鹿島建設株式会社
全現場へ着工前に BIM モデルを提供開始! ARCHICAD を核とする Global BIM の新展開

鹿島建設株式会社

本格的な活用段階を迎えた日本の BIM も、ここへきて徐々に各社の展開や普及状況に違いが見え始めてきた。その中でより実務に沿った施工現場での BIM 活用により、着実な成果を上げつつあるのが鹿島建設である。ARCHICAD をメインツールとする独自の BIM 環境「Global BIM」を開発・整備した同社は 、これを核に施工現場主体の BIM 普及を急ピッチで推進。2014年度までに総計340現場への BIM 導入を実現するに至っている。いまや日本のBIMを牽引する存在となったその取組みについて、建築管理本部の矢島氏、安井氏にお話を伺った。

鹿島建設株式会社

創業:1840年(天保11年)

設立:1930年(昭和5年)

事業内容:建設事業、開発事業、設計・エンジニアリング事業 ほか

代表者:代表取締役社長 押味 至一

本社:東京都港区

従業員数:7,657名(2014年3月末現在)

HP:http://www.kajima.co.jp

最大の生産拠点「施工現場」の効率化を

鹿島建設株式会社
建築管理本部 建築技術部 担当部長
(生産性向上・BIM責任者)
矢島 和美 氏

「ゼネコンの BIM 導入はしばしば設計部門が中心となって進められます。しかし当社は施工現場での活用主体に進めてきました。ここが他社と異なる当社の BIM 戦略の特徴です」。そう語るのは鹿島建設の BIM 普及を主導する、建築管理本部建築技術部の担当部長 矢島和美氏だ。ゼネコンにとって施工現場は最大の生産拠点であり、だからこそこの現場に隣接した実務への BIM 導入が重要だった、と矢島氏は語る。BIM によりこの最大の生産拠点を効率化し、具体的な導入効果の創出を目指したのである。そもそもオブジェクトを配置していく BIM 設計の手法は施工現場における建設作業に近く、現場で活用できる機能も豊富に備えている。しかも施工部門が推進する BIMであれば、他社設計についても対応可能だ。結果、BIM 導入実績は着実に拡大していったのである。

昨期までの BIM 導入現場は約340箇所に達しています。もちろん活用内容は現場ごとに異なりますが、導入効果も既にはっきり現われていますよ。設計から製作開始までの期間は大きく短縮され、施工図作成も BIMツールの活用で省力化できています」。

各種大型案件を中心に、同社ではその初期段階に BIM データを作成。これを構造検討や数量把握から施工図化など幅広く活用することで、各種検討作業を前倒しすることに成功したのである。たとえば計画段階の構造検討も概略図等の概要情報から多彩なパターンで構造架構モデルを作り、鉄骨数量等を比較検討。仮設計画や鉄骨建方計画、ステップ図作成にもこのデータを使い同時並行で進めて、全作業を1日で終えることもある。

鹿島建設株式会社
建築管理本部 建築技術部 BIM推進グループ
グループ長(次長)
BIM統括マネージャー
安井 好広 氏

「最近では特殊な形状の建物でも、BIMツール を活用して容易に対応できるようになりました」と語るのは、BIM統括マネージャーの安井好広氏だ。

「最近の例としては、うねった局面屋根を持つスポーツ施設が挙げられます。接合部材は同じ形状のものがほとんどなく、微細なディテールの検証を必要としました。メインの構造体は、ARCHICADを使って総合検討モデル作成、そのうち主要部材の基準座標データを鉄骨ファブリケーターへ渡し、鉄骨製作モデルへと連携させたり、2次部材や仕上げ材は、各種解析 ソフトへデータ連携させ、曲率の可視化や特殊部材の加工検討など行いました。

しかし、BIMツールの活用は特殊な建物にだけ効果を発揮するものではありません。当社では、すべての現場において、BIMツールを活用して生産性の向上を目的としています。」(安井氏)。

こうした成果を受け、同社では2015年度より BIM 活用を全現場へ拡大する計画だ。まずは年間300超に及ぶ同社の現場全てに着工時か契約時までに BIM モデルを提供していく。そして、圧倒的スケールで進むこの計画を可能としたのが、独自の BIM プラットフォーム「Global BIM」の存在だ。

