東京電力株式会社 「福島給食センター」建設プロジェクト
「福島第一原子力発電所」廃炉作業の労働環境改善を目指して BIMを生かし、より速くより精確な設計施工を実現

東京電力株式会社 「福島給食センター」建設プロジェクト

2011年3月の東日本大震災とこれに伴う福島第一原子力発電所事故から3年半。東京電力は福島の復興を目指し、さまざまな取り組みを進めている。その柱の1つが福島第一原子力発電所の廃炉作業である。30~40年続く、この息の長いプロジェクトを安全・確実に進めるには、ここで働く人々の作業環境の改善は重要な課題だ。その改善策の1つが、現場に温かい食事を提供する給食センターの建設である。2013年暮れに始まったこのプロジェクトは、かつてないスピード設計と施工が求められたが、ARCHICADを用いたBIMの活用により、設計者は確実にこの要求に応えた。プロジェクトの具体的な展開について、福島給食センター建設事業のプロジェクト・マネージャーである児玉達朗氏にお話を伺った。

東京電力株式会社

設立:1951年5月

販売電力量:2,667億kWh(2013年度)

代表者:代表執行役社長 廣瀬 直己

本社所在地:東京都千代田区

従業員数:35,723人(2014年3月現在)

長期に亘る廃炉作業を安全・確実に進めるために

原子力安全・統括部
Jヴィレッジ復旧推進グループマネージャー
児玉 達朗 氏

―― 本プロジェクトが生まれた背景をご紹介ください
児玉氏  当社では、2013年11月8日に福島第一原子力発電所での廃炉作業や汚染水処理対策の加速化・信頼性向上を目的として、原子力規制委員会からの指摘事項等も踏まえつつ、自らが緊急に取り組むべき安全対策を取りまとめた『福島第一原子力発電所の緊急安全対策』を記者発表しました。その方策の中でも作業環境の改善上、重要なものとして、執務スペースの確保や大型休憩所の建設、休憩所での温かい食事の提供等を掲げています。そして、このうち3つ目のミッションである「休憩所での温かい食事の提供」の実現のために計画されたのが、福島給食センターの建設です。

―― 廃炉作業の作業環境はどのような状況なのでしょうか
児玉氏  福島第一原子力発電所では、現在も多くの作業員が廃炉に向けた作業に従事しています。しかし、現状では、作業に従事する方たちのための食事の準備や休憩場所は十分とは言えず、厳しい作業環境となっているのは否定できません。現場で発生するトラブルを未然に防ぎ、長期に亘る廃炉作業を安全・確実に進めていくため、このような労働環境の改善を進めて行くことは、私たちにとって重要な課題の一つでした。

―― 「福島給食センター」の計画概要をご紹介ください
児玉氏  簡単に言えば、実際の作業場所である福島第一原子力発電所内に事務所建物と大型休憩所を建設し、これらの建物に1日約3,000食の調理した食事を運んで食べていただくための福島給食センターを建設するプロジェクトです。建物ができても給食センターとして機能できなければ意味がありません。つまり、建物を建てることだけでなく、調理した必要十分な給食を運んで喫食してもらう所まで含めた一つのシステムですね。このようなシステムを安定的に運営できるようにすることが、私のミッションということになります。

―― このプロジェクトでまず課題となったのは?
児玉氏  まず最初の重要なポイントとなったのは、どこに建てるかという敷地の問題です。給食センターという施設は、建築確認だけでなく保健所から営業許可をいただかないと営業できません。そこで重要になるのが「調理後喫食2時間」という給食センター方式の大原則です。調理後、運んで配膳して食べ終わるまで2時間で済ませるようにしなければ、保健所の営業許可が得られません。ですから敷地は喫食してもらう大型休憩所へ車で1時間以内の範囲で、上水の供給が受けられる場所でなければなりませんでした。

―― 場所は決まっていたのでしょうか
児玉氏  給食センターの建設が決まったのは、前述の2013年11月8日だったんですが、この段階ではまだ敷地は決まっていませんでした。すぐに施設の規模感も考慮しながら候補地を絞り込む作業に入り、翌12月に敷地を決定することができました。給食センターは2015年3月末の完成が求められていたことから,これに間に合わせるには、遅くとも2014年6月までに着工する必要がありました。当時は、自分の経験から言っても、この規模の工事をこのスケジュールで進めるのは相当厳しいと感じました。

