一つやりきった梅原氏は、同時に仕上げたテンプレートを設計部全員へ配信した。こうなると、部内に「新規物件は ARCHICAD でやろう!」という大きな流れが生まれてくる。すぐに小学校に続く、ARCHICAD による2件目のプロジェクトが動き始めた。

チームワーク機能でARCHICADスキルを向上

「ARCHICADで描く2番目の物件として選んだのは“お寺”──ちょっと珍しいビル型のお寺で、これを市街地の中に建てようというプロジェクトでした。規模もさほど大きくないのでちょうど良いと思ったんです。ところが、そう簡単にはいかなくて……」。そういって苦笑いするのは、このプロジェクトを担当した佐藤早苗氏である。佐藤氏にとって ARCHICAD で本格的な作図を行うのはもちろんこの物件が初。梅原氏が作ったテンプレートがあるとはいえ、最初からスムーズに進められたわけではなかった。

「脳内変換というか、考え方を2Dから3Dへまるっきり切り替えなければならない部分があって、そこには苦労しました。私は手描き図面の時代も知っているのですが、3Dへの切り替えは手描きからCADへの移行時と同じくらいの大ジャンプでしたね」(佐藤氏)。事実、どうしても ARCHICAD の操作が思いどおりにできず、立ち往生したことも何度かあったと佐藤氏はいう。しかしここで力を発揮したのが、このプロジェクトから使い始めたチームワーク機能だった。

仏舎利塔初期A案

「最初の物件では階段詳細図やトイレ詳細図など、ファイルを分離できそうなものを別ファイルにして他の人に書いてもらいましたが、後で統合するのが煩わしくて……。お寺の物件からは予備PCをBIMサーバー専用にしてチームワークを使い始めました」(梅原氏)。これにより同僚の進捗状況も常時確認でき、助言も簡単に得られるようになった。初めて ARCHICAD による作図を任された佐藤氏にとって非常に心強い機能だった。ARCHICAD で作業中に問題に直面すると、このチームワーク機能を通じ即座に梅原氏たちにサポートしてもらえたのである。

「実際の画面上で“ここはこうすればいい”と具体的に教えてもらえるのです。そうやって、課題を一つ一つクリアしながら進めていく繰返しの中で、自分なりに ARCHICAD を使えるようになっていった実感があります。これは私だけではなく、みんなの作図スピードがここで一気に上がった気がしますね」。そんな佐藤氏の言葉どおり、この寺社建築のプロジェクトが同社の設計BIM化の流れにおける大きなターニングポイントとなった。ちょうどこのプロジェクトの完了直後に ARCHICAD 自体もVer.18へと進化を遂げ、パースやレンダリング速度も大きくスピードアップしたのである。そして、これを機に設計部内での ARCHICAD の運用が一気に拡大していった。

仏舎利塔初期B案

自社用テンプレートを設計部全員で共有し、チームワーク機能でスキルアップしながらARCHICADによる2つ目の新規物件へ挑戦

さまざまな導入メリットの実感

「ARCHICAD の普及が進むに連れ、BIMから生み出されるメリットを実感する機会も増えています。私自身が一番感じるのは、やはり平面図・立面図・断面図が一気に仕上がることによる作業スピードの向上ですね」。そう語る梅原氏によれば、検討段階の打合せ用に検討図等を作る場合など、2D時代はきっちり完成度の高いプランを仕上げようとすれば、断面図等はさらりと描く程度しかできないことも多かったという。ところが、ARCHICAD で進めるプロジェクトなら平・立・断とも全てが一気に仕上がるから、検討段階であっても図面一式にパースまで付けてトータルな形でプレゼンテーションできるのである。

「まさに短時間で非常に分かりやすい検討図が見せられるので、お客様への説明もポイントを素早く的確に伝えられるのです。だから打合せそのものも話が早いし、非常にスムーズに進められます」(梅原氏)。このことは工事の手戻りを抑える効果もある。早くから完成度の高い図面を見せることができるので、お客様も初期段階からプランを具体的にイメージでき、プランに対する要望も早い段階から明確になるのである。「どこをどうしたいのか──という通常後から出てくるような要望も、早くから伝えられるので無駄なくスピーディに対処できるのです。誤解や行き違いといったミスも減るので、現場の手戻りも抑えられますね」(梅原氏)。

一方、佐藤氏はビジュアル面での効果を強く感じているようだ。「設計監理についてですが、カラースキームを決める時、お客様に内外観のパースを見せるようにしています。おかげで決定が大きくスピードアップしました」。佐藤氏によれば、たとえば材料選び等ではカットサンプルを使うことが多いが、建築の素人である施主にとって、小さなサンプルから「部屋全体に使った場合」をイメージすることは難しい。結果なかなか決まらず、変更が多発しがちだったのである。「ところが、内観パースを見せるようにすると“この方がいいね”とすぐに決めてもらえるのです。こうしたやりとりは格段に楽になりましたね」(佐藤氏)。

