株式会社 日建設計
執行役員
設計部門 プリンシパル
ドキュメントデザインセンター プリンシパル
五十君 興 氏
株式会社 日建設計
設計部門
3Dセンター室 兼 CGスタジオ 室長
IoT推進室 ダイレクター
一級建築士 吉田 哲 氏
グラフィソフトジャパン 株式会社
代表取締役社長 アジア担当副社長
コバーチ ベンツェ
2013年がBIMへのターニングポイント
コバーチ : 御社とのパートナーシップ締結から6年が経ちました。2018年には契約更新させていただき、パートナーシップの内容も互いに着実に前進し成果も着々と上がっています。今回はあらためて御社のBIMに関わるお取組みと、このパートナーシップが果たす役割について伺わせてください。
五十君氏
五十君氏:そうですね。当時の日建設計社内の状況をふり返ってみましょう。あの頃は「建築にもデジタルの情報を入れて活かしていかないとダメだよね」という意識が社内に広く浸透しつつありました。これを受けて日建設計ではまず、BIM推進のための部署を立ち上げ、私が責任者となって活動を開始したのがこの2013年でした。
コバーチ:BIM推進の部署とは、デジタルデザイン・デベロップメントセンターですね。
五十君氏:その通りです。実はその時はまだ、私自身はBIMについてほとんど分かってなかったのですが(笑)。とにかく「今のままではダメだ」という思いで組織を立ち上げ、そこから会社としての本格的なBIM推進の取組みが始まったのです。もちろんこれは当社だけで実現できるテーマではないですから、このタイミングでGRAPHISOFTというパートナーを得て契約を結び、支えてもらえたことは、とても重要なポイントだったと思います。
日本にBIMという言葉さえなかった頃からのユーザーとして
コバーチ:そこでわれわれを選んでいただき、本当にありがとうございます(笑)。それにしても、このような重要な岐路においてGRAPHISOFTを選んでいただけたのは、やはり、古くからARCHICADをご利用いただいていた点が大きかったでしょうか。
吉田氏:ええ。そもそもARCHICADは、当社の山梨(山梨知彦氏 現・常務執行役員 チーフデザインオフィサー/設計部門 プリンシパル)が、30年近く前から盛んに使っていましたからね、おつき合いはその頃からあったわけです。当時はまだ日本にBIMという言葉すらなく、実際には山梨もARCHICADを3D CADとして使っていたはずです。ところが、2006年頃からアメリカでBIMという言葉を耳にする機会が増え、山梨が「今まで自分たちがARCHICAD でやってきたのはBIMだったのでは?」と思いついたことが、わが国に初めてBIMを持ち込むきっかけとなったのです。
コバーチ:なるほど。しかし2013年頃はBIMツールの選択肢は他にもあったのではありませんか?……こんなことを私がお尋ねするのも、なんだかおかしな話ですが(笑)
お互いをパートナーに選んだ理由
五十君氏:もちろん、私たちも単に「古くから製品を使ってきたから」というだけで、GRAPHISOFTをパートナーに選んだわけではありません。GRAPHISOFTが、当社の建築設計者の思考パターンというか……クリエイティヴなものを作っていく過程に対し「最もシンパシーを感じてくれるベンダー」だと思えたから御社に決めました。
コバーチ:感謝いたします。せっかくなので「クリエイティヴの過程へのシンパシー」について、もう少し詳しく伺えますか。
吉田氏
吉田氏:そうですね。先ほど五十君が言ったように、BIMを実現していくにはモデルデータにさまざまな情報を入れていく必要があります。しかし、私たち設計者が行う設計は、最初から内容が決まっているわけではありません。私たちはデータを入れるより先に「形」を入れ、これをさまざまに検討し検証しながら練り上げていきます。さらに図面も描かなければなりませんし……。そんな日本の設計者のクリエイティヴの過程を理解し、この独特のニーズに最も柔軟に応えてくれたのが ARCHICAD でした。だから私たちは当社に一番マッチしたBIMツールとして選んだわけです。
五十君氏:逆にGRAPHISOFTとしてはどうだったのですか。当初からワールドワイドに展開していた御社が、日本の設計事務所とパートナーシップを結んだ理由は?
