株式会社ixrea
代表取締役
吉田 浩司 氏
株式会社ixrea
Design Section / staff
長元 恭子 氏
ユーミーコーポレーション株式会社
FC 事業本部 住宅開発部 課長
山崎 竜二 氏
ユーミーコーポレーション株式会社
FC 事業本部 住宅開発部 主任
植囿 清香 氏
ARCHICADの活用を原動力に急成長
鹿児島市のixreaは、建築家 吉田浩司氏が主宰する一級建築士事務所である。吉田氏が同社を立ち上げたのは2013年4月──つまり、今年設立6年目を迎えた若い事務所なのだ。しかし、この5年で同社が設計した物件数はすでに200件を超え、スタッフも7人まで増えた。オフィスも鹿児島本社のほか、東京・福岡にサテライトオフィスを構えるなど急成長を遂げている。近年なかなか見られない躍進ぶりだが、その原動力は何なのだろうか。これを吉田氏に問うと「ARCHICADを用いたBIMの幅広い活用が最大の原動力です」という答えが返ってきた。
「BIMについては、独立前に勤めていた建築事務所で仕事を通じて知りました。最初に触れたのは別のBIMソフトでしたが、3Dで設計できるのはもちろん、断面図や立面図もそこから自動的に生成されるのを見て、凄いと素直に感心しました」。その頃すでに吉田氏も実務で3Dソフトを使うようになっていたが、実際の設計業務では3Dソフトだけでなく2D CADも併用する必要があり、それが負担となっていた。「BIMなら3Dも図面も一発で作れるわけで。独立時はBIMを導入し、主力にしようと決めたのです」。そして2013年、満を持して独立した吉田氏が、まず行ったのがBIMソフトの選定だった。
「単なるCADというより、自分の会社の将来を託すツールと考えていたので、製品選択は慎重に行いました。当時のBIMソフト4種全て比較し、最終的に選んだのがARCHICADでした」。決め手は、ARCHICADならではの直感的操作性とずば抜けたスピードだった。「設計者視点で言うと、ARCHICADは最初の基本設計が非常に速いのです。実際、現在はスタディのためデザインを考えながら手描きでイメージを膨らませ、すぐARCHICADで立ち上げます。そして、ボリューム感を確かめながら日影等も検討し、模型を作るようにデザインを固めていくわけですが、ARCHICADはこの一連の作業をきわめてスムーズかつスピーディに行えるのです」。
こうして独立早々強力な「武器」を得た吉田氏は、ARCHICADで作る3Dビジュアルを駆使して新規顧客を開拓。フランチャイズチェーンの店舗設計や九州全域で展開する保育園の設計等を次々任され、「客が客を呼ぶ」展開で成長していった。「確かに物件数は急増しましたが、当社は全員ARCHICADを使うので問題ありません。チームワークやホットリンク機能を活用して、少人数でも手間をかけずに進めることができるのです。実際、構造設計や設備設計は別として、意匠設計関連では今も外注は使いません」。 そんな吉田氏が、後にBIM活用確認申請で協業することになるユーミーコーポレーションと出会ったのは、ixrea創設直後のことだった。
取引先の戸建住宅事業再チャレンジを支援
ARCHICADによるBIM活用確認申請!
