センター長
保城 直志 氏
課長補佐
谷口 美樹夫 氏
技師
山本 裕紀 氏
人材確保や技術継承が喫緊の課題に
建築業界では、少子高齢化に由来する問題点や将来への影響を鑑みて、人材確保や技術継承があちらこちらで叫ばれている。
そこで、これらの解決への糸口を見つけるべく、「ぎふ建築担い手育成支援センター」(以下、同センター)では、建築業関係団体・教育機関・行政機関が一体となって建築業を総合的に支援する取り組みを鋭意推進中だ。
はじめに、どのような活動を実施しているのか、同センターで行っている4つの柱について具体的に紹介する。
1. 建築業界の魅力発信
建築業界の魅力発信とは、WebサイトやSNSを活用して大勢の人たちに建築の魅力を知ってもらうための活動になる。
資格取得についての情報発信、建築現場の見学会や各種研修のレポートに加え、実際に建築に携わる人々のインタビューコンテンツも豊富。同センターが中心となり、建築業関係団体や教育機関と一体となって実施している。
2. 担い手確保
担い手確保とは建築業界を目指す中学生・高校生向けの入職促進に加え、若年層の離職防止に取り組む活動である。中学生向けには「出前講座」を実施し、1つのプロジェクトが完了するまでに多くの人が携わっていることや、仕事の醍醐味をセミナー形式で伝えている。
2021(令和3)年度からは建築系の工業高校を対象に「BIM体験講座」を、2023(令和5)年度からは「BIM操作研修」を実施。
現役建築士を講師に招き、実際にArchicadを操作して一つの建物をモデリングする一連の流れを体験する。
参加した高校生からは、「思っている以上に簡単にBIMが使えておもしろく、便利」「建築に関わっていく上で重要、よい経験ができた」「将来BIMを使って設計などがしたい」などの様々な感想が寄せられている。
高校生のBIM操作研修。日本全国のなかでも行政機関が高校生向けのBIM推進に取り組んでいる例は珍しく、先進的だ。
3. 活躍できる人材育成
建築業界に入職したばかりの若年層向けには、コミュニケーション力の向上や社会人としてのマナー講座などを開催し、長く働き続けるための心構えを伝授している。
また、建築業を学ぶ学生に対し、建築関係の資格(二級建築士・二級建築施工管理技士・二級電気工事施工管理技士・二級管工事施工管理技士)の取得のための書籍購入を補助。
4. 生産性向上
建築業の生産性向上に直結するデジタルツールの普及促進をしている。これまで書類をデータクラウドで送付できる「情報共有システム(ASP)」や電子小黒板の導入研修などを実施し、建設現場の生産性向上の底上げに寄与してきた。BIMもそれに直結するツールの1つで、業界団体とタッグを組みながら研修を開催中だ。
BIMのメリットである作業効率化、直感的理解を体験してもらうために、2019(令和元)年よりビギナー向けに「BIM導入研修」を実施。県内の設計事務所や施工会社を対象にした研修は、令和4年度末までに実務担当者など188名が受講した。
近年では研修のバリエーションが増え、対象者の目的別に焦点を絞った内容で展開している。BIMの活用事例やメリット、課題などに迫った「BIM導入セミナー(オンライン)」のほか、設計に特化した「建築業におけるBIM導入研修(設計応用コース)」、施工でのBIM活用を実践する「建築業におけるBIM導入研修(施工版コース)」など、ニーズに応える形で講座内容もステップアップしている。
「建築業におけるBIM導入研修(設計応用コース)」の様子。Archicadを活用したプレゼンテーション方法など、設計業務に役立つBIM活用技術を学ぶとともに、生産性向上技術の習得を図った。
「建築業におけるBIM導入研修(施工版コース)」の様子。ArchicadとsmartCONPlannerを活用し、施工計画を作成する。
オンラインで実施した「BIM導入セミナー」の受講者アンケートの結果では、「大変参考になった」「参考になった」の回答が合わせて92%と、受講者から高い評価を得ている。
BIMが建築業の中心的役割を担うツールに
なぜ、行政機関が主導して先進的な取り組みをするのか?その理由を訊いた。「人口が減少していくなかでも、建築業界では高度な技術が求められています。いつ来るかわからない自然災害があったときも建築業界の力がなくては復興ができません。ですから人材確保や技術継承が必要なのです」と話すのはセンター長の保城直志氏(以下、保城氏)。
さらに、「国土交通省が発表しているガイドラインにも、BIMが建築業の中心的役割を担う位置づけになっています」と述べた。すでに国土交通省からはBIM活用のロードマップがリリースされているため、BIMの技術習得は必須項目だ。また、先ほど紹介したBIM関連の研修ではArchicadを採用することが多い。というのも、研修会場である多くの工業高校にはすでにArchicadが導入されており、環境が整っているためだ。
「研修を企画する際には、グラフィソフトの担当者と密に連絡を取り合ってライセンスの相談などをしています。非常に協力的で助かっています」(谷口氏)
課長補佐谷口美樹夫氏(以下、谷口氏)は採用理由について「Archicadの機能やサポート体制も検証しました。研修会場にArchicadが導入されていたことから、世界的なシェア率の高さも伺えました」と振り返った。ちなみに2023年現在、岐阜県では工業高校6校がBIMを導入しており、そのうち4校がArchicadを導入している。グラフィソフトは、設計や建築を学ぶ学生、教員や教育機関へ無償でArchicadの教育版ライセンスを提供しており、そのダウンロード数は日本で年間1万件、全世界では20万人を超える。
中学生・高校生向けの支援講座を継続
このように、同センターの活動は「草の根活動」と言っても過言ではない。長年にわたる活動や時流の変化からBIMの認知度は上がり、岐阜県内のBIMに関するスキル向上の手応えも感じている。高校生向けの支援では、当初は「BIM体験講座」を実施していたが、学校の授業でBIMを導入され始めたため、授業を補うスタイルの「BIM操作研修」が求められるようになってきた。学校の教員、現役建築士の講師、そして同センターの三者で事前にミーティングを行い、学校側のリクエストを受け取ってから研修内容を決定する形に進化している。
技師の山本裕紀氏(以下、山本氏)は「まずは建築を知ってもらうところからスタートして裾野を広げ、少しずつステップアップしてきました」とにっこり。また保城氏は「今後もお子さんが進路を決めるときの選択肢の一つに建築があるように、中学、高校向けに研修を継続していきたい」と力強く語る。
草の根活動の“根っこ”は広がり、強く太いものになってきている。BIMを学んだ高校生たちが県内企業で活躍できるように、事業者向けにも導入推進活動に力を入れていくという。これまでの取り組みの成果が明確に見える日ももうすぐだ。
「まずは建築業を知ってもらうことが大切。親子で体験できる木工教室などのイベントも開催しています」(山本氏)
「これからも子どもたちの進路のひとつに建築業界の選択肢が増えるように、草の根活動を推進していきます」(保城氏)
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