株式会社シスケア
MITO architecture + design
学研グループのDX推進プロジェクトが
BIM導入の後押しに
「そもそも建築は3次元。だから設計ソフトも3次元で考えることができれば、発想自体も豊かなものに変わるはず」。そう考えたのはシスケア代表取締役の関塚氏だ。
BIMを導入したのは2019年、複数のBIMを比べたなかで、Archicadにおけるモデル作成のやりやすさや、色の変更など直感的な操作ができる点に魅力を感じ導入を決めた。社内で使っている設計ツールとの相性が良い点も評価してのことだった。
また、ちょうど同時期からシスケアが参画している学研グループが「DX加速」を推進していることもあり、BIMでの設計業務による業務効率化に取り組むことは喫緊の課題として掲げていたのである。その後シスケアでは、BIM活用における業務効率化に注力し、それによる業務拡大の可能性を今なお模索している最中だ。
本記事では、どのような取り組みをして社内に浸透していったのか、またどうやって使いこなしているのか、具体的に紹介をする。
「BIMの推進は、学研グループ内においては『DXを活用した業務改善、新規事業の推進』に貢献しているとして表彰を受けました。また、BIM推進はISO14001認証時に外部審査の評価対象にもなっています」
導入コンサルタントとタッグを組みスムーズにスキルを習得
シスケアのBIM導入・定着の伴走者として白羽の矢が立ったのは、導入コンサルタントの三戸景氏だ。BIMを導入して1件目の設計製図は社内のみで、まさに手探り状態で取り組んだものの、仕事が思い通りに進まない苦い経験をしたという。「Archicadの情報は検索すれば必要な情報がたくさんでてきて便利です。
しかし2件目の設計をするにあたり、教えてくれる人が必要なことが分かりまして、グラフィソフトジャパンから紹介していただいた三戸景さんにコンサルティングを依頼しました」と嵯峨氏。
三戸氏に声をかけたことにはこのような背景があった。「Archicadを導入するにあたって、すでにスキルのある人材をオペレーターとして採用しようと考えていました。しかしグラフィソフトジャパンの営業担当者に相談したところ、『人材採用よりも社内の知的財産にするためにスキルを学んだ方がいい』とアドバイスを受けたのです。
その適確な助言があったおかげで、迷いなく社員教育に投資することができました」と関塚氏は当時を振り返る。
「私たちの取り組みの成果としてBIM導入から4年が経った今では社内の設計担当者20名のうち3名はArchicadを使いこなして実設計を行い、10名はパース作成のスキルを身に付けています」(嵯峨氏)
依頼を受けた三戸氏は、BIM先進国であるアメリカで豊富な知識を学び、実務経験に基づいた活きたノウハウを持ち合わせている。導入コンサルティングでは、BIMとはなにか?Archicadとはなにか?といった基礎知識から、社内で運用しやすくするためのテンプレートづくりに至るまで、BIMでの設計業務にスムーズに取り組めるまでの準備を整えた。「三戸さんに来ていただいたおかげで、社内でBIMによる設計手法を確立し、目標にしていたテンプレート化を達成することができました」と関塚氏が話すように、三戸氏の支援もあって、シスケアでは右肩上がりの成長曲線を描いてBIMのスキルアップに成功。国土交通省が実施した「令和2年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」に応募するなど、着実に実績が増えている。
その後も社内でのBIM普及、利用者増加のために各スタッフの習熟度チェックができるスキルマップの作成・運用など、入社して間もないスタッフもスキルアップできるように体系立てた取り組みに果敢にチャレンジしている最中である。
Archicadの導入コンサルタントとして、日本全国で活動をする三戸氏
プレゼンテーションに活用
シスケアでは、Archicadでつくった3次元モデルを元にパースや動画を作成し、これらを施主へのプレゼンテーションに活用している。「以前はイメージパースを外部の協力業者に依頼し、更に模型をつくって立体のイメージを伝えていましたが、この方法ですとプレゼンまでにかなりのコストと時間がかかっていたのです。
ですがArchicadを使ってインパクトのある提案ができればその必要がなくなります」と、関塚氏は業務効率化とコストカットについてのメリットを話す。施主との意思疎通のしやすさを語るのは、設計担当の嵯峨氏だ。
「従来式の2次元の図面を見せながらお客様に話しても、残念ながらまったく伝わっていないこともありました。しかしArchicadでプレゼンをすればそういった行き違いが起きず、合意形成までのスピードが驚くほど早いです」。加えてシスケアでは、プレゼンテーションに複数のプランを練り上げて提出することも実施している。「先日はオフィスビルのコンペがありまして、シスケアからは6案をお持ちしました。実は提案をする前に社内コンペで選出しようとしたのですが、どの案も捨てがたく(笑)。せっかくつくったので6案すべてをお持ちしたところ、『どの案からも設計者のデザイン意図が伝わってくる』と非常に満足していただけました。
短期間に複数案も出せ、しかもこちらの意図していることを伝えられたことは、Archicadだからこそ実現したことです」と関塚氏。Archicadを活用したプレゼンは施主に驚きを与え、そして設計者への信頼度をアップさせることにつながっていく。意思疎通のしやすさは施主との打ち合わせに限ったことではない。
