株式会社三橋設計
設計部
大橋龍二氏
株式会社三橋設計
設計担当部長
伏見歩氏
株式会社三橋設計
同課長補佐
高島史弥氏
非常事態宣言下もリモートワーク設計で対応
2019年末から全世界を席巻した新型コロナウィルス禍は、2020年早春頃から日本へ上陸し、たちまちわが国の産業社会に大きな衝撃をもたらした。もちろん建築設計の分野においてもそれは同様だった。大小多くの建築プロジェクトが一時中断を余儀なくされたほか、スケジュールやプロジェクトの内容変更も相次ぎ、多くの企業で事業活動全体の変更が続いた。さらに、そこで働いている1 人1 人がワーキングスタイルを根本から見直す事態となったことは、読者もご承知だろう。――そして、それは三橋設計の設計者たちも例外ではなかった。設計部の高島氏は語る。
「非常事態宣言が出されて首都圏のコロナ禍がピークとなった頃は、当社オフィスも通常時の2/3程度しか出社できませんでした。そうした状況がずいぶん続きましたね」。高島氏によれば、仕事自体は通常時とあまり変わらない数の案件が動いていたため、自宅勤務となった設計者たちも、多くがリモート勤務による設計業務で対応することになったのだという。「設計者のリモートによる在宅勤務なんて発想自体、以前の当社には全くありませんでしたし、私を含め多くの社員にとっては今回のそれが初めての体験でした」。となると、やはり作業効率の低下は避けられなかっただろう。――そう思って尋ねると、高島氏からは意外なほどポジティヴな答えが返ってきた。
「たしかに当初は作業効率の低下もありましたが、“充分に対応可能” なレベルでしたし、私自身も比較的すぐスムーズに進められるようになりました」。まさに同社では比較的短期間で、設計者一人一人のリモート設計スキルを実務レベルまで引き上げたのである。「携帯さえあれば各協力業者ともやりとりできるし、設計についても特に作図の場合など、作業環境的にはオフィスとほとんど変わりません。むしろ満員電車の通勤時間がないぶんストレスが抑えられ、非常にメリットが大きい働き方ができたと感じています」。そして、このスムーズなリモート設計を可能にした一つが、同社のメインツール ARCHICAD の活用にあった。
チームワーク機能でリモートワークを加速
「リモートワークによる設計に関して、当社は2 つのスタイルを用意しています。これにより各設計者は、自宅のPC 環境でもストレスなく3次元設計できるのです」。そう語るのは設計部を率いる担当部長の伏見歩氏である。他事務所の設計者からは、3D CAD をスムーズに動かせない自宅の非力なPC 環境下の作業を嫌がる声も耳にするが、三橋設計ではこの2 種のリモート設計の活用により、そうしたトラブルは避けられるのだという。結ばれたフロア各所に配置されている。
「一つ目は自宅から会社のデスクトップをリモートし、自宅PCからARCHICAD を操作するやり方。そして、もう一つは自宅PC からVPNでチームワークプロジェクトに参加し、メンバーとの共同作業を進めるやり方です」。通常の通信環境さえあれば、強力なコンピュータ環境は必ずしも必要ないわけで。実際、今回のリモートワーク下では、このARCHICAD を核にした設計手法が大きな威力を発揮したという。
「チームワークを使えば、プロジェクトの“横のつながり” が非常にスムーズになるんです」と高島氏は語る。メンバーと一緒に大型プロジェクトを動かす場合も、常にその最新の図面をダイレクトに見ながら進められるというのだ。もちろん自分や他のメンバーが作業を進めた分も送受信すれば即座に確認できるので、“ここがこう変わったな” とか“彼はここを作業中だな” などと確認しながら作業できる。まさに「三密」を完全に避けつつ、しかも“顔を突き合わせ” て行うのと同等の共同作業が可能なのである。「実際、ARCHICAD がなかったら辛かったでしょうね。チームワーク無しでは、たとえばさまざまな設計データを上書き保存したり名前を付けて保存したりと、電話を繋ぎっぱなしで細々と指示する必要があったでしょう。とても現実的とは言えません」(高島氏)。
決め手は建築にフィットした設計思想と操作性
