鹿島クレス株式会社
西日本支社
BIM事業部 次長
池田 寛 氏
鹿島クレス株式会社
西日本支社
BIM事業部 課長
田丸 一総 氏
BIM は施工図作成にこそ向いている
もともと当事業部は2次元による施工図作成を主務としていましたが、2012年頃、BIM による施工図作成の研究を開始しました」。そういって当時を回想してくれたのは、同社のBIM への取組みを当初から主導してきた池田寛氏である。池田氏によれば、ちょうどその頃、設計業界ではBIM を使った設計が活発になってきており、親会社である鹿島建設もBIM を導入する動きがあるとの情報を聞き、これをきっかけに池田氏らもBIM 導入の検討が始まったのだという。すなわち、施工図作成を担う自分たちもいずれBIM 活用が求められるのなら、早めに導入を進めておくべきと考えたのである。そして、さらにその背中を押したのが、彼らの施工図作成に付きまとってきた長年の課題──図面間の整合性の問題だった。
「BIM を使えば全ての図面の整合性が取れ、修整が入っても、一箇所を直せば後は自動的に全ての図面が修整される。そんなBIM のデモを見て“これは使える!”と感じました。むしろ、施工図作成にこそBIM は向いているのでは、と思ったのです」。そう感じさせるほど、施工図における整合性の問題は大きかったと池田氏は言う。たとえば単純に平面と断面が食い違うことも多かったし、躯体図等で同一の情報があるべき見上げと見下げが異なることもあった。問題は各図面間の修整済み箇所と未修整箇所の管理にあったが、分っていても完全な対策を取ることに多くのマンパワーを割くことが多々あった。
「図面管理やチェックのルールも決まっていましたが、多発する変更対応に追われ、“早く!”と現場に急かされる中、なかなか修整ミスやチェック漏れは防ぎきれません。結果、不整合が発生し対応に追われることになっていました。しかし、BIM さえあればこんな問題は一挙に解決し、よりクリエイティブなことに力を注げる。そう思いました」。
こうして池田氏は田丸氏と二人でミニマムなチームを組み、施工図作成におけるBIM 活用への挑戦を開始した。ツールにはもちろん、鹿島建設と同じ ARCHICAD である。だが、池田氏らBIM チームのその後の歩みは、決して平坦な道ではなかった。
いや、むしろ最初は山ばかりだったというべきかも知れません」。そういって池田氏は苦笑いになった。当時、ARCHICAD に限らず、BIMで施工図を作成した先行事例はほとんど見あたらず、池田氏らの参考になる情報は全くといっていいほど存在しなかった。結果、自らの手で試行錯誤を繰り返しつつ、実案件でモデル作成と図面出力を試していくしかなかった。──だが、そうやって最初に作った図面は惨憺たる出来だった。「時間がないので、無理に仕上げて現場へ持っていったら、“図面になってない!”と、無茶苦茶に叱られてしまったんです」
ARCHICAD の機能を組合せて施工図化を実現
「最初は本当に図面の体裁にさえならないような状況でしたね」と当時を回想するのは、池田氏と共にBIM チームを率いる田丸氏である。当時、すでに2次元CAD での施工図作成に熟達していた田丸氏だったが、そんな彼の目からみても ARCHICAD で初めて作ったBIM施工図は「従来とかけ離れた、とうてい施工図とは呼べないようなもの」だったのである。
そもそも ARCHICAD に施工図ボタンなどないのだから、彼らはさまざまな機能を組合せて施工図を表現するしかなかった。「しかし、どの機能をどう使えばよいのか全く分からず、教えてくれる人もなく、結局は一つ一つ試していくしかありませんでした。こうすればこれが表現できる、ああすればあれが……と手探りで見つけたノウハウを蓄積していったのです」(田丸氏)。手間がかかるこの作業を、田丸氏らは研究としてではなく、あえて実物件の作業として行っていった。厳しいスケジュールや現場の要請に追われながら多彩な施工図作りに苦闘する中で、ARCHICAD の使い方を探り、多様なBIM 施工図表現を編み出していったのである。
