株式会社イチケン
導入教育と統一ルールの徹底で基盤を固め 2D/3Dハイブリッド「マスターBIM」で実運用へ!

株式会社イチケン

実力派中堅ゼネコンとして知られる株式会社イチケンが、BIM活用への展開を加速している。BIM導入こそ2016年と後発だったが、ARCHICAD を核とする独自のBIM運用ルールの策定や、社員はもちろん協力会社も含めた徹底的なBIM教育など、念入りに基盤を固めた上で、昨年いよいよ実案件での設計・施工BIMの運用を開始したのだ。プロジェクトには独自の2D/3Dハイブリッド「イチケンマスターBIM」を始め新機軸の試みも多数盛り込まれ、注目を集めている。ユニークな取組みの詳細と狙いについて、設計部部長の福元明広氏と設計四部部長の宮田賢作氏にお話を伺った。

株式会社イチケン

設立:1930年6月

所在地:東京都港区

代表者:代表取締役社長 長谷川博之

業務内容:総合建設業、貸ビル賃貸業、住宅・商業施設ディベロッパー事業、都市環境整備事業、複合商業施設企画・設計・施工・監理、専門店舗企画・設計・施工・監理ほか

Web:https://www.ichiken.co.jp/

株式会社イチケン
技術本部
設計部 部長 兼 設計一部 部長
福元明広 氏

株式会社イチケン
技術本部
設計部 設計四部(BIM推進)部長
宮田賢作 氏

オリンピック後のための「新しい武器」

間もなく創業90周年を迎える株式会社イチケンは、商業施設やマンション、工場・倉庫などの建設プロジェクトをトータルに請負い、全国に展開する総合建設企業である。特にスーパーマーケットやホテルの建築で豊富な実績を持ち、企画、設計、施工、維持管理の全てを統合した高度な設計・施工品質には定評がある。そんな同社が本格的なBIM導入に着手したのは2016年。いわゆるBIM元年から6年遅れてのスタートだった。その取組みを主導した設計部の福元部長は語る。

「実際にはその1年前、2015年には準備を開始していましたね。当時、国内景気は2020年の東京オリンピックへ向け緩やかな拡大傾向にありましたが、その後については不透明で……だからこそ、そのオリンピック後のために、ゼネコンとして新しい“武器”が必要だ、と考えていました。そして、2015年に長谷川新社長が就任して“新生イチケン”づくりが始まり、その取組みの一環として前述の“新しい武器”とするためBIMの導入が決定されたのです」。もちろんそれまでもBIMに関する情報収集等は活発に行っていたが、これを機に本格的なBIMの導入準備が始まったのだ。そして、このとき最初に行われた取組みが、意匠・構造・設備各分野用のBIMツールの選定だった。

「選定の中心となったのは意匠設計用のBIMツールです。実質的にはARCHICADと別の他社製品からの二者択一となりました」。両製品の比較検討はもちろん、先行する各社の導入実績なども詳しく調査。さらに導入支援を依頼したBIMコンサルタントと議論を重ねるなど検討作業は半年に及び、最終的にARCHICADが選ばれたのである。製品選定を担当した宮田部長は語る。

「他社ソフトも含めて多くの3D CADを試しましたが、ARCHICADは初めてでも取っつきやすく、誰でも直感的に使える操作性に優れていました。また質の高いビジュアルが容易に作れる点も大きかったですね」。さらにもう一つ大きなポイントとなったのは、ARCHICADのチームワーク機能だと宮田氏はいう。イチケンではBIMについても“皆で協力して作り上げる”ものというイメージが強く、チームワーク機能によるシ-ムレスな協業というARCHICADが提案するワーキングスタイルが、同社のそれにフィットしたのである。こうしてメインツールが決まると、構造、設備のソフトもそれぞれ決定。さらにそれらを統合管理するソリューションとしてSolibriも導入されることになった。

「これらの決定を踏まえて設計部を中心にBIMコンサルを交えて議論を重ね練り上げたのが、“BIM導入プロジェクト4カ年計画”です。プロジェクトはすぐ承認され、翌2016年から稼働。私たちはいよいよ本格的なBIM導入へと動き始めました」(福元氏)

イチケンBIMルールの策定

まず、当社独自のBIMルールを定める
次に、全社へ広めるため導入教育に力を注ぐ
BIM普及の基盤固めを優先して進みたい

 「BIM導入プロジェクトでは、設計施工両分野で一貫したBIM運用を図ることを目標としています。そこで私たちはまず当社独自のBIMルールを定め、これを全社に広めるため導入教育に力を注ぎました」(福元氏)。