国境を越えて社内外を結ぶGlobal BIM

「当社では、これまでグラフィソフト社のARCHICAD とBIM Serverを BIM プラットフォームとして、建物の可視化や合意形成のためのシミュレーション、取合い確認、施工図、施工計画等に使って一定の成果を上げてきました。しかし他方では課題もありました」(矢島氏)。

それはまさにそのプラットフォームに関わる問題だった。多方面での活用を前提に制作された BIM データはしばしば巨大化して扱いづらくなり、しかもその機密性の高さからデータ共有も社内に限られてしまう。結果として、国内外の協力業者など、社外のプロジェクト関係者とのコラボレーションが困難だったのである。いうまでもなく建築プロジェクトは、発注者から設計、施工、そしてさまざまな専門工事業者まで、多数の企業による協業が大前提。当然、BIM データも、ゼネコンだけでなくプロジェクト関係者に広く共有され、幅広く活用されるような環境でなければ、その真価を発揮できないのである。そこで鹿島が構想したのがNTTコミュニケーションズ株式会社の企業向けクラウドサービスを利用した Global BIM だった。

集成材斜材モデリングの効率化

「Global BIM は、高度なセキュリティを備えたクラウドサーバーを基盤とする全く新しい BIM プラットフォームです。従来のクラウドシステムは小さな社内ネットワーク内でしか動かせませんでしたが、Global BIM は Web 経由でクラウドサーバー内のプロジェクトデータもコントロール可能です。つまり、セキュリティを確保しながら、資格を持つ誰もが社外からアクセスして作業できるのです」(安井氏)。

この Global BIM がプロジェクト関係者全員の共通 BIM プラットフォームとなることにより、ARCHICAD で作った 3D モデルなどの BIM データを社内/外の壁を越えて安全に共有し、各社が並行してデータの作成・変更を行なえるようになったのである。もちろん互いの進捗状況も確認可能であるため、問題が発生すれば即座にこれを把握して対応できる。

さらに注目すべきは Global BIM の登場により、国境を超えて海外を含む複数の企業を容易にネットワークできるようになった点だ。もともと鹿島建設は、国内外に広く ARCHICAD ユーザの協力会社ネットワークを整備してきた。国内では施工図作成を中心に行なっている鹿島クレス(株)や鹿島沖縄BIMセンターがあり、海外ではフィリピン、インド、韓国等にBIM モデルのモデリング会社や鉄骨ファブリケーター等の協力企業を開拓している。Global BIM は、こうした国内外の協力会社が、鹿島建設社内で作業している時と同レベルの緊密さで作業を可能としたのである。これにより、コストを抑えながら質の高い BIM モデルをスピーディに作成し、いち早く施工現場に提供する、という取組みが容易に行なえるようになったのだ。

Global BIM 2.0

ARCHICAD を持たない協力会社との協業

こうして海外の企業とも広く協業できるようになりましたが、それにはやはり限界がありました。そもそも ARCHICAD を持っていない協力会社では、国内外を問わず Global BIM での協業は困難です。特に問題だったのは施工図制作です。施工図の制作者は全国に3,200人と言われてい ますが、現状、BIM ツールを使っているのはその10パーセント程度。大半は 2D で、しかも5〜6人規模の所が多く“一匹狼の方”もたくさんおられます。こうした方たちに、ARCHICAD を導入して BIM 化してくださいとはなかなか言えません」(安井氏)。

そこで鹿島建設ではあらためてグラフィソフトに協力を要請。その仕様を提案し作りあげたのが、新たにグラフィソフト社が提供するBIMcloudを利用した Global BIM 2.0 である。これは簡単にいえば、ARCHICAD を持たない協力会社に対して、鹿島建設が保有している ARCHICAD のライセンスを、Global BIM 経由で安全に貸し出すシステムだ。

この ARCHICAD ライセンスはローカル作業では使えないが、その協力会社が Global BIM 2.0 の中の許可されたプロジェクトにアクセスした時だけ、自由に使えるソフトとなる仕組みとなっている。当然ながら、ローカルへデータをダウンロードすることはできず、また他の仕事にARCHICAD を使うこともできない。セキュリティを確保しつつ、ライセンスを貸し出すことができるのだ。これにより、同社はARCHICAD を持たない小規模事務所に対してBIM導入を容易にし、鹿島建設のBIM施工図は一挙に拡大したのである。

