青山製図専門学校 建築学部 教員/一級建築士 佐藤 広明 氏
青山製図専門学校 インテリア学部 教員/一級建築士・ インテリアコーディネーター 石橋 弘次 氏
学生に「新しい選択肢」というチャンスを
「今回のBIM教育導入の背景には、建築業界におけるBIM運用企業の急増という状況があります。そのためBIMを学ぶ専門学校生に対する採用枠が広がりつつあるのです」。そう語るのは、青山製図専門学校の建築学部で教員を務める佐藤広明氏である。佐藤氏によれば、大学の建築学部等がBIMを授業に取り入れているケースはまだ多くないが、一方で、業界のニーズにいち早く応える教育が可能であることが専門学校の強みだと考え、BIM教育を正規のカリキュラムに取り入れる事にした、という。また、「当校学生にとっては卒業後の選択肢が増えるチャンスでもあるわけで、それを生かすためにも早く導入を進める必要がありました」。建築学部では、まず、2016年から研究科において「BIM演習」という専門の授業を開始した。この2年間のいわば準備期間を経て、新たにBIM専門の講師等も新規に採用するなどして、2018年の4月から2年生の全クラスで通常授業にBIM教育を開始したのである。一方、インテリア学部もBIMの導入を数年前より段階的に導入、検討してきた。同学部教員の石橋弘次氏は語る。
「インテリアのコースながら、当学部ではインテリアだけでなく建築の勉強も比重が高いのが特徴です。インテリアと建築の両面から設計を行うことで、より密度の濃い作品を作り出すことを目指しています」。そのためもあって、インテリア学部では以前から実験的にBIMツールを使っていたと石橋氏は言う。だが、その他社製BIMツールはインテリアデザイン用としては扱い難く、本格的に演習課題授業に取り入れるには至らなかった。しかし、やがてインテリア学部にもBIMに関わる求人が届き始め、それが新たな業界ニーズとなったことを知った石橋氏らは、あらためてBIM教育の必要を痛感した。「これは時代の流れだ、と。一刻も早くBIMを採用すべきだろうと考えたのです」。
このようにして同校建築学部・インテリア学部は、それぞれ同じようなタイミングでBIMの導入検討を開始し、BIMツール選定を進めていった。興味深いことに、個別に機種選定を進めた両学部は、期せずして両者共に ARCHICAD を選んだのである。
「使いやすさはもちろん、ARCHICADは大手設計事務所やゼネコン等、多くの企業が採用している点が非常に大きかったですね。そうした企業の採用枠も、学生たちの将来の選択肢の一つとなるわけで。ソフト選定もそれに合わせたという面があります」。そう佐藤氏が語ると、石橋氏も大きく頷く。「内装設計や店舗設計でも、大手企業が作った設計データを元に作業を進めるケースが多いのです。その大元が ARCHICADを使っている以上、受け手である内装業界も同CADを使うことの有利性が生まれ、いずれはトータルなデザインにも挑戦できる可能性が広がる」
各学科の特徴を生かしたBIM教育を
こうしてこの4月から本格的な取組みが始まった青山製図のBIM教育は、具体的にどのような内容なのか。まずは、4学科全てでBIM教育を開始した建築学部の取組みを紹介いただいた。
「まず、建築工学科と建築設計デザイン科建築コース(2年次)のクラスでARCHICADによるBIM設計を用いて課題に取り組ませています」。佐藤氏によれば、前期は集合住宅に図書館、美術館と公共性の高い課題が続く予定で、学生たちは1課題1カ月程度で基本設計からプレゼンテーションまで、ARCHICADの機能を活かして一気に作りあげる。また、コンバージョンやリノベーションを学ぶ建築設計デザイン科環境コース(2年次)では、実際に学んでいる本校の校舎を別用途にリノベするという課題にBIMを使用し、住宅設計デザイン科では2年次クラスで戸建住宅をBIMで設計させている。まさに各コースの専門に合わせた内容だが、いずれも2年次もしくは3年次で初めてBIMに触れるカリキュラムなのが共通点だ。
「1年目に平面と断面の関係など建築設計の基礎をじっくり学んでおけば、2年目のBIMによる空間構成がスムーズに理解できるわけです。学生にとって非常に良い流れにできたのでは、と自負しています」(佐藤氏)
一方、インテリア学部では、3年間コースである建築インテリア工学科の3年次と、2年間コースである建築インテリアデザイン科の2年後期に、ARCHICADによるBIM教育が導入された。このうち実際に授業が始まっているものとしては、建築インテリア工学科3年生が受ける「CAD製図III」がある。この授業は2017年から始まった。
「CAD製図は90分授業が週2コマという形で、1年通してARCHICADによるBIM設計を学びます。もっとも設計演習のツール選択は強制していないので、まだ以前の2.5次元CADを使う学生もいますが、最終的にはARCHICADに切り替わっていくでしょう。前年度の3年生も卒業設計に活用したチームがありました。ARCHICADの場合、すぐに習熟して最終的には使いこなしてしまう学生が今後より増えていくと思います」(石橋氏)
このように、両学部とも個々の分野の特徴を生かしたBIM教育が始まっているといえるだろう。では、実際にこの授業を受けた学生たちはどう感じているのか。彼ら生の声を聞いてみた。
建築を学ぶためのツールとして
「ARCHICADの授業は4月からですが、実は昨年、集合住宅のグループ制作で使ってみました」。建築工学科2年の饒元豪君はそう語る。BIMに興味が湧き、ひと足早く触れたかったのだという。「BIMには高い技術が必要だと思っていたので、ARCHICADはこんなに分かりやすく使いやすいのか!と驚きました。平面図からボリュームを出せるので空間構成も確かめやすいし、先生とのやりとりもスムーズで、いろいろ助けられたって実感しました」。
同じく建築工学科2年小松崎朱音さんは、ARCHICAD授業が自身の弱点克服に繋がったという。「実は私、建築を立体的に考えるのが非常に苦手で……。去年は別のCADを使っていたのですが、先生に平面図・断面図を同時に進めるよう言われてもできず、本当に困っていました。でも、ARCHICADを始めてからは空間の理解がとても深まった実感がありますね。もちろんどこか1カ所直せば全部の図面で修正が反映できる点も本当に便利だし、楽にできるようになったと思います」
一方、設計演習のグループ課題で新しいミュージックショップをデザインする課題に挑戦中の建築インテリア工学科3年生の金井絢椰君は「ARCHICADは触り始めてあまり経ってないので、正直まだ思いどおりには使えていません」と嘆く。「グループ課題なので役割分担していて、ARCHICAD入力は田中君にまかせているのです。でも、使いこなせたらとても便利そうだな、っていうのは大いに感じますよ。自分のノートPCを購入しているため、授業中でなくても学校内外を問わず自宅でも触れるので、後期へ向けて積極的に触るようにしていこうと思っています」
そんな金井君の話にも登場した同級生、ARCHICAD担当の田中遼君も、やはり最初は戸惑いがあったようだ。「ずっと他社CADを使っていたので、始めは面倒だという気持ちもありました。平面図から3Dが立ち上がるのを見て“すごい”とは思いましたが……ところが3Dから平面、立面に断面図まで切り出せると聞いた時は“まさか?”と。操作に習熟できたら確実に“効率が向上する!と直感したんです。また、試してみたらSketchUpなど他社のCG系ソフトとの連携もスムーズだし、早く使いこなしたいですね」
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