コバーチ:お話にあった通り、長く山梨さんにお使いいただき、確固とした信頼関係が生まれていたことも基盤にありましたが、それ以上に「日本で最も大きな設計事務所と深くおつき合いできる」こと自体、われわれにとって大きな誇りとなりました。さらに、それが日本のBIMについて勉強できる最高のチャンスだったことも非常に大きなポイントです。このパートナーシップこそが、他では得られない重要な学びの場を与えてくれる――そう考えました。
五十君氏:GRAPHISOFTがそのように判断した理由は、なんだったのでしょうか。
コバーチ:もちろん他にも設計事務所のユーザーは数多くおられますが、御社のように深く踏み込んだやりとり……ワークショップのように教え合えるお客様はそう多くありません。おかげでわれわれは御社のワークフローをきちんと把握し、当社製品をお使いいただく上での問題点も理解できました。それらの情報を開発へフィードバックすることで御社の要望にお応えしたわけですが、それは一般的な機能強化という点からも重要な意義がありました。実際、製品開発で大きな成果が上がっています。
パートナーシップを活かしたBIMの成果は
「目に見える」モノばかりとは限らない
設計者の進化という大きなメリットをもたらした
世界のユーザーに役立つ「実り」
五十君氏:パートナーシップが、御社にとって実り多いものだったと聞いて嬉しく思います。もちろん私たちも、この6年で多くの成果を産み出せたと感じています。
コバーチ:素晴らしい。パートナーシップから生まれた成果を幾つかご紹介ください。
五十君氏:まず挙げたいのは、当社のBIM推進における最初のエポック、「新国立競技場整備事業」の公募型プロポーザルでの挑戦です。Zaha Hadid Architectsと私たちは設計チームを組成し、BIMなしでは不可能なZahaのデザインを実現しようと初挑戦のBIMで挑みました。さまざまな壁にぶち当ったし、初体験の苦労もたっぷり味わいましたが、それらを通じて「BIMとはどんなものか?」把握できたのです。プロジェクト自体は、ご承知の通り4千枚の図面を描いた末に「白紙撤回」されましたが。
コバーチ:ちょっと悲しい思い出ですね……。
吉田氏:ええ。しかし、この経験は大きな財産としていまも息づいています。ここから生まれ、実際に ARCHICAD の機能に反映された成果を幾つか紹介しましょう。一番大きな成果はカーテンウォール機能です。
コバーチ
コバーチ:なるほど、あれはARCHICAD 22でしたね。
吉田氏:そうですね。日本の建築設計では、このカーテンウォールや階段、手すり等、表現の仕方が海外と異なっているものが多数あります。そういうものを ARCHICAD でゼロから入力していくのは大変だったので、早い段階で要望を出しました。結果、コバーチさんが言う通りARCHICAD 22でカーテンウォール機能が大幅に強化され、一段と使いやすくなったのです。また、階段と手すりもARCHICAD 23で実装され、日本流の階段が上手く作れるようになりましたね。後はGrasshopper – ARCHICAD Live Connectionにより、双方向のライブ連携ができるようになったのも大きなエポックでした。これは業界初ですよね。
コバーチ:はい、双方向ライブ連携は2016年に ARCHICAD が初めて実現しました。世界的な反響があった取組みの一つです。
吉田氏:こうした新機能には、当社のリクエストが反映されています。新国立当時は、カーテンウォールや階段等の作成も全て手作業だったので「こういう機能があれば一発で終るのに!」とぼやきながら(笑)、いろいろアイデアを出させてもらいました。
コバーチ:そこで一つ大切なのは、そうやって両社のパートナーシップが生み出した成果の数々が御社にとって役立つ機能になっただけでなく、日本全国のユーザー、さらには全世界のユーザーにとっても大きなメリットをもたらしてくれた点です。これには何度でも感謝させていただきたいですね。本当にありがとうございました。
変わりゆく設計者像
五十君氏