建設現場で働く外国人労働者と言葉の壁をこえて意思疎通ができるツールとしてもBIMが一役買うことは間違いないだろう。
「外国人や、現場経験が浅い職人にとっては、2次元よりも3次元で伝えたほうが視覚的に理解できます。意思疎通で役に立つのは施主へのプレゼンだけでなく、職人さんへの指示も同じことですね」と、嵯峨氏は確かな手応えを感じている。
木造の保育園プロジェクト木造の保育園プロジェクトで、構造検討した時のパース。(新松戸ゆいのひ保育園)
RC造の特別養護老人ホームのプロジェクトで日影検討時のパース。(特別養護老人ホーム新宿和光園)
建物のメンテナンス対応に期待
BIMを使って設計をすることはつまり、建物の長寿命化に直結しているとシスケアでは考えている。
学研グループでは運営している高齢者施設が200棟近くあるが、メンテナンスの際に竣工図を参考にしたくてもすぐには確認できないケースが頻繁にあるそうだ。「そもそもBIMで設計していれば、その情報はモデルとして半永久的に残しておくことができるのでメンテナンス上の価値が上がります。これは、長い目でみたときに施設運営側のメリットとして見出せるでしょう」と関塚氏。
建物の長い生涯を見据えた、的確で無駄のない、“正しい維持管理のガイドブック”としてのBIMの活用方法を検討し、さらには建てるときとその先のメンテナンスを含めた新しいビジネスモデルの構築まで視野に入れている。
BIMを使って設計すれば、建ててからは見えなくなってしまう壁の内側の情報までも、3Dモデルに残すことができる。
採用活動における魅力的な訴求ポイントに
Archicadを導入したことで、思いがけない成果も生まれている。シスケアでは、設計者の求人広告を出す際に「Archicadを使える方、優遇」と訴求をしたことで予想を超えたよい反響があったという。
「20代の若い設計者の多くは、BIMを使って設計をしたい方が多い印象です。他の設計事務所でArchicadを使っていた熟練者からの応募も多く、新卒・中途ともに予想以上の反響が得られています。その方たちの多くは、根っからのものづくり好きで、豊かな発想を持ち合わせた方が多いように感じています」と関塚氏。
建築業界の採用難が叫ばれて久しいなかで、Archicadの導入によって効果的な採用活動につながっているのは嬉しい副産物である。
「BIMは設計者が本来やりたい設計に専念することができるツールです。プレゼンテーションでお客様が分かりやすいと言ってくださることと同様に、分かりやすいことは設計者にとっても意味深いものになっています」(三戸氏)
3次元だから頭のなかで設計がキレイにまとまる
「BIMの魅力は、モデルを自分で回しながら、建物の全体像と詳細な部分を行ったり来たりできることです。自分が行っている設計のすべてが頭でキレイにまとまって、自分の目で確かめながら関連的にとらえることができようになります。オペレーターが設計図をつくるのではなく、設計者が設計図を作ることに意味があります」と話すのは導入コンサルティングを行った三戸氏。
2次元で図面を書いていたときと比べ、3次元に反映して検討をすることでより具体的に詳細な部分までつくりこむことができ、設計という行為自体が充実したものになるという。また、関塚氏も3次元での設計業務をこのように評価した。「2次元で図面を描いていたときは、不整合を見つける作業をしているような気分になるときもありました。しかしArchicadを使えば、図面がモデルから自動的に作成されるため、常に整合性を保たれたものができます。2次元のときに起きていたような不整合は少なくなるので、確実に業務効率化につながっています」。
海外展開を視野に入れたシスケアのこれからとは
シスケアは長きにわたって専門的に高齢者施設・福祉施設の建築設計を行うことで、確かな知見を蓄積してきた。今後は、その事業フィールドを海外に向け、アジア地域の福祉関連施設の設計コンサルティング業務を視野に入れている。
「基本的な人の動線は世界中どこへ行っても変わりませんし、私たちは非常に応用ができるノウハウを持ち合わせています。もちろん国によって法制度が違うので現地の設計会社の協力が必要になってきますが、このノウハウを活用したコンサルティングなどは行っていきたいです」と関塚氏。
海外で設計を行う際も、またコンサルティングをするときも、世界各国で利用できるBIMを使い、BIMモデルを核に仕事をすることで言葉の壁を越えた品質のよい仕事ができることを願っている。海外と国内のやりとりはBIMcloudを使えば、いつでもどこでもコラボレーションすることができる。「私が設計の仕事をスタートしたときに、手書きからCADへと設計ソフトがアップデートしていきました。きっとこれからはCADからBIMへと変わるんでしょうね。何年かかるかわかりませんが、この変化を恐れずに、みんなで取り組むことで、業界の底上げをしていきたい。
もう“できない”なんて言えない時代が来るはずです」と関塚氏は未来を見据えて、力強く抱負を話してくれた。
これからの活躍に期待をしていきたい。
新松戸ゆいのひ保育園
特別養護老人ホーム新宿和光園
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