atelier SWITCH 代表/一級建築士 完山 剛 氏
三協立山株式会社 三協アルミ社 ビル事業部 設計部 設計課 副参事 永井洋一 氏
ビジュアル提案で多人数の意思統一を
「清水焼団地協同組合が設立されたのは1962年。つまり、昨年が50周年の節目にあたる年でした。そこでこれを機に新たな50年へと向かう清水焼の拠点を作ろう、と計画されたのがこの新会館です」(完山氏)。この清水焼の郷会館建設が計画された場所は、当時、最初に組合事務所が置かれた「発祥の地」。つまり次の半世紀へ向けて、もう一度原点に戻ろうというのである。新会館建設にかける、組合員の並々ならぬ思いがそこにあった。
「清水焼の伝統を50年先まできちんと伝えるため、建物の規模は大きく、しかしコストは抑えて――ということから鉄骨案も出ましたが、やはり味気ないし冷たい。そこで “構造=意匠”となる柱や梁を現しにした木造空間を提案しました」。そこから空間構成が決まり、建築的詳細は完山氏に一任されたが、屋根のかけ方や全体の意匠、建物の配置など外からの見え方については、議論百出となった。“他にない奇抜なものを”という声もあれば“シンプルに行くべきだ”という声も出る。「清水焼の顔」がどうあるべきか、考えは十人十色だったのである。
「だからこちらも複数案を出して取捨選択してもらう形で進めました。当然、図面だけでなく3DCGやウォークスルーなど、見て分りやすい提案が不可欠で、BIMxも大活躍でした」。ARCHICADユーザとして豊富な経験を持つ完山氏は、どのプロジェクトでもARCHICADを使い、多彩なビジュアル提案を使い分けている。個人住宅なら施主宅リビングでノートPCをテレビに繋いで見せるが、今回は多人数への提案が必要な場合も多く、プロジェクタでスクリーンに図面やBIMxを投影し、中を歩き回りながら説明していく手法も活用した。
「計画の最大のポイントとなったのは、敷地の東側にある公園と建物との関連性でした。緑豊かな公園を会館の一部として取り込みたい、という要望があったのです」。そこで同氏は公園と建物を繋ぐ空間を、“内でもなく外でもない”中間的な領域とし、ここに庇とウッドデッキでつくる軒下空間を設けた。多様な工夫を凝らしたこのプロジェクトで、完山氏自身最も注力した1つが、この軒下空間である。そして、それを成立させる“カギ”となったのが、ARCHICADとそのプログラム言語GDLで三協アルミが作成したアルミサッシ製品のモデルデータだった。
メーカーがGDLで作る標準モデルデータ
「私たちがBIMという概念に触れ、これを自社のビジネスにどう活かしていこう、と考え始めたのは2010年のことでした」。三協アルミでアルミサッシ製品のBIM用標準モデルデータ制作を推進する、永井洋一氏はそう語る。この年の夏から同氏はBIM仮想チームに参画し、ARCHICAD等を導入して研究を開始した。ARCHICADの操作を学び着手したのが、自社製品の標準モデルデータ作成だった。サッシ等の標準モデルを、設計者のBIMモデル制作で使ってもらおうというのだ。半年をかけモデルは徐々に形になったが、当然ながらサッシのモデルだけではどうにもならない。
「メーカーとして作るからには、サッシとして正しく使われ、正しい設計をしてもらえるようなデータにしなければなりません。サッシ仕様(性能、法規制)と寸法値から製作範囲内かの判定を行う。そうすることで、設計者も私たちも手戻りをなくすことができるのです。……ではそのために、どんなデータにすればいいのか。それが問題でした」(永井氏)。
そこでまず、永井氏はモデルにARCHICADのインターフェイスを持たせ、実際に設計者に使ってもらい、フィードバックを得ることから始めようと考えた。そして紹介されたのが、清水焼の郷会館の実施設計を進めていた完山氏だった。完山氏は語る。
「今回コストの問題も重要だったので、窓も既製の住宅サッシを使う予定でした。でも公園を臨む連窓にはこだわりたかった。ホールと軒下空間をサッシで遮るのでなく、繋がりを持たせたかったんです」。完山氏は当初からそのようにデザインし、BIMx提案も行なっていた。しかしこれをそのまま作るには、特にサッシの納まりが通常のやり方では難しかったのである。
1/1サイズサッシモデルのディティール
「内部から公園側を見たとき、サッシの枠を極力目立たさずにスッキリ見せたかったんです。サッシが無いように見える感じというか……。柱の間にはめ込むのではなく、柱の後にサッシを留めていく形です」(完山氏)。この複雑な納まりを現場へ正確に伝え、正しく施工させるのは至難の技だろう。通常なら「柱の後に付けて」等の指示だけで現場任せになるはずだが、それでは設計通りには仕上らない。メーカーごとに異なる形状に合わせ、完山氏自身がミリ単位で指示しなければならないのだ。
「サッシでも何でも普通のオブジェクトは、拡大してもシンボルの図であることには変わりません。実際の細かい形状は見えず、それでは現場への指示にはなりません。ところが三協アルミさんのGDLを見て驚きました。スケールアップするとどんどん複雑な、リアルな形状がそこにはあったのです」(完山氏)。
「通常1/20や1/50、1/100等のデータを提供しますが、住宅用サッシはメーカーでサッシ納まりの設計図面を書くことがないので、どういうデータがいいかわからなかったんです。また、完山氏から事前に特殊なサッシ納まりを設計したいと聞いていた。そこで製品そのまま1/1で作り、詳細という形で提供しました」(永井氏)。納まりに関するこだわりは承知していたから、仕上げ壁厚を入力して頂くことでサッシを納められるように、パラメータを変更して検討できる仕様にしてあった。結果として、この1/1モデルが「見えないサッシ」づくりに見事に生かされたのである。
「サッシ自体は普通の引き違い窓なのですが、やはりGDLのモデルデータで私が形状のディティールをしっかり把握できたことが非常に大きかった。こちらから詳細な寸法を押さえた図面の指示を出すことで、現場に対して先手を取ることができました」(完山氏)。そうすることで現場もまたスムーズに流れ、手戻りがなくなることを実感した、と完山氏はいう。まさに永井氏らが目指す標準モデルの効果が現われ始めていたのである。――むろん永井氏らは、完山氏とも協力しながら、今後も引き続き、標準モデルの開発を継続していく計画だ。
清水焼の郷会館は予定通り完成し、組合員はもちろん多くの来場者からも好評を得て賑わっている。特に完山氏がこだわり抜いた軒下空間は、早くも公園で遊ぶ子供や大人たちの憩いの場となっている。
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