東京発の衝撃的なリリースから
BIM活用第2ステップの新テーマが決定
ユーミーコーポレーションは「ユーミーマンション」ブランドでマンション事業を展開し、全国6700棟もの建築実績を誇る実力派建設会社である。創設当時、ixreaはこのユーミーコーポレーションの協力業者として、設計支援サービスを提供していた。「設計支援のかたわら、私はユーミーさんにARCHICADを導入してBIMを活用するよう勧めていました。ビジネスでなく、純粋に“BIMを広めたい”という気持ちからお勧めしていたのです」(吉田氏)。一方、その頃ユーミーコーポレーションもBIMを導入検討していた。同社住宅開発部の山崎竜次氏は語る。
「BIMについては当社も導入検討を急いでいましたが、具体的に“どのBIMソフトを入れればよいか?”となると、さまざまな事情でなかなか話が先に進まず、マンション事業では別のソフトを導入。そんな中で動き始めたのが戸建住宅分野への再挑戦計画です」。前述の通りユーミーコーポレーションの主力はマンション事業だが、過去には戸建住宅分野への進出を試みたこともあった。諸般の事情でいったん撤退していたが、再挑戦の機運が盛り上がっていたのだという。
「それだけに今回はBIMを活用してしっかりやろう!ということで、BIMに熟達した吉田さんに声をかけました。ixreaとタッグを組んでBIMをフル活用し、そのノウハウを学びながら新しい戸建住宅を作っていこうと考えました」(山崎氏)。
2016年、吉田氏はBIM設計に関するユーミーコーポレーションからの支援要請に応え、ユーミーコーポレーションとixreaのコラボレーションによる新たな戸建住宅の開発が始まった。ixreaによる支援のもと、BIM設計を駆使して高品質なRC造戸建住宅を企画設計し、「ユーミーハウス」ブランドで鹿児島県内に3棟の戸建住宅が建てられたのである。「ユーミーコーポレーションさんとして初の本格的なBIM設計でしたが、マンションの設計支援でコラボに慣れていたこともあり、スムーズに進められました。結果、まずまずの成果が得られ、そろそろ次のステップを、と2人で考え始めた時のことです。あの衝撃的なリリースが発表されたのです」(吉田氏)
東京以外で初のBIM活用確認申請へ
吉田氏が衝撃を受けたリリースとは、東京の設計事務所 アーネストアーキテクツが、指定確認検査機関の日本ERIと協力し、BIMによる建築確認申請に成功した、というニュースだった。──BIMを活用した建築確認の電子申請は、これまで大手ゼネコンや組織設計事務所の手で幾度か試験的に行なわれてきた。申請用の設計図書をBIMソフトで作成するためのテンプレートも開発されていたが、BIMの活用はいずれも限定的な運用に留まっていた。3Dを活かした表現力の高さや属性情報の活用など、BIMの特性を十分生かしている内容とは言えなかったのである。
一方、アーネストアーキテクツは古くからのARCHICADユーザーであり、BIMの登場以前から3次元設計を推進してきた先駆者である。それだけに、同社のARCHICADによるBIM活用確認申請のニュースは、吉田氏ら多くのARCHICADユーザーの注目を集めたのである。そして、その関心の高さはユーミーコーポレーションの山崎氏も同じだった。
「リリースを読んで、私はすぐに吉田さんに連絡を入れました。そして、開口一番“これをやりたい!”と言うと、彼も即座に“ですよね!”と(笑)。2人とも“新しいもの好き”だから、“いまBIMでどこまで出来るのか”試したい気持ちが強かったんです。そして、そんな私たちにとって、BIM活用確認申請は最高のテーマでした」(山崎氏)。
意気投合した2人は即座に行動を開始した。グラフィソフトに連絡を取り、自分たちの「BIM活用確認申請」チャレンジへの協力を求め、さらにアーネストアーキテクツ社への仲介を依頼したのである。先駆者である同社に教えを請い、ARCHICADによるBIM活用確認申請の実務について教えてもらおうと考えたのだ。アーネストアーキテクツ担当者はこの要請を快諾してくれた。
「アーネストアーキテクツの方からは、彼らが行ったBIM活用確認申請の、具体的なフローの詳細を教えていただきました。実際、私たちの取組みも、これを取っ掛かりとすることで、かなり進めやすくなりました」(山崎氏)。もちろんその他にも幾つか重要なアドバイスが贈られた。中でも重要なポイントとして勧められたのが、指定確認検査機関との協力関係の確立である。そもそも申請側が申請にBIMを使いたくても、検査機関が前向きに受入れて協力してくれなければ進めようがない。アーネストアーキテクツの成功も、指定確認検査機関である日本ERIとの緊密な協力関係が無くてはならないものだった。それはもちろん、今回の吉田氏らのチャレンジでも同様だった。
