同社でBIM導入を推進する、
(写真左)設計部 BIM課 課長 楠見 紘平氏と
(写真右)設計部 BIM課 担当課長 宮本 香奈氏
整合性の高い設計で無駄を排し、
収益性と顧客満足度を高める
「BIMの導入時は、単なる図面の三次元化のために使っていました。生産性向上を目的としたBIM活用を始めたのは2022年からです」と、設計部BIM課課長・楠見 紘平氏は話す。大末建設では、10年以上前からArchicadを導入し、外観パースの三次元化など、プレゼンテーションに使うために3D CADとしてBIMを活用していた。
2022年、生産性向上を目的にBIM活用を始めた背景には、大末建設が創業100年を迎えるにあたり立てた中長期経営計画がある。その中で、生産性向上や利益改善を目的としてDXを加速することが目標に掲げられた。経営面、営業面、施工面のすべてにおいてDX化の機運が高まったところで、設計・施工におけるBIM推進でも、ロードマップを策定して全社一丸となって取り組むことになったのである。
これまで同社の課題には品質改善や生産性向上などがあった。従来は二次元で設計をしていたため、意匠、構造、設備の各図面で整合がとれていない図面もあった。そこでBIM推進のリーダーに選ばれたのが楠見氏だ。楠見氏は、もともと意匠設計者であり、システム開発の業務も経験していたため、建築とITのどちらにも知見がある。
「整合がとれていないことで、手戻りや施工のミスが発生し、不要なコストがかかっていた。本来なら未然に防げるはずのミスやトラブルが生じていたのです」と楠見氏は振り返る。整合がとれていないことでのミスが防げれば、それに対応する手間や余計なコストの発生を防ぎ、生産性向上や品質改善などの課題は解決し、ひいては会社のブランド力アップにも寄与する。
「フロントローディングの考えを取り入れて、設計段階で確実に整合性を高めていこうと決めSolibriの導入を決めました」と楠見氏は話す。
大末建設での
Solibri活用の目的とメリット
2023年、同社では図面の整合性を高めることを目的に、Solibriを導入した。Solibriとは設計の不整合箇所を自動で検出するモデルチェッカーだ。
Solibriを活用することで干渉チェックを行い、加えてこれまで通り目視によるチェックも実施して図面品質の向上を目指した。
Solibriを活用してすぐに実感できたメリットは大きく3点だ。
- 無料Viewer「Solibri
Anywhere」で誰でもアクセス可能
まず、Solibriは無料のViewer「Solibri Anywhere」を使えば、ライセンスを持っていないスタッフでも3Dモデルを確認することが可能だ。「Solibriはデータが軽く、軽快に動作する点が魅力です。ハイスペックなパソコンでなくても、事務仕事ができるパソコンであればソフトを動かせます」と楠見氏は言う。パソコンのスペックを選ばず、誰でも操作できるため、情報共有や、それをもとにしたコミュニケーションがしやすいのだ。
- BIM上にマーキングでき、指示が明確になる
誰もがSolibri Anywhereを使えることで、各担当者がモデル上に問題点をマーキングできるようになった。「Solibri Anywhereを使えば、BIMモデル上に、スケッチや2D図面など、コメントを明記することができます。操作がしやすく誰でも直感的に使えるので、フィードバックに非常に便利です」と楠見氏は述べている。 - BIMをもっと使ってみたいと思わせる扱いやすいUI/UX
加えて、楠見氏は、BIMの初心者にも扱いやすいUI/UXも評価した。「とにかくシンプルに使えるため、積極的にSolibriを使いたいと思わせてくれます。やはり、新しいソフトを導入するときには心理的なハードルを感じるスタッフも少なくありません。その点Solibriは簡単で分かりやすく、BIMをもっと使ってみたいと思わせてくれます」。
このようなメリットを感じながら、楠見氏が中心となりBIM推進プロジェクトをはじめて1年が経過した。
3Dモデルで図面を確認できることで、スタッフ間で大切な合意形成が確実にとれる。「例えば、二次元図面を見ながら指示しても受け取り方が人によって違い、認識のずれが生じやすい。一方で、3Dモデルではそういったズレが発生しません。言語の異なる海外の方が見たとしてもすぐに理解できるでしょう」(楠見氏)
Solibri Anywhereを使えば、議論や確認が必要な個所に簡単にマーキング、コメントの挿入ができる
大末建設で実施している
干渉チェックの手順とは
