山陰Archicadフォーラム
日本中で2番目に人口が少なく、設計者も建設会社も少ない土地でフォーラムを核にBIMを推進

山陰Archicadフォーラム

島根県松江市に活動拠点を置く山陰Archicadフォーラムは、全国に13グループあるグラフィソフト認定のArchicadユーザーグループの一つである。鳥取、島根全域をはじめ広島など県外からも多数のユーザーが参加。会員数は30名に達しており、ArchicadとBIMに関わる情報交換/共有から講師を招いて開く講演会イベント、定期開催する勉強会など、多彩な活動ぶりには定評がある。その活動の詳細について、代表幹事と企画運営スタッフを勤める会員の皆さんにお話を伺った。

SANIN Archicad FORUM
山陰Archicadフォーラム

https://graphisoft.com/jp/resources-and-support/community/usergroup/sanin

主な活動都市 島根県松江市

代表者 代表幹事 經種 俊幸

設 立 2017年4月

活動内容
FBグループ上で情報交換及びワークショップほか

入会条件 制約無し

「山陰Archicadフォーラム」企画スタッフの皆さん

まず「仲間作り」から始めよう

「島根、鳥取の山陰は全国的に見て人口が少なく、そのため建設会社も建築事務所も、Archicadユーザーも少ない地域となっています。実際、私がArchicadを導入しBIMへの挑戦を開始した2014年ごろ、島根でこれを実務で活用していたArchicadの使い手は、数人程度しかいませんでした」。そう回想してくれたのは、山陰Archicadフォーラムの代表世話人を務める經種俊幸氏である。地元にて建築設計監理と建築CGデザインの事務所を営んでいる同氏の出発点となったのが、この地域で比較的早く取り組んだ3D化、そしてBIMへの道だった。

「Archicadを導入し1人で始めた3D設計への挑戦でしたが、実際は当時今ほど手厚い参考書や情報もなく気軽に相談に乗ってもらえる仲間もおらず、設計実務に関わる面などサポートにも頼り切れきれない悩みがありました」。しかし、だからといって、せっかく導入したArchicadを使わないのは勿体なさすぎる。まずは自分のモチベーションをあげていくことから始めよう。そう考えた同氏は、グラフィソフトが全国各地で開催しているロードショー(Archicadを中心とするBIMツールの実践的活用法説明会)やスキルアップセミナーに積極的に参加していった。

「県外にて開催される広島、大阪、東京のイベントにもどんどん参加し、いろいろな先輩方の使い方や応用法を目のあたりにしました。その積み重ねで自身のモチベーションを上げて取り組むうち、Archicadをある程度のレベルで使えるようになっていったのです。ところが……」と同氏は語る。「ふと後を振り向いたら誰もいないんですよ(笑)。で、これはダメだと思ったのです」。

この頃にはもう、3D設計の先にあるBIMの世界が必ず到来するものとして、同氏にははっきり見えていた。しかし、この流れに彼一人が対応できても、それだけでは地域の建築設計業界は大きく出遅れてしまう。そうなる前に“仲間作り”が必要だ。そう同氏は考えたのである。2017年のことだった。

女性が引っ張るユーザーフォーラムへ

「そうして作ったのが山陰Archicadフォーラムです。最初は販売店ユニコンの大浦氏とたった2人の任意団体としてスタートし、まずはとにかくArchicadユーザーの裾野を広げよう、と動き始めました」。つまり、設計事務所に建設会社、工務店等々、山陰エリアのさまざまな分野にわたるArchicadユーザーを、広く会員として結集し交流していこうと言うのである。「島根の建設市場は小さく、仕事も小案件が中心です。そのため設計者も施工者も、建築に関わることなら分野を問わず何でもしなければやっていけません。だから、私たちも多彩な分野の仲間を集め、多様なノウハウを共有していこうと考えました。そして、まず手を付けたのが定期的な勉強会の開催でした」。

こうして、グラフィソフトの協力も得ながら山陰フォーラムは徐々に参加会員を増やしていき、同時に山陰フォーラムならではの特徴も鮮明になっていった。それは、当初から女性が多数加入し、しかも多くがフォーラムの運営に積極的に参加したという点である。皆さんの話を聞いてみよう。