「実は私たちの案件を担当してくれた日本ERI鹿児島支店の担当者は、BIM活用に対して非常に前向きな方でした。実際、以前から私たちが実施している、BIM普及イベントに参加してくださっていたほどで……今回の取組みもその人がいる鹿児島支店だからこそできたのだ、と後でERIの方に言われたほどです」(吉田氏)。ともあれこうして、申請者代理者を勤めるixreaを中心に設計者のユーミーコーポレーション、指定検査機関の日本ERI鹿児島支店──という理想的なBIM活用確認申請チームが誕生した。いよいよ鹿児島初となる、BIM活用確認申請プロジェクトが動き始めたのである。
2社の設計者が協働でBIM申請実務を担当
BIMを駆使する設計事務所と建築会社
そして、意欲的な指定確認検査機関──
最強のトリオがBIM活用確認申請へ挑戦
「といっても、実は最初にやったのはBIM活用抜きの電子申請による建築確認です」(吉田氏)。これもアーネストアーキテクツのアドバイスだったが、吉田氏らはBIM活用以前に電子申請自体が未経験だったため、まずBIM抜きのノーマルな電子申請で確認申請を出してみるよう勧められたのである。「同じことを日本ERI鹿児島支店にも言われていたので、まずこれを先に進めることにしました。ちょうどユーミーコーポレーションの社有地に建てる予定の個人住宅物件があったので、これを電子申請することにしました」(吉田氏)。こうして2018年9月、吉田氏らは初の電子申請を実施。ERIによる審査も問題なく進められ、同年10月には無事許可も下り、次はいよいよBIMを活用した確認申請である。
「対象物件はRC造2階建てで108㎡ほどの個人住宅でした。実は当社に家を建てたいという社員がいたので、彼の物件でBIM活用確認申請に挑戦したんです」(山崎氏)。ixreaとユーミー、日本ERIの3社は打合せを重ね、BIMをどう使いモデルや申請書類をどう作っていくか──詳細を詰めていった。「基本的にはARCHICADで設計して3Dモデルを作り、そこへ法適合性に必要な情報を入れ込んでいくやり方です。どのようなデータをどんな形で入れるべきか、三者で打合せていきました」(吉田氏)。さらに初の試みとして、申請自体をBIMxデータで行おうということになった。検査を行うERI側もまた、タブレットPCでBIMxを見ながら法チェックしようという意欲を見せていたのである。
「アーネストアーキテクツの案件では消防同意が必要でしたが、この消防が電子申請を受け付けていないため申請自体は紙で行なっていたのです」(山崎氏)。幸い吉田氏らの案件に消防同意は不要だったため、意匠図代わりのBIMxデータと、図面・書類のPDFで申請するオールデータの電子申請が可能となったのである。そして、ARCHICADによる制作実務の担当として、ixreaの長元恭子氏とユーミーの植囿清香氏という2人の設計者が抜擢されたのも、大きなポイントだった。長元氏は4年余のキャリアを持ち、実施図や申請用図面の作成、さらには申請業務まで任され、すでに100件以上の実績を持つエキスパートである。一方、ユーミーの植囿氏も各種図面の作成と申請に豊富な経験を持つプロだが、植囿氏が使っていたのは2D CADで、3次元はARCHICADによる今回が初めての本格的活用となった。流れとしては、まず植囿氏がベースとなるBIMモデルを作成。その後長元氏が参加して2人でモデルから図面を切り出し、申請書類へ仕上げていく形である。
「協働作業なのでARCHICADのチームワーク機能をフル活用しました。BIMクラウドを利用していたので、データの入力はそれぞれの会社内で作業をしていきました。実際、顔を合わせることはほとんどなかったのに、意外なほどスムーズに進められた実感があります」(長元氏)。事実、2人は日々の状況に合わせ柔軟に作業を分担しながら、コラボレーションを進めて行った。ARCHICADの使用経験が浅い植囿氏にとっても、これはやりやすい運用法だったようだ。「ARCHICAD上のメッセージ等で“配置図の方をお願いしまーす”とかやりとりしながら進めていきました。分らない所は、吉田さんへもどんどん質問を飛ばして……。吉田さんは外出中でも、ネットに繋がる場所があればすぐ画面共有して対応してくれるので、助かりましたね」(植囿氏)
