株式会社 横松建築設計事務所
ARCHICADを核に急成長中の設計事務所が 中国で初の海外大型プロジェクトへ挑戦

株式会社 横松建築設計事務所

横松建築設計事務所は、建築家 横松宏明氏が主宰する一級建築士事務所である。10年前までは宇都宮市内の所員数4名ほどの小規模事務所だったが、現在では所員数も14名に増え、東京にも拠点を出して、年間30件超の案件を動かすアグレッシヴな設計事務所へ急成長を遂げた。この躍進の原動力となっているのが、専務の横松邦明氏と同氏が駆使するARCHICADによるBIM設計である。事実、同社の急成長はARCHICADの導入直後から始まったのだという。2017年からは初の海外大型プロジェクトも始動するなど、さらに加速し続ける成長戦略について、横松邦明氏に伺ってみた。

株式会社 横松建築設計事務所

所在地 : 東京都足立区千住仲町/栃木県宇都宮市

創業 : 1981年

従業員数 : 14名

事業内容 : ①住宅、マンション、医療施設(病院・クリニック)、福祉施設(保育園・デイサービス等)、店舗等の設計・監理 ②建物のリフォーム、リノベーション(住宅・マンション・ビル・店舗・用途の変更) ③公共事業 ④建物の耐震診断 ⑤土地探し及び近隣調査

webサイト : http://www.yokomatsu.info

「姉歯ショック」からのV字回復

株式会社 横松建築設計事務所
専務取締役
横松 邦明 氏

株式会社 横松建築設計事務所 専務取締役
横松 邦明 氏

「来春また1人採用する予定なので、春から所員数は15名になります。この体制で年に30数件動かすので、今は全員が複数案件を抱えて常時フル回転です」。そういって横松氏は笑う。現在の建築市場にあって、この規模でこれだけの数の案件を動かす設計事務所はそう多くないはずだ。横松建築設計は多くの顧客から「選ばれる」設計事務所となったのだ。それをいうと「10年前は結構苦しい状態だったんですよ」と横松氏は苦笑いする。

「ずっと昔、当社はマンションデベロッパーの仕事を中心にしていて、それなりに調子良かったんです。そこへ突然襲いかかったのが“姉歯ショック”でした」。この業界の人間なら2005年の耐震偽装問題の衝撃を忘れていないだろう。実際、この事件で被害を被った業界人は少なくない。横松建築設計事務所も大きな被害を受けた1社だった。

「事件の影響で確認申請が下りず、顧客のデベロッパーが未払いのまま消え、当社は一気に苦しくなりました。仕事が無くなりスタッフも減って、このままではまずい……と思っていた時、Webで3次元CADの記事を読んだのです」。実は横松氏は、製造業出身という異色のキャリアの持ち主。建築分野より先に設計3次元化が進んだ製造業界で、横松氏も3D CADを使っていたのである。「建築分野への3D登場を知って驚きましたが、同時に大きなチャンスも感じました。で、思ったんです。起死回生には、業界に先んじて3D化するくらいの挑戦が必要だろう、と」。そのままの勢いで社長を説得した横松氏は、すぐに3D CAD導入を決め、CAD製品の選定を開始した。実は当初、別の3D CAD製品を導入予定だったが、検討を進めるうちARCHICADの存在がクローズアップされてきたのである。「当時の私たちにとって3D CADは安い投資ではありません。だから一番良い製品を選ぼうと考えたんですよ」。両者の試用版を入手した横松氏はどちらも自在に操れるほど使い込み、その上で選んだのがARCHICADだった。ここから同社のV字回復が始まったのである。

「社会福祉施設へファクスを送って営業をかけ、ARCHICADを入れたMacBookを担いで回ったんです。毎日続けるうちプランを出させてくれるお客様も出てきます。その繰返しで、一度プランを出させてもらえれば、確実に仕事に繋げられるようになっていきました」。間違いなくARCHICADの導入効果だった、と横松氏は断言する。「プランさえ出せば3Dで打合せをしますから……。当時、こんな風に“形を見せながら”打合せする所はほとんどなく、それだけで大きなインパクトがありました」。しかも、こうして「形」で打合せれば顧客に分かりやすく、意見ももらいやすい。要望に答えてその場で修正したり、事務所で素早く代案を作ることで、圧倒的な的確さとスピードでニーズに応えるスタイルを作りあげたのである。

