前田建設工業株式会社
BIMデータ連携により木造新生産システムを可能にするロボット加工機の開発など、新たな建築の未来を切り拓くBIM活用を推進

前田建設工業株式会社

第57回BCS賞を受賞した「住田町役場」、都市型耐火木造建築である「桐朋学園仙川新キャンパス」など、大規模木造建築の建設でBIMを活用した事例を次々に実現させている前田建設工業。
BIMソフトARCHICADで作成したBIMデータを社内外のコミュニケーションや業務推進に役立てるなど、業界でも先進的な取り組みで知られる同社だが、2018年に、BIMデータを木軸加工まで連携させ、大規模木造建築に使用する構造材まで、一気通貫でロボットによって自動加工する革新的な生産を実現した。これまでの同社の木造建築へのBIM活用の歩みと、加工まで連携することの狙い、またこれからの建築生産の姿までを前田建設工業 建築事業本部 ソリューション推進設計部 BIMマネージメントセンターの綱川隆司センター長に伺った。

前田建設工業株式会社

設立:1946年

本社:東京都千代田区

代表者:代表取締役社長 前田 操治

社員数:3,001名(2018年3月末現在)

事業内容建築・土木工事、その他建設工事全般の企画、設計、施工コンサルティングなど

Web:https://www.maeda.co.jp

前田建設工業のBIM活用の歩みと木造建築の取り組み

前田建設工業株式会社
建築事業本部 ソリューション推進設計部
BIMマネージメントセンター センター長
綱川 隆司 氏

2000年に3D CADのワーキンググループを立ち上げ、早くからBIMにまつわる活動を開始した前田建設工業。綱川隆司氏は2001年から、3D CADを使う設計チームを4人でスタートさせた。次第に規模は拡大し、BIM推進グループとして設計のほか構造、設備、施工も含めて50人以上のスタッフに。2013年にはBIM設計グループが立ち上がり、2017年7月からは「BIMマネージメントセンター」として、意匠系のメンバーを中心に、開発業務や社員教育などに幅広く関わっている。「BIMマネージメントセンターは、4つのチームで構成されています。私たちは社内でのBIMの活用を単に推進するだけでなく、一貫して実プロジェクトの設計に関わり、BIMを使って業務改善を実践しているのが特長です」と綱川氏。センター長はBIMディレクターとしてプロジェクトチームの編成を行い、その下のチーム長は設計担当としてプロジェクト単位で各クライアントや諸官庁の担当者との調整を行いつつ、BIMマネージャーとしてモデルの効率的な活用やBIMにおけるナレッジの構築を担当している。そしてBIMマネージャーが指揮する、BIMスタッフたちがモデルの効率的な入力や作図、オブジェクトの作成、現場監理も行うなど、プロジェクトにおける幅広い業務に対して、柔軟にBIMで対応することができる組織体制が整っているという。

3次元設計とBIMのツールとして綱川氏がメインで用いているのは、2003年より導入しているGRAPHISOFTのARCHICADである。  綱川氏は「ARCHICADが、最も長く使っているツールです。いまでは最初のスケッチから使うくらい思いどおりの作業ができています」と信頼を寄せる。

現在、前田建設工業は「木で建ててみよう前田建設工業×木」というWebサイトを立ち上げ、中大規模の建築で主体構造を木造とする選択肢を積極的に提示している。綱川氏は「木造建築はクライアントからのニーズも高まっており、当社の掲げるCSV-SS※に適した選択肢だと思います。林業は地方では主要な産業ですから、木造を選択することは地域の活性化につながります。環境とも調和しますし、日本の文化にも合っている。さらに、木造はRC造や鉄骨造に比べて自由度が高く、デザイン的にはさまざまなチャレンジができる構造だと感じています」と自身の経験を踏まえて語る。

