建設現場を見つめ、進化し続けるArchicad
鹿島建設株式会社
鹿島建設東京建築支店
九段南一丁目プロジェクト工事事務所工事長
鹿島建設東京建築支店
九段南一丁目プロジェクト工事事務所設備長
鹿島建設東京建築支店
建築工事管理部人事・企画グループ
グラフィソフトジャパン株式会社
グラフィソフトジャパン
代表取締役社長
グラフィソフトジャパン
カスタマーサクセス ディレクター
グラフィソフトジャパン
カスタマーサクセス BIM コンサルタント
皆で同時に干渉チェック
トロム
鹿島建設とグラフィソフトとは長いお付き合いになります。鹿島建設の特徴は設計部門だけでなく、施工部門でも早い段階からBIMを活用されていることですね。
鴨下 氏
5年ほど前、内幸町2丁目の建替工事現場(日比谷パークフロント)で初めてArchicadを使いました。地下で既存躯体を再利用するということで、既存部分のモデルと解体部分のモデル、新築部分のモデルを重ね合わせて、鉄筋の接合部検討などを行いました。当社建築管理本部の支援を受けながら、現場でBIMマネジャーを育ててつつ取り組みました。
青柳 氏
私も支店から「操作も簡単で軽快に動き、干渉チェックに非常に有効なので、使ったらどうか」という話があったので、この九段南一丁目の現場で初めてSolibriとArchicadを使うことになりました。
中村 氏
Archicadを実際に使用したのは、この九段の現場に来てからです。まだ扱える人がそれほどいなかったので、ぜひ、ここで3Dに取り組みたいという希望を出して、現在に至ります。
トロム
ここはすごく美しい空間(2F「鳳凰の間」)ですね。九段会館テラスのプロジェクトは古いものを保存しながら新しいものをつくるというのが特徴だと思うのですが、そのなかでBIMを活用するメリットというのはどんなことでしょうか。
鴨下 氏
最初に中村に指示したのが、新築棟と保存棟について設計図通りに外観をつくるということでした。そして外装が雁行して取り合うところがどのように納まるかを検討しました。ズームアップして、いろいろな角度から見て、ここは取り合っていないとか、水漏れしそうだとか、チェックして、それをサブコンや外装メーカーと共有しました。二次元では一見納まっているように見えるところも違う角度から見ると、実は部材が届いていなくて納まっていない、などといったことがよくわかりました。見たい角度を我々と同じように見せられるので、他者と合意形成するのにすごく役立っていますね。
青柳 氏
新築棟については設計図ベースのモデルを、保存棟については既存図面からモデリングしたものを3Dでつくって、それらを設備、電気、衛生、空調などの設計図のデータと重ね合わせて、Solibriで干渉チェックを行ったのが非常に有効でした。週一回、設計部隊と施工部隊、サブコンと一堂に会して、できたモデルをディスプレイに映しながら今週はこの階を、という風に確認していきました。納まっていないところの確認をして、その情報を設計部隊、施工現場がそれぞれ持ち帰って、問題を解決していきました。
鴨下 氏
これまでの日本では慣習的に設計図で建築と設備が統合されていなかったので、施工側で統合するのに多くの時間が必要でしたが、それを短縮できるようになりました。特に基準階の納まりの早期決定に大変寄与していると思います。
Solibriで便利なところは?
青柳 氏
操作が簡単なところですね。誰でもすぐに覚えられると思います。また、これまで建築はArchicadを、設備系はTfas(ダイテック)というソフトを使っていて、別々に動かしていたのですが、統合された状態で確認できるのが便利です。
中村 氏
ぱっと簡単に断面に切って、どこが干渉しているか、すぐ見られるのは便利ですね。また、保存棟と新築棟の通り芯が平行ではないので、例えばある面に大きなすき間ができているという状態が、みんなで同じように見られるというのは3Dでないと難しいと思うので、それは大きなメリットになりました。
飯田
ありがとうございます。Solibriの一番よいところは重ね合わせたものを関係者で共有し、チェックバックをBCF(BIM Collaboration Format)などに反映できることだと思います。機会があれば、実際のデータを使った定例会などにも参加させていただきたいですね。
宮石
BCFファイルを活用して、3Dビューやチェックバックのやりとりをクラウド上に残していくという使い方も見られますね。定例会などで実践していただければと思います。
チームワーク関連の機能については、どのように活用していますか。
鴨下 氏
今回はほとんど中村が操作していたので、チームワーク機能は使っていないのですが、内幸町の現場では建築管理本部と施工図室の各担当が、それぞれ担っていた部分を編集するのに活用しました。何より同時に一つのモデルを触ることができるので、作業効率も向上しました。
中村 氏
チームワークの機能は、誰かが作業していると、今ここを触っているんだな、というのがわかるのがすごくいいですね。
飯田
作業の進捗がわかりやすいですし、後から作業を確認するにしても、誰に尋ねればいいのかがよくわかります。この人はよく触っているな、BIMの作業が好きなんだなというのもわかりますね(笑)。
トロム
実はチームワーク機能やサーバーの開発に、鹿島さんにご協力いただいたんです。当初は社内のArchicad同士、ローカルの環境でという簡単なものだったのですが、そこからBIMcloudという世界中のどこからでもプロジェクトに加わっていただけるというものに進化させていく過程で、たくさんのアドバイスをいただきました。おそらく最も多い人数でチームワーク機能を活用していただいているのが鹿島さんですね。協力会社も巻き込んでクラウドのプラットフォームとしてご利用いただいて、本当にすばらしい取組みだと思います。
