代表取締役 高橋武志氏
チーフデザイナー 大濱直子氏
中国国営企業が絶賛したBIMxプレゼン
「まずご紹介したいのは、上海中心部に計画された床面積10万㎡の大型プロジェクトのコンペです」。高橋氏が見せてくれたのは、中国国営企業が発注した大型商業施設の案件だ。日系企業3社、中国企業2社、台湾企業1社が参加したこのコンペは、大型案件にもかかわらずプレゼン準備期間は、わずか3週間程度だったという。
「この短期間で主要部分のモデルを作り、静止画を仕上げる予定でしたが、中国はCG制作のレベルが非常に高く、CGだけで勝ち抜くのは容易ではありません。そこで考えたのがBIMxの活用です」。BIMxは3Dモデルからインタラクティブな3Dプレゼンを作りあげ、共有できるBIMコミュニケーションツール。PCやiPad上でBIMモデルのウォークスルーを可能にする。このBIMxが同社のスタイルに見事にフィットしたと大濱氏は語る。
「基本計画をベースに、商業コンサル的視点で人の流動や商業的テナント区画を提案できるのが当社の強みです。ただし、こうしたプランを静止画だけで提案することは非常に難しいものでした。ところがBIMxのウォークスルーは実に提案しやすく、強力な説得材料になったのです」(大濱氏)。しかし、この案件では時間がなかったため、あらかじめ提案のポイントとなる箇所を盛り込んだルート約200メートルを決定し、作りあげたという。
「1階フロアをこう上がって、そこから上層階がどう見えるのか。また、歩いていて回遊しやすいエスカレーターの配置や吹き抜けのスケール感はどうか。そういった検証を重ね作り込んでいきました。プレゼンでは、まずレンダリング画像を多用した数十ページに及ぶ提案書で説明し、最終段階でBIMxをお見せしたのですが、いきなり審査員がぐっと身を乗り出してきて、反応の良さは圧倒的でしたね。そして、多角的な視点で裏付けある検証をきちんと行っていると発注元のトップが高く評価してくれました」(高橋氏)。
3万5000㎡の新築改修!?
こうして見事に6社競合を勝ち抜いたスパイラルデザインだったが、この快挙には伏線がある。実は既にその半年ほど前に、同じ中国でBIMxを駆使して、きわめてユニークな大型案件に取り組んでいたのである。
「床面積3万5000㎡の大型商業施設ですが、難易度の高い案件でした。国内最大手の不動産企業がはじめて取り組む商業開発。既に工事が進み建物も8割程度できあがりつつある段階で、声をかけられたのです。計画の不備が明らかになったので“何とか助けてくれないか?”と」(高橋氏)。それは商業的視点の欠如による問題だった。各店舗へスムーズにくまなく人を回す、という動線設計が行われず、雨や日差しをしのぐ屋根や上下階を回遊するエスカレーター設備さえなかった。日本では考えられないことだが、中国のような成長過程の国では珍しくないのだという。
「いわば新築の改修、しかも大規模改修工事ですね。半ばできあがった原形を生かして、商業施設としての力を500%膨らませたいというわけです。ただし、これまでこの計画自体に膨大な資金をつぎ込んでいる。時間もない。ほぼできあがっているものをあえて壊して追加の工事を行うには、説得力が必要となります。そこで建物はできていましたが、あえてすべてをBIMで作って動線を計画、提案もBIMxで行ったのです」(高橋氏)。 まず来客をどのように迎え入れるのか。変化がなく画一的な建築物に、どう商業的な魅力を付加し、回遊する楽しさを生みだすか?それをデザイン的な好みではなく、理由を持って改修が必要と理解してもらうには? 高橋氏らはBIMモデルを見て確認しながら、アイディアを膨らませ、またそのモデルでプレゼンすることにより、説得力のある提案を短期間で明確に発注者に伝えたのだ。実際、エスカレーターを設置してアウトモール全体を大屋根で覆うなど、提案内容はかなり大がかりなものとなったが、最終的にその9割以上が採用されたのである。
「特に中国の場合、プレゼンテーションや打ち合わせには、必ずといっていいほどトップの方が出席してくださいます。ですから、直接プレゼンを見て即座に良し悪しを判断してくれる。そのためにもビジュアルプレゼンテーションが鍵になります。良いとなったらすぐに決定し、動き出してくれるのです」(大濱氏)。
小規模事務所が勝ち残るためのBIM
日本のBIMはゼネコンや組織設計事務所など大企業の取り組みというイメージが強い。だが、前述の通り高橋氏は、逆に小規模事務所が勝ち抜くための武器としてこれに取り組んできた。今回の2つの案件に限らず、その取り組みは確実に成果を生み出している。
「とにかく最初から物事を3次元で考えようと、設立当初からそれをスタンダードにしてきました。おかげで業務スピードは格段に上がったと思えますね。特に初期段階からある程度の完成形に持っていく過程の時間が、非常に短くなっています」(高橋氏)。
この世界は3次元だから、3次元を入口にすれば誰でも直感的に把握できる。同様に建築も最初から3次元で考えていくことで、スピーディに形にしていくことができるのだと高橋氏はいう。さらに、その「直感的な把握のしやすさ」が、日本はもちろん海外のクライアントに対しても大きな効果を発揮するのだ。そのことは今回の2つの事例からも明らかだろう。そして、厳しい市場環境が続く建築業界にあって、大型プロジェクトが動くのは中国が中心だ。日本の設計事務所はこの成長市場を無視できないはずなのである。
「私見ですが、いま中国の建築マーケットも日本のデザインや設計に注目しています。それは日本人の国民性が真面目で、きちんとしたものを作るからに他なりません。日本人に任せれば最終的に良い建物、価値ある建物になるとわかり始めたのです。そのことを理解してもらう上で、ARCHICADとBIMxは非常に有効です。そしてそれは中国でもインドでもASEANでも世界共通で、変わらないことでしょう」(高橋氏)。とにかくまずは3次元に取り組んでみることだと同氏はいう。いっそやり方をドラスティックに変えて、ARCHICADで建築模型を作るくらいの気持ちで取り組むのも良いかもしれない。経験値のある人なら、必ずそこから多くのことを連鎖反応的に感じ取れるはずなのである。
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