麻生建築&デザイン専門学校の前身は、情報ビジネス専門学校だ。1986年に開校して12年後に、ロケット等を制御するプログラマー講師が「これからはコンピューターで図面を描く時代になる」とCAD 科を立ち上げた。
九州で唯一の専門学科の誕生だ。
その進化系となる建築CAD科では、現在BIM、CAD、CGソフトの専門技術を学ぶことができる。
BIMは、2015年4月から建築CAD 科の授業の一環として取り入れたのが始まりだった。
「海外の仕事を受注する必要に迫られた沖縄エリアの建築の方たちが、いち早くBIMを取り入れたようです。
海外と仕事をするには言葉の壁もあるし、維持管理の段階まで図面を活用する必要がありました。
そんな時に、スーパーゼネコン出身の設計事務所の人から、やがて日本でも必須条件になるから、学生の段階から学ぶ必要があるというお話をいただいて。
地方の公共事業ではBIMを使うことが条件の入札も始まっていました」
当時、建築科の主任を務めていた校長代行の今泉清太さんは、BIMを学べる環境を整えるために、入学時に学生にノートパソコンを購入してもらうという大改革を実施した。
「業者の人に、できるだけ価格を抑えて販売してもらえるように、無駄なソフトを省いて最低限のスペックだけを入れた『麻生モデル』というオリジナルのノートパソコンを作ってもらいました」
博多駅から徒歩約6分。アクセス便利な位置に12棟の校舎が並ぶ。
企業が求める最先端のBIMを学べること、全国的なコンペに参加し成績を残していること、OBとのつながりが強いこと。全国的な取り組みを積極的に取り入れていった結果、開校当時は400人程度だった生徒数は、現在800人近くに増えているという。
BIMという道具を使ってコミュニケーションを学ぶ
今泉さんが決断したノートパソコンの導入により、教材費は高くなったが、代わりに学生たちは高額で高度なソフトを無料で自由に使えることができるようになった。
「グラフィソフトさんは学生無償ライセンスを発行されていたので、大変助かりました。でも、Archicadの導入を決めた理由は別にあります」
そう話すのは、教務部建築系リーダーの福光春子さんだ。
「BIMソフトの選定では、各製品の機能やコスト、サポートまで綿密に検証しました。最終的な決め手は、リサーチした多くの企業がメインツールとしてArchicadを使っていたことでした。
Archicadを使えるようになれば、将来学生たちの強みになると確信したのです」現在、BIMの授業は建築の全学科で実施されており、まず基本操作を覚えた後、設計課題で実践を積んでいく。
その後より深く学びたい学生は、BIMゼミに入る。このゼミは50人程度で、学年や学科を超えたクラス。大学の研究室とは違って、それぞれの学科で専門的に学んでいる学生たちがチームを組んでひとつのプロジェクトに取り組むので、新しい出会いや発見、気づきの機会が多いという。
「BIMゼミは私の中で、“継承する場”だと考えています。新入生には必ず先輩をつけて、先輩が後輩を育てる環境を整えています。
でも、それでモデリングは作れても、BIMの概念などは奥が深すぎて。
実際に、Archicadを使って建物を建てている現役の設計士の方に講師を依頼することにしました」そこで、当時のグラフィソフト営業担当者が九州全域で適任者を探し、お声がかかったのが道脇力さんだ。
道脇さんの教育方針はこうだ。「CADもBIMもあくまで道具。描いておわりではなくて、それぞれの特徴を活かしてどう使いこなしていくのかを考え、学んでもらうことが大切です。
BIMを通じて、コミュニティが生まれたり、コミュニケーション能力が磨かれたりするきっかけが増えたらいいなと思っています」
そのために道脇さんが仕掛けたのが、BIMコンペへの参加だった。
「BIMの世界では、学生も社会人も同じ土俵に立つことができる。だから、学生たちは一足先の世界を見ることができるんです」
「学生たちはデジタル世代なので、順応力が目覚ましい。BIMで迷路を作って、その迷路をBIMxで友達と共有して遊んでいる生徒もいました。よりラクをするという発想から、限られた時間の中で効率的に情報収集ができるのも、若い世代の特徴ですね」と、道脇さん。
時にチームメイト、時にライバル
高め合う仲間とBIMで描く夢
山ノ井さん(写真右)は、祖父も父もものづくりが好きで、祖父が建てた実家の大きな家を見て、「自分もこういう建物を建てたい」という憧れを胸に建築の道へ。
夢は「名前が残るものを作りたい。最終的に、自分の理想の家を自分でデザインして建てたいですね」。
小野さん(写真左)は、父親が土木の現場監督をしていて、家族で出かけたときに「この橋は、俺が管理して作ったんだ」という話を聞き、人のために、ずっと残るものを作ることに興味をもったという。
山ノ井さんと小野さんの入賞作品「巡り、恵む」。
道脇さんが仕掛けたコンペへの積極的参加。コンペに入賞すると、就職活動でもポートフォリオとして提出できるので有利になる。