※CSV-SS:Creating Satisfactory Value Shared by Stakeholder

中大規模の木造建築物でBIMを導入する実際の効果

近年、BIMによる大規模木造建築を続けて完成させてきた前田建設工業であるが、今回、綱川氏から同社の代表的な木造建築の実績について伺った。綱川氏がBIMを活用した木造建築物を最初に手がけたのは、2014年に竣工した岩手県の「住田町役場」である。工期とコストを厳守するためにデザイン&ビルド方式で発注されたプロジェクトで、林業が地場の産業であったため主体構造を木造とすることが条件であった。

綱川氏は、発注者である当時の町長が「庁舎を町のショールームにするため、天井を張らずに木造の架構をそのまま見せたい」という強い意向を持っていたことが、木造のBIMの価値を増したと指摘する。約22mの大スパンを実現したレンズ型の大型トラスと、内部が透視できるラチス耐力壁を用いた特徴的な木造の架構について、BIMを活用することで発注者との情報とイメージの共有を図ることができたのである。また「架構が綺麗に出てくると同時に、スプリンクラーなどの設備類の機器や配管がたくさん見えてきますが、ARCHICADで作成されたモデルを見ることができるBIMxというビューワーソフトを使用し、着工前に発注者側とリアルタイムウォークスルーを用いた打ち合わせを行うことで、スムーズに承認を得ることができました」と綱川氏は語る。その結果、四隅に町民寄贈の100年超の象徴木が立つ2層吹き抜けの町民ホール、外周壁に列柱を配置することで内部空間利用のフレキシビリティを確保した2F執務スペースなど、木を現しとした外観も内観も印象的な市庁舎となった。

岩手県大槌町の御社地エリアに建つ「大槌町文化交流センター おしゃっち」も、BIMによる木造建築である。図書館とホールと展示室などからなる施設で、2018年6月に開館した。市民が利用する公共建築ということもあり、設計では事前にワークショップを開催して設計内容を周知する手段がとられた。この際にもBIMによるビジュアライゼーションが活用された。外観や室内では、連続の門型アーチと樹状をした方杖架構による大スパンの空間が特徴的な計画である。「建物の形状はユニークなもので、構造の美しさや面白さを言葉だけでなく効果的に伝えることができました。木造でBIMを活用することで、構造体がそのまま仕上げになる様子などを皆で確認できました」と振り返る。

「桐朋学園仙川新キャンパス」では、耐火木造建築にするためのディテール検討にも、BIMを役立てたという。耐火仕様の構成や納め方については前例がないため審査機関などとの協議においてもBIMの有用性があった。「設備配管についても、木の梁にスリーブを開けて通すわけにはいかないので、そのルートを事前にすべてBIMで確認することは有効でした」と綱川氏。そのほか、東京都三鷹市の「国際基督教大学体育施設」など、どれもその地域のシンボルとなる魅力的で特長的な木造建築の実績がある。

そしてもちろん社内でも、BIMを大いに活用しているという。綱川氏はその様子について「設計事務所と協働する際には、Rhinocerosのデータを自社でARCHICADと連携させ、下地の取り合いや部材の形状の検討をするようなことがあります。また現場とのやり取りでは、木造の建造物を手がけたことのない職員もいます。柱と梁の仕口でドリフトピンと金物を使う手順も、3Dの絵と動画で見せることで、わかりやすく伝えられました」と語る。また、「“基本設計は設計事務所、実施設計はゼネコン”という請負形態も増えていますが、情報伝達はシームレスになっていくのが理想だと思います。その際の情報連携を、BIMを意識しながら構築していきたい」と綱川氏はプロジェクトごとに協業するグループ内の意思疎通という点でも、BIMの活用を視野に入れているという。

BIMソフトでハンドリングしたデータで精度の高いロボット加工が可能に

そして、前田建設工業はBIMデータをそのまま木造建築の構造材の加工段階まで連携させることにも取り組んでおり、千葉大学大学院 工学研究科の平沢教授の研究室との共同研究で、すでにロボット加工機を開発し、実際の建物での構造材の自動加工を実現した。