五十君氏:ところで、このパートナーシップを活かしたBIMの成果は「目に見える」モノばかりとは限りません。他にも大きなメリットをもたらしてくれているんですよ。
コバーチ:それはどのような成果でしょうか。
五十君氏:簡単にいえば、当社の設計者の進化です。最初はZahaデザインの競技場のような複雑な形を作るワークフローの中で、3次元的なツールをどう使うか?というレベルに留まっていました。しかし、より深くBIMを使い込むうちデザインの幅が広がり、深まることを誰もが実感するようになりました。ルーバー作りでも、BIMにより多様なシミュレーションが行った結果「こういう理由でこのデザインにする」と合理的に解を導き出せる。カーテンウォールも「この組合せだから合理的になる」とBIMで検証しながら作れるのです。
コバーチ:なるほど、設計スタイルそのものが変わってきたのですね。
五十君氏:ええ。単に表現するだけでなく試行を積み重ねていく設計フローの中で、BIMをどう活用すれば効果的か――設計者自身が考える必要が高まったんです。まさに設計者のデザインプロセスにBIMが組み込まれるようになった実感があります。
吉田氏:とはいえ、他方でワークフロー自体はまだそれほど変わっていないわけで……私たちもBIMの持ち味をまだ十分に生かしきれてないのが現実です。テクニカル面、特にツールについてはほぼ整備できたので、今度は設計者がそれを上手く使うための仕組みづくりですね。新しいワークフローという形でもう一回整理する必要があります。実際、設計プロセスも巻き込んで、BIM環境整備の新しい取組みを始めています。
これから先の遠い道を「楽しい道」に
五十君氏:そう考えると、当社のBIMの取組みも、実はまだスタートしたばかりなのかもしれません。実際、これから先の道はまだまだ遠いと感じています。
コバーチ
コバーチ:大切なのはその「道」自体なのかも知れませんね。奥が深い道なので、日々のプロジェクトに取組みながら活用を広げ、勉強し続けて、徐々に改善していくしかなさそうです。でも、外から拝見していても御社は着実にレベルアップしていますよ。このペースでBIMの活用を進めながらワークフローを改善し、われわれもソフトを改良して協力していけば、「遠い道」もきっと良い、楽しい道になるでしょう(笑)。
五十君氏:「楽しい道」にするのは私も歓迎です(笑)。「道」の先に見えている課題としては、いま社内の一設計チームが行っているBIMの活用を構造や設備などエンジニアリングと結びつけ、シンクロさせていくこと。さらにもう一歩進めれば、当社の既存フィールドから次ステップである施工段階やビル管理へ踏み出し、広く建築のライフサイクルの中でBIMを上手く繋いでいくことです。おそらくそこまで行って初めて「道半ば」と言えるのでしょう。
コバーチ:やはり先は長いですね(笑)。とりあえず2020年の計画を教えてもらえますか。
五十君氏:2020年には、全社でスキマティックデザインのほぼ100%をBIM化しようと考えています。 BIMに向かない案件を除き、BIMを使うことでメリットが出る案件の基本設計は全てBIMを活用したいです。
吉田氏
吉田氏:実際の全社におけるBIM活用状況を見ると、ずっと2〜3割だったのが2018年に3割を超え、2019年の秋には一気に5割弱に達しています。おそらく2020年度内には実現できるのではないかと思いますよ。
五十君氏:もちろんこれを実現するために取り組むべき課題も数多くあり、その意味でもGRAPHISOFTの支援は欠かせません。今後ともどうかよろしくお願いします。
コバーチ:もちろん製品・サービス含めて最善を尽くしていきたいと思っています。どうか末長くよろしくお願いします。
Archicadの詳細情報はカタログをご覧ください
ー カタログと一緒にBIMユーザーの成功事例もダウンロードできます ー
- Archicad ユーザーの設計事例を紹介
- 設計時の裏話や、BIMの活用方法など掲載
- その年ごとにまとめられた事例をひとまとめに
- BIM導入前から導入後の情報満載