共立建設株式会社
執行役員 術企画本部副本部長
技術企画本部 技術部長
本店 トータルサポート本部
担当部長
三好正和 氏
共立建設株式会社
技術企画本部
技術部 課長
米倉正剛 氏
共立建設株式会社
技術企画本部
技術部
伊東瑠那 氏
共立建設株式会社
技術企画本部
企画設計部 次長
竹内芳乃 氏
3D プリンターから 3D CAD 、そして BIM へ
共立建設株式会社はNTT の後援により1956年に設立され、 NTT 通信関連施設の新築・リニューアルから各種商業施設や大規模集合住宅まで、幅広い分野に展開する総合建設会社である。NTT の通信関連施設を長年手がけ、その技術と品質の高さには定評がある。そんな同社が、3次元とBIM への取組みを開始したのは2015年のことである。技術部長の三好正和氏は語る。
「きっかけは2013年に就任した只腰社長が打出した新方針でした。当社のような中堅ゼネコンも、将来へ向けて行う研究開発が不可欠だ――ということから、技術企画本部内に研究開発チーム3D ラボを設置することと、ゼネコンとして取り組むべき研究開発テーマの調査・研究が命じられたのです。そして“何か面白いことをやろう!”と、社長自身が示してくれたテーマの1つが3D プリンターの活用でした」。当時、安価で扱い易い3D プリンター製品が次々登場し、これまでにない幅広いフィールドで3D プリンターの活用が始まっていた。この流れを捉えて、“ゼネコンならではの3D プリンター活用法”の研究が進められたのである。
「そこで、まず私たちが行ったのがアイデアコンペです」と語るのは、同じく技術部で課長を務める米倉正剛氏である。「全社から3D プリンター活用のアイデアを募集し、1位を取ったアイデアを私たち技術企画本部で実現しましょう、と全社に呼びかけたのです」。3D プリンターという「旬」なツールを扱ったアイデア募集だけに社内の反響は大きく、全社から多数の応募があった。その中で1位に選ばれたのは、自社物件のミニチュアモデルを3D プリンターで出力して町並みのジオラマを作ろう、というアイデアである。
「実は当社の営業パンフレットに、ウチが建てた物件をコラージュし、架空の町並みに仕立てたパースイラストを掲載していたんですが、これを 3D プリンターで作ろう、というアイデアでした」(米倉氏)。早速、3D ラボのメンバーは、3D プリンターを駆使して地盤や建物等すべてのパーツを出力し、架空の町並みを作成していった。完成したジオラマは社内でも話題を呼び、現在も1階 来客打合せスペースの入口を飾っている。そして、その制作過程でメンバーの関心を集めたのが、BIM と3D CAD だったのである。
「3D プリンターで建築モデルを出すには元になる3D データが必要で、そのデータは3D CAD でなければ作れません。そこで建築系3D CAD をいろいろ試すうち、改めてBIM の必要性を痛感したのです」(三好氏)。
「ARCHICAD がほしい!」
「もちろんBIM については以前から知っていましたし、それなりに情報も集めていました。会社としての導入は時期尚早と見送っていましたが、前述の通り3D プリンターの市場調査を進めていくうち、予想以上に BIM が盛んになっていることに気づいたのです」(三好氏)。
当社もすぐにでもBIM に取組むべきだ――。調査が進むにつれ、3D ラボのメンバー全員がひしひしとそう感じるようになっていった。そして、3D ラボとしての意見を統一し、それを只腰社長へと提案したのである。提案を聞いた社長からはひと言、「やれるか?」と問いかけがあり、彼らはもちろん「やれます!」と応えたのである。
いますぐにでもBIMに取組むべきだ、全員がひしひしと感じるようになっていた
「実は当時の3D ラボはわずか3人しかメンバーがおらず、BIM の導入という全社的なテーマを扱うには、正直いって人手不足でした。しかし“やれる”と社長に大見得を切った以上、いまさらできないとは言えません。とにかくやれる所からやっていこう、と皆で決めたんです」(三好氏)。
こうして始まったBIM と3D の研究は、メンバーそれぞれの得意分野を生かし、当面の課題を分担して進められた。中でも核となるBIM ソフトの選定を担当したのが、企画設計部次長として長年意匠設計に携わる竹内芳乃氏である。一級建築士として多くのCAD を運用してきた竹内氏は、3D CAD についてもすでに研究を進めていた。竹内氏は語る。
「 3D 建築モデルデータは、BIM はもちろんプレゼンでも重要な基盤です。実は当社ではパース等のビジュアライゼーション制作を外注しており、その修正対応の遅さやコスト高が問題になっていました。なんとかこれを内製化できないかと、いろんな3DCAD を検討していたんです」。こうした経緯を経て、竹内氏はまず、ローコストと使いやすさの2点から、ある他社製3D CAD の導入を決定する。
「この選択は正直いって価格の安さで決めた面も大きく、とりあえず使ってみようという試験的な意味合いの強い導入でした。実際、使ってみると操作が簡単で使いやすいものの、ビジュアル面や細かい納まりの入力が思うようにできなくて……。意匠畑の人間としてはやはりグラフィックが美しいARCHICAD がほしい!と考えていたんです」(竹内氏)。
