自動車メーカーグループ会社出身の建築家として
株式会社 みやま建築設計事務所 代表 一級建築士 三山 元洋 氏
「実は私は建築家として、ちょっと異色のキャリアを持っているんです」。そういって三山氏は笑みを浮かべた。ここは西新宿の高層ビル街の一画に立つビル4階の、みやま設計事務所のオフィスである。白で統一された明るい所内では、Macintoshに向って3名の若い所員が忙しそうに作業を進めている。「大学は建築科を出ましたが、卒業後入社したのは某自動車メーカーのグループ会社だったのです。そこで会社員として働いていたのですが、やはり建築がやりたくて自ら希望しディーラー店舗を作る部署へ異動しました。それが建築設計の仕事の出発点となりました」。その後、三山氏は建築設計事務所へ転職して建築設計者としての修業を積み、2009年に独立して現在のみやま設計事務所を開業したのである。
「そんな経緯があったせいか、当事務所ではいまもディーラー設計を数多く手がけています。もちろん今では住宅から商業施設や病院、福祉施設に工場、公共施設まで幅広く扱うようになりましたが、ディーラー設計が一つの柱となっているのは間違いありません」。そう語る三山氏によれば、ユーザーをお迎えする商業施設とクルマを整備する工場施設が融合し、自動車メーカーのブランドイメージの宣伝塔的役割も担うカーディーラー店舗は、設計になかなか手間のかかる建物なのだという。
「人の動きや使いやすさに配慮しながら居心地良い空間を作りだすのは、多くの商業施設に共通する課題ですが、ディーラー店舗の場合、そこに人とクルマと工場、店舗という“モータリゼーションに欠かせない要素”全てが凝縮されているのが大きなポイントです」。その設計にあたっては、発注元である自動車販売会社への配慮が必要なのはもちろん、そこを訪れるエンドユーザーやそこで働くディーラー社員への気づかいも欠かせない。また大きな敷地を必要とするだけに環境への配慮も重要だ。「だからでしょうか、そうした幅広くきめ細かく配慮した設計が、私の建築家としての基本スタンスとなっています。実際、それらさまざまな条件を総合的に配慮しながら、できること・できないことをすり合わせ、最良の“落とし所”を見つけていくことが、建築設計では最も重要なのではないでしょうか」。
このスタンスを貫くため、三山氏は所内の隅々に目が行き届く少数精鋭の業務スタイルを続けてきた。しかし、事業が拡大して扱い物件の大規模化が進んだ、少人数での対応が難しくなってきたのである。ニーズに応えて高い設計品質を維持していくには、業務効率化や省力化が必要だった。そこで三山氏が思いついたのが、3次元設計の導入だった。
ARCHICAD の圧倒的な「使いやすさ」が決め手
もともと2次元CADで全ての設計業務をやっていましたが、2次元CAD使いの所員3名が対応できるボリュームには限界があります。そこで最小人員で効率よく仕事を回す手段として3次元化を考えたのです」。これに加え、若手中心の所員に高度な建築知識や作図テクニックの蓄積もなく、だからこそ各図面間の整合性や素早い修整対応など、BIMが得意な機能を活かし、質の高い図面をより素早く作成できる体制を作ろうと考えたのである。「もちろん、質の高い3Dビジュアライゼーションへの期待もありました」。
こうして2016年春、三山氏は3次元CAD製品の導入検討を開始。Webで情報を集めて3つの3次元CAD製品に絞り込み、試用版等を取り寄せて比較していったのである。その検討の一番のポイントは「使い勝手の良さ」だった。
「導入する以上、できるだけ早く全員で完全に3次元に移行したいと考えていました。しかし、講習に通ったり勉強会を開く時間はなく、実務で使いながら身に付けるしかありません。となれば、直感的な操作系で使い勝手の良いCADがベストでしょう。そして、他製品に比べ ARCHICAD は圧倒的に使いやすかったのです」。こうして三山氏は2016年3月、ARCHICAD 導入を決める。所員3名に三山氏自身の分を含めて合計4セット──いきなりの1人1台体制の実現だ。「1ライセンスを入れても全員の修得に時間がかかるだけですからね。むしろ皆で一斉にチャレンジして、分らない所は教えあう方が早いし身に付くんです」。そして、導入1カ月後、三山氏は ARCHICAD による実物件への挑戦を始める。
ARCHICAD に最適化した実施図作成手法
もちろんディーラー店舗ですが、新築ではなく大規模な改修物件でした。改修はまず既存建物のトレースを行うので、そこで ARCHICAD 操作を覚えようと考えたのです。ところが蓋を開けたら、これがシビアな建物で……」と三山氏は苦笑する。練習に手頃な3階建と見えたそこは、実は高さ違い・フロア違いの建物に、屋外階段の付き方も複雑で斜線関係も難題だらけ。初めて使う ARCHICAD でトレースしていくのは、それだけで大変な作業だった。
「とにかく分らないことだらけで、正直いって挫けそうになったことも……でも、とにかく実施設計までやりきりました。特に実施設計について途中で3Dへのこだわりを捨て、2Dを併用することでなんとか進められました」。こうして悪戦苦闘しながら三山氏とスタッフたちは自ら道を切り開き、さらにその経験をふまえ「次」への準備を進めていった。目指すは ARCHICAD 用に最適化させた設計スタイルの確立だ。たとえば自作パーツやARCHICAD に適した実施図制作手法の開発もその一環なのだという。
「最初に ARCHICAD を使ったのがディーラーだったので、パーツをたくさん制作しました。ブランドマークなどサイン系はもちろん、什器や受付カウンター、ホイールバランサーやリフト等の工場設備など数十点作りましたね」。特にBIMx等でビジュアルに見せる時は、これが大きな威力を発揮すると三山氏は言う。もちろん同じディーラー店舗の設計なら、そのまま使えるパーツも少なくないだろう。一方、実施図については、2件目のディーラーの新築案件から制作手法を大きく変えた。「数値をリスト化してまとめる ARCHICAD 式の描き方に意識して寄せていったんです。それである程度方向性が掴めたので、実施図も ARCHICAD だけで制作し、完全にBIMモデルに連動させるようにしています」。
もちろん同社もまだ3次元への切替えを完了したわけではなく、使う/使わないの判断は今も案件ごとに担当スタッフが行う。それでも前述の大規模改修案件の後、商店や住宅の設計で ARCHICAD を使ったし、その活用は急速に広がっている。「いま稼働している4物件のうち3物件がそうですし、チームワーク機能による社内協業も、特にメイン担当を決めずに自然な形で行うようになりました。意匠設計については完全に ARCHICAD を確立できたといえるでしょう」。ただ、構造や設備については外注業者の3D対応がまだまだ遅れていると感じているようだ。
「次のプロジェクトとしてホテルの新築計画を予定しています。これは最初から ARCHICAD で進めていくつもりですよ。そこそこ規模のある高層建築なので、たとえばホットリンク機能を使ってどれだけ省力化できるかとか、いろいろ試したいですね」
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