──こうして2018年暮に鹿児島初のBIM活用確認申請が行われ、データはBIMxを用いた日本ERIによる審査後、2019年1月、無事認可されたのである。
BIM 活用確認申請のメリット
2D図面よりも分かりやすく伝えるために
ARCHICADの機能を駆使して
BIMによる新しい確認申請表現を追求していく
「申請自体はすごく楽でしたね」。今回のBIM活用確認申請の感想を聞くと、植囿氏はそう答えてくれた。
「従来方式の確認申請って、とにかく物理的な作業が大変なんです。たとえば書類自体は正副3部用意して、印鑑を捺して図面を折って──といった手間のかかる作業がけっこうな負担になるのですが、BIMを使うと、当り前のことですが、その負担が全く無くなります。もちろんいちいち申請機関へそれを持っていく必要もありませんし、行動時間を大きく短縮できるのです」。そんな植囿氏の言葉に、長元氏も大きく頷く。
「書類はみんなネット経由で送れますから、時間制限というものがなくなりましたね。夜中でも土日でも当然受け付けてもらえますし、何時までに窓口に駆け込んで届けなきゃ!なんてことがなかった。これは本当に有り難かったですね」(長元氏)。従来方式であれば、いったん書類を窓口に提出しても繰返し差替えや修正が発生し、その度に受取りや再提出で何度も窓口に通う必要があった。しかし、今回は提出後行ったのは一度だけ。「確認済証」を受取りに行っただけだった、と長元氏は笑う。
では、逆に一番難しかったのはどういう点だろうか? あえてそう尋ねてみると、植囿氏は首をひねりながら答えてくれた。「図面の場合は、面積の求積など全部図示していきますが、BIMではそれはできません。だからゾーンなどARCHICADの機能等を使い、2次元加筆と違うやり方をしなければなりませんでした。同じ内容でも表現が全く変わってくるので、そこをどう表すのか。根本的な発想の切り替えが必要で、吉田さんにもアドバイスをいただきながら試行錯誤しましたね」(植囿氏)。
このような「表現」の問題に関しては、吉田氏だけでなく日本ERIにも相談に乗ってもらった、と長元氏は言う。「どのような表現をすれば、検査側により分かりやすく伝えられるのか。この点はあちらと何度も打合せました。とにかく2Dで描く図面とは全く変わってくるので、どこまで描きこむべきか。事前の相談も綿密に行う必要があったのです」(長元氏)。
実際、日本ERIの鹿児島支店にとっても初体験だらけの取組みだったが、前述の通り熱意を持つ担当者の取組みもあって、審査自体は大きな問題もなく進められたという。もともと今回の物件の敷地は崖地で、図面よりも3Dで見た方が分かりやすかったということもあり、期待していた以上に良い反響があったようだ。「ERIの方とお話しましたが、たとえば図面は断面や平面など実際に描かれている部分しか分らないが、BIMモデルはそれ以外も自由にカットして見られるのが良い、と仰ってましたね」(植囿氏)。
「いずれにせよ、植囿さんのようにARCHICADを使い始めて1年も経たないうちに、これほどディープな作業をこなしてくれたのは凄いことだと思います。せっかく蓄積したノウハウですから、生かしていきたいですね」という吉田氏の言葉通り、ixreaとユーミーコーポレーションの両社は、機会があり次第、このBIM活用確認申請に再度挑戦していく計画だという。最後に山崎・吉田の両氏に今後の目標を聞いてみた。
「本来、当社が扱う賃貸マンションのような建物こそ、BIMをさまざまな形でトータルに活用できるわけで。社内へのBIM普及を急ぐ必要があると考えています。ARCHICADの活用拡大はもちろん、その事例は社内向けに広くアピールしていきたいですね」(山崎氏)
「BIMの活用については、鹿児島で常にトップランナーでありたいと思っています。県内でもBIMを使う事務所が増えているので、そうした所にも一目置かれる技術を養っていく必要があるでしょう。BIM活用確認申請も含め、新しい技術にどんどん挑戦したいのです。そして、もう一つはチームワークやBIMクラウドの利用拡大です。時間や場所に囚われない働き方が可能な職場環境を作りたいですね」(吉田氏)。
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