「山陰 Archicadフォーラム」のfacebookページ


「Archicadは作図省力化を目的に3年前に導入しましたが、いつの間にかフォーラムにも加入していました。何だか自動入会みたいな感じでしたね」。そういって笑うのは、安来市で安藤建築設計室を主宰する安藤かおり氏である。Archicadはまだプレゼンテーションでの活用が中心だが、着々とノウハウを蓄積しており、山陰Archicadフォーラムでは企画スタッフとして活動している。一方、松江市で川井香織建築設計事務所を主宰する川井香織氏も、同じく企画スタッフとして活躍中だ。そして、川井氏の場合は、このフォーラムの存在自体がArchicad導入の決め手の一つだったと言う。

山陰 Archicadフォーラム 勉強会風景

フォーラムがあったから
BIMにも挑戦できる

「以前は他社の3D CADを使っていましたが、ロードショーで經種さんのデモを見たらすごくカッコいいんですよ(笑)。これを使えばお客様が驚くようなプレゼンができる!と導入を考え始めました」。そう語る川井氏だが、いざ導入となると迷いもあった。ソフトと共にハードも新調する必要があり、もし使いこなせなかったらコスト面の負担が大き過ぎると感じたのである。「そんな時に山陰フォーラムの存在を知り、とても心強く感じました。困っても助けてもらえる場所があると分かったので、安心して導入できたんです」。一方、松江土建株式会社の佐藤千尋氏も、設計者として勤務しながらフォーラムの運営に参加している。

「私も川井さんと同じく他社の3D CADと2D CADを併用していましたが、より質の高いパースを作りたいと考えてArchicadを導入しました。初めてのBIMへの挑戦だったので、仲間が欲しいと思ったのです。Archicadなら地元にユーザーフォーラムがあり、盛んに活動していましたからね。実際、勉強会に参加するようになって、Archicadもうまく使えるようになってきた実感があります」。一方、經種氏より以前からArchicadを使い続ける熟練ユーザーの坂本建築設計事務所も、創立当初からのメンバーとしてフォーラムの活動に協力してきた。特に同社に勤務する設計者の高木杏菜氏は、熱心な企画運営スタッフの一員だ。

「坂本建築設計事務所への入社は2年前。当時から当社はArchicadで図面を描いており、Archicadを使えなければ仕事になりません。そこで早く習得しようと思って勉強会に出席するようになりました。フォーラムでの活動はやはり勉強になるし、仲間がいると安心です」。

坂本建築設計事務所が設計した浜田警察外観パース

坂本建築設計事務所が設計した浜田警察外観

ユーザーフォーラムの仲間たちがいたから
Archicadを導入し、BIMに挑戦できた
多彩な仲間たちとの交流の輪から生まれる力

多彩な仲間が集まり教え合いながらBIM普及を推進

スタッフ達の言葉通り、勉強会を中心とする交流活動の活発化と共に、山陰Archicadフォーラムの会員は少しずつ増え、現在では会員数も30名強となっている。そして、前項でコメントをいただいた4名を含む5名が、企画運営スタッフとしてフォーラムの企画運営にあたっているのである。コロナ禍の影響もあって勉強会もリモートが中心となっているが、いまや初期会員のスキルが大きく向上して新たに入会する初心者と質問内容のレベルに差が出てきたため、現在では隔月で開催する「定例勉強会」と、「シルバニアチャンネル(以下シルバニア)」と呼ばれる、ほぼ毎週に近いペースで開催されている初心者向け勉強会の2本立てで行われるようになっている。

「隔月の定例勉強会は、会員から要望を募ったり私たちが考えたテーマに基づき専門家をお招きしたり、達人ユーザーにArchicadのディープな活用法を聞いたりしています。一方、シルバニアは初心者の質問に応えるフリートークスタイルの勉強会。シルバー世代の方も多いことや、ちっちゃい悩みを拾ってあげようという意味でシルバニアと呼んでいます、(笑)」(川井氏)。隔月の定例勉強会では最先端の技術トレンドや最新の業界情報等も数多くテーマとして取り上げていたが、コロナ禍の影響でインターネット経由のイベントとなったことで県外からのアクセスも急増。交流の輪はさらに大きく広がっている。また、「シルバニア」はそのままオンライン呑み会となることも多く、Archicad初心者も気兼ねなく熟練者に質問できる雰囲気の良さで人気が高い。「いろいろなプロだけではなく、たとえば島根大学の建築系学生も参加しているんですよ。先日、彼らの提出課題のプレゼンを見せてもらい、私も大きな刺激を受けました。若さって本当に凄いですね」(安藤氏)。最後に山陰フォーラムの今後の取り組みについて經種氏に聞いてみた。

