株式会社日建設計
ARCHICADを全てのプラットフォームに 建築設計のあり方を変え、 設計事務所のビジネスを変えていく。

株式会社日建設計

わが国を代表する組織設計事務所 日建設計は、BIMの分野でも業界を牽引する存在である。そして、その中心にいる1人が設計担当プリンシパルの山梨知彦氏である。10年以上前からARCHICADによる3次元設計に取り組み実務でBIMを活用してきた山梨氏は、2012年、BIMの普及活用を担う新組織 デジタルデザイン室を立ち上げ、BIM普及へ新たな一歩を踏み出した。そこで今回、山梨氏と同室を統括する設計部長の芦田氏、そしてデジタルデザイン室の皆さんにお話しを伺った。

株式会社日建設計

設立:1950年7月1日

事業内容:建築の企画・設計監理、都市・地域計画 およびこれらに関連する調査・企画コンサルタント業務

代表者:代表取締役社長 岡本 慶一

所在地:東京都千代田区

資本金:4億6,000万円

従業員数:1,724名(2012年1月1日現在)

HP:http://www.nikken.jp/ja/

多様なデータを1つにまとめるプラットフォームとしてのARCHICAD

執行役員
設計担当 プリンシパル/
デジタルデザイン室長
山梨 知彦 氏

―デジタルデザイン室の設立経緯をご紹介ください。
山梨氏 出発点の話をすると、10年以上も昔の話になりますね。3次元CADを使い始めたのがその頃です。最初は私のチームの中だけで、仕事を通じて試験的、実験的に使っていました。まだBIM(Building Information Modeling)もコンピュテーショナル・デザインという言葉も無くて、コンピューターを使ったシミュレーション等も非常に特殊な技術という時代でした。私たちの3次元CADの使い方も、やはりCGを描いてプレゼンや打ち合わせに使うのが中心だったのですが、やがてそれだけでは物足りなくなってきました。

――もっと他のことにも使いたくなった? 
山梨氏 たとえばシミュレーションです。まあ、CGだって将来を予測して描くのですから、一種のシミュレーションです。その延長線上で、たとえば風環境を予測してみたい、などと考え始めた。また、コンピューター自体のアルゴリズムで、人間の想像が及ばない形を求められないかとか、今のコンピュテーショナル・デザインのようなことも思い描いていました。そして、そうしたさまざまなデジタルの成果を、建築として一つにまとめるにはどうしたら良いか、と考えたとき、パース制作に使っていたツールが一番使いやすいことに気付いたのです。それがARCHICADでした。

――そもそもARCHICADを使い始めたのは? 
山梨氏 パースを描いて図面を描いて、という使い方が同じ一つのデータで行える、という点が魅力でしたね。建築的に正確なスケッチが描けるし、チームメンバーに設計意図を伝えるのに非常に便利で。それで、このツールを前述の“多様なデータを一つにまとめるプラットフォーム”として構想し始めたのです。そうするうちに、2008年頃には初めてBIMの概念を知り、大きく視野が開け、3次元CADの考え方が一変しました。それまではCG制作を中心に使っていたARCHICADでしたが、これをBIMという観点から捉え直すと、そこに日建設計そのものを変えてしまうほどの可能性があることに気付いたのです。そこでまず“BIMを勉強しよう!”と考えました。コンピューター・シミュレーションやコンピュテーショナルデザインについても学ぼうと考えたのです。

――「BIMの観点から捉え直す」とは?
山梨氏 私にとって3次元CADはまず設計ツールですが、BIMの観点で見ればそれだけではありません。たとえば、コンピューターシミュレーションやコンピュテーショナルデザインは、それぞれ別のプログラムを使いますが、これらを建築というものに落し込んでまとめるためには、多種多様なデータを建築的に再統合するための“場所”が必要で、それがBIMなのです。デジタルでデザインしたりシミュレーションしたりしたものを、最終的に統合する場所ですね。そして、そのBIMを実現する環境には、ARCHICADが都合良いと考えました。

――それらを全部一人でやるのは大変でしょう。
山梨氏 そうですね(笑)。勉強するだけならともかく、実際に試そうとすると、とても一人では無理です。そこでチームを作ろうと、デジタルデザイン室の原形となる組織を考え始めました。それが2010年頃。翌2011年からデジタルデザインセンターの呼称でメンバーを集め、実際に動き始めました。そして一年の試行期間を経て、2012年にデジタルデザイン室として活動を開始したのです。