いわばBIM普及のための基盤固めを優先したこの展開の背景には、後発企業ならではの緻密な計算があった。たとえば、BIM導入で先行した企業の中には思うように進められず停滞したり、頓挫してしまう例も多々ある。そこで同じ轍を踏まぬため、福元氏らは、BIM導入に豊富な経験を持つBIMコンサルタントの支援を受けながら、プロジェクトを進めていった。

「BIM導入における“よくある”失敗原因の一つとして、全社統一的なBIMルールを決めないまま各現場が独自に進めてしまった――というケースが挙げられます。この場合、重要なタイミングで足並みが乱れてしまい、先々停滞してしまいます」(福元氏)。そこで多少時間はかかっても、ARCHICADの入力方法や運用手順などイチケンの現場に最適化したBIMルールを定め、これを全社に行き渡らせることから始めるべきだと考えたのだという。

「多少のアレンジは別として、このルールを大きく逸脱しないよう全社に徹底すれば、足並みを揃えてBIMを普及していけるはずです。さらに、後々にはBIMデータの使いやすさや加工し易さにも繋げていけるでしょう」(福元氏)。こうして設計部が中心となって独自のBIMルールを練り上げると、これを一冊にまとめたルールブックを編纂。そこからトレーニングマニュアルやカリキュラムを作成すると、福元氏らは2016年6月からARCHICADの操作講習を主体とする設計BIM教育に取り掛かった。第1弾の対象となったのは、もちろん設計部門である。

週1回4〜5時間×1年のBIM導入教育

「BIM導入教育の初年度は、東京本社から選抜したメンバーを対象に週1回4~5時間の講座を1年間にわたって実施しました。内容はBIMの基本的な解説から始まり、ARCHICADの操作講習では竣工済みのRC造/S造の設計施工案件をサンプルに、入力からBIMデータの多彩な応用、さらにSolibriによる構造や設備との統合まで実践的に指導していきました」(宮田氏)。

1年に及んだ第1期の導入研修には、意匠設計に加えて構造設計や設備設計、デザイン・企画担当まで含む幅広いメンバーが招請されたが、この徹底した教育にはもう一つ理由がある。「実は当社では、長年フリーウェアの2D CADを使っていたのです。一部にパース制作等で3D CGを使う者もいましたが、大半はパース制作も外注していました」(福元氏)。つまり、部員の大半にとってこれが初の3D体験だった。BIM導入をスムーズに進めるためにも、じっくり時間をかけた教育が不可欠だったのである。

こうして東京本社における設計BIM教育は順調に進んでいったが、他方では新たな課題も顕在化してきた。たとえばPC環境の問題である。東京本社での第1期導入教育が終れば、続いて関西・九州支社の講習が始まり、さらにその後は施工部門を対象とする施工BIM教育も順次進めることになる。当初は講師を関西・九州に派遣し、東京と同じカリキュラムで行っていく計画だったが、各地のARCHICAD 運用に必要なコンピュータ環境への懸念が生じたのである。

「関西や九州も設計部門ならハイスペックなコンピュータもありますが、施工現場はそうはいきません。そもそも環境やセキュリティ面で問題の多い現場事務所に、高価なハイスペックマシンを置いてよいのか?という疑問がありました」(福元氏)。いずれ施工BIMの運用が本格化すれば、現場でも頻繁にARCHICADを使うことになる。だが、イチケンでは常時100件前後の現場が動いており、その全てでBIMを運用するには、全現場にハイスペックマシンが必要となる。コスト面はもちろん、環境やセキュリティ面のリスクも決して小さくない。――そこで福元氏らが着目したのが、2016年に導入した最新のクラウドVDIシステムの活用だった。

VDIクラウドで各地を結ぶBIM教育

協力会社は無理に足並みを揃えなくていい
この現場における各社のBIMの取組みは
個々の現状に合わせて無理なく行っていこう

VDI(Virtual Desktop Infrastructure=仮想デスクトップ)とは、通常手元のパソコンで行っている多様な処理をサーバー上の仮想化したパソコンで行い、その画面だけを手元の端末へ転送。ユーザーはそれを見ながら端末を操作する仕組みである。そして、この仮想化したコンピュータを、社内サーバーでなくクラウド上に配置するのがVDIクラウド。Web接続できる場所ならどこでも使用でき、手元の端末側にはアプリケーションもデータも残らないため、セキュリティ面もクリアできる。

