スズケン一級建築士事務所 代表の鈴木貴詞さん
善光寺公認案内人でもある。
善光寺門前町に事務所を構える鈴木貴詞さんは、長野に移住して12年が経つ。もとは東京・目黒でアトリエ設計事務所を営んでいたが、家族で子どもにとって環境の良い長野に移住を決めた。鈴木さんが現在抱えている仕事は、5案件。一人で回すにはあり得ない数だが、それが実現できるのには理由がある。
ひとつはArchicadの導入、もうひとつは学生アルバイトの起用。鈴木さんがArchicadを購入したのは2015年のことだ。「購入後しばらくは、操作を試してみたり本を読んで勉強してみたりと、練習だけを繰り返している状態でした。ところがその翌年、京都の小さな町のプロポーザル方式の案件が入ったので、これを機に意匠、構造、設備までフルBIMでやってみようかと」それは、夏にコンペがあり竣工が年度末という超短期スケジュールのリノベーション案件だった。
役所仕事なので、とにかくスケジュールが命。「ところが、実施設計も終わっている段階で、繋がっていた建物を切り離すという大きな変更が入ったんです。平面図から立面図、展開図、構造まですべてに絡むことなので、普通にやればどんなにがんばっても2週間はかかる作業でしたが、変更期間はたったの3日。それがArchicadを使うことでなんとかやりきることができました」部分的に使うのではなくフルBIMで、一つのファイルでまとめて作業していたからこそ実現できた。これが、BIMモデルのメリットを強く実感する出来事だった。
鈴木さんは毎年夏休みに、大学2年生向けに無料BIM講座を開催している。2年目からオンラインにすると、信州大学以外の学生たちも参加するようになった。学生はグラフィソフトの教育無償プログラムを利用して、ダウンロードしてから参加する。
11人の大学生とひとりの設計士
BIMを使って百人力
「Archicadを使い始めるまでは、ものすごくたくさんの模型を作る事務所でした」と振り返る、鈴木さん。「忙しいときは学生アルバイトが何人もいて、どんどん模型を作ってもらっていました。
2DCADで図面を描いて、模型を作り、お客さんに見せるためにCGを作って、変更があるとまたそれぞれ作り直して。正直、結構消耗する作業でした」Archicadを使うようになってからは、ひとつのデータで図面はもちろんのこと、CGも連動するし、動画やVR上でのプレゼンまでできるようになった。「僕たち設計者は、実際の建物を紹介するときも、模型を箱から取り出すときでも、こちらの意図をしっかり伝えるためにどこを最初に見てもらって、どういう順番で紹介していくのかということをとても大切にしています。
これまでのVRだと中に一人しか入れなかったので、お客さんだけ仮想空間に入ってもらって僕たちはパソコン画面の外から建物の説明をするという外部からの解説で、理想的なプレゼンができなかったのですが、あるときNeosVRというソフトを勧められたんです。NeosVRを使えば、関係者が全員入った世界で建物の中を自由にアテンドできるようになります。まだトライアル状態なのですが、今後間違いなく、うちのプレゼンテーションの主流になっていくと確信しています」BIM設計やVRとの連動、そうした新しい取り組みの片腕となってくれているのが信州大学をはじめとする大学生たち。「最初は模型を作ってくれている学生たちに、ちょっとBIMを教えてみようかな、という気軽な気持ちでした。ちゃんと教えたら、学生たちって結構図面が描けるんです。Archicadの特異性でもあると思うのですが、もともと建築設計のための道具なので効率的に描けるようにできていて、ある程度建築の基本的な知識があれば図面が描ける。
そうすると僕は微調整だけやればよくて作業量がかなり減ったので、これはいいぞって。今2、3人設計士が必要な仕事量を、僕プラス11人の大学生とで回しています」学生たちにとっては、学んだことが実践できる貴重な機会。
正月やお盆休みには実家から仕事をしたり、住み込みでスキーをやっている学生がスキー場から仕事をしたり。遠隔からでも同時に作業ができるOneDriveを活用しながら、ワーケーション。次世代ならではの働き方で鈴木さんを支えている。
鈴木さんがiPadでOneNoteにスケッチを描き、それを学生たちが立体化する。指示出しは正確性の高い二次元図面で。この作業を何度も繰り返して形にしていく。
Archicadの複雑な操作などは、先輩学生が後輩のためにSlackやYouTubeに情報をまとめてくれている。
VR上で施主とコラボレーションして設計し
デジタルファブリケーションでアウトプットする
昨年末に『XRcreativeaward2022』の一次審査を通過したのが、“XRFR(XRforReal)実世界を豊かにするためのBIMとXRとデジタルファブリケーションの運用”。
これは、Archicadで作った既存住宅に犬の柵を作るというプロジェクトで、住宅は京都にありながら、鈴木さんと信州大学の学生は長野から、千葉からは東京芸大の学生、茨城から千葉大の学生が同時に仮想空間に入ってそこで設計し、デジタルファブリケーションで柵を完成させた画期的な取り組みだ。
Archicadで設計した平面図。
ArchicadのオープンBIM機能で、Rhinocerosへデータをインポートする。
NeosVRに繋げて仮想空間の中へ。
CGで見た外観。実際は京都に建っている。
VRゴーグルを装着して施主と鈴木さん、学生みんなで仮想空間へ。
家の中はArchicadで細部まで設計したので、実際とほとんど変わらない。
VR上で場所の確認、素材や高さなどの希望を聞いて再現しながら、犬用の柵を設計していく。
CNCルーターで出力するためにデータ化する。
CNCルーターで切り出していく。
パーツの完成。これを京都に送って施主が組み立てる。
VR上で想定した犬用の柵。
実際に取り付けた犬用の柵。
2023年に竣工した犬と泊まれるホテル「VILLAINUTO」。「模型については、単純化したり抽象化したり、コンセプトを作るようなときには、シンプルに相手に渡すという意味で物理的にあるものだし、それはCGやVRでは得られない部分なので、要所要所で使っていきたいです」。
建物と人間のツナギになるような設計をしたいから、デジタルをうまく利用する
今一緒に仕事をしている学生との合言葉は“PCと作業着”。そこには、「どんなに効率的になっても、手触りというか作業着を使うことは絶対にやろう、その時間を充実させるためにそれ以外の部分を効率化する」という思いが込められている。「クリエイターの端くれとしては、余白を残しておかないと絶対に息切れしちゃうので。そのための効率化と思うと、今やっていることも自分の中では胸にストンと落ちています」VRについては、精度にはまだ課題が残るものの、鈴木さんは別の視点で新しい可能性を感じている。「現場って分業なので、建物とお施主さんと僕らってあるときから乖離していく感覚があるんです。
それがデジタルを突き詰めることで身体的に気軽にジョインできるようになれば、結びつきが強くなるなって。例えばそこに、構造や設備、環境設定のエンジニアなんかも一緒に入って、瞬間的にビジュアライゼーションしながら強い建物なのか、あったかい建物なのか、そういうものをVRの世界で全部同時に評価できたら、物理的な結びつきは逆に強くなりますよね。三次元って考えることが多いのでいきなり作るのはとても難しいことなんですけど、将来的にはそういうところまで実現したくて色々試しているところです」
“PCと作業着”の象徴になっているのが、デジタルファブリケーションを使ってみんなで作った17階建てのキャットタワーだ。
鈴木さんの事務所が入っている『KANEMATSU』は、倉庫として使われていた3つの蔵を鉄骨や木造の平屋で繋いだ建物。カフェ、古本屋、ギャラリー、
シェアオフィスなどが入っている。
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