鳥瞰パース

「前田建設工業のBIM」

―― どのような点が「相当厳しい」と感じられたのですか
児玉氏  双葉郡大熊町の建設用地が決まったのは、前述の通り2013年12月で、プロジェクトの実質的なスタートは翌2014年1月。6月着工するには、当然それ以前に確認申請を出す必要があります。このタイトなスケジュール下では、確認申請段階での大きな変更はやはり避けたいところですから、その前の早い段階で保健所と細かく調整を行い、計画のスケルトンをきちんと固め、その上で確認申請を行おうと考えました。もちろん保健所との打合せも1回では終わらないでしょうし、これもできるだけ早い段階――例えば1月の早いうちに始めたかった。そして、具体性のある打合せを行うには、そのベースとなる図面が必要になるわけですが……そんな短期間で、いったいどれほどの設計が進められるのだろうか、と考えていました。

―― その設計を行ったのが前田建設工業のBIMチームでした
児玉氏  ええ。とにかくスケルトンがある程度固まった図面を確認申請に出す必要があったので、規模感や動線が読み取れる図面が必要となります。設計者に「最速でいつ上がりますか?」と確認したところ1月下旬なら行ける、というんですね。前述の通り、そんな短期間でこの規模の建物の設計ができるのか?と思いました。保健所の担当者の方とも調整し、最初の打合せを1月22日に決めました。

―― 「BIM」については意識してらっしゃいましたか?
児玉氏  もちろん知識としては知っていましたし、前田建設工業が先進的に取り組んでいることもわかっていましたが、この時点ではまだ、さほど意識していませんでした。というより実務でどこまでそれが効果的なのか、信用はしていませんでした。2週間後に届いた図面は単なるスケルトンの絵などではなく、衛生器具を含めた詳細情報がひと通り入った一般図にきちんと仕上がっていました。いま思い返せば凄いことです。とにかく到底2週間そこそこで出来たとは思えないレベルの図面だったのは間違いありません。

断面パース1
断面パース2

―― その図面を持って保健所との第1回打合せに行かれた?

児玉氏  そうです、前述の通り1月22日でした。ある程度この初回の打合せで保健所からさまざまな厳しい指導をいただき、図面も大きく修正・変更することを求められました。時間は圧倒的に不足していましたが、とにかく確認申請後の変更を避けるためにも、図面をきちんと仕上げなければなりません。すぐに設計者へ修正指示を伝えると、修正版がわずか2日後に上がってきました。私はすぐ計画案の再チェックを行い、これを元に設計者側でも設備・構造をチェック。24日の段階で構造や設備も含めたプロジェクト全体のすり合わせを行ないました。そして、この修正結果を持って、2回目の保健所との打合せに臨んだのです。

圧倒的な変更対応の速さに初めて感じた「BIMの凄さ」

PLAN

―― 2回目の打合せはスムーズに進んだのでしょうか

児玉氏  なかなかそう都合よくはいきません。2回目の保健所との打合せは2月12日でしたが、ここでもプラン自体にかなりの変更が必要になるような指摘をいただいてしまったんです。簡単にいえば、部屋の入れ替えみたいな変更でしたね。

―― 変更の内容を具体的にご紹介いただけますか

児玉氏  給食センターのような施設は、厳密な衛生管理が求められる衛生区画と、そこまでは厳しくない区画とを厳密に区別しながらプランニングします。衛生区画の入退室も厳密な管理が求められます。この衛生区画と外の区画との動線のチェックはかなり厳密で実際に作業に従事するスタッフに見合うだけの設備やスペースの妥当性までチェックを受けました。

―― この段階からそこまで細かく?

児玉氏  厳密と思われるかも知れませんが、当然のことなんです。例えば、後になって洗面器が1つ足りないから増やそうとしても、設備の関係などからそう簡単には変更できないことも多いのです。もし施工が始まってからそういう変更が生じてしまったら、やはり工程の遅延に繋がりかねない。そうしたリスクは避けたかったので、設計図書もこの段階からそこまで詰めたクオリティで上げてもらい、保健所にもそれに見合った具体的な運営レベルのチェックをしていただいたのです。結果として、プラン的には大幅な変更も多くなりましたが、必要なことでしたし、私自身にとっても非常に勉強になったと思っています。

―― その次の3回目の打合せは?