桐朋学園大学調布キャンパス1号館 外観
桐朋学園大学調布キャンパス1号館 内観

デジタルデザイン室旗揚げの年に全プロジェクトの1/5のBIM化に成功

設計部門 設計部長/
デジタルデザイン室
芦田 智之 氏

――ではデジタルデザイン室をご紹介ください。 
芦田氏 デジタルデザイン室は、日建設計全社の多様な部門のスタッフが兼務という形で所属する全社横断的な組織です。現在40名弱のメンバーがいますが、今日はその中心メンバーでほぼデジタルデザイン室専任の人に集まってもらいました。組織はBIMチーム、CAS(Computer Aided Simulation)チーム、そしてDDL(digital design labo)チームの3つに分かれて活動しています。

――3チームの役割分担はどのようなものですか? 
山梨氏 まず今までの建築設計をBIMに置き換えようとするとき、具体的にどんな準備ややり方が必要か考え、実際に用意するのがBIMチームです。また、BIMの導入効果として、よく省力化が挙げられますが、私自身はシミュレーションを活かしたより高精度な建築設計や、コンピュテーショナルデザインのようなコンピューターを使った新しい設計手法の実践も重要だと考えています。そこでコンピューター・シミュレーションの研究を担うCASチームと、コンピューターを生かした新しい設計手法を考えるDDLチームを設けました。BIMチームでは、この両チームの取り組みから生まれるデータを取りまとめて、BIMに再統合する研究も行っています。

――デジタルデザイン室としての当初の目標は?
芦田氏 日建設計では、年間約400件以上のプロジェクトが稼働しています。そこで2011年に当室がスタートした時は、この400件の5パーセントのBIM化という目標を立てました。みんなの努力の甲斐もあって、その目標はクリアできました。やはり個々のプロジェクトの性格やスケジュールにより、BIMを使いやすい所もあれば使いにくい所もあります。ですから「全部に使え」などという無茶は言いません。各プロジェクト担当者が「ここに使いたい」と思った所で使ってもらっています。まずはできるところからということですね。 

山梨氏 そうですね、その5パーセントの中のある部分はコンピュテーショナルなことをやっていたり、シミュレーションもあったりして、BIMを具体的に活用したものが5パーセントということになります。この結果を受けて、2012年は大胆にも30パーセントくらい一気にやろうと目論んだのですが、さすがにそこまでは到達しなくて(笑)。結果的にBIM化の達成率は20パーセントでした。でも、20パーセントというと、もう全プロジェクトの1/5がBIM化されたということです。そう考えると後は増やしていくだけだと感じています。

BIMによるチャレンジを通じ建築設計のあり方を変える

設計部門
デジタルデザイン室
宮倉 保快 氏

――では3チームそれぞれの取り組みをご紹介ください。 
宮倉氏 BIMチームは今年、二つのテーマに取り組みました。一つは“基本設計からBIMを使おう”、そして二つ目が“人材育成の推進”です。BIMを進めていく上でのネックは、まだ社内で使える人材が少ないことです。そこで人材教育に取り組みました。ARCHICADの講習等を行うのはもちろん、BIMの導入も基本設計のような初期的な入力から始める案件を増やすことで、相乗効果を狙っています。そうすれば実際の設計業務の中で覚えられますし、BIMを実践することのメリット等を実感しながら習得していけるでしょうからね。

――手応えはいかがですか? 
宮倉氏 今年の新人からBIM講習を必修としました。東京では8月からは、希望者に月2回程度、講習を行っています。初歩的な内容ですが、みんな便利なツールだとすぐにわかってくれますね。「実務で使うために応用編の研修もやってほしい」とか「BIMでこういうことはできる?」と訊かれる機会も増え、社内にBIMが浸透してきた実感があります。東京以外でもBIM研修を開始しているので、もうかなりの人数がARCHICADを使えるようになっていますよ。

――基本設計からBIMを使う取り組みについては?
宮倉氏 ある学校のプロジェクトは基本設計から意匠、構造、設備を含めBIM取り組んだ結果、全体の作業効率も上がり、デザイン的にもいろいろ試せたということでBIMのメリットを実感してもらえたようです。 

