千葉大学 大学院 工学研究科 建築・都市科学専攻建築学コース 准教授 平沢岳人氏
大学院博士後期課程 日本学術振興会 特別研究院DC2 飯村 健司氏
非常勤講師 日本学術振興会 特別研究院PD 加戸 啓太氏
CGで描き上げた”その先”にあるもの
研究室の入口を一歩入ると、何とも不思議な立体構造のトンネルのようなオブジェに迎えられた。六角形の基本要素を組み合わせ、うねるような有機的曲線を描くトンネルは、既存の建築のイメージを超えるユニークな作品だ。実はこれも平沢研究室の研究の一つ「Organic Structure Project」の成果である。早速、研究室を主宰する平沢准教授にお話しを伺った。
「このような一種の揺らぎをもった自由曲面デザインを、部品レベルまで落とし込み、しかも実際にあのように構築するのは、実は非常に難しいことなのです」。
もう一度その作品を見てみよう。細部を観察すると、プラスチックの細いパイプと3方向でそれをコネクトするジョイント部品だけで、優美な曲面が組み上げられていることがわかる。だが膨大なジョイント部品は、実は一つとして同じものがない。うねりを持つ複雑な自由曲面を表現するため、各ジョイント部品の接続部の向きや角度はすべて異なり、しかもその場所でしか使えないのである。研究室では、この膨大なジョイント部品をすべてARCHICADと3Dプリンターを使って造り上げたのだという。
「このような形状のCGを描くだけなら、たぶん誰でもできるでしょう。CADを使ってパイプ状のものを立体トラス状にしたら、もうそれでできあがった気分になってしまうのです。しかし、それでは実際に作ろうしても作れません。問題は“その後”なのです」。平沢氏らは、前述したすべて異なるジョイント部品のようなディティール=納まりに至るまできちんとモデリングし、それを3Dプリンターで出力して、それぞれ正しい場所に配置しながら組み上げていったのである。このようにコンピューターを駆使しながら、決してその中だけに留まらず、実際の施工に必要なディティールまで詳細に考察していくのが、平沢研究室の研究の大きな特長なのである。
C言語、関係データベース、そしてGDL
「研究室の基本的なテーマは“建築構法”です。これはつまり建築における“モノの納まり”。建築の各ディティール、すなわち建築部品がどのように納まるかを研究しています」。“モノの納まり”がテーマだけに、題材としてはどのような建築でも対象となる。実際、冒頭で紹介したようなアルゴリズミックな立体オブジェがある一方で、伝統的木造建築を取り上げ、古い山門や五重塔をモデリングしたりもする。また、写真関係の画像解析や、建築分野ではまだ珍しいARの研究でも大きな成果を上げているのだという。
「このように幅広い展開を貫くもう一つの狙いが、“コンピューターを使いこなす”ことです。コンピューターを駆使して建築における問題を解いていくことが、当研究室の重要なテーマになっています」。そのためもあってか、千葉大学では建築系としては他に例を見ないほど高度なコンピューター教育を行っている。学部3年でC言語を扱い、大学院では関係データベースの構築まで教えるという。関係データベースを学べば、学生でも本格的なソフトウェアが作れるようになるのである。
「そしてもちろんGDL講習会。GDLによる造形方法を教える講習会を、研究室創設当時からずっと行っています。ARCHICADのGDLが非常によくできているのは言わずもがなですが、特に当研究室で研究するためには欠かせません。それにこの講習会には他にも大きな効果があるのですよ」。建築科の学生は“形をつくる”ことが大好きだ。普通にコンピューター言語を学んでもなかなか続かないが、GDLで「こうやれば形ができる」と作って見せながら講義すれば、難しい制御の構文なども飽きずに学べるのである。
「実際、このGDL講習会を受け終わった学生は、なんだか少しだけ立派に見えるのです。“このモデリングをやっておいて”とか、以前は怖くて頼めなかったような仕事も、安心して頼める。おかげで私自身も助かっています(笑)」。
何かを始める時は常にARCHICADが起点
平沢氏とARCHICADが出会ったのは2004年。まさに千葉大学に平沢研究室が開設された時のことだった。
「研究室を作った時、来てくれる学生に思う存分3次元CADを使わせたかったのです」。だが、平沢氏自身は自分でプログラムを組むので、OpenGLなどのライブラリを使う方が多い。逆に市販の3次元CADはほとんど触れることがなかったという。
「とにかく学生には、できるだけ成果を出しやすいCADに触らせたいわけです。私のようにコンピューター言語でグラフィクス・ライブラリーを作って作業できるようになるには時間がかかりますし、学生のやる気が失せてしまっては元も子もありません。そこで市販の3次元CADを導入しようと、当時の代表的な製品を並べて評価したのです」。
機種選定で重視したのは、GDLのようにスクリプトで形状を生成する言語があること。そして、CAD自体にアドオン機能を持たせることが可能なことも必須条件だった。もちろん条件面でグラフィソフトが協力的だった点も大きかったが、各製品を比較検討した末、平沢氏が選んだのはARCHICADだったのである。
「実は当時ARCHICADは今ほど知られておらず、学生の視野にもほとんど入っていませんでした。だから最初は“使いたくない”という学生もいましたね。ところが今では何か始める時には必ずARCHICADが起点。少しでもモデリングが必要な状況では、まずGDLで取り組みます。立体造形のエスキースを行う上で、本当にGDLは最良なのです」。その平沢氏の言葉を受けて、現在、同大学で非常勤講師を務める加戸啓太氏や大学院生の飯村健司氏も語る。
「ARCHICADには初めて触ったのは平沢研究室に入った時で、最初は正直抵抗がありました。でもゼミで使っていくうち、建築をちゃんとパーツに分けて考えることが3次元モデリングでも必要なのだとわかってきたのです」(加戸氏)。
「それに、やはりGDLが取っ付きやすくて。コードを打ち込めばすぐ形になってすぐ使えるのがいいですよね」(飯村氏)。もちろん今後も、このスタイルで研究を継続する計画だという。
「ARCHICADのモデリング機能と3Dプリンターのアビリティーを上手に活用しながら、さらに建築のディティールを追求したいですね。特に部品密度の高い中できちんと納まりが実現できるような、モデリング法と検証法が重要なテーマとなるでしょう」。
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