2025年3月19日

建設業界のDX(Digital Transformation)が世界的に進む中、BIMマネージャーの需要が高まっています。BIMマネージャーとは、BIM(Building Information Modeling、以下BIM)を活用したプロジェクトの管理や、社内のBIM普及を推進する役割を担う人材です。BIMマネージャーは、建築のライフサイクル全体を見据えながら、BIMの活用を推進し、プロジェクト全体を成功に導きます。本記事では、BIMマネージャーの役割や必要となるスキルセット、そしてBIMマネージャーになるための方法などについて解説します。
1. BIMマネージャーとは?
BIMマネージャーとは、建設業界におけるDXの推進者として、BIMの導入と活用を担います。その役割は、全社的なBIMの標準化やガイドライン策定から、個別プロジェクトでのBIM活用の指導まで多岐にわたります。企業内では戦略的なBIM展開の責任者として、また現場では各専門分野をつなぐ調整役として機能し、プロセス全体の効率化とデジタル化を実現する重要な役割を担います。BIMマネージャーは、業務知識とBIM技術の両面に精通し、コミュニケーション能力が重視される職種です。
2. 今、BIMマネージャーが求められている背景

建設業界のDXが進む中、BIMマネージャーが必要とされる背景について、3つの視点から説明します。
まず、1つ目が、設計・施工の現場レベルでの課題です。BIMは、従来の2D設計と異なります。そのため、スケジュールや基本計画から実施設計などのフェーズで、必要となるモデルの詳細、情報量が異なります。また、複数のBIMソフトウェアが混在する環境下においては、標準化や契約方法の確立など、新たな課題も生じます。こうした中、データの標準化を進めたり、プロジェクトに必要な情報を適切な形で提供し、課題に包括的に対応したりするために、BIMマネージャーの必要性が高まっているのです。
次に2つ目が、国内における動向です。国土交通省は、建築分野全体でのBIM活用を推進するため、2019年にBIM推進会議を立ち上げました。これは、設計・施工という個別段階だけではなく、建物の維持管理まで想定した、ライフサイクル全体を見据えた取り組みです。特に、建物の維持管理の生産性の向上には、長期的な視点によるBIMの活用が期待されています。
最後に3つ目が、グローバルにおけるBIM義務化の動向です。イギリスでは、2016年以降、公共工事においてBIMレベルの利用が義務化されました。BIM関連の国際標準の1つとして、ISO 19650規格がありますが、これはイギリスのBIM基準「BS1192」「PAS1192」を基に制定されました。BIMマネージャーが必要とされる背景には、こうした規格に準拠した適正なBIMの運用があります。また、シンガポールでも、2015年から5,000平米以上の建物の建設においてBIMの利用や申請の義務化が進んでいます。これらの国々では、BIMを単なる設計・施工の効率化ツールとしてではなく、建物完成後を視野に入れた活用がされています。例えば、シンガポールでは、気候変動対策や再生可能エネルギーの活用などの観点から、街全体でBIMモデルを活用する取り組みが始まっています。
3. BIMマネージャーの役割
BIMマネージャーは、建築におけるライフサイクル全体を俯瞰しながらDXを推進していく立場として、重要な役割を担います。BIMマネージャーの4つの大きな役割について説明します。
まず、1つ目は、企業戦略へのBIMの活用です。BIMマネージャーは、経営者目線でBIMを活用することで、どのような価値を生み出すのかを考え、企業に利益を生み競争力を強化します。
また、BIMを活用する企業として認知されることで、会社の魅力向上や人材採用における差別化に貢献します。
2つ目は、会社レベルにおける、BIM導入・運用課題の解決と体系化、教育の整備です。多くの企業では、標準化の不在、運用ルールの不明確さ、教育体系の未整備などの課題が、BIM導入の壁となっています。BIMマネージャーは、こうした課題に対する解決策を実行します。例えば、各設計フェーズでのモデルの詳細度の定義やデータの命名規則など、国の標準化を見据えた上で社内の標準化を考え、組織全体での体系化を進めます。
3つ目は、プロジェクトレベルでのデータや関係者間の調整です。BIMプロジェクトでは、データ管理と共有が従来の2D設計より複雑化します。設計者、施工者、施主、建物管理者などの様々な関係者が関わる中で、必要な情報を適切に提供し、ライフサイクルを見据えてデータを整理し、活用することが必要です。
4つ目は、効率化と生産性の向上です。BIMを基盤として、IoT、クラウド、AIなどのテクノロジーとBIMを効果的に組み合わせ、建築業界のデジタル化を推進します。マッキンゼーが2015年に行った調査(下図)では、建築と農業の領域は、DXにおける下位2つの分野になっているため、DX推進が期待されています。