学生たちは、学校側が斡旋するコンペだけではなく、自分たちで自主的にコンペを探してどんどん参加するようになったという。
2021年11月に開催された「マロニエBIM設計コンペティション2021」で入賞した2人の学生がいる。建築工学科3年の山ノ井太陽さんと小野将人さんだ。「この年のテーマは、『熊本県上益城郡益城町のまちづくり活動にBIMデータを役立てる方法を考える』というものでした。
僕たちが提案したのは『巡り、恵む』。BIMをまちの人たちが使いやすいようにシステム化して、まちの人の声をBIMで具体的に再現するんです。BIM上なら、新しい建物を建てるのも古い建物を建て替えるのもすぐにできる。それをVRで表現したり、BIMxを使って誰でもスマホで見られるようにしたり。住民の声を“見える化”することで、住民主体のまちづくりを循環させる仕組みを考えました」と、目を輝かせて話す小野さん。山ノ井さんが造形を担当し、小野さんは概念やアイデアを考える。
お互いに自分が得意なことを担当し、苦手な部分を補い合った。
2人が最初にArchicadを触ったのは、1年生後期の設計課題だ。本来ならば、4年生の卒業制作を手伝うタイミングで、先輩からArchicadを教わり、2年生から本格的に授業であつかうようになるのだが、2人ともひと足早く自主的に学んできたという。「時間はいくらあっても足りないから」と小野さん。進学は両親とも相談して、大学ではなく建築の勉強だけに専念できる専門学校を選んだという。
山ノ井さんも同じ理由で、「加えて、この学校だと最先端のBIM技術を学べるのが魅力的でした」と話す。3年制の建築工学科では、大学よりも1年早く一級建築士・二級建築士の受験資格を取得できる。「初めてArchicadを使ったときは、これまで頭の中だけで描いていた建物を具現化したり、3Dで自分の目線で建物の中に入って高さを感じることができたり、感覚を画面上に可視化できることに感動しました」(山ノ井さん)今は、曲線的な形をイメージ通りに描ける技術を修得中。次のコンペに向けて、それぞれ別のチームで準備を進めている最中だ。
どこにいても、どこへでも、つながる、広がる
次世代型のコミュニケーション
2020年は、コロナウイルスの影響で学校も大混乱。授業はオンラインに切り替わり、実践的な授業がなかなかできずにいたところに、グラフィソフトがある提案をもちかけた。それが、グラフィソフト主催の学内コンペだ。
「学生たちが家にこもっている状況だったので、とても助かりました。コンペではArichicadのチームワーク機能を使って、どこからでも入れるBIMcloud上で、それぞれ自宅にいながら共同作業ができたのですが、この経験がとてもよかった。
例えば、日本にいながら海外の仕事ができるのかも、と夢を膨らませたり、自分に不得意なことがあっても、得意な人と情報交換をしながらプロジェクトを進めることができるので不安がなくなったり。
生徒たちに新しい自信が生まれました」福光さんが当時を振り返る。
道脇さんも、「作品は、みんなすばらしかったです。形式もユニークだし、発想も豊か。例えば、銭湯を作るとなると、身近にある銭湯を題材にするなど、つい現実的に考えてしまいがちですが、世界屈指の干満差で有名なカナダのファンディ湾に銭湯を計画したチームもありました。潮が引いているときにしか行けない銭湯です。
学生たちは、二次元の世界から3Dを立ち上げるのではなく、映像の世界を形にしているんですね」BIMを使うことで、途切れていたコミュニケーションが復活した1カ月間。発表の日は、みんなとてもイイ顔をしていたという。
教育カリキュラムを考える福光さんは、「今年はシミュレーションに時間をかけて教育していきたい」と話す。
シミュレーションをして初めて、建物を現実的なものとして考えられるようになるからだ。
現場経験がない学生は、つい形だけで設計を考えようとするが、そうすると、風の流れで構造的に無理なことに後から気づく場合も。
「例えば、ある複合施設の中に飲食店を設計するという課題を出して現場調査に行くんです。すると、意外に匂いが気になることがわかり、風の流れを作るために形状を変えることで匂い問題の解決方法が見つかることがあります。
建物を建てるときは、そうした現地の分析調査をすることがとても大事なのですが、シミュレーションソフトが使えるようになれば、周辺環境まで配慮した設計を事前に考えることができるようになります」シミュレーションソフトとの連携は、グラフィソフトのOPENBIMがひと役買っている。
現在、Archicadを学んだ学生の就職率は100%。次世代を引き継ぐ学生たちが、最短距離で夢をつかめる時代が近づいている。
2020年12月にグラフィソフトと共同開催した「学生BIMコンペティション」。右/4位に入賞した「山猿」チームの作品「海底十五万マイル」。BIM上で、エレベーター機構も取り入れた巨大な銭湯をカナダのフェンディ湾に計画した。
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