山梨氏 特に意匠については、基本設計からBIMを使うことで、BIMでなければ設計できないデザインや図面が描けない計画も出てきました。これは重要な副産物ですね。

――BIMでなければ不可能だった? 
山梨氏 2次元で図面を書く時、通り芯とかを書くでしょう。そのために四角くて、収まったデザインになってしまうのですが、実は通り芯は2次元の図面だから必要なだけで、3次元的には要らないものなのです。壁もアイレベルで見てズレてる方が良ければ、3次元設計はそれを優先できます。斜めに見通しがきくとか、通り抜けられるよう少し間を空けておくとかが可能なのです。2次元的には通り芯のないバラバラの図面になりますが、3次元設計は成立するわけで、ある意味、BIMは建築設計のあり方を変えてしまうのですよ。

設計部門 デジタルデザイン室
角田 大輔 氏

――そうした挑戦をメインに行っているのがDDLチームでしょうか? 
角田氏 そうですね、「デジタル・デザイン・ラボ」という名前からわかる通り、DDLは実験的な取り組みを行うところで、比較的まだ実務に定着してないような新しい試みを中心に取り組んでいます。今年のテーマは大きく三つありまた。一つ目はより“複雑な形態”を作るチーム。そして、設計手法として新しいトライアルを行うチーム。そして最後は、シミュレーションや構造解析などとBIMデータの連携に取り組むチームです。 
これら三つのチームの中の一つで、具体的な取り組みとしては、夏頃に港区のギャラリーで「山梨グループ/NIKKEN SEKKEIの設計手法」の展示を担当し、ARCHICADでBIMを使うことで、BIMによる設計手法のコンセプトを提示できたかと思います。

上:展示風景写真(雁光舎 野田東徳) 下:BIMによる展示イメージ

設計部門
デジタルデザイン室
酒井 康史 氏

――DDLでは実物件は扱わないのですか? 
酒井氏 実は現在進行中のプロジェクトに、DDLの角田と二人で設計担当として参加しています。これは福岡に計画中のあるオフィスビルなのですが、模型を作ったり図面を引いたりする一方で、ARCHICADを使ってモデリングして図面やパースを書き出し、さらには要所、要所でコンピューターのアルゴリズムを考えて、スクリプティングをして設計していくという試みも行っています。実物件の設計を通じてコンピュテーショナルデザインによる新しい設計手法を探っているわけですね。これは3次元のBIMを使うことで、より効率的かつ高品質な管理ができるのではないかと感じました。現在はまだ勉強会ベースですが、少しずつ研究を始めています。

――新しい手法で実物件をやるのは冒険では? 
山梨氏 たしかにチャレンジですが、でも、何事も緊張感がある方が良いでしょう(笑)。それをクライアントも理解してくれています。実際、新しい素材を使う挑戦はみんな怖がりますが、ちゃんとした「設計を考える過程」でのそれならクライアントもまず嫌がりません。福岡のプロジェクトは、クライアントの方から「全部BIMでやってくれ」と要望があったほどで

――施主はBIMに何を求めているのでしょう?
山梨氏 一つは“常にビジュアライズされてわかりやすい”というメリットですね。裏返せば、クライアントには平面図で見せられることに対する疑いが、もともとあったのです。また、福岡のプロジェクトの場合、BIMという概念を理解すると、そこにクライアントが自分たちなりの新しい可能性を見つけました。というのもこの案件のクライアントは、ファシリティマネジメント(FM)もやっている企業で、建物の図面をBIMで持っておくことが、FM的にも非常に都合が良いのではないかと考えたのです。

プロジェクト開発部門PM部 デジタルデザイン室
樫村 奈美 氏

――デジタルデザイン室でFM活用の取り組みも? 
山梨氏 私たちにとっても新しいフィールドですが、プロジェクト開発部門にいる樫村さんに当室へ参加してもらい研究を開始しました。 

樫村氏 私はもともと開発の仕事をしていた関係で、意匠設計とは少し違うアプローチでBIMに興味を持ちました。具体的には、設計のずっと先の施設管理のフィールドで3次元のBIMを使うことで、より効率的かつ高品質な管理ができるのではないかと感じました。現在はまだ勉強会ベースですが、少しずつ研究を始めています。