児玉氏  3回目は2月26日です。ここでもまた、かなり細かなご指導をいただきましたが、それさえきちんと修正すれば、ほぼこれでよかろうという内諾をいただきました。これを受けて建築確認申請を出すことができたという運びです。具体的には3月19日に都市計画法29条申請を行い、5月29日に着工しました。つまり、わずか2ヵ月半で29条申請を行ったわけで、これはやはり相当にスピーディな進行だったと言えますね。もちろん年始の段階で地元・大熊町役場の方々に多大なご協力、ご指導をいただき、協議にも時間を割いてもらえたのが一番大きかったのですが、同時にこのスケジュールに沿って質の高い設計が上がらなければ協議を進めようがなかったでしょう。本当に設計作業全体のスピード、特に修正への対応の速さは圧倒的でした。この時、あらためてBIMって凄いな、と意識しました。

ARCHICADを自分たちが使うべきかもしれない

―― BIMのどのようなところに驚きを感じたのですか?
児玉氏  何と言っても「なぜこんなに早く、設計の修正ができるのか?」と不思議に思うくらい驚かされました。例えば、保健所に対する設計の説明は事業者である私が行うことが求められていました。従って、私としては事前にこれを確認する必要があるので、打合せ当日のアップでは間に合わず、遅くとも打合せ前日に確認ができるよう上げてもらわなければなりません。しかも、その場で上がってきた図面に問題が見つかることも多々あります。その時は、例え、時間がなくても、修正を指示しました。

―― そのタイミングでの修正はスケジュール遅れに繋がるのでは?
児玉氏  ええ、普通こんなタイミングで変更指示が出たら、指示された方は「打合せは1週間後に伸ばしてください」と頼んでくるのが一般的でしょう。ところが前田建設工業は「わかりました。大丈夫です」と翌日きっちり修正してくる。こういうことがその後も何度かあって、その度にすぐに直ってきました。大げさでなくほとんど瞬間的に変更が効くイメージでしたね。

食堂パース

―― 修正の速さがなぜそれほど重要なのですか?
児玉氏  これは単に修正対応が早いというだけの話ではありません。コンピュータ内に作られたバーチャルビルディングがきちんと建物として成立し、データとして整合が取れていたことを示していると受け止めています。例えば、意匠図を直したら設備図と整合が取れなくなってしまったとか、構造と整合が取れなくなったとか、よくありますよね。ところが今回はそういう手戻りがありませんでした。つまり、変更したそれぞれの段階できちんと建物として成立し、設計も完結しているのです。現場が始まっている現在でも設計見直しによる工程の遅れが現場では一切そういうことがない。BIMによって設計データがそのまま施工データにシームレスで流れるので、大きな落ちというものがなく、だから工程も読めるのです。こうやって設計工程をきちんと正確に確保できたことは、工事全体を速やかに進める原動力になりましたね。

見学コースからのパース

―― BIMの威力を実感された?
児玉氏  そうですね。BIMの凄さは、プロジェクトに関与してみないとわからないと思います。BIMというのは、同じ建物をコンピュータの中と現実とで2回建てているようなものですね。PCの中で1度建てたものだから、2度目の現実での施工では、自信を持って要件を満たす建物が建てられるのです。実際、前述の通り5月29日に着工した工事はその後も順調に進んでいます。9月半ば時点で、鉄骨の検査も終えて、現場は建て方を準順調に進めています。私自身、これほどスムーズな現場は、倉庫のような単純な建物の場合くらいしか記憶にありませんね。

―― 発注者として、今後BIMの活用はどうなると思われますか
児玉氏  そうですね。あの信じられないようなスピード対応を可能にしただけに、発注者の立場としてどう活用できるか、検討する必要がありますね。私もARCHICADを使ってみました。3次元はほとんど初めてでしたが意外なほどすんなり使えたし、逆に私たちが使うべきかな、とも思いました。例えば私たちが企画にこれを使い、ラフなBIMデータを作って渡せば、より意図に合った建築ができるのかもしれない。そうやってBIMの活用が進んでいけば、竣工後は例えば、ファシリティマネジメント分野等にもBIMデータを生かすことも考えられます。 また今回の工事では、受注者が積極的にBIMを活用しましたが、全ての工事でこのような形になるとは限りません。発注者もBIMを意識し、理解しないと、これまで発注者が受注者を選ぶようなことから、受注者が発注者を選ぶようなことが起こるのかもしれません。とにかくBIMは、私たちにもいろいろな可能性を感じさせてくれますね。

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