ARCHICADとネットワークを駆使して



一度、顧客の懐へ飛び込めさえすれば確実に仕事へ繋げられる自信がある。たとえ競合になっても負けることはない

「お客様の懐へ飛び込むことさえできれば、そのまま仕事に持ち込める。たとえ競合になっても負けない。──やがて、そんな自信が生まれ、新しいお客様からもどんどん仕事がいただけるようになっていきました」。以前はマンション主体だった案件もクリニックや保育園、住宅等々さまざまな建築を依頼されることが増え、人手不足でスタッフを雇うことを繰返すようになっていったのである。「ずっとARCHICADを使い続けている私も、いつの間にか操作練度が大きく向上していました。そこでスタッフにもARCHICADを教えて社内へ普及させていったのです」。これによりさらに生産性が向上して依頼件数が増え、新人を入れて……という流れが生まれ、ARCHICADを核とした理想的な成長サイクルが完成。このサイクルを回転させることで、同社は急速に発展していったのである。

「前述のとおり、現在では年間30件超の案件を動かしており、さすがにもう飛び込み営業はやっていません。依頼の半分はリピーターか紹介で、残り半分も大半Web経由の受注となっています」。このWeb経由の依頼が増えたこともあって、同社のフィールドは地元から大きく広がった。各地へ移動しやすい東京に新拠点を出したのもそのためだ。事実、それ以降は横松氏も栃木と東京の2拠点を頻繁に行き来しながら客先や工事現場を訪問して回ることが多くなり、オフィスにはほとんどいられない状況が続いているという。

「今はどこでもネットワークが普及しているので、出張続きでもMacBookさえ持って行けば、ARCHICADは問題なく使えるようになりました。新幹線はもちろん、普通電車でも座れれば作業しているんですよ。マウスは旅先では邪魔なので携帯せず、キーボードとタッチパッドだけで操作しています。タッチパッドでモデリングするのは私の得意技ですよ」と横松氏は笑う。一方、顧客とのやりとりにはSkypeなどのTV通話も積極的に活用している。ARCHICADの画面を共有し、モデルを動かしながら説明し、打合せするのである。さらに仕上ったパースやBIMxを顧客へ送れば、先方はキャプチャを撮って修正指示や要望を描き込んで返送してくる。後はこれにできるだけ早く対応していくだけだ、と横松氏はいう。

「もちろん重要な局面では直接お会いして打合せしますが、通常のやりとりはネットワーク経由で問題なく進められます。さらに、最近はChatworkなどのビジネスチャットツールで、スタッフやお客様、施工者等ともやりとりすることも多くなりましたね。スタッフから仕上ったパース等がどんどん送られてくるので指示を入れて返せば、いちいちオフィスに戻らなくても作業は進められます。それが完成すれば、今度はお客様や施工者とも共有していきます」。実際に顔を合わせる打合せの前に、こうしたツールを駆使してできるだけ「濃いやりとり」を積み重ねておきたい、横松氏はそう考えている。そうすることで、実際にお会いした時、短時間でより内容の濃い打合せができ、決めごともスムーズに行えるのだという。

「このように高密度かつスピーディに進行していく上で、ARCHICADは絶対に欠かせないツールです。たとえばいま一番注力している中国の大型プロジェクトも、やはりARCHICADなしには絶対ありえない案件でした」。この案件──横松建築設計事務所初の海外案件となる「徽音国際森林幼児園」プロジェクトは、2017年の暮に同社へかかってきた一本の電話から始まった。

Web経由で海外から初オファー


中国企業発注の大型プロジェクトへ初挑戦。大胆な発想と「形」で見せる提案により獲得した 「あなたに全て任せる!」という信頼の言葉

「私は外出中でしたが、あの時は本当に驚きました。出先から戻ると、スタッフが“幼稚園のプロジェクトで問合せがありました”と言うのです。そして“中国から”と続けたので思わず“えーっ?!”って(笑)」。もちろん当時の横松氏に中国への伝手などなく、海外からのオファー自体が初めてのことだった。なぜウチに?と、横松氏が半信半疑になったのも当然だったかも知れない。「後で聞くと、この中国のお客様もやはり当社のWEBサイトを見て、声をかけてくれたようです。あのページではARCHICADによる3DやBIMの作品をふんだんに紹介しているので、それが気に入られたのでしょう」。当時、依頼者は日本に滞在中だったため、すぐに打合せを行うことになったが、そこで横松氏は再び大いに驚かされることになる。示されたプロジェクトが、規模・内容ともに彼の予想をはるかに超えていたのである。