この頃すでにBIM 研究が始まって1年が過ぎており、3D ラボのメンバー間では「 BIMでできること」のイメージも固まっていた。だが、それを実行していくにはパーツの細部まで作り込みが可能な、ARCHICAD の必要性が徐々に高まっていたのである。しかし、当時の3D ラボにARCHICAD を使えるメンバーはおらず、前述の通り人員不足のため操作修得に充てる人的余裕もなかった。そのためなかなか導入に踏み切れなかったのである。だが、「救いの神」は意外な場所から出現した。
ARCHICAD 導入で BIM 試行が一気に加速
建築業界での急速な普及とは裏腹に、大学や専門学校など建築系教育機関におけるBIM や3D CAD 関連のカリキュラムの展開は、まだまだ遅れている。だが、最近になって、このBIM という新しいトレンドをカリキュラムに取込んでいこう、という先進的な学校も徐々に出現し始めた。
「私が卒業したのもそんな大学の一つでした。実際、私は丸4年間授業で ARCHICADを学んだんですよ」。そう語るのは、2016年の新入社員として共立建設に入社し、現在は技術部に所属しながら3D ラボの一員として活躍している伊東瑠那氏である。その言葉どおり、伊東氏は卒業段階で既に ARCHICADの操作に熟達していたという。しかし、それでいて共立建設への入社決定後も、そのスキルを生かす機会はなかなか訪れなかったのである。
「実は私、構造がやりたくて技術部を志望したんです。だから当時BIM のことはまったく頭になかったんです。それが入社後たまたまオフィスで ARCHICAD の話を耳にして、つい“私は使えますけど”といったら大騒ぎになっちゃって」(伊東氏)。
私たちゼネコンが、BIM で、ARCHICAD でいったい何ができるのだろうか?
ARCHICAD の導入を巡って停滞を余儀なくされていた3D ラボにとって、それはまさに天の配剤だった。渇望していたARCHICAD の使い手が、突然目の前に現れたのである。しかも、新入社員(当時)の伊東氏はグラフィソフトの「ヤングアーキテクトプログラム」(※1)を利用することができ、結果としてローコストでの ARCHICAD 導入も実現されたのである。――そして、このARCHICAD 導入を機に共立建設が進めるBIM 研究は一気に加速していった。
「私たちゼネコンがBIM で ARCHICADでいったい何ができるのか、試したかったのです。新しくメンバーに加わった伊東は、その点理想的でした。ARCHICAD の多彩な機能をどんどん紹介してくれて、われわれも“こんなBIM 活用ができる”あんな風に使える”と、具体的な BIM 活用のヒントを次々 生みだしていけるようになったんです」(米倉氏)。
こうして3D ラボのBIM 活動は一気にステップアップし、いよいよ実現場での試行、BIM 支援も始まった。たとえばコンバータを用いて配筋の3D モデルを立上げ、これを配筋検討に使う。あるいは SolibriModel Checker を駆使して躯体モデルの干渉チェックを行う……ゼネコンならでの現場における課題解決を中心に、BIM を駆使してさまざまなサポートを提供し始めたのである。
※ 1 ヤングアーキテクトプログラム(YAP):ARCHICAD 学生版でBIM を学んだ学生の卒業・就職後、ARCHICAD 商用版導入を支援するプログラム。最大30%が割引かれ、個人的な購入・就職先企業での購入に利用できる。詳しくはこちら。
配筋モデルの作成に GDL も活用
「配筋モデルについては、実際に工事部門から“この配筋の干渉とかをチェックしたいんだが?”と問合せがあり、それに応えて伊東が ARCHICAD でいろいろ試していきました。鉄筋の納まりはゼネコンにとって本当に大きな課題で、これが上手くいかないばかりに、確認申請に通ったのに施工できないなんてこともあります。伊東への期待は大きかったですね」(竹内氏)。まさにゼネコンならではの課題がほとんどで、ARCHICAD に慣れているとはいえ「1年生」の伊東氏にとって、それはしばしば未知の世界への挑戦となった。だが、逆にそれが ARCHICAD の機能を引き出していくことに繋がった、と伊東氏はいう。
「配筋モデルなんて作ったこともなかったんですが、たとえばパイプツールで配筋風に表現できるし、材質を鉄にすれば鉄筋そのものです。どんどんアイデアを出しながらさまざまな機能を試し、やがてはGDL まで使うようになりました」(伊東氏)。GDL オブジェクトは、ARCHICAD のモデル用オリジナルパーツなど建物要素を作るための記述言語。伊東氏も使うのは初めてだったが、数日講習を受けただけで、後は独学で使いこなすようになったという。そして、配筋の部位を数パーツ作成し、「この配筋を検討したい」といわれた細部だけこのGDL オブジェクトを使って編集できるよう構成したのである。
