「群雄割拠」を勝ち抜くためのBIM導入
田原泰浩建築設計事務所 代表 一級建築士 田原泰浩 氏
「広島はアトリエ事務所を構える設計士が非常に多く、有名建築家も多数いらっしゃいます。いわば群雄割拠のここでやっていく以上、同じことをしていては勝ち抜けません」。独立当時を思い出しながら田原氏はそう語る。総合設計事務所の構造設計担当としてキャリアをスタートした同氏は、次にアトリエ事務所で意匠設計を、さらにはゼネコンで施工現場を経験し、建築の一連の流れを体験したのち独立して事務所を構えた。そんな田原氏が他社差別化を図るために重視したのがツールの選択だ。
「当時、広島の設計事務所の設計ツールはJW_cadが一般的でした。そこで独立を機に新しいツールで事務所に付加価値を加えようと思ったんです。特にお客様への訴求力を重視していたので、パース造りに使えるもの探しました。当時は2.5次元CAD等で作るCGパースが主流でしたが、それを真似しても他社差別化にはなりません。
そこで思い出したのが、私がゼネコン勤務時代に触れたBIMです」。その数年前に、田原氏は当時の勤務先で別の外国製BIMソフトに触れ、そのBIMという概念に強い印象を受けていたのだと言う。CGソフトなどで作成したCGパースはどこまでいっても“張りぼて”で、用途はそれほど広がらないが、BIMモデルなら建築のあらゆるフェーズで多彩な図面と連動し、幅広く連携して活用することができるのである。
「将来的にはこのBIMが建築設計の新しい流れになるだろう、と密かに考えていました。しかも、当時はまだBIMを知る人も少なく、私が先行してこれを活用できれば、それだけで他社にない武器になる、と思ったんです」。早速BIMソフトの研究を始めた田原氏は3つのBIMソフトを知り、比較検討を開始。程なくそのうちの1本であるARCHICADの導入を決めた。選択ポイントは、BIMソフトとしての機能に加え、“建築デザインツール”としてのずば抜けた自由度の高さである。ちょうどそのころ、同氏が建築雑誌で見た、建築家 井手孝太郎氏の作品が教えてくれたのである。
「3次元曲面で構成された巨大な貝殻みたいな建築がARCHICADで設計されたと知り、“これだ”と感じたんです。自分も3次元曲線で構成された建築を作りたかったんですが、そのような3次元的な建物の図面を正確に描くことはすごく大変そうで……。言わば、従前のツールの限界がクリエイティブを制限していたんです。ところが井手さんの作品を見て、ARCHICADならその限界を超えられると気づいたのです」。
「実施設計までやってみる」ことの意義
こうしてARCHICADを導入した田原氏だったが、当時は身近にARCHICADに詳しい人間はおらず、操作解説マニュアル等もまだほとんどなく、半ば手探りするようにしながら操作を学んでいった。
「グラフィソフトのコールセンターにはずいぶん助けられました。1日3〜4回も問合わせていましたが、いつも丁寧に教えていただけました」。それでも、当初なかなかフル活用は難しかった。初期段階のボリューム検討やプレゼンCG制作には使えてもBIMへの展開は難しく、「本当は実施設計までできる」と分っていても高いハードルを感じていたのだという。同氏にとって大きな課題だったが、ある大型案件の受注を機にターニングポイントを迎える。
「大型の老人福祉施設なんですが、最初はプロポーザルの形で土地も決まってない段階から参加しました。そして、この土地ならあんなことができる・こんなことができると、ARCHICADのゾーンツールで面積を出すなどして提案を続け、任せてもらうことになったんです。で、その時腹を括りました。ARCHICADで実施設計まで全部やってみようと」。その建物は20平米程の小さな部屋が並ぶような形で「BIM活用にもってこい」だった。そこで、このプロジェクトを通じARCHICADをフルに、トータルに使いこなそうと決意したのである。
「BIMなら申請時の不整合は防げるし、現場が始まれば工事会社とのコミュニケーションも円滑に進められます。まあ、詳細図作成の段階では逃げ出したくなることもありましたが、何とかやり通して……結果、いろいろなことが見えてきたんです」。
大胆な割り切りでBIMフル稼働へ
「見えてきたのは、実は手の抜き方なんです」と田原氏は笑いながら言う。設計者は生真面目な人が多く、ARCHICADの初期入力も教科書通り全てをきちんと入れようとすると同氏は言う。だが実際はそこまで手間をかけなくても問題ない事も多いのだ。
基本段階はむしろ簡単に入れるのがコツなんです。通してやることでその加減が見えてくる。どんな物を入れるとどんな風に出力されどんな形になるか分るんですね。教科書通りでなくていいんですよ」。たとえば「手すり」を入れるのに、常に手すりコマンドを使う必要はない。初心者はその名称が示すコマンドで全てを描こうとしがちだが、仕上がりが「手すり」に見えれば別の描き方でも問題ない。最終的に2次元化して修正を加え、詳細図に仕上げればそれでいいのである。
このような大胆な「割りきり」により田原氏のBIM運用は大きく幅を広げ、いまや多様な設計シーンでメリットを生み出し始めている。時に柔軟性に富んだデザインツールとして、パワフルなプレゼンツールとして、そして的確かつ容易に意識共有できるコミュニケーションツールとして効果を発揮し始めているのである。
「たとえば前述の老人施設のプロジェクトでも、たまたま施主さんがiPadを購入されたので、すぐに3Dモデルをお送りしてBIMxで見ていただきました。これは非常にインパクトが大きかったですよ。施主さん自身が自宅でモデルをくるくる回し、ウォークスルーで中を歩いて、その空間を体感することに夢中になったんです。だから確実に意識共有を図れて、手戻り等のロスも削減できました。もちろん、対工務店の場合も同じように効果的でした」。
現在、田原氏の事務所では自社受注案件と他事務所の設計支援が半々という比率となっているが、自社案件については全てARCHICADによるフルBIMでの取組みを基本としているという。
「ARCHICADによるBIMを売りにして一歩先んじる。これが当面の目標です。もちろんスタッフにもARCHICADを使ってもらえる環境にしていきたい、と思っています。将来彼らが独立したら、BIMサーバ等を利用してコラボしていければ最高です。ARCHICADなら、きっとそれができると思いますよ」
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