「中国西部の青海省西寧市に収容数500名規模の幼稚園を建てたい、というのです。幼稚園は私もたくさん作りましたが、こんな大規模なものは初めて。当社にとっても最大級の幼稚園プロジェクトでした」。西寧市は青海省の省都であり、チベット高原の古都としても知られる街。省都だけに多くの政府施設が置かれ富裕層も数多く暮しているが、他方では幼稚園(中国では「幼児園」)の数が少なく、特に教育熱心な富裕層が求めるような施設はほとんどない。依頼者はそこに大きなビジネスチャンスを見出したのである。

「部屋数や面積などプロジェクトの要項は中国の基準に基づいた内容が提示され、さらに“セキュリティのため外部から閉じられ、しかも利用者が閉塞感を感じないで楽しく回遊できるような建物を”と要望をいただきました」。これに応えて横松氏が提案したのは、内部に向けて開いた「八の字」平面の中に2つの中庭を取込んで立体的に交差させた、一見とても幼稚園とは思えないような奇抜なデザインだった。「平面を回遊するより、立体的にして縦横無尽に駆け回る方が楽しいでしょう? そこでメビウスの輪のように建物を立体交差させ、地下1階から地上2階まで、中庭を介して園全体を回遊できるようデザインしました」。

鉄筋コンクリート・地下1階地上2階で1万㎡に及ぶこのプランは、インパクトのある美しいデザインで顧客を一気に魅了した。横松氏はすぐに「全て貴方に任せよう!」という言葉をもらうほどの信頼を獲得したのである。──だが、実はここに至る横松氏の挑戦は、決して平坦な道のりではなかった。

短期間でプランをブラッシュアップ

「実は最初のプレゼンでは、メインのA案とサブのB案の2案を提案したんです。当然、私たちはA案推しだったんですが、顧客に大受けしたのは意外にもB案でした」。そこからの柔軟かつスピーディな対応が横松氏の真骨頂と言える。先方から感想を聞き出しその嗜好を読み取ると、現地の顧客オフィスにデスクを借りて、ARCHICADを抱えてみずから「缶詰め」となったのだ。そして、ARCHICADのチームワーク機能で、アシスタントと共に短期間でB案を膨らませてブラッシュアップ。「メビウスの輪」案を作りあげたのである。

「最初の反応には意表を突かれましたが、そこで施主の好みも把握できました。後はそのツボを押さえて形にしていけば良いわけです。時間が無くて大変でしたが、ARCHICADならこんな対応も難しくありません」。こうして短期間で作り上げた「メビウスの輪」案と圧倒的な対応力で、横松氏は一気に信頼を獲得したのである。「このB案も最初は普通の八の字型でしたが、中国の法規に照らすと入らない箇所があったので、修正を重ねて楕円形の八の字になりました」。

こうして楕円八の字型のメビウス案が正式に採用され、プロジェクトはいよいよ本格的に動き始めた。まずは体制づくりである。発注者は横松氏に意匠設計を全面的に任せる一方で、確認申請や構造設計、電気設計、設備設計等を中国の建築法規を知悉した現地設計事務所に一任。横松氏との協業体制で設計施工を進めていく体制となった。実は横松氏は中国語も英語も片言ていどだったが、協業を成功させるには、現地設計事務所や工事業者等の中国側スタッフとの密接なやりとりが欠かせない。また、中国の建築法規や社会事情への理解も必要だ。しかし、現地は日本から飛行機で最速で10時間かかり、現地踏査もままならない。大きな組織設計事務所ならプロジェクトチームを作って専門家の支援も期待できるだろう。だが、横松氏は先頭に立って進むしかなかった。

「特に大変だったのは、やはり言葉の問題です。お客様が通訳を付けてくれましたが、細かい打合せはやはり難しくて……しかも中国のプロたちはみんな非常に押しが強く、容易には納得してくれません」。だが、そんな彼らを説得してプランを認めさせられなければ、プロジェクトの円滑な進行は難しくなる。そこでまたしてもARCHICADの出番となった。「とにかくARCHICADさえあれば、3Dで形を見せながら説明できますからね。お客様であれ、中国の建築のプロたちであれ、プランを理解させ納得させる上では、この3Dの効果が一番大きかったと思います」。