「会員同士と言ってもそこはビジネス。最近、安藤建築設計室さんと私でArchicadを使ってコラボレーションし、あるプロポーザル案件のプレゼンに成功したんです。もしかすると島根初のBIMコラボ案件かもしれません。当フォーラムには多彩な業種の会員が集まっているので、今後はこうした事例も増えていくでしょう。そういう積み重ねで、山陰のBIM普及をどんどん加速していきたい。そう考えています」(經種氏)。

【PART2 山陰フォーラム会員の事例】

山陰エリア屈指の組織設計事務所が
Archicadを駆使してBIM設計を推進!




島根県松江市に本社を置く株式会社坂本建築設計事務所は、島根県を代表する建築設計事務所である。意匠設計はもちろん、構造や設備などエンジニアリング系の計画・設計も社内で対応する総合設計事務所として、官庁関係の案件や県内外の大手企業との大型プロジェクトを幅広く手がけている。また、いち早くArchicadを導入して設計3次元化を実現。經種建築事務所の經種氏と共に山陰Archicadフォーラムの立上げにも参加した。もちろんBIMに関しても、地域を牽引する存在として注目を集めている。そんな同社の取り組みについて、代表の建築家 坂本拓三氏と取締役設計部長の山田広太郎氏、高木杏菜氏に伺った。

坂本建築設計事務所の(左から)設計部長 山田広太郎氏、
代表 坂本拓三氏、設計部 高木杏菜氏

チームワーク機能が最大の導入ポイント

「Archicadを最初に導入したのはもう20年も昔のこと、当時GRAPHISOFT6.5から現在のArchicadに至ります。たぶんこの辺りでは最も早くから設計3次元化を意識していました。ただ、さすがにその時は時期尚早で、会社全体で導入するには至りませんでした」と、坂本氏は語る。結局はパース制作程度にしか使えないまま終わってしまった。だがその後、同社がメインツールとして使っていた2DCADが新OS対応を止めてしまい、あらためてCADの乗り換えが必要となった。ここで3次元設計──ひいてはBIM導入への挑戦という課題が再浮上してきた。2012年ごろのことである。

「働き方改革の流れが強まるなか、耐震偽装問題等の影響もあり設計者の作業は増える一方でした。こうした状況は問題だとずっと思っていて……BIMは必須だと感じていたのです」。坂本氏はそんな風に言葉を続ける。「本当はデザインに多くの時間を使いたい。それ以外の作業にはなるべく使いたくないわけです。となると、デザイン以外の作業はBIMでなるべく効率化し、生産性を上げていくしかありません」。実際、一部業務で別メーカーの3D CADを導入していたが、パソコン更新の時期も重なり、これを機に根本的にメインのCADを選び直すことになった。山田氏は語る。

「比較したんですよ。当時、BIMソフトを出していた代表的な3社を呼び、それぞれデモをしてもらって比較検討を……。その結果選んだのがArchicadでした。選定理由は日本へのローカライズの度合い等いろいろありますが、一番のポイントとなったのはチームワーク機能です」。

Archicadで制作したディーラー店舗の外観パース

「チームワーク」とは、Archicad(レギュラー版)が備えている共有プロジェクト機能。Archicadのプロジェクトファイルを、共有コマンドによりBIMcloud上に配置して共有プロジェクト化できる。そうすれば、アクセス権を持つ他ユーザーも距離に関係なく、チームワークモードでこの共有プロジェクトに参加。コラボレーションして作業を行うことができるのだ。「特に当社の場合、設計者9名前後の体制で年間30件程度のプロジェクトを進めています。もちろん1人のみで当たることはなく、数人がかりでドンドンやっていく形です。所員は皆いくつものプロジェクトチームに参加し、並行して進めていくわけです。だからチームワークは必須の機能でした」(坂本氏)。実際、このArchicad導入後、若手が主体となってチームワークで結び、BIM設計で進めるプロジェクトが、徐々に増え始めていったのである。

ディーラー店舗の完成写真(南面外観夜景)

