松井建設株式会社
ICT推進室長 多田 幸弘 氏
松井建設の創業は、天正14(1586)年。加賀百万石と称される、加賀藩第二代藩主・前田利長公のお抱え大工がその始まり。プライム市場の中で、一番歴史がある会社だ。
2016年にBIMの導入が入札条件の案件に出合ったことがきっかけで、翌年ICT推進室を新設した。支店ごとにリーダーが任命され、そのうちの1人が現ICT推進室長の多田幸弘氏だ。「情熱を持った所長クラスの人間であれば、BIMモデルを見た瞬間、できることのイメージがどんどん膨らんでいって感動するはずです。
僕は機械音痴で、今でも2本の指だけを使ってパソコンを操作しているけれど、BIMを初めて触ったとき“これで建築業界が変わる!”と直感しました」その思いはArchicadに触れてより強く実感した、と話す。「2Dの図面を見て、頭の中で3Dにするのが技術屋の取り柄。でも、頭の中は人には見せられないので、何度説明してもわかってもらえない!と頭を抱えることがよくあるんです。
BIMを使えば、目で見て一発で共通認識ができるようになります」。
1934年に竣工した、築地本願寺復興工事の正面図。インド様式を採り入れたモダンで荘厳な姿は、東京観光名所のひとつ。
これまで現場所長、所員・職方の頭の中でイメージすることが多かった工程が、BIM を使うことで「見える化」する。
オペレーター任せにはしない
始まりは技術屋の一歩から
導入後しばらくは、試行錯誤の時期が続く。活用の仕方がわからない、現場でどういうふうに役立つのかイメージできない……。
転機は2021年、多田氏がICT推進室長に任命され上京してから。「施工現場がBIMの効果を知るためにもっとも大切なことは、BIMモデル作成をオペレーター任せにせず、技術屋自身で触ってみることです。いくらBIMが便利だと言っても、いくらオペレーターがパソコンの知識に長けていても、問題や課題に気づくための発想は、現場技術者の経験値によるところが大きい。
例えば、技術屋であれば、漏水しやすい場所や点検しづらい場所などもパソコン上で事前に気づくことができる。それが、メンテナンスの発生防止に繋がったりするのです」そこで、オペレーターのパソコン技術と、現場の経験豊かな施工技術を融合する手段として、BIMクラウドを活用オペレーター任せにはしない始まりは技術屋の一歩からすることにした。
本社のICT推進室でモデルを描き、支店のオペレーターが現場の細かい調整や声を反映していく、という体制だ。
2022年10月に竣工し別館に移動したICT推進室。推進室のメンバーと各支店に1〜2人ずつ配置されているBIMオペレーターとで協働して、施工BIMモデルを作成する。BIMcloudを使うことで、離れていても同時並行的に作業ができる。
Archicadをメインに、クレーンや足場を配置するなど施工に特化したsmartCONPlannerや、ビューワー機能を持つBIMxのほか、社寺建設に長けたRhinocerosなどをアドオン機能で利用している。
各工程でBIMを取り入れた取り組みの具体例
躯体モデル ▷ 施工計画 ▷ 鉄骨の建て方計画
br>最小限の仮設で最大限の作業性に気づく
「敷地いっぱい使った建物にはBIMが必須」と多田室長。ArchicadとsmartCONPlannerを使えば、事前に緻密な搬入計画が立てられる。
タワークレーンの解体ができるかといった検証や、クレーンの長さや位置から何トンまで吊れるかということを、柱1ピースの重量から算出する。
躯体モデル ▷ 施工計画 ▷ 躯体工区分け
br>ベストな打設計画、打ち継ぎ位置に気づく
コンクリート数量算出は、多くの物件で必要な作業。
残業になりがちな、若手社員が手計算で数量を算出していたコンクリートの工区分けも、BIMだと一瞬。さらに、上からも下からも確認できる。
躯体モデル ▷ スリット・樋(とい)ルート確認
br>軸組図にない壁の構造スリットなども、明確に
2Dだとわかりにくかった構造スリットや雨水、樋ルートの確認は、BIM上で表現の上書き機能を使えば強調して見ることができる。
「3Dで見える化できるので、若手社員の教育にも便利です」。
意匠モデル ▷ 意匠モデルと設備統合
br>意匠と設備を結合することで、納まりがひと目でわかる
「縦断面を見れるのはBIMの一番便利な機能ですね」と多田室長。意匠モデルと設備をBIM上で結合することで、左下図のようなベントキャップ、給湯器、樋の干渉に気づくことも。
「こうした現象はBIM上ですぐに修正することはできるけれど、消防法から考える給湯器の位置とか、給湯器の近くには設置できない樋の素材の検討とか、一つの画面から色々なことが想像できる。そうした気づきも必要です」。
上 / (一番右)が多田室長、(中央)がBIMマネージャーの資格を有するICT推進室の中井健太郎氏、(左)が入社3年目の同室・大田真鈴氏。大田氏はBIMから技術を学んできた世代。
今では、10年以上キャリアを積んだ現場監督と日々業務の相談を重ねている。右 / 松井建設の本社ビル。
BIMの新時代で生き残るために
「新しい技術から逃げない」
先に挙げた多田室長主導のさまざまなBIMの活用事例はほんの一部。「20年くらい前に、図面が手描きからCADに変わった時に“もう手描きには戻れない”と感じたのと同じ気持ちで、BIMを覚えたらもう2Dには戻れない」と、多田室長はいう。
使いこなすまで覚えることはたくさんあるけれど、それについてはArchicadのユーザー会で持ちつ持たれつの教え合いをしているそうだ。「技術を先輩社員から盗む時代から、BIMで学ぶ時代へと変わったのです」「デジタルツインやBIM-FM、MRなど、BIMを基にした最新技術はすでに社会に広がり、期待を持って活用されています。
偉い人はすぐに結果を出せ、と言いますが、BIMがなければ、現場でどれだけ後戻りがあったのか、社員にどれだけ苦労があったのか、そういう部分を未来への貢献度という軸で見てほしい」ICT推進室では、実験的にBIM-FMを試行。
設備機器に貼ったQRコードを読み込むと、メーカーサイトに飛んで機器名や型番を確認出来たり、Dropboxから取扱説明書が読めるようになっている。「ゆくゆくは、お客様の希望に合わせて展開していきたい」。
戦国時代から続く松井建設は、時代に合わせて柔軟に進化を続けてきた。これからもオペレーターと技術屋の両輪で、BIMの新時代を切り開いていく。
モデルを描く人が、一番最初に不具合に気づく。
BIM作図担当者(オペレーター)が気づいたことは、都度質疑書を作成して現場に伝達する。
社寺建築部では、代々引き継いでいる“松井の反り”がある。
その特殊な技も、ArchicadとRhinocerosを使ってBIM上で再現できる。
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