これには協力会社への ARCHICAD トレーニングという意味合いもあります。BIM 導入に不安を持つ施工図会社に、鹿島が準備したARCHICADのライセンスを使って慣れてもらおうというわけです。そうやって実務を通じ当社のテンプレートやライブラリを使って社内ルールを修得してもらえば、作業効率はどんどん向上していきます」(矢島氏)。そして、ARCHICADの操作技術が充分に向上し、事業として成り立つようになれば、その時自社で ARCHICAD を導入すれば良い。そうすれば鹿島建設以外の仕事を受けた場合でも、 ARCHICADを利用して BIM プロジェクトに参加することができるのである。実際、参加する協力会社は想像以上に早く ARCHICAD の操作に習熟しつつあるようだ。特に、新規にオペレータを雇用するのではなく、施工図業務をよく理解している当事者自身が操作習得することがポイントだという。

このような BIM モデルを活かした低コストかつ質の高い施工図制作体制の確立は、鹿島建設に限らず多くのゼネコンにとって1つの目標であり、実際に多くのゼネコンがこれに挑んできた。そして、おそらくこの Global BIM 2.0 は、実務レベルで成功を収めた世界初のシステムといえるだろう。その意味で、これはわが国建築業界の BIM に、大きな変革をもたらす可能性を秘 めた BIM プラットフォームなのである。

次世代の施工図

BIM 化により施工図制作コストを半減

実際、施工図に関しては、従来のように 2D で描いていくよりも ARCHICAD で 3D モデル を使って図面化した方が早いし安い、という結果がすでに明らかになっています。特に変更が多い施工現場ほど、あらかじめ ARCHICAD でモデルを作り込んでおいた方が対応に楽ですし、品質的に高いものになります」(矢島氏)。

この施工図作成における効率化の効果 について、従来の半分に抑えられるようになった作図コストが最も顕著な具体例だろう。タタキ台となる初期施工図を作るだけで2割程度コスト抑えることができ、さらに変更に対応しながら最後まで利用することで、トータル50パーセントのコストダウンを実現できたケースも多く発生している。

いずれにせよ ARCHICAD で作ったモデルデータがそこにある以上、これをできるだけ多様な用途に活用していかない手はない。可能な限りコストメリットを出していくためにも、それは当然の方策だろう。現在の鹿島建設の施工現場は、現場の状況にもよるが、この BIMデータを施工図に活用することはもちろん、そのデータを複製し施工シミュレーションに使う、あるいは部分的に切り取って詳細情報を追加し詳細検討に使う。さらにはデータを各協力会社へ提供し、彼らの製作図作成業務を軽減 させる――といった幅広い活用を、次々と試みている。

「ARCHICAD は、初心者にも使いやすいうえ、機能に汎用性があってアイデア次第で様々な使い方ができるんです。そして、そうやって幅広くデータ活用ができれば、おのずと施工品質も上がり、工事全体がスムーズに進むようになります。会議時間だって短くできるんですよ(笑)」(安井氏)。

もちろん、ARCHICADだけですべてを網羅するわけではない。解析、シミュレーション、映像資料、製作図など、最終成果物は目的に合ったツールを使い分ける、つまり生産現場での活用ポイントはデータの連携手法にあるのだ。たとえば、鉄骨の製作図を見ても、まだ2D-CAD の会社もあるし、 先進的な会社でも使っているBIM ツールはさまざまである。依頼する立場としてはこれらのことに細かく対応して行かなければならない。

「最近の案件では、鉄骨一般図と標準図を当社で取りまとめた後、各社が求めるデータ形式に変換して渡し、製作段階までのデータは各ファブリケーターに任せる形で進めています。現地店、このようなやり方の方が実務で使う上でははるかに現実的、実用的だと思います」(安井氏)。