「私たちも必死でした。会社の後押しがあったとはいえ作業にはそれなりのコストがかかるし、結果が出なければ打切りになる可能性もあります。気分は背水の陣だったんです」(池田氏)
やがて1年が過ぎる頃、池田氏らのチャレンジはようやく形になり始めた。ポイントは、BIM施工図化に「何が必要で何が必要ないのか」取捨選択できるようになったことだった。
「普通にBIM で施工図を作ろうとすると、どうしても手間がかかります。特に2D で施工図を描いていた人はBIM モデルを作り込み過ぎがちなんです。しかし手間をかけて作り込んでも、全てが施工図に反映されるわけではありません。むしろ作り込みは必要最低限に抑え、扱い易くする方が重要だったのです」(池田氏)。
そのためには、必要な要素を取捨選択し「あの図面に対してのモデルはここまで作り込めば機能する」と的確にジャッジしながら進めていく必要がある。そうすることで、精度の高い図面を容易に切りだせるモデルを効率的に制作できるようになるのだ。
一年がかりの試行錯誤で、何が必要で何が不要か判断するノウハウの基盤は確立することができました。しかしまだまだ完全形とはいえず、必要/不要の検討は今も続けています。絶対の正解なんて、まだ無いんですよ」(池田氏)。
こうしたBIM で施工図を作成するノウハウをまとめた本を鹿島建設監修のもと今年6月に出版した。「これまでのノウハウを公開することで、広く日本中の現場で BIM 施工図が爆発的に広がることを期待しています」(池田氏)。
ARCHICADでつくるBIM施工図入門
ARCHICADで施工図を変える!
施工図用のモデリングルールから、施工図を作成するプロセスを詳細にわかりやすく解説
監修:安井 好広
著作:鈴木 裕二 ・ 池田 寛
出版:鹿島出版会
技術とノウハウを活かし建築の上流工程へ
こうしてARCHICAD を利用したBIM 施工図化ノウハウの基盤を固めた池田氏らは、2年目から施工図事業部内への普及を開始した。「当初、既存社員については少しずつ同じチームで現場に取り組み、OJT 方式でBIM施工図を学んでもらいました。でも、新人たちは ARCHICAD もBIM 施工図も最初からどんどん吸収してくれるので、そこから一気に普及が進みました」(田丸氏)。さらに海外人材の採用も行うなど、BIM 施工図化体制を構築していったのである。
「現在では受託対応のスタッフが38名、現場派遣対応29名となり、ほぼ全員がARCHICAD によるBIM 施工図化に対応しています。鹿島建設が運用するBIMcloud を利用したBIM プラットフォーム“Global BIM”で現場や支店と結ばれ、ARCHICAD による作業を連携したBIM 制作体制を確立しました」(池田氏)。
いまや初期のベースとなるモデルは鹿島建設の海外モデル作成会社が作成し、そのモデルを日本側で施工図や仮設計画向けに加工、調整して施工図や仮設計画図に仕上げていく体制となった。むろんモデル制作もGlobal BIM で結んだ ARCHICAD 環境下での協働作業も可能だ。この体制により、同社のBIM 施工図率は既に全体の7割を超え人員も急増中だ。そこでこの春、施工図事業部は新オフィスへと移転。名称もBIM 事業部と改めて新しい一歩を踏み出したのである。
「実は少し前、ある物件を設計段階からお手伝いしたことがあり、そこで当社の技術が役立ち大いに喜ばれたことがあったのです。こんな風に建築の上流工程へ参入して行くことで、私たちの技術が役立てることがまだまだたくさんあるはずです。特にBIM データの使い方を施工的な視点で考えて、活かしていけば、パース、動画制作や仮設計画、数量算出などいろいろなことがやれるでしょう。ビジネスの幅も広がっていくに違いありません。今はそんな“これから”が、とても楽しみですね」(池田氏)
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