BIMツールにARCHICADを選定したのはどのBIMソフトより建築の世界にフィットし建築の世界のためのCADと強く感じたから
いまやARCHICADによる3次元設計を設計業務全般の基盤としている三橋設計だが、こうしたBIM設計体制を確立するまでにはそれなりの曲折があったようだ。実際、ARCHICADの本格的な普及を開始したのは2010年頃のことだが、実はそのはるか以前から、設計部の一部で活用が始まっていたのだという。当時を知る伏見氏は語る。
「最初に使い始めたのは、ARCHICADの前身となるGRAPHISOFT5の時代からだったと思います。もちろん、当時はまだBIMなんて言葉さえなくて、私たちもこのGRAPHISOFTをパース制作にだけ使っていました」。そう言って伏見氏は苦笑いを浮かべる。当時、同社の設計部がメインツールとして作図に使っていたのは、フリーウェア2D CADのJw_cadであり、GRAPHISOFTはあくまでビジュアル制作用のサブツール的な位置づけだった。実際、これを使っていたのも限られた設計担当者だったという。では、サブツールに過ぎなかったGRAPHISOFTが、なぜ全社でメインツールとして広く普及したのだろうか。きっかけは、やはりBIMの出現だった。
「日本のBIM元年と言われた2009年前後、プロジェクトに関わるさまざまなデータを一元化して設計する新しい流れが生まれました。そして、当社もこれに取り組む必要がある――と、トップの意向が示されたのです。同じころ設計スタッフから同様の意見が相次いだこともあり、設計部を中心にBIM導入への取り組みが始まりました」。最初に行われたのは、やはりBIMツールの選定である。検討対象としてARCHICADと別の海外製3D CAD、そして国産製品という3製品がピックアップされ、設計者たちによる選定作業が行われた。スペックの比較はもちろん、体験版を取寄せて試用するなどさまざまな角度から検討が進められ、辿り着いた答がARCHICADだったのである。
「選定の決め手は、これが他のどのBIMソフトよりも建築の世界にフィットしていたから。構造や設備まで含めた“建築の世界”のために作られたCADだ、と強く感じられたのです。またインターフェースについても非常に好評でした。設計者にとって感覚的にすごくフィットする操作性だったのです」。伏見氏のその言葉に高島氏も頷く。「ARCHICADの場合、ずば抜けて直感的な操作性があるんですよ。今まで2D CADを使い続けてきた私たちにとっても、使いやすいと感じられたのです」。だが、当時の同社の業務状況下で3次元設計実現へのハードルは低いものとは言えず、一気に全社へ普及というわけにはいかなかった。
自社オリジナルのBIM設計用テンプレートの開発
実物件でBIM を使いその手法を広めるために
三橋設計独自の BIM 設計ルールをまとめ
テンプレートの形で活用&普及していく
「三橋設計に私が入社したのは2011年で、これはARCHICAD14が導入された翌年にあたります。しかし、現実には入社後もJw_cadを使うよう教育されましたし、先輩たちもJw_cadをメインツールに図面を描いていました」。そう当時を回想する高島氏によれば、BIMや3次元設計に興味を持つ設計者は数多くいたものの、スケジュールに追われるとつい使い慣れた2D CADに手が伸びてしまうことが多かったのだという。だが、せっかくいち早く導入した最新ツールを眠らせたままでは、問題になるのは当然だ。やがて高島氏らも3Dの有効性を強く意識するようになり、伏見部長を中心に設計者達によるBIM推進部が始動。高島氏もこれに参加してBIMの研究を開始したのである。
「最初は何をすればよいのかも分らず、1年ほどは手探り状態でした。企画案件等のCGを作りプロポーザルに使ったりしていました」(高島氏)。しかし、活動が2年目を迎えると「とにかく実施設計までトータルにやってみよう!」という声が高まり、小規模な物件を中心にBIM設計へのチャレンジが開始された。そして、この取り組みで明らかになったのが、設計の工程管理の難しさだった。「ARCHICADのBIM設計による図面制作にどれくらい時間がかかるのか。当初まったく見当がつかず、作図の工程管理ができなかったのです……おそらく最初はJw_CADで書くよりずっと時間がかかっていたでしょう」。最適な設定を模索しながら手探りの図面制作が続いたが、結果としてこの試行錯誤の積み重ねが、彼らをBIM 設計体制確立へ導くことになった。すなわち三橋設計オリジナルの“BIM 設計用テンプレート” 開発への道である。