同社は、プロジェクトで干渉チェックを行う際に5つのステップに分けた業務フローを確立している。これから紹介する会議はオンラインで行われ、リアルで顔を合わせなくても、全員で同じ画面を見られる点にメリットがあり、問題点の確認や解決に至るまで認識を共有することができる。それでは業務フローを詳しく解説する。
Solibriで確認したデータをレポートとしてExcelへ出力
- 目的共有:Kick
off会議
設計・施工の両方で、プロジェクトのスタート時に協力会社全員が出席するKick off会議を開催する。工事の目的とゴール、それぞれの役割を確認し、明確にする。
モデルを統合するルールとし、IFCでモデル基準点やデータ形式、データの格納方法、進行スケジュールなども周知し、協力会社と共有する。
- 可視化:統合BIMモデル作成
協力会社から提出されたBIMモデルを、Solibriを使って統合。統合BIMモデルを作成する。
- 問題抽出:干渉チェック
統合BIMモデルを作成したら、自動で干渉している箇所を検出する。また、法令が遵守されているかどうか、建物の機能的なエラーはないかなど、楠見氏が目視で確認をしている。
このときに抽出した問題は、「干渉レポート」としてExcelやBCFで出力し、協力会社に送付。楠見氏をはじめ、次フェーズのBIM調整会議に出席する協力会社全員が予め是正方法を検討しておくことで会議の効率化も図れる。
- 是正検討:BIM調整会議
BIM調整会議において、3Dで可視化した不具合箇所を関係者で確認し、是正方法を決定する。
- 問題解決:図面是正対応
問題点が解決されたら、各モデルの更新および統合BIMモデルの更新・管理を行っていく。
このように①から⑤までの流れを繰り返し行うことで、設計図の精度は向上し、整合性のとれた図面を現場に引き継ぐことができ、結果的に施工段階での無駄が軽減される。
「二次元図面では見落としがちな不具合箇所も、3Dモデルで確認することで、不具合・不整合箇所を抽出できます。これにより図面品質が向上し、施工での手戻り防止のほか、関連する手間やコストの発生を抑制することに成功しました」と楠見氏は語る。
Solibriの導入と活用推進からわずか1年、フロントローディングによる上流での課題解決の大切さを、協力会社や施工スタッフの誰もが実感している。
【実際にあった不整合とその是正方法の事例】
事例①
事務室の排煙ダクトが鉄骨梁・間仕切り壁・各種ダクト吹き出し口に干渉しており、全体的な調整をする必要があった
事例②
事務室天井内の熱交換機、空調機をはじめ複数の設備が梁と干渉。
またダクト同士の干渉や小梁の貫通補強が未計画だったため是正した。
事例3
排煙機が左右反転し、排気ダクトと柱が干渉していたため更正が必要だった
Solibriで確認したデータはBCFに出力も可能。
Attached viewをダブルクリックすると、その部分の3Dモデルに移動して確認できる。
事例④
屋外避難階段の干渉や幅員不足の事例もSolibriによってモデルを重ね合わせて確認することで解決した
大末建設のこれから
現状は統合BIMモデルから主に目視で問題点や建物の機能不具合を見つけ出しているが、「今後は、Solibriのルールチェッカーの活用拡大も視野にいれて、より効率よく品質向上に取り組んでいきたい」と楠見氏は更なる活用方法を語る。
「将来的には、BIMの運用を標準化したい。そのために3年後、BIMでの設計を50%以上にすることを目指す。ゆくゆくはBIMの特性を生かして、自動設計にもチャレンジしたい。
当社ではまだSolibriの活用を始めたばかりですが、すでに円滑なコミュニケーションという面では大きな変化がみられています。これから先、Solibriの機能を最大限に使いこなせるように一つ一つ整理しながら、段階的に利用促進していければと思います」。
また設計部 BIM課に配属されて2か月の担当課長・宮本 香奈氏もBIMの魅力をこのように語る。
「私は、二次元図面だと高さや方位に混乱することが多々ありましたが、3Dモデルはわかりやすく、すぐに理解ができます。建築業界に入ったばかりの若手にとっても、わかりやすいことが一番だと思うんです。3Dモデルなら新入社員が見ても壁や天井の内側がどうなっているのか一目瞭然です。今後は、若手に向けて、鉄骨がどう成り立っているのかなどの社員教育にも活用していきたいです」と、BIMの新たな利用価値を見出している。
「当社のように図面の不整合があってそれを探し、伝えるための手段を探しているのなら、Solibriが力を発揮してくれるでしょう」(楠見氏)
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