綱川氏はその背景について「設計側で詳細に作り込んだ3次元データを、工場側に受け渡してそのまま加工したいと考えたことから、加工機の製作に至りました。既存の加工機では、使用する3次元データはプレカット用の専用CADソフトを用いて作成する必要があり、連携に自由度がありません。それなら、ARCHICADのBIMデータをダイレクトに利用できる加工機までつくろうと、平沢先生との共同研究に至りました」と語る。平沢教授はこれまで、五重塔を3Dプリンタで制作するなど、さまざまな先進的研究をしており、ARCHICADのGDLというスクリプトで仕口の形状を生成し加工する取り組みも行っている。

BIMとロボティクスの掛け合わせという、これまでとは異なるアプローチによる新たな加工機は、産業用多関節ロボットと専用の搬送台で構成される。「マルチカットソーと呼ばれる従来の高性能機種が5軸ですが、今回は6軸です。全方位から切削・加工を同時に行うという自由度の高い加工を自動で行え、さらにさまざまな形状に対応できる可能性が広がりました」と綱川氏。木造の柱や梁の複雑な形状の仕口にも対応でき、従来にない自由なデザインの木造建築も可能となる。また既存の機種と比較して加工誤差を0.5mm程度まで減少させた。「精度が向上することで、より精緻な設計を行える可能性が見えてきました。建て方では誤差を出さずに納めることができ、現場の施工性も高まります」という。加工コストについては直接的に比較できる対象がまだ多くないものの、手作業よりは時間はかからずコストが圧縮されていくことが予想される。

そして、使用する3次元データはARCHICAD側で対応し、そのまま利用できるようになったことが大きな意味を持つ。「3Dプリンタと同じような感覚で、STLのデータがあれば加工できるようになります。これまでブラックボックスのようであった部分を、自分たちで触って調整できることが大きい」と綱川氏は語る。

前田建設工業が、同社の100周年事業として茨城県取手市に建設したオープンイノベーションを推進する新技術研究所は2019年2月ICI ラボ※としてオープンする。ネスト棟(木造)・エクスチェンジ棟(オフィス)、ガレージ棟(総合実験棟、構造実験棟)、多目的屋外実験エリアからなり、地元の関東鉄道の寺原駅南口も整備するなど地域振興に寄与するプロジェクトだ。オープンイノベーションを実現する上で、大きな制約となる内外の企業や大学、建設現場などとの距離的障壁をなくすため、執務空間には先進のICT機器を導入し、実験装置・計器すべてにIoTを導入して自動的にデータを収集・管理・共有する先進的な研究施設となる。また、井水を利用した空調システム、自然換気・採光、髙効率機器のほか、BEMSを利用した省エネ・再生可能エネルギー利用をとおして、建物のZEB化を実現しているのも特長だ。

同研究所内の「ネスト棟(木造1階、約800m2)」では、実際に使用する梁・柱部材の一部にこの加工機を使用した。「屋根が特殊な形状で全体に傾き、梁が放射状に架かるため、部材の面同士が平行ではなく仕口の形状も複雑になりました。さらに金物を差し込むスリットも設けます。これら一つひとつ異なる形状を、ARCHICADで作成した3次元データから加工することができました」と綱川氏。ICIラボのガレージ棟内の新しいロボット加工機はより大きな部材を加工できる仕様に拡張した。

「ARCHICADは、自分たちが“こういうつくり方をしたい”と希望するときに、アジャストする幅があって自由度が高いことが大きな魅力」と語る綱川氏。柔軟なツールと発想をもってBIM化に取り組む先に、新たな木造技術とデザインの長足の進歩が見えている。そして「これからBIMは、一般の人にも浸透するでしょう。ものづくりが成熟している中で発注者も巻き込み、さまざまな人にプロジェクトへ参画してもらうことで、コミュニケーションも変わっていきます。発注者にBIMの価値が伝わることで、さらに適用物件が増えるはずです。その先にはBIMデータの活用もさらに広がるでしょう。これまでの経験から、ソフトの種類を超えてBIMデータを流通させOPEN BIMを実現するためには、ARCHICADが適していると思います」と綱川氏は、BIMの未来と、鍵となるツール活用の姿を予測する。

※HPリンク:https://www.ici-center.jp

構造材の自動加工をする2台のロボット

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