「みんなでBIM を力を合せて実物件を進めていくには……そしてまた、その手法を全社へ広めるには、やはり三橋設計独自のBIM 設計ルールが必要だと気付いたんですね。そして、このルールをまとめてテンプレートの形に編集し、皆で共有し活用していけば、無理なくスムーズにARCHICAD の普及を進められるはずだ、と考えました」(伏見氏)。すでに業界ではサンプルデータのテンプレートや大手設計事務所等による活用例も広まっており、高島氏らは勉強会やセミナーを通じてそれらを分析・応用しながら独自のルールを組立てていった。
「この三橋テンプレートの大きな特徴の一つとなったのが、長年当社が使い続けてきたJw_cad による図面データとの親和性の高さです。紙に打ち出して表現する図面である以上、たとえば線種や線の太さといった図面表現の仕方が重要になります。ARCHICAD で描く図面は従来とは別物とするのも一つの方法ですが、私たちは蓄積したJw_cadによる情報資産や図面ウハウを有効活用したいと考えました」(高島氏)。つまり、かつてJw_cad により作図で設定していたペンセットや仕上表の表設定等々、三橋設計ならではの図学の設定や図面表現を生かしながら、新たなテンプレートに反映させていったのである。
東京/名古屋の活発な情報交換により進化
「独自のノウハウを結集したテンプレートが確立していくに従い、社内のARCHICAD ユーザーも急速に増えていきました。ARCHICAD を使いながらテンプレートのデータを見て、たとえば“建具はこういう風に作るのか!” とすぐに参考にしてもらえるようになりました。もともとみんなBIM への興味は強かったので、導入への敷居さえ下げられれば自ずとユーザーは増えていくわけです」(高島氏)。
三橋テンプレートの制作は、徐々に規模を拡大しながら現在も続けられているが、その開発の流れのなかで特に大きなポイントとなったのが名古屋事業所との協業である。前述の通り、三橋設計は東京・名古屋の2 事務所が事業展開における両輪となっている。ビジネスは、それぞれの地域に根ざして個々に独立した形で展開しているが、技術や情報に関わる交流は活発に行われているのだ。今回のARCHICAD を核にしたBIM 設計への挑戦とテンプレート開発に関しても、ビデオ会議システム等を利用しBIM 推進会議等が開催され、情報共有を行っていったのである。
「当初は双方とも独自の展開で進めていましたが、いろいろ行き詰ったり悩んだりするうち徐々に“どういうレイヤの作り方をしているのか?”等々、互いの手法に興味を持つようになったんですね。やがて見せあい比べあうようになっていきました」(高島氏)。この情報交換をきっかけに三橋テンプレートは急速に充実していき、さらに全面的な見直しを経て大きくグレードアップした。テンプレートの深部に及ぶ改修作業を行ったのが、入社4 年目の大橋氏だった。
「私の出身校では3D CAD に関する授業はなかったんですが、個人的に興味があり就職する前に学んでおくべきと感じたので、ARCHICADの無料講習を受け基礎だけ身に付けたんです。おかげで入社1 年目後半にはテンプレート作りに参加していました」。大橋氏はARCHICAD のカスタマイズ用プログラミング言語であるGDL まで駆使して、三橋テンプレートの根本的な部分まで徹底した見直しと改修を行っていったという。「たとえばARCHICAD 20 から追加された“表現の上書き” という非常に便利な機能があるんですが、大橋君はこれを活用するために必要な三橋式のルール設定も全部整理してくれました」(高島氏)。このグレードアップをきっかけに、テンプレートに関する東京・名古屋間の技術交流も一気に加速。最近は、それまで別々に制作していた両事業所のテンプレート統合も開始された。そして、この三橋テンプレートの充実と共にARCHICAD の普及も一気に加速したのである