ARCHICAD連携図

BIM 知識より現場そのものの理解が重要

前述の通りこの2015年度、鹿島建設は全現場に対する BIM データの提供を開始している。Global BIM 2.0 のフル稼働により計画は順調に進んでいるが、むろんデータを提供するだけでは、本当の意味で BIM の施工現場での活用は進まない。

「まだまだBIM の知識が低い施工現場もあります」と矢島氏は苦笑いする。そういうケースも含めて全現場の着工時に BIM データを届け、これを各現場にきちんと利用してもらうことを考えたら、その現場に合った合った活用法を個々に説明し、提案していく必要があるだろう。そのため、彼らも今は各地の現場を飛び歩く毎日だという。

「状況はさまざまですが、この現場で必ず BIM を利用してもらうと考えれば、1週間ほどでモデルを作成し、その中にクレーンや足場などまでも配置して、施工計画まで作りあげて提供する――なんてことも珍しくありません」(矢島氏)。

とはいえもちろん、そこまで準備しても、現場により BIM データの活用の度合いはやはり差がある。ただし、その「差」は 、必ずしも各現場担当者の BIM に関する知識や BIM ツールの操作技術の不足ばかりが原因というわけではない。たとえ BIM 知識がなくても、現場経験の豊富なプロフェッショナルならば、これをきっちり利用してくれるものなのである。

特にどの現場でも普通に生産性向上を考える所長であれば、たとえBIMの知識はなくても BIMデータを見ると 直感的に“これはいいな! 使えるな!”と分かってくれるみたいで……私たちが提案すれば、確実に結果を出してくれます」(矢島氏)。

その意味では、施工現場での BIM データの活用を進めて行く上で、現場スタッフに BIM を詳細まで教育する必要は必ずしもない。「こういうことができる」、「こういう機能がある」とおおよそ把握してもらえば、たとえ ARCHICAD の操作が得意でなくても、 BIM データ活用法のアイデアはいくらでも浮かんでくるものなのだ。

「実際、現場の人に BIM モデルを見せるとみんな最初はびっくりしますが、内容を理解すると、すぐに“あの部屋の断面を映してくれ!”“あの納まりを見せてくれ!”となります。BIM を活用する上で大切なのは、建築という仕事の根本的な部分への理解なのです」(安井氏)。

どこまでも品質向上と効率化を追求

このように、Global BIM を中心とする鹿島建設の取組みはすでに大きな成果を上げているが、それでもなお現場への BIM の普及はまだまだ「道半ば」だ、と2人は口を揃える。同社が Global BIM に取り組み始めてから約3年。前述の通り、施工図制作を中心に、業務の効率化が結果となって現れ始めたが、それもまだ通過点に過ぎないのだという。――もちろんそれ以上の効率化進めていくには、ツール以外の部分の合理化など、手法そのもののイノベーション等も必要になってくるだろう。

「たとえば図面の表現なども変えてしまうレベルで変革していかないと、さらにド ラスティックな進歩は難しいと思っています。むろん、まだまだ先のことでしょうが、たとえば大工さんがBIMデータだけで型枠を加工できるようになったら、あるいは設計者がBIMデータで承認してくれるようになったら……もはや図面自体要らなくなる可能性もありますね」(安井氏)。

更には、組織体制の改革、業務範囲の変化、手法の改善などツール以外の部分も大きく変わっていくことになるだろう。そのような「遠い未来」もしっかり視野に入れながら、鹿島建設はすでに次のステップへと足を踏み出そうとしている。

BIMデータを活用した現場打ち合わせ

「施工段階での BIM の使い方については、既にはっきりした“道”が見えているので、引き続き各地に BIM マネージャー的な人材を育てていく作業を進めながら、次ステップでは、実施設計段階と施工図作成をオーバーラップさせていくことを考えています。いずれにせよ、当社のあらゆる物件を対象に BIM の適用を進め、施工品質とプロジェクト運営の効率化を推進していくことに変わりはありません。当社においてはBIMモデルの量産と現場への展開に取り組み、世界でも他に例がない規模に成長しましたが、BIMは今後も加速度的に進化していくと考えています。また、FMを含む建物ライフサイクルでのBIM活用が自治体や不動産業界から求められていますので、こうした状況にも対応すべくBIMの事業化にも取り組んでいきたい。」(矢島氏)。

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