株式会社おおみ設計 代表取締役・JIA会員 近江 美郎 氏
株式会社おおみ設計 一級建築士 近江 清志 氏
「新しいもの好き」が BIM の次代を先取る
「最初にCAD を入れたのは、もう20年近く前になります。たぶんこの辺りではいちばん早かったでしょう」。そういって近江氏は笑う。「おぼろげながらこの世界に“CAD の時代”が来ると予想したんです。まあ、富山人は新しいもの好きなんですね。当然、CAD もいろいろ試しました」。
20年前といえば日本のCAD の黎明期。コンピュータとCAD ソフトで1千万円近くした時代である。小規模事務所にとって安い買物ではないが、近江氏は躊躇なく導入を決めたという。実際この高感度な“アンテナ”と旺盛なチャレンジ精神により、おおみ設計は地域をリードする存在となったのだ。3D CAD についても先陣を切って導入したのは当然だった。
「マンション等の物件で若手に使わせてみて、3D CAD の有効性もすぐ理解できました。10階建てマンションを新人が1人で作ってしまうのですから、すごいモノだと思いましたね」。しかし、その頃から景気が減速し、同社も仕事の中心を公共分野へと移行させていった。結果、メインツールもフリーウェアの2D CAD へ移行せざるを得なくなったのである。近江氏の長男で一級建築士の近江清志氏は語る。
「無料のCAD なので発注者も多くがこの2DCAD ユーザになりました。構造や設備の会社までそれに合わせるようになると、当社も使わざるを得ず、結果、3D CAD を使わなくなっていったのです」。ところがそんな閉塞状況を再び近江代表の“アンテナ”が打ち破る。2009年頃のことだった。
「建築専門誌などで著名建築家や大手ゼネコンによる取組みを目にして、BIM に興味をもったんです。そして、これを深く知ると、BIM こそ次代の主流だと確信。少しでも早く手を付け、先んじておきたいと思うようになりました」(近江氏)。
近江氏の意を受け、BIM 導入の具体的な検討を任されたのが清志氏だった。同氏はすぐに当時市場にあったBIM ツールを調査し、代表的な3~4製品に絞り込んで体験版を入手したのである。そして、その中の1つが ARCHICAD だった。
「ひと通り触ってみると、結論はすぐに出ました。直感的で使いやすく、一番感覚にフィットしたのがARCHICAD だったんです」。清志氏によれば、その使い勝手の良さは設計者には一目瞭然だったという。
「たとえば線1本引くのにも、他の製品はどのコマンドを使うのか分り難いのに、ARCHICADは何も知らないで触っていても自然に引ける。すごく入りやすく、設計者の感覚にフィットするんです。それも私だけかと思ったら、他の人たちもみんな同じことを言う。“これだ”と思いましたね」
BIM 設計体制への移行を推進
こうした経緯を経て、おおみ設計は2011年にまず ARCHICAD 1セットを導入。近江清志氏が担当を任された。
「操作修得はウェブにあったデータを使っての独習でしたが、1カ月ほど触るうちにひと通り図面を描けるようになりました。ARCHICAD は作図機能も優秀なので、そこから始めれば2D CAD ユーザは覚えやすい筈です」。とにかくどんどん使って慣れるのが修得のカギだと清志氏はいう。そうして社内に1人「ARCHI CAD 使い」を作れば2人目以降の育成は難しくない。実際、同社はさほど間をおかず2台を追加。清志氏の言葉通りスタッフ教育もスムーズに進んだ。だが実際のBIM 運用となるとさすがに一朝一夕にはいかなかった。
「忙しさに追われて、スタッフたちが使い慣れた2D CAD を使っていたんです」と、近江氏が苦笑いする。このままではせっかく増設した ARCHICAD が遊んでしまう。そこで近江氏はBIM 設計への完全移行を推進すべく断固たる姿勢を取った。
「新しい技術の導入を怠っていたら事務所も時代に取り残されてしまいます。少々荒療治でしたが、対応が難しい年配スタッフは別として、若手には2D CAD 使用を全面禁止しました」。さらに ARCHICAD 環境についても、それまでのSolo 版3台からレギュラー版4台体制へとパワーアップを図った。その狙いはレギュラー版が持つチームワーク機能だ。この機能により4台の ARCHICAD は、BIM server内の1つのBIM モデルへの共同アクセスが可能となる。複数メンバーが同時に1つのBIMモデルを制作する真のBIM コラボレーションが実現するのである。――この半ば強引な新体制への移行は、結果的に同社の設計スタイルのあり方をドラスティックに変えた。
BIM は“生き残る” ためのツール
「1物件1データで、1つのBIM モデルを皆でつつきながら設計していくスタイルは、自分にとって大きな衝撃でした。全てが非常にやりやすく、効率的になったんです」。清志氏によれば、その違いは設計実務のあり方を根本から変えるものだったという。たとえば以前、彼らが使っていた2D CAD では、図面ごとに別々にデータが生成されるため、結果として物件ごとに何十ものデータファイルが生まれる。そのデータ管理は煩雑で、一部に古いデータが混ざり込むと訂正だけで大きなロスが発生していた。しかし、1物件1データでの作業なら、複数のスタッフによる協働設計でも常にデータの整合性は保たれ、各スタッフの修正や変更も即座に反映されるのである。
「私たちにとって、BIM はいわばチーム作業のための高機能なプラットフォームだと思いました。ここで私たちは本当の協働設計を実現しつつあるわけで…… 作業スピードも設計品質も大きく向上しつつある実感があります」。さらに、と清志氏は言葉を続ける。スタッフ個々の設計品質も向上しているというのである。
「たとえば図面を描きながら即座に3D で確認できるだけでもすごく大きいのです。わざわざ模型を作らずに、モニタ上で即座に3D で分かりやすく見られるし、パラメータを少し弄るだけで変更できるので別案も簡単に検証可能です。設計品質の向上はある意味当然でしょう。さらにいえば、これらはプレゼンにも当てはまります」。つまり、ビジュアライゼーションの活用により、施主にも早い段階で設計意図を正しく把握してもらえるようになったのだ。実際、手戻りやクレームなどのトラブルも大きく減ったと清志氏はいう。
まさにBIM 設計の効果を発揮しつつある同社だが、近江代表に言わせれば、BIM の活用はまだまだこれからが本番だという。
「BIM は設備や構造など全て連動させてこそ真の力を発揮します。私たちも今後は外部との連携を含め、さらに幅広く使っていきたいと考えています。そうしなければ、小さな設計事務所が生き残っていくのは難しいでしょう。まさにBIM は、私たちにとって生き残るためのツールなのです」
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