――FM分野のBIM活用はまだあまり耳にしませんが? 
樫村氏 海外ではすでに始まっている取り組みです。たとえばオーストラリアでは、不動産会社の方からBIMで設計してほしいと要望されるのだそうです。日本の不動産会社はまだBIMの利便性に気が付いてないようですが、私たちはそのニーズが生まれるのに備えて研究を進めています。

設計事務所のあり方を変える未知のロードマップへ

設計部門 デジタルデザイン室
中曽 万里恵 氏

――設計事務所としての仕事が広がりそうですね。 
山梨氏 海外では施主がBIMに投資しているわけですが、現状ビジネスがシュリンクしている日本ではそうはいかないので、逆に日建設計の側から「こうしたらBIMを使ってFMが上手くできますよ」と提案していきたいわけです。つまり、日建設計の仕事が変わる、広がる可能性がここにもあるわけです。それはFMもそうですし、コンピュテーショナルデザインも、設計事務所の仕事をどんどん変えていくものでしょう。そしてそれ以上に可能性を秘めているのが、CASのシミュレーションです。

――そのCASチームの今年の取り組みは? 
中曽氏 環境シミュレーションに関しては、光と熱と風については以前から行っていましたが、今年は研究ベースながら新たに“人の動き”のシミュレーションにも取り組み始めました。また現状では専門家の力も借りながら進めていますが、設計者が設計実務の中でシミュレーションを行うことも一つの目標です。

――シミュレーションも設計者が行うのですか?
中曽氏 そうですね。パラメーターのセッティングなど専門的ノウハウが必要な部分もありますから、設計者がすべてのシミュレーションを行うのは難しいかもしれませんが、工夫してできるだけ多くの設計者が使えるようにしたいと思っています。そうすれば頻繁にシミュレーションを行い、より精度の高い設計が可能になりますからね。実際、上海のプロジェクトでは、コンペ段階からシミュレーションを取り入れて設計し、形が変わるたびに繰り返しフィードバックしたのです。最後の実施設計前までシミュレーションを繰り返し、どんどん細かくフィードバックして精度を上げることで、非常に良い設計になったと思っています。その都度専門家に頼んでいたら、大変な手間と時間がかかっていたでしょうね。 

山梨氏 あのプロジェクトの場合、風対策が一つのテーマでしたからね。建物自体複雑な形をしており、ビル風を防ぐとか、影響を抑える最適な形を導き出すことがコンセプトでした。無論、その後もいろんな要請で形が変わってもその性能が保たれているか、ずっと中曽さんがフォローしてくれました。 

中曽氏 何十回も繰り返しシミュレートし続けましたね。やはり自然の風がテーマですから。 

芦田氏 従来はハード面や時間的な制約もあり、設計段階でシミュレーションできるのはせいぜい1~2回でしたからね。だから直感で設計しておいて、基本設計の終わりあたりで確認する程度しかできませんでした。それが今ではトライアル&エラーで確認できます。5回もやれば設計にフィードバックできますから大きな進歩です。

設計部門 デジタルデザイン室 主査
濱地 和雄 氏

――本当に設計手法も、設計事務所としてのビジネスも大きく変わっていきそうですね。 
山梨氏 そのためにも重要なのが、前述したさまざまなデータを統合するプラットフォームとしてのBIMなのです。BIMソフトの専門家である濱地さんには、これを研究してもらっています。 

濱地氏 まだ始まったばかりですが、すべてのBIMプラットフォームとしてのARCHICADというアプローチについては、やはり多様なツールをいかにして取り込めるか。これが重要だと思っています。もしかしたらIFCというテクノロジーに大きな可能性があるかもしれないですし、新しいアドオン開発などが有望なのかもしれません。いずれにせよ日建設計に合ったツールをどう開発していくか、考えて抜いていこうと思っています。

――来年はエキサイティングな年になりますね。 
山梨氏 来年はBIM化率50パーセント以上を実現したいですね。これを達成すれば後は時間の問題で、遠からず100パーセントになる日も近いと思っています。したがって来年でデジタルデザイン室の旗揚げ期は終わり、再来年から第2世代の、より深いBIMの活用に踏み込んでいくつもりです。日建設計自体への提案を含んだ、それこそ設計事務所としてのあり方そのものを変えてしまうような、未知のロードマップを考えていきたいですね。

(インタビュー2012年12月11日)

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