山陰Archicadフォーラムの活動をバックアップ

「そうは言っても、最初は皆なかなか慣れませんでしたね。2Dモードでドラフター代わりにArchicadを使っていた所員さえいたほどです。でも、いろいろいじっているうち、横にポンと3Dモデルが立ち上がることに気付くと今度はどんどん面白くなって……皆が3Dに触り始めたんです」。そう語る坂本氏によれば、これをきっかけに所員の多くが3D設計の手法に取り組んでいったのだと言う。そして、もう一つのポイントが新入社員と山陰Archicadフォーラムの存在だ。「何しろ新人は最初からArchicadを使いますからね。2D設計の技術はないし、2Dへのこだわりもないので積極的に3Dに挑戦しようとするんです」(山田氏)。そして、こうした若手たちの活発な動きに引っ張られるように、先輩たちも本格的にBIMへ取り組み始めたのである。さらに、こうした好循環の流れを後押ししたのが、經種氏が設立した山陰Archicadフォーラムである。

「もともと經種さんは当社の設計協力をしていただいていたので、彼から“ユーザーフォーラムを一緒にやりませんか?”と声がかかった時は、すぐ賛成して協力を申し出ました。当時われわれに必要なものでしたし、とても良い考えだと思ったのです」(坂本氏)。ちょうどその頃、新人として入所したばかりだった高木杏菜氏は、早速その勉強会に参加することになった。その後の彼女の活動ぶりは、記事前半の山陰Archicadフォーラムのレポートでお伝えした通りである。高木氏は企画運営スタッフとして山陰 Archicadフォーラムを支え、その他の若手社員もたびたび勉強会へ出席するようになっている。


「山陰Archicadフォーラムと言っても、山陰の会員は半分ほど。残りは全国から名うてのArchicadユーザーが集まっていろいろ教えてくれるのですから、考えてみれば凄いことですよ。ユーザーフォーラムとしても非常にユニークだと思います」と語る坂本氏も、実はさまざまな形でこのフォーラムをバックアップしている。たとえば同フォーラムの集まりに大学生が参加するようになったのも、坂本氏の呼びかけがきっかけだった。「実は島根大学の総合理工学部で講師をしているんです。そこで經種さんに頼まれ、大学に断りを入れた上で学生たちにフォーラムでの勉強会への募集チラシを配りました。まぁ一人でも来てくれれば“めっけもん”だと思っていたのですが……」(坂本氏)。実際には1学年で5〜6名もの学生が勉強会へやってくるようになったのである。やはり、学生は将来の建築業界でBIMが果たす役割の大きさをよく理解している──そう坂本氏は語る。

ディーラー店舗の完成写真(南面外観)

次の課題は積算自動化と熱環境シミュレーション

今後はBIMデータで建築確認や構造適判が
取れるようになっていけば
設計事務所の業務はより効率化が進む

このように多少の紆余曲折はあったが、坂本建築設計事務所の設計チームでは、ArchicadとチームワークによるBIM設計体制が完全に定着し、現在ではほとんどの案件をBIM設計で進行するようになった。最近では大手自動車ディーラーの本社ビルや旗艦店舗など、2,500㎡ほどの建物を初期段階からフルにArchicadでBIM設計を行っているし、小さいものでは寄宿舎や幼稚園等の公共案件も多数手がけている。では、その導入効果はどうなのだろうか?

「生産性は大きく向上していますよ。実際、昔は大手設計事務所とのコラボ仕事でも構造図と意匠図が全然違う!なんて目を疑うようなトラブルもしばしばでした。しかも、構造図で適判取得済みだから、意匠図を直すしかなかったわけです」。そんな本末転倒した手戻りもBIMの導入で無くなった。このことは設計者にとって非常に重要だ、と坂本氏は言う。まさに「理不尽な現場」をたくさん経験してきた坂本氏だからこそ、整合性が保たれるBIMの効果を強く実感しているのである。今後は、さらにBIMデータで建築確認や構造適判が取れるようになっていけば、設計事務所の業務はいっそう効率化が進むだろうと考えている。

「われわれ自身の今後の課題としては、積算の自動化と熱環境のシミュレーションが重要なテーマとなってきます。たとえば、ArchicadでBIM設計を行いながら工事費の概算額の算出やシームレスに熱環境シミュレーションできるような……そんな使い方ができたら素晴らしいですね。まあ、われわれだけで考えても難しいので、勉強会のテーマとして取り上げてもらおうと、山陰Archicadフォーラムに働きかけている所です。それが実現できたら、われわれはぐっと楽になりますから」(笑)。

Archicadで制作したディーラー店舗の内観パース
ディーラー店舗の完成写真(内観)

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