株式会社 一粒社ヴォーリズ建築事務所 設計主幹 本社副所長 岡野 守 氏
株式会社 一粒社ヴォーリズ建築事務所 設計主幹 萩野 亮 氏
株式会社 一粒社ヴォーリズ建築事務所 白水 達也 氏
「ヴォーリズ学園メインアリーナプロジェクト
「英語教師として来日し、信徒伝道活動をしたヴォーリズらが創設した学校がヴォーリズ学園です。当社もその学校施設を数多く設計してきました。その最新のプロジェクトがヴォーリズ学園メインアリーナです」。そう語るのは本社副所長を務める岡野氏である。このプロジェクトは同学園が進める施設整備計画の中核となる新体育館建設計画で、約2,300㎡に1,200名を収容する大型施設となる。当然ながら、施主からは他にも多数の要望が寄せられたという。
「アリーナは記念式典等のイベントでの使用も計画され、これに対応するのはもちろん、建物自体にも対外的にアピールできるポイントが求められました」。岡野氏と共に設計を担当した萩野氏によれば、当初、施主の要望もあり「幕屋根」というユニークな計画が検討されたが、さまざまな理由から採用には至らず、あらためて別のアピールポイントを創出することが大きな課題になっていたのである。
「環境配慮という新たな課題を与えられたのですが、単にソーラーパネルを張った程度では“売り” になりません。何とか屋根の構造体自体でアピールできるポイントが打ち出せないか検討し、思いついたのが、球面屋根でした」(岡野氏)。
そのアイデアは、3次元曲面の丸屋根を、大断面集成材をクロスさせて組みあげた構造体で支えるという特殊なもので、このダイナミックな構造体そのものをアピールポイントにしようという狙いだった。そして、この特殊な構造体の検討などに初期段階からフル活用されて重要な役割を果たしたのが、ARCHICAD による BIM設計の手法である。同社では2012年頃にこのARCHICAD を導入し、岡野氏ら3人が中心となってさまざまな案件にこれを応用。全社への BIM の普及・展開を進めていたが、今回は特に実施設計までトータルに ARCHICAD で行っていくことを決めていたのだという。
「ARCHICAD で実施設計までトータルに行ったプロジェクトはこれが 2件目となります。1つ目は ARCHICAD を導入してすぐ、ある保育園のプロジェクトで行ったのですが、当時は知識もなく、正直いって図面化の段階で相当苦労しました。しかしその後、白水も入社して3人で個々に ARCHICAD のノウハウを蓄積してきたので、今回それを活かし挑戦してみようということになったのです」(萩野氏)。――では、こうして始まった3人の挑戦は、どのような成果を上げたのだろうか。
強力なコミュニケーションツールとして
「メインアリーナでの ARCHICAD の導入効果としては、まず設計意図を明快かつ的確に伝えるコミュニケーションツールとしての効果が挙げられます」(岡野氏)。前述の通り同プロジェクトでは大断面集成材で組む構造体が重要なアピールポイントだったが、それを建築の専門知識を持っていない施主に理解してもらうことは容易ではなかった。そこで使われたのが 3D モデルだった。
「学園の会議室に大型ディスプレイがあったので、打合せにもARCHICADを持って行きました。理事長は“図面では分らない!”という方でしたが、すぐ理解いただけました。図面ではこうはいかなかったでしょう」(岡野氏)。また、この構造体の企画段階でもARCHICADは大いに威力を発揮した。本案件では当初から施工会社が指名され、岡野氏らも計画段階からゼネコンの構造設計者の協力を得ることができた。しかも、そのゼネコンもARCHICADを導入していたため、やりとりをARCHICADデータを使って行うことができたのである。
「おかげでゼネコン側とのやりとりも非常にスムーズで、この構造体のアイデアもその流れの中で提案されたのです。いつも通り平面・断面図を使っていたら、屋根の形を伝えるだけで大変な手間だったでしょう。ゼネコンに対しても施主に対しても、やりとり全般が格段にスピードアップされた実感があります」(岡野氏)
一方、こうした大型施設プロジェクトで重要な近隣対策においても、ARCHICAD が活用されて大きな効果を発揮した。こうしたケースでは特に日影の問題が重要で、これまで日影図を作成し説明していたものの問題も多々あったという。
「日影図は長く伸びた影の図が分りにくく、しばしば逆に近隣が不安をかき立ててしまっていました。今回は周辺建物まで入れた3Dモデルが作ってあったので、これを使い Artlantisで時刻設定を変えながらパースを作り、シミュレーション的にお見せしてみました」(萩野氏)。モデルが作ってあったので準備も 1日で完了し、実際の近隣説明会でも日影に関するクレームは全く出なかったという。
BIM へのさらなる理解とその普及を推進
こうした経緯を経て、現在プロジェクトは確認申請が進められており、着工も間近となっている。そこで最後にもう一度、ARCHICADの活用メリットと今後の展開について 3氏に聞いてみた。最初に学生時代から ARCHICADユーザだった白水氏に語ってもらおう。なお白水氏の入社にあたり、同社はヤングアーキテクトプログラム(※)を使い割引価格でARCHICAD を追加購入した。そのため白水氏は ARCHICAD を入社当初から使うことができたという。
「新規の担当案件は最初から ARCHICADを使っています。特に敷地に高低差がある時などは 3Dモデルの方が検討しやすいですし、なにより使っていて楽しいです。まだ ARCHICADでの実施設計の経験が二人に比べ少ないのでこれが次の課題ですね」(白水氏)。一方、萩野氏も打合せ段階からARCHICAD をフルに使うのがもはや当然となっているようだ。
「企画段階から ARCHICAD を使い、どんなボリュームのものが建つか施主と 3D で検討しています。意志疎通がしやすいですよ。急増する仕事量に対応する上でも ARCHICAD の活用は欠かせません。作図も含めてある程度1人でやり切れるし、後々の無駄を省く上でも効果的です」(萩野氏)。最後に岡野氏はこう語る。
「今回の案件であれほどの数の図面を1カ月程度でまとめられたのも、やはり打合せ段階からトータルに ARCHICAD を使っていけたからでしょう。まさにフロントローディングの威力を実感しましたね。社内的にはどうしてもまだプレゼン用途のイメージが残っているので、今後は BIM 本来の使い方をアピールし、チームワーク機能も活用しながら、さらなる普及を進めていきたいですね」。
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