グラフィソフトへのリクエストはありますか。
鴨下 氏
最近、構造の部材がスリム化して、制約が厳しくなってきているんです。するとスリーブを開ける位置も限定されてきて、ここで納まっていると思っていたら、干渉チェックをすると、構造的にはスリーブを開けてはいけない部分だったりすることが多いので、そういう作業をあらかじめ設定できる機能があったらいいですね。
中村 氏
SCP(smartCON Planner※)で設定されているクレーンや仮設材のメーカーが限られているので、もっと種類がたくさんあったらいいなと思います。実際の現場では使われる重機のメーカーも異なってくるので。ちょっと車体のサイズが大きいと入らなかったりすることがありました。仮設材についても、次世代足場をセットで組むとスパンが割と限られてきます。例えば内部足場を900㎜で組もうとしても、セットの中になくて、一本一本建てたりしたので、設定があればいいのにと思いました。
青柳 氏
設備まわりで言うと、今回は例えば空調機などのサイズを我々でこれくらいだろうという大きさで設定して、納まりを検討したりしました。今後、全世界的にさまざまなソフトベンダーのBIMデータを取り込むことができるようになったら、精度よく、施工や納まりの検討ができるようになりますね。
飯田
さまざまな視点からご意見をいただき、ありがとうございます。Archicadのベースをより一層強化し、そこに鹿島建設およびSCPのノウハウを加えて、新たな提案をしていきたいですね。先ほどの足場の並べ方についても、セットのつくり方はSCP独自の部分だと思うので、そこを充実させられるようにベースをつくり込んでいくのが弊社の役割だと思います。
トロム
設計では汎用的なアプローチになりますが、施工現場では建物をつくらなければならないので、実際に施工するためのオブジェクトが必要になってきますね。それを後押ししてくれそうなのが、BIMモデルの標準をつくっていこうという政府の標準化の取組みです。近いうちに標準に則って、各ベンダーがコンテンツを増やしていけるようになると思います。
設計、施工からFM、社員教育も見据えて
中村 氏
いざ、BIMの教育を社員に施そうとすると難しいのが、来月から掘削、再来月から鉄骨という現場を間近に控えた状態の社員ばかりではないということです。仮の案件でこういうことをやってみましょうと言っても、身が入らないと思うんですね。現場で一緒に仕事をしている方にはみっちり教えられるのですが、どうやって集団においてBIMを使える人を増やしていけるのか。妙案がない現状です。
飯田
おっしゃる通り、BIMは自分で必要にならないとしっかり取り組まないものだと思います。弊社でも2年ほど前からBIM Classesというトレーニングプログラムを実施していて、さまざまな分野のプログラムを用意しています。最初にモデリングから図面作成までの基本的なワークフローやプレゼンテーション手法など、基本を押さえていただいたら、その後は興味のある項目を選んで受講していただいています。そういったプログラムを通して、徐々に皆さんの意識も変わってきているなというのを最近実感しています。
宮石
操作の仕方を習っていて、目的がわからなくなることがあるかもしれません。そこで例えば「設備データを統合して、梁の貫通する範囲について確認する」といったかたちで最初に身近な課題や事例を設定し、操作していただくと身につきやすいということがあると思います。受講者の方々がそれぞれにテーマを設定して、ソフトを触っていただく機会を増やそうというのがBIM Classesの狙いでもあります。
鴨下 氏
当社が掲げているバリューチェーンにおいて、今後は建物をつくるだけでなく、維持管理や長期修繕計画などについても積極的に関わることが主流になると思います。その取組みの中で耐用年数や更新時期といった情報も部材に付加できればと考えています。例えば5年経ったらArchicad上のアラートで赤くなって、そのまわりの壁をどこまで壊せばいいのかをモデル上で示し、またそれをSolibriでクライアントに提案して、といったことをやっていけたらいいですね。さらに価格の情報もつけて、更新するといくらぐらいかかります、それは○年後ですとか、そこまで提案の中に取り込んでいかないと、我々も生き残っていけないのではないかと思っています。
飯田
そういった機能のベースはすでに整えられていますが、もっと、こういうことができるんですよ、という風に使い方を積極的にお伝えしていきたいと思います。
トロム
BIMのビジョンは設計から施工、維持管理までつなげられるものです。FM(FacilityManagement)まで取り組んでいるのは、まだ実験的な事例が多いと思いますが、注目の分野であり、われわれも重視しています。先ほどのBIMcloudと同じように、FMの分野でも鹿島さんは5年先、10年先を考えたビジョンをお持ちになっています。どのようなことが求められているのか、ぜひフィードバックしていただければ幸いです。我々はそれを受け止めて、引き続き日本全体のBIMの発展に貢献していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
※ 鹿島建設のグループ会社、(株)グローバルBIM が鹿島建設本体の施工のノウハウを生かして開発したArchicad のアドオンソフト
「建築画報391号 モノグラフ 九段会館テラス」 (2022年11月発行) より
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