「東京発信の授業を関西・九州へ配信し、現地の生徒たちはTV会議式にそれを見ながら手元の端末でVDI上の ARCHICAD を操作し、学んでもらおうというわけです。現場を含む全国展開にあたりBIM管理体制のため導入したシステムを、教育にも応用したわけです」(宮田氏)

こうして2017年6月にシステムが導入されるとまず仮想マシン16台の環境を整備。同じ年の7月からBIM導入教育が開始された。東京支店設計部の残りのスタッフや関西・九州支店の設計スタッフを対象とする第2期の設計BIM教育と、東京支店の技術工務部・建設部・店舗建設部・技術部メンバーを対象とする第1期施工BIM教育の2コースが用意され、それぞれ毎回4~5時間ずつ週2コマ実施された。この2コマの講座内容は同じで、受講生は週1度どちらか都合の良い方を選んで受講していく仕組みだった。

「実際に受講した者の話では、VDIを通じて行う ARCHICAD 操作は予想以上にスムーズだったそうです。将来は現場でも ARCHICAD をスムーズに操作してもらえるでしょう」(宮田氏)。このVDIによるBIM導入教育はその後も継続して進められており、2018年4月からは新入社員BIM研修にも使われたほか、同年6月からは第2期の施工BIM導入教育にも活用された。

こうして導入教育は着実に進んでいったが、他方、第1期設計BIM導入教育が完了した2017年頃から、OJTを兼ねた実務におけるBIM活用の取組みも動き始めていた。

東京施工BIM-PJ①チーム編成

「第1期の設計BIM教育が完了した頃から、特に設計施工案件を中心にBIMを用いた取組みも始まっていました。といってもトータルなBIMプロジェクトではなく、たとえばお客様との打合せ用に建物のエントランス部分だけモデル化するなど、部分的な活用です」(福元氏)。

こうした東京支店の設計施工案件における設計BIMの活用は、2017年だけで10数物件にもなった。さらに施工案件でも現場の納まりや仮設計画の検討等で協力を要請されるケースが急増するなど、全社でBIM活用の機運が急速に高まっていったのである。これを受け施工BIMの実運用プロジェクトも動き始めた。導入教育の修了メンバーが中心となってプロジェクトチームを編成。施工BIMに適した現場を探し始めたのである。

「東京、関西、九州それぞれのチームが定期的にミーティングを開き、ターゲット案件や協力業者のBIM取組状況等を検討しました。特に23回もの会合を重ねた東京チー厶は、都内の新築工事をトライアルプロジェクトのターゲットに選定し、第一歩を踏み出しました」(宮田氏)。この物件は、S造地上9階建て延床面積3,200平米のオフィスビル新築計画。現場が東京本社から近く、しかも、基準階がほぼ共通するオフィスビルであることも選定の大きなポイントとなった。

「初めての本格的施工BIMトライアルだったことから、現場ではさまざまなチャレンジを行いました。その中でも、特に当社ならではのユニークな取組みとなったのが“イチケンマスターBIM”。全く新しい2D/3Dハイブリッドの施工BIMプラットフォームの構築です」(宮田氏)

東京施工BIM-PJ②イチケンマスターBIM

読者もご存知の通り、建築業界におけるBIMの普及は、一部のゼネコンや大手設計事務所を除けば「まだまだこれから」なのが現実だ。特に施工BIMのトータルな運用について、一般的な施工現場では多くの協力会社の足並みを揃えることさえ、しばしば至難の業となる。――そうした事情は、この東京BIMプロジェクトの現場でも共通する悩みだった。

「だったら、BIMの取組みで無理に足並みを揃えなくてもいいのではないか? 私たちはそう考えたのです」(福元氏)。つまり、この現場では、各社のBIMの取組みは個々の現状に合わせて無理なく行おうと呼びかけたのである。

モデル化できる所は3Dモデルで。無理な所は2D図面で納品するなど、できる所から取組もうというわけです。未導入の会社も、見ていて便利だと感じたら次はBIMに挑戦してみませんか?と。ハードルをできるだけ低く設定し、皆で無理なく超えていきたいんですよ」。

この言葉通り、同現場の立ち上げにあたって、プロジェクトチームは鉄骨から電気・配管・衛生設備にサッシメーカー、エレベーターメーカーに至る協力業者を集め、施工BIMの取組みについて協力を要請。2D/3Dが混在する施工BIMの運用ルールやハンドリングマニュアルを作成し協力業者への教育を行うと共に、前述した3D/2D双方に対応する施工BIMプラットフォームを整備した。これが「イチケンマスターBIM」である。