設計業務全体が効率化&品質向上しコンペ勝率は2倍に
構造&設備設計事務所や施工会社を対象に
ARCHICADを共通言語にBIMに取り組む
新たなBIMコラボレーションを目指していく
「現在では、企画やプロポーザル段階から実施までARCHICADをフルに使うようになっており、ほぼ完全に設計部のメインツールとなっています。500㎡程度の保育園等から1万㎡くらいの病院、あるいは海外では2~3万㎡規模の大型案件も、実施設計等まで含めてARCHICADで進めるようになりました」(高島氏)。結果として設計業務全般の効率化が進み、特にコンペ案件を含むプロポーザルなど初期段階の提案に関わるさまざまな作業が格段に効率化され、品質向上にも結びついた実感があるという。「最初の打合せから間を置かず、素早く3Dモデルを見せられるのです。プロポーザル用の紙面を構成するにも、すぐモデルを取り入れレイアウトブックに反映できるし、時には動画等もお見せできるので、お客様に対して非常に効果的です。実際、コンペ勝率はARCHICAD導入以前の2倍に向上しています」。一般にプロポーザル関連の業務は通常業務と並行して進められ、時には担当設計者の大きな負担となることも多いが、BIM設計導入後は特段の負担もなくプロポーザルに対応し、仕事を獲得するなど、コンペ勝率が向上しているのだという。「ARCHICADが無かったら無理だったでしょう」(高島氏)。さらにこうして初期段階で活用された3Dモデルは、基本設計以降の作業にもフル活用される。
「以前は基本設計の提案を単線プランで描いて見せていたので、ボリュームは出ないし表現の幅も限られていました。結果、お客様にお見せしてもなかなか内容を理解してもらえず、説明に苦慮することが少なくありませんでした。パース等も外注で大きなコストが発生していましたね」(高島氏)。それが現在ではプレゼンツールは全て社内で制作され、お客様の理解も適確かつ早くなった。そのため、お客様とも早い段階でプランをディティールまで詰めて同意を得られる。当然、手戻りなどなく、竣工後のクレームや追加工事のリスクも激減している。「まだ多くはありませんが、3DモデルなどBIMデータをゼネコンに渡して梁や設備の干渉チェックに使ってもらう現場も徐々に出ています」(高島氏)。――このように大きな成果をあげながら、三橋設計のBIM設計はいまも着実に進化し続けている。今後は名古屋事業所ともさらに緊密に協力を進め、全社のBIM設計体制のさらなる充実を図っていく計画だ。最後にお話をうかがった皆様に、今後の計画について語ってもらった。
「引き続きテンプレートの強化を進めるのはもちろんですが、私一人の取り組みではアイデアに偏りが出かねません。ですから、当社設計者のARCHICADスキルの向上を推進して多くの熟練者を育て、彼らと共にいっそうのスペックアップを図っていきたいですね」(大橋氏)。
「ARCHICADによるプレゼン手法のバリエーションを充実させたいと考えています。リアルタイム3Dというか、その場で3Dモデルを動かしながらプレゼンしたり、VRによる提案も効果的だと思います。特に3Dモデルを見せながら、お客様の意向に応えその場で変更・修正し再提案できる仕組みができたらさらに効率化が進むでしょう」(高島氏)。山を掘っていく感覚というか、風か雨になった気分で“出っ張ってるな”と思ったら侵食していく。そんな風にして“風景としてフィットする形”を探していったのです……私がARCHICADを使うのも、そんな感覚を得られるからなんですよ」
「いま一番興味があるのは、構造設計事務所と設備設計事務所、そして施工業者も含めて、BIMを用いたコラボレーションの実現です。一つのプロジェクトで協業を図るだけでなく、ARCHICADを共通言語とした協力関係を結びたいと考えています。これに興味があるARCHICADユーザーの設備/構造設計事務所さん、募集中です!」(伏見氏)
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