2015年当時、産業全体で見たときに建築業界は最下位から2番目のDX導入率でした。2025年現在、この市場に大きな変化は見られないと推測します。
(※1)出典元:DIGITAL AMERICA: A TALE OF THE HAVES AND HAVE-MORES DECEMBER 2015
4. BIMマネージャーになるために必要なスキル

BIMマネージャーに必要なスキルとはなんでしょうか。主な3つについて説明します。
1つ目は、最も基本となる建築に関する技術的スキルです。設計の知識や建築プロジェクト全体のプロセスを理解していることが不可欠です。
2つ目は、プロジェクト全体を俯瞰できる視野の広さです。個別の技術的な課題だけではなく、設計から施工、そして維持管理まで、建築のライフサイクル全体を見据えた判断ができる能力が求められます。単にBIMを使いこなすだけではなく、その活用が組織やプロジェクトにもたらす価値を理解し、最適な導入・運用方法を提案できる戦略的な思考が必要です。
3つ目は、様々な関係者とのコミュニケーション能力です。経営層、設計者、施工者、施主など、立場の異なる多くの人々とプロジェクトを前に進める調整力が不可欠です。なお、これらのスキルは、経験豊富な人々との対話を通じて徐々に成長していきます。
5. BIMマネージャーとBIMコーディネーターの違いは?
BIMマネージャーは、BIMの導入・運用全体を統括し、プロジェクト全体のBIM戦略を策定・管理します。標準やワークフローの策定、品質管理、関係者間の調整などを担当し、組織全体のBIM推進をリードします。
一方、BIMコーディネーターは、BIMモデルの具体的な管理・調整を担当し、設計・施工チーム間のデータの整合性を確保します。モデルの作成・修正、干渉チェック、技術的な課題の解決など、実務レベルでBIM運用を支援します。
6. BIMマネージャーになるためのBIMマネージャープログラム

BIMマネージャーに必要なスキルセットを身につけるためには、BIMマネージャープログラムへの参加がおすすめです。グラフィソフトでは、BIMマネージャー・ BIMコーディネーターとして活躍中の方や、それを目指している方向けに、スキル開発を体系的にサポートするBIMマネージャープログラムを用意しています。
このプログラムの特長は、実務で必要となる知識から社内標準の整備方法まで、幅広い領域を網羅していることです。実務を想定した10週間のプログラムでは、BIMの導入・運用に関する実践的な課題の解決能力の養成を行います。プログラム全体の約3分の1は、社内の標準化、運用ルールの確立、教育体系の整備など、実務的なスキルの開発に充てられています。
プログラムの最終課題では、各企業の実情に合わせたBIMマニュアルの作成に取り組み、実際の企業運営に直結する実践的なスキルを身につけます。また、この過程で得られる知識は、社内のBIM標準化やルール作りを推進する際の重要な基盤となります。10週間のプログラムを学んだ後、テストで合格点を満たすと、世界的に認められたGraphisoftのBIMマネージャー認定を取得できます。
7. まとめ
BIMマネージャーは、建築業界のDXを推進する重要な職種として、今後ますます需要が高まるでしょう。建築の技術的知識を基盤としつつ、プロジェクト全体を俯瞰する視野や、様々なステークホルダーとのコミュニケーション能力が求められます。さらに、グローバル化が進む中、ISO19650などの世界標準への理解も重要です。BIMマネージャーへの近道は、体系的な学習プログラムと実務経験を通じて、段階的にスキルを習得していくことです。建築業界のデジタル化において、BIMマネージャーは企業の競争力を左右する重要な存在となっています。

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