「プロジェクトでの実際の流れとしては、まずわれわれ設計部のBIM推進チーム(後の設計4部)が、ARCHICADで最初のBIMモデルを作成しました。そして、鉄骨会社は鉄骨FABモデルを、電気設備会社は電気設備モデルをそれぞれの3Dツールで作成し、これをイチケンマスターBIMデータとして納品してもらい基本モデルと統合。同様に3D対応してない建材メーカー等は2D図面で納品してもらい、これもイチケンマスターBIMに格納していきました」(宮田氏)。こうして、多様なデータを1つのBIMプラットフォームに分かりやすくまとめていくことで、各データの活用範囲も拡大していった。結果、プロジェクトに参加した協力業者たちのBIMへの意識も変わっていったのである。

「たとえば、鉄骨メーカーが鉄骨CADで作った鉄骨FABモデルは、ARCHICADやSolibri へインポートして統合モデルとし、干渉チェック等に使用しました。また、電気・配管・衛生の各設備会社が三社三様のCADで作った設備モデルも、同様にインポートしてイチケンマスターBIMにまとめ、やはり干渉チェック等に活用していきました。また、サブコン同士でデータ交換することで統合確認も行うことができました」(宮田氏)。建材メーカーなど、まだBIMに未対応の協力会社は、2次元データのまま干渉チェック等を行っていたが、やはり現場では3Dモデルへの要望が高く、宮田氏らが ARCHICAD で簡易な外壁ECPモデルを作成して好評を得ていた。

「現場では定期的にBIM現場会議を開いて、各社が作ったモデルを重ね合わせて干渉部分を抽出、見える化し、皆で議論しました。結果、1回目には107カ所あった干渉箇所は回を追うごとに減り、建て方開始直前の8月末には意匠に絡む内容で別途調整となった2カ所まで減らしています」。

4カ年計画最終年のチャレンジ

必死で先頭を走るよりも、2番手か3番手で
流れに乗り遅れなければそれでいい
そして、皆でBIMの便利さを共有し進んでいこう

こうして迎えた今年=2019年は、同社にとってBIM導入プロジェクト4カ年計画の最終年となる。BIM導入プロジェクトの仕上げと次ステップへの1年と言えるだろう。4月にBIM推進部隊として宮田氏を中心に設計4部が新設。順調に進行していた東京施工BIM-PJは、2019年9月からは建て方を開始し、同時に関西・九州でも施工BIMプロジェクトが始まっている。

「関西施工BIM-PJは京都のホテル新築工事です。今回は技術工務部が基本モデルを作って京都の現場へ提供。現場所長と話しながら施工ステップを作って、鉄骨モデル・設備モデルを融合し、さまざまに活用し始めています。また、ARCHICAD でモデルルームのデジタルモックアップを作りパース制作に使ったほか、VR化してデジタル承認用に活用予定です」(宮田氏)。

一方、やや遅れて動き始めた九州施工BIM-PJは、ターゲットに福岡のスポーツジム建替工事を選定。既存のゴルフ練習場で3Dレーザースキャナーによる点群測量を用いて敷地モデルを作成し、土量計算等に活用している。まさにそれぞれの現場に合わせたBIMの活用が、全社で活発化している状況だ。もちろん設計4部も、BIMモデルの制作などで各現場各部門を支援するほか、新しい取組みも複数スタートさせている。幾つかを紹介しよう。

  • 【標準図BIM】2Dで作成していた床、壁、天井、建具等々約350点のイチケン建築工事標準詳細図集を3D化。設計・施工BIMへの活用を計画。
  • 【イチケンBIMライブラリ】ARCHICADアドオンの「Smart CON planner」に加え、使用機会の多い仮設機材等約100点を3Dモデル化。
  • 【ストアBIM】得意分野であるスーパーマーケット建築に特化したBIM。よく使う照明や什器、冷蔵ケース、暖房ケース等を3Dモデル化した。
  • 【Arch-LOG+VR】施工フェーズのビジュアルマネジメントにより高精度なデジタルモックアップを活用。早い段階での承認に結びつける。

まさに急ピッチで進み始めたイチケンBIMだが、決して急いで進むつもりはない、と福元氏は語る。「私たちは先頭を走る気はありません。2番手か3番手で、流れに乗り遅れない程度に進めていければいいんです。そして、ハードルは低めに設定し、あくまで皆でその便利さを共有しながら進めたい。それが私たちのやり方です」

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