また、作業負担が減ったという点で、いわば裏返しの例を挙げてくれたのが、設計課係長の開氏である。「先日のことですが、お客様の都合で非常にスパンが延びてしまった提案物件がありました」。期間が先延ばしされていく間にクライアントから次々新しい要望が飛び出し、プランがどんどん変わっていったのだという。もし ARCHICAD 以前のやり方をしていたら心が折れかねないような変更の連続だった、と開氏は言う。「しかし、ARCHICAD なら、とにかく一度提案書としてレイアウトしておけば、図面さえ直せば後は自動的に変更してくれる。以前のようにいちいち全てを直して回る必要もないわけで。すごく楽になったなあ、とあらためて実感しました」(開氏)。

特記仕様書

収まり検討(日本ソムリエ協会)
ビジュアライズな計画案(イリス東区役所前)

全新築物件の6割を ARCHICAD で実施設計、さらに既存物件、構造設計、設備設計、積算、そして現場での施工図制作へ

新規物件の6割でARCHICADを使用

「ARCHICAD でのBIM化を開始して3年ですが、現状は道半ば。当部全物件を ARCHICAD でやるには至っていません」 (梅原氏)。長い歴史を持つ同社だけに既存物件の改修工事等の受注も少なくない。そうした案件では2Dデータを活かして2D CADで設計することになるし、そうでなくても簡単な物件なら2Dで対処した方が早い場合もある。また、作業の一部を外注する物件では、その外注先が3D化されてない場合など、2Dで進めるしかない物件も多いのである。──それでも ARCHICAD をメインツールに進める物件は新築物件の6割に達している。これをさらに拡大していくと共に、設計以外へ拡げていくことが梅原氏らの次の目標となる。そのための具体的な取組みも始まっている。

社内検討チームの皆さん:後列左より 石川氏 西岡氏 成田篤治氏(設計部長) 梅原氏 深瀬氏/前列左より 開氏 森田充恵氏(設計部 係長) 佐藤氏 篠田氏 笠松氏 田城氏

「新築だけでなく既存物件も ARCHICAD を使っていきたいので、先日リノベーション機能も試しました。既存物件の施工に必要な解体図・撤去図も簡単に表示でき、非常に便利ですね」(梅原氏)。一方、構造設計については、構造計算プログラムからSIRCADを介して ARCHICAD へ変換し、構造図を描く試みに挑戦中だ。「現在ようやく連携ができてデータ等もスムーズに流れるようになってきました。次は実際に構造図を描いてもらう予定です」 (梅原氏)。また、設備設計や積算との連携については「これから」の取組みとなる。そして、これらに加えて、大きな課題としてクローズアップされてくるのが施工部門の ARCHICAD 活用、すなわち施工図のBIM化である。

BIM活用の拡大が生み出す大きな優位性

「施工への BIM 導入に関して私たちが動き始めたのは、2016年の6月のことでした」。そう語るのは建築部担当部長(技術担当)の深瀬氏である。同氏によれば、この時施工部門にも ARCHICAD が導入され、同時にBIM活用に関する社内検討チーム──意匠・構造・設備系の設計部スタッフや工事部門、積算、技術支援部隊まで含む──が立ち上げられた。「現在はこのチームが定期的に集まり、ARCHICAD を中心としたBIMツールについて施工段階でどのようなことに活用できるかを検討し、進むべき方向を模索しています」。もちろん具体的な試行も進められている。たとえば工事が完了した実物件を対象に仮設図や施工ステップ図、躯体図などを ARCHICAD で試作し、その導入効果の検証等も行われた。実際に ARCHICAD を用いて図面を作成した技術管理課の石川氏は語る。

「躯体図は現場で使用できるレベルのものが描けました。しかし、手元の操作はかなり変わるし、現場で使ってもらうには工夫が必要かもしれません。平面を直せば立面も直る ARCHICAD を使えば、現場のチェックや修整の負担は減り、時間短縮にも繋がります。いっそう前向きに取組んでいきたいですね」。

さらに伊藤組土建らしいBIM案件として、太陽光発電施設も挙げられる。実は同社は道内に多数の実績を持ち、現在は道外へも着々と進出を開始している。この分野で ARCHICAD 操作を担当するのは技術管理課の田城氏だ。「太陽光発電のパネルなど既存にないオブジェクトが必要なので、1つ1つ作っていくのは大変でした。でも、BIMでビジュアル化するとやはり非常に効果的ですね。たとえば先日は、私が日影の検討用に描いた配置計画図をお客様が銀行に見せ、融資を取付けたそうです。おかげで道内に計画していた5案件すべてを受注できました」(田城氏)。 ──伊藤組土建のBIM活用はけっして特異なところはない。こんな風にじっくりと足もとを確かめながら1歩1歩進めることで、ゼネコンとしての実力を確実に向上させているのだ。

「道内の建設業界において当社はBIM活用で大きく先行しています。しかも、ビジュアライゼーションを活かした提案力など、ここから生まれた優位性はけっして小さくありません。今後はさらに工事部隊を含めたBIM運用を拡大し、積極的に活用を進めていきます」 (西岡氏)

構造設計の試み(SIRCAD→ARCHICAD)
構造計算データから躯体図への利用
太陽光発電施設の配置計画図(北海道芽室町)

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