「配筋モデルに限らず、頭の中の建築イメージをBIM で見える化することで、確認は大きくスピードアップします。初めはなかなか見えない“工事の勘所”も、先にBIMモデル化すればいち早く認識でき、第3者にもそれを伝えられます。BIM は現場にとって強力な武器になる、と改めて実感しました(米倉氏)。
この「見える化」活用を加速させたのが、BIMx である。3D ラボのスタッフは、このBIMx を用いて積極的に3D 建築モデルを現場へ持ちだしていったのである。
「 iPhone でもアンドロイドでも BIMx を入れられるので、実際に現場所長のスマホに入れてもらい、鉄筋モデルをグルグル回して見せています。先日はある現場で所長から“ここの鉄筋の空きが測れたらいいのに”と言われたので、BIMx PRO の計測ツールを紹介したところ、すごく喜ばれました。いったん現場へ入ると紙の図面を広げるのも大変ですが、スマホなら携帯が圧倒的に楽なんですね。その現場の所長もノリノリでしたよ」(伊東氏)。
019年度には請負額5億以上の全現場でBIM を活用していく
「BIMの取組みを開始して3年目ですが、これまで全国7つの現場で何らかの形でBIM を活用してもらいました。施工図まで描いて運用した現場から部分詳細検討や設備モデルでの活用を行った現場まで、その内容や BIM の活用度合いは、本当にさまざまです。来年度は請負額5億以上の現場の半分程度、さらに再来年は5億以上全現場でBIMを活用したい、と考えています」(三好氏)。
もちろんそれは全てをフルBIM でやろうということではない、と三好氏は言う。現場が「使える」と思った所、「使いたい」と思った箇所だけ使ってもらえれば良い、という緩やかな目標なのである。
「たとえば施工図作成に少し使ってみるとか、モデルで仮設計画を検討してみるとか、最初はそれだけでも十分なんですよ」(三好氏)。同じように仮設の検討なども、平面図上で行ってから後でBIM 化する、というやり方でも十分役立つはずだと考えているのである。
このような着実かつ現実的なBIM の普及を目指す三好氏らの今後の取組みは、従来通りの現場支援に加え、社員に対する広範なBIM 教育と環境整備が大きな柱となる予定だ。
「もちろん新入社員の教育カリキュラムには既にBIM 教育を仕込んでいますが、既存の社員に対しても積極的に進めていくつもりです。たとえばこの5~6月には現場技術者を17~18人ずつ全国支店から集めて3日間の講習を2回、計30人以上にBIM 講習を実施します。最終日には、彼らの上司にも参加してもらって、講習の成果と業界におけるBIM の現状を紹介していきます。とにかく今年はまず教育がメインとなりますね」(三好氏)。
将来的には、施工図を含めてトータルに ARCHICAD を活用したい
その一方ではもちろん「 BIM をやりたい」と手を上げてくれた現場はすぐに支援できるよう、BIM の支援体制はさらに強化していく計画だ。たとえば、最初の躯体モデルを3D ラボ側が費用負担して作成し、現場が立ち上がると同時に躯体モデルを提供。これを叩き台として現場側で自由に活用しながらBIM を運用してもらう、という試みを10現場程度で実施していくよう計画している。また、設計施工から行う案件に関しても、要望さえあれば設備BIM のモデルについても3D ラボ側で製作提供していく予定である。そして、これらについてはいずれも、3D ラボが開拓したBIM の外注業者を積極的に活用していく方針なのだという。
――では、このような同社の活発なBIM普及の取組みの中にあって、ARCHICAD はいったいどんな風に位置づけられるのだろうか? 現状では、前述の通り ARCHICAD だけでなく他社CAD も併用する形となっており、同社としてはこれを無理に統一しようとはしていない。さまざまなツールを上手く使い分けながら、それぞれのツールの持ち味を最大限に引き出していこうという方針なのである。
「けれども……」と 3D ラボのメンバーたちは言う。「将来的には施工図も含めてトータルに ARCHICAD で制作することができれば、やはりそれがベストだと思っていますよ!」。
BIM は第3次建築産業革命である
かねてより、私は建築業界のBIM の展開に大きな関心を持ち、個人的にも情報収集を行うなどウォッチし続けてきました。そして、現在では、このBIM はまさに第3次建築産業革命とでもいうべき一大ムーブメントに他ならず、われわれゼネコンは何を置いても取り組むべき課題だと考えるようになっています。ですから、2年前に社長の指示により設置した3D ラボが、いち早くわれわれが取り組むべき課題としてこのBIM を取り上げてくれたのは、実にタイムリーかつ適切な選択でした。
メンバーは人員が少ないのにやることが多くてなかなか大変ですが、「何か面白いことをやろう!」という社長の言葉どおり、みんな非常に楽しみながらやってくれており、大変素晴らしいことだと考えています。全社への本格的な普及はこれからということになりますが、彼らのますますの活躍を期待しています。
増田健児
共立建設株式会社
取締役 技術企画本部長
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