「自らつくる」施主として20余の施設を建築
社会福祉法人 江原恵明会
理事長
江原 秀国 氏
「もともとぼくは建築が好きなんです」。江原氏はそういって、気さくな笑顔で語り始めた。「若いころはウィーンで勉強していたのですが、そのせいもあってオットー・ワーグナーが作るアール・デコ調の建物がすごく好きでした。あの街には彼の設計した建物がいっぱいありますからね」。特にワーグナーの代表作の1つとされる黄金の屋根のアム・シュタインホーフ教会は大のお気に入りで、「資金があったら自分もこんな建物を建てたい!」と思っていたのだという。その後、江原氏は日本に呼び戻され、恵明会が進めていた新設の老人ホームの建築プロジェクトを任されることになった。
「急な話でしたが、予算からプランや設備まで任され、何とかやりきりました。するとそれをきっかけに病院の病棟、検診センター等を次々任されることになり、とうとう江原恵明会や母体の積善病院グループの施設のプロジェクトを一手に引き受けるようになりました」。その言葉どおり、江原氏はグループの建築プロジェクトを任されて、すでに20を超える施設を建築してきたのである。注目すべきは、これらのプロジェクトで江原氏が果たした役割だ。江原氏は施主の立場から大きく踏み出し、発注者というより、むしろ作り手として各建築プロジェクトに深く関わっていったのである。
「最初に手がけた老人ホームの案件では、設計していた設計士が急死してしまったため、後を私と親父で引き継いで進めました。“彼ならこういう色合い、意匠で作ったはずだ”とプランを練りあげ、建築会社と協力しながら建てました」。それが素晴らしく面白かったのだと江原氏はいう。まさに建築好きの血が一気に沸き立ったのだろう。江原氏は、任されたプロジェクトで自らプランを練ってスケッチを描き、建材を選び、色を決めるまで、専門家と共に自身の手で行うようになっていったのである。
「建築は深く踏みこまないと面白くありません。仕事だってやるからには面白いのが一番でしょう。それにそこまで踏み込めば、建物への思い入れもいちだんと深まりますよ」。結果として、その建築は施設としても質の高いものになるのだという。そんな江原氏にとって、「自らつくる施主」としてプロジェクトを動かしていく上で無くてはならないツールとなっているのが、自ら駆使するARCHICAD なのである。
ライブラリもすべて自ら作る 3D モデル
「プロジェクトが始まったら、まず私と設計士でプラン作りに着手します。進め方は様々ですが、たいてい私がプランを考えARCHICAD で3D モデルを立ち上げます」。でき上がった3D モデルは設計士に渡し、素材や色もそれで提案する。つまり、このモデルが以降のプロジェクトの流れの全ての基盤となるのである。
「たとえば微妙な色合いの組合せとか、全体を見ないと判断できないことがありますね。そういう時も、3D モデルを使うことでストレートに私の意思が伝えられます」。当然、その打合せは部材1つ1つにまで渡る細密なものとなるが、ARCHICAD を使うことで、全てがスムーズかつスピーディに進められるようになったという。それだけに3D モデルには江原氏のこだわりが注ぎ込まれ、細部まで吟味されたものとなる。たとえば江原氏が選んだ建具や設備等の部品類も、江原氏自身が ARCHICAD のライブラリとして自作しているのだという。
「たとえばライト風の建築にしようと思ったら、海外にライトの作品を見に行くし、ドアなどの建具や照明なども現地から本物を取り寄せる場合があります」。しかし、建具も設備も海外製のそれはCAD データがないものもあり、3D モデルに入れるには1つ1つ自作するしかない。大変といえば大変だが、福祉施設で使う設備は一般にはない特殊なものが多いため、きちんとしたライブラリデータを作ってモデルに入れて試してみる必要があるのだ。
「でも、ライブラリの作成は面白いですよ。職員が1人手伝ってくれるので、特殊浴槽や電灯の笠、うどん製麺用の厨房機器まで全部2人で準備します。これはまったく飽きませんね」。
このようにして作り進められる3D モデルだが、江原氏がこれをBIM モデルとして完全に仕上げることは実はほとんどない。前述の通り建築士との打合せや理事会への報告、あるいは着工後の工事会社への説明などに使うが、モデル自体の作り込みは、7~ 8割でき上がったところで終了させてしまうのである。
「モデルを使って営業して回るわけではないし、意図を伝えられればそれで十分ですよ。7~8割も完成したら、わたし自身、もう次のプランがやりたくて仕方なくなりますしね」
次は ARCHICAD でザハ風建築へ挑戦を
それにしても読者は不思議に思うかもしれない。設計者どころか建築業界の人間でもない江原氏が、なぜ ARCHICAD を導入し、しかも軽々と使いこなしているのか。実は、江原氏はウィーン時代、社会学系の統計を学ぶ過程で初期のパソコンから使用してきた経験がある。そのため、帰国後に建築プロジェクトを任されるようになってすぐ2D CAD を導入し、打合せに使うようになったのだという。
「ARCHICAD は協力関係にある設計士が導入するというので、同じ道具を使った方が打合せしやすいと3年前に入れました。面白くて、すぐ使えるようになりましたね。本気でやれば誰でもできると思いますよ。自分のアイデアが即座に立体で見られてプラン作りに最適だし、何より楽しいのが良いですね」。
そんな江原氏の作る施設建築は、読者の目から見れば福祉施設としては趣味的に過ぎると思えるかもしれない。だが、実際にはそれらの施設はどれもきわめて人気が高く、老人ホームなど、入居者を募集すればすぐに満室になるほどだという。また職員も募集すればすぐに集まるため、よくある人材不足問題もないのだ。
「施工してくれる工事会社も面白がって、楽しんで建ててくれることが多いですね。私としては、次はぜひザハ・ハディド風の建築に挑戦したいと考えています。ザハは大好きでインスブルックまで作品を見に行ったほどです。だから、次は ARCHICAD でどうやってザハ風を描くか……これが私の次の課題です」
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