そもそもこの「メビウスの輪」案の3D形状は、立面図等で見せてもなかなか理解してもらえないような形である。特に今回は楕円八の字型を生み出すため、ARCHICADと連携させたRhinocerosを用いて優美な曲面を生成している。これはこの意匠の「売り」の1つだが、同時に2Dではきわめて伝えにくい表現でもあったのである。「その点からも、ARCHICADがなかったらこのプランは話にもならなかったでしょうね」

「分かりやすく伝える」ための工夫と努力

このように日本/中国で業務を分担し協力し合う形で、すでに設計実務や工事の準備も始まっている。日本側担当の設計作業も実施設計の段階に差しかかっており、横松氏たちはARCHICADによる実施モデルの作成にも着手した。「前述の通り、構造・電気・設備の設計は現地設計事務所が担当していますが、意匠については私たちが完全に任されています。そこで、今回は実施設計にもフルBIMを採用。複合構造等の細部まで精密に入力しながら進めています。そのため、中国側ともよりきめ細かなやりとりが必要になってきています」。そこで、これまで通りネットワーク経由でARCHICADやBIMxを駆使して具体的な形を見せながら打合せるのはもちろん、そこにさまざまな新しいツールによる工夫を加えながら、分かりやすく伝える努力を続けているのだという。

「たとえばARCHICADで作成した図面やパースには、和文の説明テキストと共にGoogle翻訳した中文テキストを添え、中国人スタッフに読みやすくしています。また、彼らと直接やりとりする時は中国版LINEである“微信(WeChat)”等も使用しています」。微信でのやりとりは、中文(中国語テキスト)で行うことになる。したがって、相手に中文で質問されたらそれをGoogle翻訳で和文に変換して読み、返信はまた日文を中文にGoogle翻訳して返す──というひと手間をかけながら運用しているという。「でも、慣れてしまえば、これでけっこう普通にやりとりできるんですよ」と横松氏は笑う。

「とにかく、あちらは中国のローカルルールや建築法規に基づいて、“こうすべきだ”と率直に意見してくれます。ですから、ネット越しに毎回活発にディスカッションしながら進めていく必要があるんですね。しかも、彼らはものすごく勤勉なので反応がすごく速くて……だから、こちらもクイックな対応が欠かせません」。いざという時はARCHICADのチームワーク機能を利用して、一気に複数のスタッフを投入。多人数で集中的に作業を行うことで、急な変更や修正のリクエストにも素早く対応しているのだと言う。

自由な感じの働きやすい環境を持った会社でありたい



組織設計事務所のような大組織ではなく、社員が日本中どこでも思う通りに働けるような働きやすい環境を持った会社を目指していきたい

このように、相変わらず社外を飛び回ることが多い横松氏だけに、いまもChatworkや微信で国内外と活発にやりとりしながら、出先やビジネスホテルでMacBookを操作する日々が続いている。ひと昔前の設計事務所では考えられないような業務スタイルだが、実はこの働き方そのものについても、横松氏は「さらに進化させていけるし、進化させたい」と考えていると言う。

「たとえばグラフィソフトのBIMcloudを使って上手くネットワーク化し、そこへChatwork等も組み合わせて活用していけば、拠点はどこへでも出せるはずです。それこそ日本全国に自前のネットワークを張り巡らせて、社員たちの働き方もそれぞれの必要に応じて自由に選べるような職場にしていきたいんです」。その第一歩として、横松建築設計ではすでにフリーアドレススタイルのオフィスへと改装を推進中で、他方では金沢などへ新拠点を出す計画も動き始めている。「だからといって、組織設計事務所みたいな大きな組織を目指しているわけではありません。何というかフリーアドレスやリモートワークなど従来のスタイルにとらわれない自由な働き方の出来る会社でありたいな、と」。そういって横松氏は笑う。

「まあ、そんなことはまだまだ先の話です。今は徽音国際森林幼児園プロジェクトを中心に日々の案件に全力投球していきます。幼児園の着工は2019年4月の予定なので、実施データが完成したらあちらへ提供し、BIMデータでやりとりしながら進めていきたいと考えています。実は彼らとはプロジェクト後も協業していこうと話しており、すでに中国の他の会社からいくつか声もかかっています。国内はもちろん中国での展開も、これからがますます楽しみですね」。

横松社長、専務とスタッフの皆さん
横松社長、専務とスタッフの皆さん

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